1月4日の初仕事?

2005-12-19 22:30:15 | MBAの意見

数週間前、ある会社の依頼で、その社の全国に何ヶ所かにある事業所を訪問した。それも超特急。高速バスまで利用。体力ボロボロになる。緊急巡回の用件は、「独禁法改正に伴う、遵守の徹底」。なぜ、自分の会社でやらないか不思議だが、そういう知見がある人間が不足しているということだろう。まあ、理由はなんでもいいのだが。

では、改正独禁法とはどうなっているのかということだが、やや画期的ではある。正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」ということだ。平成16年10月に国会に提出され、161回国会、162回国会での審議の結果、17年4月20日に参議院を通過。4月27日に交付され、平成18年1月4日から施行される。特に問題になるカルテル行為の時効期間は3年なので、平成15年1月以降の事件が対象になる。カルテル(談合)行為に対する新規定について、何点かの特徴を書く。

1.課徴金の増額
 罰金のほか、課徴金の規定があるが、金額が重くなる。
 当該事業売上高に対する乗率が増額。例えば大企業製造業は(旧・6%)(新・10%)。
 早期にやめた場合は課徴金の2割引
 繰り返していた場合は5割増
 *当然ながら、罰金も課徴金も会社の経費とは認定されないから税引後利益から差し引かれる。つまり実質的には金額の2倍痛手を負う。

2.課徴金減免制度の導入
 簡単に言うと、談合行為を自ら自主申告した場合、課徴金が軽くなる制度が導入された。
 立入検査(捜査着手)前に申告すると、最初の申告者は課徴金がゼロ。2番目は50%OFF。3番目は30%OFF。になる。
 *しかも、閣議決定で、最初の申告者は「罪そのものがなかったことにする」ということが決まった。
 *誰が最初に申告したかというのは重要な要素になるのだが、FAX、MAILの受信時間順ということになった。
 *1月4日午前0時0分0秒に申告しようと思って、誤って1秒前にFAX送信すると、罪に問われることになるので注意が必要だ。

3.犯則調査権限の導入
 限りなく、検察(警察)に近づいたということだ。以前でも公取と検察はほぼ同様だったが、さらに類似になる。
 *ただし、ピストルは所持してないので、抵抗して撃たれることはないが、差はそれくらい。

4.勧告制度から排除措置命令に替わる。さらに審判制度は整備。
 勧告制度を廃止し、意見陳述の場を設けたあと、排除措置命令が出る。不服の場合は審判を開始。

簡単にまとめると、罪が重くなり、公取委の権限が警察並となり、一方、密告制度ができた。ということだ。密告制度というと、度々国会で審議されている共謀罪と繋がるところもあるのだが、「要するに談合しなければ捕まらないのだから、密告制度があってもいいじゃないか」という主旨になり成立した。

しかし、一方、日本は談合天国だったのも事実。1月からどうなるのか、よくわからないが、早い話が「談合しなければ」いいはずだ。しかし、現実は複雑だ。特に、年末は、同業者組合の忘年会とか多く、単なる忘年会かと思って出席したら、同業者組合幹部から妙な文書を渡されたり、というのがよく聞く話だ。それで、急遽、走り回るハメになった。

最初に行ったのはA県の事務所で、ここは規模が小さく、話は簡単。ただし、所長さんは退職間際なので、あまり興味はなさそう。喉の潤滑油のようなものだった。次にB県へ行くと、事態は一転。支店の幹部が会議室に集まっているが、最初から拒否反応を示す。「談合行為なんかやってないから、聞くだけ無駄だ」というゴーマン態度だ。(結局、このゴーマンは30分後には、大崩壊することになる)

要するに、大勢の人が独禁法を軽く考えている理由の一つは、「公正取引委員会」という名称にあると思われる。「教育委員会」とか「農業委員会」とかのイメージと繋がり、何か中立の第三者のように耳に響くのだろう。


「”公取”は”警察”と同じです。」ということから始める。
「捕まると、簡単には家に帰れなくなります。」と厳しい罰を受ける場合があるということを例を上げて説明する。
「公取と検察は張り合ってますから、逮捕にくるのが刑事の方かもしれません」と成田空港公団の例を出して、おどかす。

「会社に着替えを用意しておかなければいけません。」というと、顔色がこわばってくる。

「個人の罪になります。」と言うと、さらに黒目が小さくなる。

「会社が禁止している行為を、犯した場合、会社はトカゲのしっぽを切るだけです。私が説明に来たのも、”会社の努力にかかわらず”というコトバを使うためですから・・」息苦しい雰囲気が流れる。

「ですが、そうも言い切れないのです」と変化球を投げる。

「会社のためと錯誤して、こういった行為に加担した社員を解雇するのは辛いものがあります。」
「さらに、シッポを切ってもトカゲが許されるわけでもありません」ちょっと場が緩む。

「だから、そういうことが起きないようにお話をさせていただくわけです。」やっと話ができるようになる。

実は、ここから先は、ハウツーものになるので、書かないのだが、要するに思わず危ない場面に引き込まれそうになった時に、仲間はずれになるノウハウの話だ。日本国内で仕事をすると危険があちこちに点在していることに気付く。同業者からの電話や会食の誘い。販売競争の裏に潜む、不当廉売の誘惑・・・

そして、その前に、企業(特に中小企業)が多くの無垢な社員を危険にさらしている理由として、「独禁法のことを教えていない」ということがある。前述したとおり、公取の捜査権は警察並みなのだが、警察に捕まる罪の数々は、家庭でも学校でも十分に教えるのに対し、公取に捕まる罪のことなど、家庭でも学校でも教えない。会社でもおざなりだ。

こういう会話があった。

「同業者で決めた価格より安く売るのが、”違反行為”だと思っていましたよ。」驚愕する。いわゆる「談合破り」が罪になると思っている人たちもいる。本当に恐ろしいではないか。独禁法の禁止事項すら知らない人たちが大勢いるわけだ。

そして、気懸りなのは、白と黒とグレーゾーンをはっきりさせて、捜査の強弱を決めておかなければ、「軽微な相談」とか「同業者からのちょっとした電話」とかを次々に槍玉にあげて、公取のFAXがフル稼働になってしまうのではないだろうか。何しろ最初の申告者が無罪ということなら、あることないことを公取に申告して、同業者を破滅の道に追い込むことが、もっとも有利な企業戦略になるからだ。

しかも、この独禁法というのは、あまり冤罪ということにはならない。だいたい黒になる。白と黒の間に広大なグレーゾーンがあるからだ。グレーとは法律を拡大解釈してしまえば有罪にできる範囲だからだ。だからなかなか白とは認定されない。


さて、このまま1月4日になり、仕事始めで朝9時に出勤した公取委の職員が、フル稼動で紙切れになってしまったFAXを見ることにならないことを祈るしかない。たぶん、そういうことはないだろうが・・  



最新の画像もっと見る

コメントを投稿