ハンニバル・ライジングの次は?

2007-05-25 00:00:55 | 書評
d7843747.jpg英語圏では2006年12月5日に刊行された「ハンニバル・ライジング/トマス・ハリス著」は日本語訳が4月1日に登場。何しろゴールデン・ウィークに映画が公開されるわけで、翻訳者(高見浩氏)は、さぞ出版社から「アメとムチ」をいただいたことと想像する。ただ、上・下二巻仕立てだが、一冊にまとめてもよかったのじゃないだろうか。

まだ上映中だし、新刊のあらすじを書くのは問題ありなのだが、ネット上の書評や映画評には酷評が並んでいる。まあ、特に日本じゃ酷評だろうと思うこともあるので、遠まわしに書いてみる。

まず、ハンニバルシリーズは前三作。「レッド・ドラゴン」、「羊たちの沈黙」、「ハンニバル」。主人公はハンニバル・レクター博士。狂気のスーパー殺人鬼である。犠牲者は100人弱か(いちいち数えられないが)。何度も捕まるが、奇妙なことにすぐに自由の身となる。特に「羊たちの沈黙」で登場した女性捜査官クラリス・スターリングとの攻防が、ハラハラドキドキということになる。映画でも、アンソニー・ホプキンスとジョディ・フォスターという二大スターが大暴れして大成功になる。三作目の「ハンニバル」では、同じ登場人物だが思わぬ結末となる。つまり、ハン二バルがクラリスを連れ去ってしまったのだ。その筋立てが気に食わなかったのかジョディ・フォスターは映画から降板。

そして、この四作目は、その後のクラリスの登場かと思ったら、まったく方向違い。ハン二バルが狂気の殺人鬼となった原因を心理学的に正当化するために少年時代にプレーバック。読者は、リトアニアで第二次大戦を迎えたレクター一家が受けた残虐行為の復讐、という理由を見つけるのである。しかし、そこで「悪」と認定されるのは、ドイツ軍、ソ連軍などである。いくら悪者に仕立てても、どこからもクレームがこないからだろう。

そして、どこの書評にも書かれていないが、最近起きた会津若松の母親殺しの加害者の少年だが、この本、または映画に影響されたのではないだろうか、と、ふと思うのである。やたらに首が切り落とされるわけだ。さらに、重要な登場人物である女性”ムラサキ”。

そして、基本的に、日本のことが大量に登場する。最初の首切り殺人に使われたのは日本刀。そして、大阪の陣の絵巻物に登場する首実検の図(以前、大阪の陣屏風のことはこのブログで触れた。)。その他。たぶん、トマス・ハリスは名刀正宗は伊達政宗と関係があると錯覚していると思えるが、菊正宗と伊達政宗が無関係なこともわかっていないだろう。

さらに、映画では、このムラサキを中国人女優コン・リーが演じるが、すでにコン・リーは中国人女優としてハリウッドでも有名である。日本人役を演じるのは、ちょっと違うんじゃないだろうか。

そして、この少年・青年時代にプレーバックした主人公の弱点は、いくら危険なシチュエーションに登場したからといって、決して死んだりしないことである。実際、警察に捕まってもすぐに釈放される。ミステリーの面白さの要素の一つである「スリル」がないわけだ。なんとなく、将来、何かを書くための辻褄あわせのための一作ではないか、という気もしないではない。

もっとも、本作が、あまりに不評ということになり、スポンサーがいなくなれば話は別だ。


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