酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ウイズ&アフターコロナ時代の生物多様性~キーワードは進化と侵略

2020-09-03 22:56:47 | カルチャー
 「進化論」(ダーウィン)の基本さえ理解していないのに、環境保護や気候危機に言及してきた。その点を反省し、今稿ではA「都会の中の〝進化論〟」(2019年、NHK・BS1/ドイツ)とB「終わりなき侵略者との闘い」(17年、五箇公一著/小学館クリエイティブ)を下敷きに生物多様性について考えた。

 ABとも制作、発刊はビフォアコロナだが、ウイズ&アフターコロナ時代を生きるためのヒントを与えてくれた。Aでリポートする各国の生物学者たち。Bの著者で国立環境研究所に籍を置く五箇に共通する問題意識は、<経済のグローバル化により、人と物の動きがボーダレスになったことで、生物多様性はどう変容したか>……。綿密なデータに基づく理系の範疇を、文系的に咀嚼して記したい。

 Aは都会の厳しい環境下における動植物の変化(≒進化)をメインに据え、Bは外来種の侵入が従来の生態系、ひいては生物多様性破壊に繋がっていることにポイントを置いている。リンクしている内容も多いので、カットバックしながら綴ることにする。

 Aの冒頭、フランス・アルビ市の河川で食物連鎖の頂点に君臨する東欧からの外来種ヨーロッパオオナマズが紹介されていた。体長数㍍に及ぶオオナマズは都市で進化し、犬やハトを捕食するまでに至る。都市の〝光害〟は昆虫の数を減少させたが、蛾の一種は光への耐性を遺伝子レベルに組み込み最適化した。

 絶滅寸前の動植物は無数に存在するが、自然選択に成功し、人間が防除に苦しむ種も多い。その殆どが外来種だ。<従来種=善、外来種=悪>の決めつけは〝排外主義〟めいているが、五箇はデータ、イラスト、写真を用い、長年にわたって日本で形成された〝ぬるい〟生態系が、外来種によって損なわれる過程を提示している。帯には<外来動物は人間のしくじりが招いた環境問題>と記されていた。

 〝しくじり〟の典型は<ペットとして輸入→成長して飼い切れなくなり廃棄→野生化して生態系破壊>のパターン。グリーンアノール、アライグマ、ミドリガメらが当てはまる。今や生物多様性の高さはアマゾン川に匹敵し、〝タマゾン川〟と揶揄される多摩川には、廃棄されたアリゲーター・ガー、ニシキヘビ、熱帯魚が棲息し、在来種を駆逐している。俺は生物多様性をアプリオリに肯定していたが、負の側面が少なからずあることを教えられた。

 第10章「侵略的外来生物としての病原体」は新型コロナウイルス蔓延を予感させる内容だった。五箇はエボラウイルスが猛威を振るった2014年を振り返り、<経済優先が感染拡大をもたらした>と警鐘を鳴らしていた。状況を把握し、政府に伝えた医師の声は届かなかった。対策を誤ったアメリカやブラジルが今回また、経済を優先し、深刻な状態に陥っている。グローバリズム、温暖化、都市化により、新たな人獣共通蔓延症がいつ発生しても不思議ではないのだ。
 
 第9章「マングースはハブと闘わない」など目からウロコの内容に満ちたBを、文系の俺でも心から楽しめた。バラエティーにも出演する五箇は研究者として無意識に危険な外来種を持ち込んだ責任を自嘲的に語っている。深刻な真実を正しく伝えるエンターテイナーの活躍に期待している。

 Aで印象的だったのはオランダ・ライデン大教授の指摘だった。<ダーウィンは進化に時間がかかるので、過程を見ることは出来ないと考えていた。都市で進行中の進化に驚くに違いない。自然選択を過小評価していたのではないか>と語っていた。世界の都市で起きている凄まじいスピードの進化は、ダーウィンにとって想定外だったのだ。

 翻って、ヒトはどうか。自民党総裁選で忖度、私物化、米国隷属、破綻したアベノミクスと外交を継承する菅官房長官が圧勝する見通しだ。党費を払っている自民党員は黙って見過ごすのだろうか。立民と国民の合流では、福島原発事故の教訓を無視する連合系の議員が参加しないという。動植物と比べ、適応力はゼロだ。ヒトは、とりわけ日本では、進化せず同じ過ちを繰り返す種なのだろう。
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