2012年11月02日 毎日新聞「はがき随筆」掲載
「行きましょうか」と看護師は車椅子を押し始めた。突然、これまで思いもしなかった「万一の時残る妻はどうなる」との不安が頭をよぎる。でも、顔には出ないように繕った。
手術室の扉が開く。主治医のきりっとした顔が見えた。がん切除への不安が消える。
あの日から1年、内視鏡にCT、血液など検査結果は「異常ありません」と笑顔で主治医。緊張が解け体が軽くなる。そばの妻もホッとした息遣い。
病院の外は秋日和、思ったわけでもないのに、背伸びに続いて深呼吸も。爽やかな秋の気配を「うまい」と感じた。