花筐(坂田武雄の足跡)大木英吉著

2007-05-14 00:00:10 | 書評
196ded67.jpgまず、花筐。はながたみ、と読む。筐は箱の意味だ。そして、坂田武雄氏は、現在の「サカタのタネ」の創始者である。今では世界のベストテンに入ろうかと言う大種苗会社は、当初、坂田農園といい、坂田種苗に社名が変り、現在は(株)サカタのタネである。ピーター・コーンやプリンスメロンはサカタの代表ブランドである。

つまり、簡略に言えば、坂田武雄氏の波瀾に満ちた伝記である。弊ブログでは、今までにも「カール・ユーハイム」「赤い靴はいてた女の子」、短いものでは「イサム・ノグチ」「藤堂高虎」「ボビー・フィッシャー」「高島嘉右衛門」などフォーカスしているのだが、現在、興味を持っているのが、この坂田武雄である。(その他、津田梅子や伊藤博文も面白いのだが人物が有名すぎるのでちょっと・・)

このサカタのタネだが、現在の本社は横浜の港北ニュータウン内にある。その近くに居住していたこともある。創業の当初から横浜やその近郊を本拠地にしていて、資料も探しやすいのではないかとの思いもある。

従って、そのうち、もっとまとまった形で発表しようとは思っているのだが、その中核資料となるだろう一冊の伝記を発見したわけだ。1000円で古書のネットで発掘。

実は、この本は市販されていたわけではない。発行が坂田種苗である。つまり会社の社史のようなものだ。昭和56年の発行である。そしてその時、まだ坂田武雄氏は93歳で存命だったわけで、直接にインタビューをして、この本が書かれている。1888年明治21年の生まれとなれば、上記のユーハイム氏(1886年生まれ)とほぼ同世代。赤い靴の岩崎きみちゃんやイサム・ノグチより約1世代前だ。

そこで気になるのが、この社史風の伝記で、しかもスポンサーの本人が存命ということならば、いわゆる提灯伝記ではないだろうか、という心配がある。実際、この本には坂田武雄の悪口は書かれていない。キー・ポイントは著者の大木英吉氏ということになる。実は、この方のことはよく知らないのだが、本書中に、数十の伝記を書いているので、本人に迎合したりしない、という意味のことが書かれている。いわゆる職業ライターならそうだろう。が、まだ、自分的にはそこまでの「オサエ」は入れていない。シナリオも書いていたようだが、まだ未調査である。客観的なできごとについては、曲げようがないので、ほぼ正しいということと考えておく。

そして、大木氏がこの本を仕上げる際に大きな苦心をしたのは、会社の歴史的資料がほとんど残っていない、ということ。関東大震災と第二次大戦で大部分が消失したようだ。会社が残るかどうかわからないのに、会社の史実を残すという余裕などないのはよくわかる。特に関東大震災の横浜での資料は、その多くは第二次大戦で消失している(別の調査で、そう感じた)。


そして、いずれ特集記事で、細部はまとめるつもりだが、この坂田氏は親米派で、若くして米国留学し、種苗業のノウハウを学ぶ。しかし、日本と米国で土質も気候も異なるのでうまく行かない。しかも日本では珍奇なビジネスと受け取られ、大苦戦を強いられる。そしてやっとの思いで横浜市内に大正11年に三階建て洋館の本社を建設する。しかし、翌大正12年に関東大震災で壊滅。瓦礫の山の中からやっとの思いで脱出。

古くからの弊ブログの読者の方は思い出していただけるかも知れないが、カール・ユーハイムが銀座の明治屋レストランから独立して、初めて店を出したのが横浜関内で大正11年。そして、坂田種苗と同じように関東大震災で瓦礫の山となり、カールは九死に一生を得て脱出する。この二人に接点があったのではないかと思うだけで、わくわくしてしまう。(歴史ってそういうことがよくあって、小泉八雲のこどもの英語の家庭教師がイサム・ノグチの母親だったことを発見したりすることの喜びは何にも代えられない)

そして、米国の国力を熟知していた坂田武雄は、絶対に日米開戦はありえないと中国に投資をしていたのだが、すべて水泡に帰す。さらに、彼の得意は、「ペチュニア」や「キャベツ」だったのだが、国策で稲作中心に農業が変質。稲の品種改良は国家の独占体制だったため、もう仕事ががなくなってしまう。バウムクーヘンが焼けなくなったユーハイムみたいなものだ。

そして、その後、再生した企業は躍進を続けるのだが、残念ながら彼にはこどもが恵まれなかった。にもかかわらず、その後、社長には同じ坂田姓の坂田正之氏が就任する。そして、本著の発行された昭和56年から既に25年以上経過した今、会社のホームページを見ると、新社長就任予定が報じられている。坂田宏氏というのは、坂田正之氏の親族なのだろうか。そして武雄氏の実子ではないこの親族はどこから来たのか。それも日本史の中からなのであるが、きょうは書かない。

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