日々のことを徒然に

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自宅での葬儀

2020年07月20日 | エッセイサロン
2020年7月20日 中国新聞「明窓」掲載

 いつものように墓を掃除していて、ふと祖父の享年は79だったと思い出した。今の私と同じ年齢。あれから60年が過ぎたが、祖父を弔った日の父の一言が忘れられない。

 葬儀の前日、父は長男の私に「よく見ておけ」と言った。 「なぜ」と思いながら、父のそばで葬儀の終始を見ていた。今では珍しくなった自宅葬。近所の皆さんが葬儀を取り仕切る習わしだった。

 それから6年が過ぎたころ、父が56歳で急逝した。当時、私は25歳。病身の母と下に3人のきょうだいがいて、大きな試練に向き合うことになった。

 父の葬儀も皆さんの支えで自宅葬を営んだ。葬儀が終わって、ふと祖父の葬儀の時の父の短い言葉は、もしかしたら自分は早く死ぬかもしれないという予感があったからではないかと思った。不思議なほど手順が思い出せたのは父のおかけだった。母も自宅葬で送った。

 だが、この先、自宅葬はないだろう。そう思うと一抹の寂しさを覚える。近所の人たちの世話で葬儀を終える。そして顔見知りの人の哀悼と一心な合掌に送られて自宅から出棺するー。その静かな葬送は長い月日が経っても忘れられないものだから。
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