酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「勲章」を超える者たち~清張、大島、そして……

2005-11-03 04:44:40 | 戯れ言

 今日(3日)は明治天皇の誕生日である。天長節から明治節を経て文化の日に装いを改めたが、天皇が「臣民」に勲章を下賜するのが習わしになっている。褒章制度は「主権在民」の精神にそぐわぬ点があり、自民党の中にさえ廃止論者はいるが、執着する人は少なくない。汚職で晩節を汚した政官財の大物たちは、反省より先に、叙勲のチャンスが消えたことを悔やむという。誰しも「形」を求めるものだが、護憲派の重鎮までもが尻尾を振るのを見ると、当人の来し方まで疑ってしまう。

 大江健三郎氏は文化勲章を断ったが、受章者の中にはミスマッチと思える名もある。ヒューマニストの武者小路実篤、デカダンが薫る永井荷風、「形のないもの」を追求した小林秀雄、クリスチャンの遠藤周作……。俺の好きな作家たちは幸いにして叙勲や褒章と無縁だ。戦時中に言論弾圧で筆を折った石川淳、治安維持法を適用され服役した椎名麟三、共産党員だった安部公房らは、それぞれの「傷」ゆえ経歴を汚していない。

 映画、演劇界は文壇以上に摩訶不思議だ。新藤兼人監督は共産党政権下の東欧でいくつか賞を得ているが、180度転回して文化勲章も手中に収めた。国家や天皇制に鋭い刃を向けた岡本喜八監督も、なぜか勲四等や紫綬褒章を貰っていた。共産党支持者だった山田洋次監督も文化功労者に選ばれ、最終ゴール(文化勲章)への足固めをした。左翼演劇を主導した宇野重吉まで紫綬褒章とくると、奇々怪々としか言いようがない。音楽界では山下洋輔が紫綬褒章を授かっている。早大闘争ではバリケード内で演奏して当時のラディカルたちを感動させたが、今となっては伝説そのものが色褪せてくる。

 一覧を眺めているうち不安になってきた。戦前と構造が変わらぬ一元社会において、誰しも晩年、天皇に近づくことに価値を見いだしてしまうのではないか。大島渚監督や吉本隆明氏は? この二人はファウルラインを越えた時期もあったから、叙勲話は舞い込んでこないだろう。寺山修司が生き永らえていたら果たして? ブラックジョークで貰ったりして……。高村薫氏や是枝裕和監督が20年後、どう対応するのか興味津々だ。

 国民栄誉賞も更に怪しい。世界に冠たる漫画文化の礎を築いた手塚治虫、戦後NO・1の大衆作家である松本清張は、ともに十分賞に値するが、政府から声が上がるはずもなかった。手塚は締め切りをうっちゃってまで共産党系の候補を応援していたし、清張は創共協定を準備するなど党に影響力を駆使していたからた。そういや、高橋尚子以来、受章者は出ていない。ミーハーな小泉首相のこと、任期中ゼロというのは癪かもしれぬ。人間が難しいなら、ディープインパクトはどうだろう。キング・ジョージと凱旋門賞を連勝すれば、可能性なしともいえない。第16代国民栄誉賞が馬……。ばかばかしいが、他の政策よりは支持できる。
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2 コメント

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叙勲 (アナスタシア)
2005-11-03 11:45:03
私の伯父も「地方自治」への貢献ということで、

「叙勲」されました。



普段は「一族の長老」なんですが、舞い上がってました。

「お祝い」をいただいたり、記念の品を配ったり、

人生の終盤に「七五三」の豪華版が来たみたいな感じで…。



「寺山修司」が勲章をもらう…。

「ブラック・ユーモア」…ブラック過ぎる気がします。
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確かに (酔生夢死浪人)
2005-11-03 18:43:49
 寺山はありえないでしょうね。でも、フランスでは反体制的な人にも声はかけるみたいですね。サルトルはドゴ-ルに断ったらしいです。

 普通のというか、市井の人間にとっては、叙勲は憧れなのでしょうか。まあ、30年ぐらいたてば、変わると思いますが。
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