国立科学博物館に漂う日本のモラトリウム

2005-08-15 21:53:09 | 美術館・博物館・工芸品
34351a57.jpg上野公園内にある国立科学博物館は地上3階から地下3階まですべて科学博物館だ(と当り前のことを書くのだが)。各階ごとに、宇宙、地球、生物の歴史、機械工学、・・・と各階ごとにテーマが決まっている。新築に立て直されたばかりだから、最新の学説が紹介されているが、もっとも深度が深いのは生物の進化の話であると思う。私が見たところ、「ダーウィニズム」を採用していない。といっても、どこかの大統領のように、「生物は一種類ずつ神が作った」ということは書いてあるわけない。「一種類ずつ別の存在で、それぞれが貴重な種であり多様化しているものの、すべて同一の遺伝子システムを持っている」というような表現をとっている。つまり「生物みな平等な兄弟(姉妹)」という思想だ。要するに無宗教。差別の無い社会。ダイバーシティ思想か・・ある意味で思考停止。モラトリウム。

そういう意味だと、特別展の入場券のおまけで入場できたり、常設展示だけ見るのも大人で500円と、これだけのコレクションは、コストパフォーマンスはきわめて高いと言える。とはいえ全部詳しくみることなどできやしない。科学が好きだといっても、みんな得意不得意分野がある。興味もバラバラだ。時間も有限だ。それでいいのだ。

ただ、私見であるが、この博物館は、生物学関係のコレクションが秀逸と思っている。剥製とか骨格標本では少し不足感はあるが、古代生物から現代の生物までの歴史や大陸間の移動とか、最新の専門的な知識を明瞭に表示している。さらに、過去、地球を襲った度々の生物種の大量死滅の危機についても詳しい。それもそのはずで、この博物館は「過去の科学史」をもって、現代の我々の世界を認識するようなポリシーと感じるのだ。要するに「宇宙船地球号」思想だ。

そして人類の発達のコーナーでは、なんと「ルーシー」が出迎えてくれた。いわゆる猿人。身長120センチ。確かにこの個体が現在いたら、どういうことになるのだろう。我々は、21世紀になりやっと人種の壁を乗り越えようとしているのだが、人間で言えば3歳児の知能と言われるチンパンジーには今のところ人権を認めようとはしていない。そしてこの「ルーシー」はもっと知能は上なのだろう。そして運がいいと今週、もう一人のルーシーに会えるかもしれない(たぶん無理だと思うが)。

一方、工学系技術の場合は、未来学の方が楽しいのだ。そうなるとお台場の日本科学未来館が圧倒的にすばらしい。例えば、ナノテクということばは知っていてもなかなか実感できないはずだが、それらの技術が眼の前にあって、自分で操作までできるという徹底した方式だ。あくまでも未来を指向するというスタンスで科学をとらえている。さらに言うと、日本の得意な分野に偏っているのだが、そういう考え方もある。(数学とか経済学を対象とした博物館というのはないだろうかと考えてみても思いつかないが、あれば楽しいだろう)

そういう意味だと、夏休みのこどもたちは、この2つの博物館の両方に行って、自分の適性や好みを確認するのがいい。地方在住の方は、保護者が大事なこどもを連れてくるのがいい。親がいないと、こういうところには行かないで、六本木とか原宿とか日テレに行って終わりだ。ところがこの科学博物館から未来科学館へ移動しようとすると大変だ。上野駅からJRに乗っても、誤って京浜東北線に乗ると、昼間は新橋駅にとまらない。さらに運良く山手線で新橋駅で降りてもゆりかもめの乗車駅は遠く、わかりにくい。さらにゆりかもめはあくまでもノロい。もう面倒、と最初からタクシーに乗っても、少しも早く着かない。道路はまがりくねり、お台場に行くにはレインボーブリッジの根元で2回も螺旋回転が必要だ。「科学の未来と現実のギャップ」を教えたり、「国土交通省に内在する政策的矛盾」をこどもに教えるのには、都合がいいかもしれないが。

会場の一角で「特定外来生物展」が開かれていた。環境庁が中心で進めていた外来生物の規制(迫害?)の理解を得るためのパネル展示を中心としたコーナーだ。在来種を滅ぼす「悪役」として表現されている。人種差別みたいだ。

その中に「ヌートリア」がいた。巨大なネズミ。体長50センチ、体重15キロ。1930年代に毛皮用に輸入されたが、戦後、毛皮ブームが去り、野生化したということになっているが、偏見を排するために補足すると、上等な皮でもないのに輸入されていたのは、軍隊用だったのだ。航空用とか寒冷地用とかのため、薄くて軽い皮が求められたらしい。だから戦後不要になったのだ。

そしてネズミ類なので、繁殖力は強く、今は岡山とか兵庫の川筋に多く棲息して、土手に穴を掘ったりして住んでいるらしいが、以前は東京でも生ゴミをそのまま夢の島に捨てていたころは、いっぱいいたらしい。どう考えても、強制移住はかわいそうだが、大きな前歯を見るとやはり怖くなってしまう。全頭捕獲の上、原産地の南米に帰してあげようと思っても、絶対に無理だろう。そして、6月に「外来生物法」が施行されてからは、一旦捕獲した場合、その場でリリースするか、成仏させる以外は認められなくなったわけである。

世界陸上に現れた馬

2005-08-15 21:49:32 | スポーツ
68b011cf.jpg(画像はTBSのアナログ放送から)

ヘルシンキ大会は、なぜか淡々と進んでいた。各競技とも、予想通りの結果が続き、女子棒高跳びでは、ロシアのイシンバエワ選手が予想通り世界記録を1センチ更新。5m01cm。18回目の世界記録更新とは、1cmずつ更新するのがもっとも賞金額が増えることを、ブブカから教わっているようだ。

そして、ヘルシンキ大会の最大のバトル。女子マラソンが終わった。ラドクリフ圧勝。2時間20分57秒。日本勢は今一歩力不足。もっとも注目していた「走るヤマダ電機」こと江田選手は17位。ヤマダ電機の話で締めるつもりだったが、不発。かわりにもう一つのバトルを発見。解説者だ。定番の増田明美の「果てしなく言葉が出てくる」おんな古館流はいつも通りだが、今回は「そうですねー、ラドクリフさんは、とってもはやいのですねえ~~~」と冗長な末尾を得意にしている千葉真子が登場。ついに、解説業界に新規勢力が参入。

聞いていると、二人の解説はまったくかみ合ってなく、お互いに勝手にしゃべっているように聞こえたのだが、案外にも千葉の話もわかり易い。特に、レース前にラドクリフのことを、「腕を振るだけでなく、首を前後に振って走る」と言っていたのだが、これがレースが始まると、よくわかった。右足を前に出すときに首を前に振るのだ。そして左足が前に出るときには、後ろに戻している。そう、これは「馬」そのものなのだ。そして、注意深く見ると、首を振って走るのはラドクリフだけなのだ。増田VS千葉のバトルも、今後、目が離せない。