酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

王将戦開幕~〝レジェンド〟VS〝人間超え〟の彼方に見える景色は

2023-01-07 17:14:53 | カルチャー
 高校ラグビー、サッカーで郷里のチームを応援してきたが、京都成章は東福岡に圧倒され決勝進出はならなかった。早い時間帯にチャンスを生かしていたら、展開は少し変わっただろう。東山はPK戦を制し決勝で岡山学芸館と戦う。日々PKを練習してきた成果が出たようだ。ちなみに東山は春高バレー男子でも準決勝に進出していたが、鎮西に敗れた。OBたちは盛り上がっているだろう。

 あす8日、ドリームマッチの火蓋が切られる。〝レジェンド〟羽生善治九段が〝人間超え〟藤井聡太王将(5冠)に挑むのだ。タイトル通算100期にあと1に迫った羽生だが、夢は叶わないだろう。結果はどうあれ、2人が見せてくれる景色は神々しく煌めいているはずだ。

 1985年にプロデビューした羽生を筆頭に、森内俊之、佐藤康光、郷田真隆、難病と闘って夭折した村山聖ら〝チャイルドブランド〟が将棋界を席巻した。将棋の凄さが鮮やかに表現されたのは、88年度NHK杯トーナメント準々決勝である。加藤一二三九段相手に指した▲5二銀で、羽生五段(当時18歳)は〝神の子〟になった。

 とはいえ、道のりは険しかった。知人は公園のベンチでひとりうなだれている羽生を目撃している。「将棋はゲーム」と広言し、「将棋は人生」と考える先輩棋士のバッシングを受けたのだ。94年度のA級順位戦で羽生が起こした3連続上座奪取事件は、ルール違反として棋界を騒然とさせた。

 当時の羽生像は、「自分は勝負師」と評していた通り、盤外作戦も辞さず勝利に邁進する青年だった。だが、現在はイメージが大きく変わっている。柔らかく穏やかな〝孤高の求道者〟といった雰囲気で、インタビューでも笑みを絶やさない。羽生は研究会や感想戦でも自身の研究や指し手について、余すところなく伝えてきた。<ともに真理を追究していこう>という第一人者の姿勢が、棋界を発展させていった。羽生が地均しした棋界の土壌に降臨したのが、もう一人の〝神の子〟藤井である。

 羽生と藤井を結ぶキーワードはAIだ。右脳と左脳をフル稼働させ、文化人や科学者らと対談してきた羽生は、<人間にしかできないことは何か>をモチーフにAIの取材を進める。<AIを知ることは、人間の脳の働きに迫るため>をテーマに据え、「人工知能の核心」(HNK出版新書)を著した。羽生は<AIの親和力によって良心や倫理観を備えることが出来たら、人類の未来はバラ色になるかもしれない>と綴っていたが、現実は真逆に進んでいる。

 藤井はAIの使い手として知られている。高性能のパソコンを2台保有しているが、そのうちの一台は200万円前後とされるAMD製だ。藤井は2台のパソコンがつくる巨大なAIの海で抜き手を切っている。最近目立つのは終盤の切れならぬ安全策で、〝激辛流〟森内九段が絶句するほど万全の受けを見せる。

 人跡未踏の高みへと猛スピードで上っている藤井だが、強過ぎることを危惧している。羽生には同世代で追いかける棋士がいたが、藤井にはいない。全てのタイトルを奪取し、全トーナメントで優勝する……なんて話も夢物語ではない。自身の絶対的な強さに壊されるとしたら、悲劇的な結末だろう。才能に溢れる棋士には、多彩な趣味を楽しんでいる者も多い。藤井には自分だけのシェルター、サンクチュアリが必要だと思う。

 ともあれ、〝神の子〟同士の想像力、創造力に満ちた指し手の連続が楽しみだ。
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