goo blog サービス終了のお知らせ 

日々のことを徒然に

地域や仲間とのふれあいの中で何かを発信出来るよう学びます

祖父の掛け時計

2022年05月19日 | エッセイサロン
2022年05月19日 中国新聞セレクト「ひといき」掲載

 腕時計の修理のため、知人に店を紹介してもらった。店に入ると、同じ時刻を示す電波時計が何個も並んでいた。その中で幾つかの古い掛け時計が、ひっそりと息をするように存在していた。祖父が大切に扱った掛け時計とそっくりな物もあり、懐かしくてしばらく見入った。
 「古いのは100年になりますよ」。店主は私の目線を追って言った。
 子どもの頃、家の時計は居間の中央の柱に掛かっていた。ぜんまい巻きは祖父が担った。踏み台に上がり、文字板にある左右の穴にねじを差し込み、数をかぞえながら回していた。
 私は、左右の巻き数を同じにするのだと、自然に覚えた。中学生からは、祖父に代わって巻いた。ジージーとぜんまいが締まるに従って強い力が必要になる感触を今も覚えている。
 父は腕時計、祖父は懐中時計を持っていた。父は気ぜわしそうに、祖父はのんびりと竜頭を回した。時刻合わせはラジオに頼っていた。壁時計は、祖父が何日目かに必ずねじを巻き、懐中時計と時刻を合わせた。だから家族が頼りにする掛け時計は一度も止まらなかった。
 ついのすみかの新築に合わせて、掛け時計を購入した。店の薦めは少々値の張る品だったが、記念だからと、思いきって買った。以来、28年。正確に時を刻み続けている。
 祖父が逝って62回目の年忌がくる。ぜんまいはなく、明かりで動く。時刻は自動調整。手のかからない進歩した時計、祖父はどう思うだろう。

 (今日の575) 掛けたならほこり積もるも気がつかず
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする