真っ青な空に直線で描かれる白い線、子どものころには見えなくなるまで見上げていたこともあったような気がする。誰にも出来ない落書き、そんな作文を書いた記憶があるが、その最後だけおぼろげながら浮かぶ。「あれを描いている人は白い線が見えるのだろうか」。そう思い浮かぶのは、作文の疑問が今も解決されていないからだろう。
飛行機雲は別名は航跡雲とも呼ぶそうだが、辞書的には「飛行機が高度6千メートル以上を飛行する航跡に生成される細長い線状の雲」いうことになる。こうした高度での外気温はマイナス数十度。この状況下にジェットエンジンからの排ガスに含まれる水分が急冷され凍り、白い雲となって見える。
年とともに飛行機雲も珍しくなくなったが、見れるようになったのは60年くらい前から。それは飛行機が高速で高く飛べるようになったからで、科学の進歩が生み出した人造雲なのだ。引き締まったような白い直線もやがて緩く軟らかくなって散っていく。そこに作り出されたもののひとつの運命を感じる。
19夜の月、という言い回しはないのかも知れないが、その白い月が中天にかかっている。それを追っかけるように、月のはるか右上空から白い線が迫ってくる。速さは兎と亀ほどの違い。見る間に月を追い越していった。今年はいろいろな天体ショーが多くの人を楽しませ、自然の不思議さを味わった。そんなことを思いながら「今年最後の天体ショーだ」と白い雲を見送った。