ちょっと不思議な放送博物館

2005-08-27 22:30:01 | 美術館・博物館・工芸品
ae1a856b.jpg東京は、もともと関東平野の沖積地で、さらに関東一円に降り注いだ富士山や箱根の火山灰の上に成り立っていて、その上、徳川家康以降、東京湾を埋め立て続けている。そのため、僅かに残った高台を削っては海を埋めた関係で、山がほとんどない。そして上野と同様にニキビのようにちょっと高い場所の一つが、愛宕山である。山と言っても階段を二分ほど上れば頂上に到達するのだが・・

そして、東京の高台ということで、ここに国営放送局があったわけだ。NHKの前身。大正14年から昭和14年の14年間だ。そして、現在はここに放送博物館がある。地上4階地下1階。昭和14年には、この建物を使っていたような、いないような。その頃の建物としたら、結構頑丈だ。そして入館料は無料。場所が不便なので来訪者は数少ないが、実は展示品は充実している。放送開始当時からのさまざまな機器や、ラジオ、テレビなど多数。どちらかと言うと、放送の「ハード」についての博物館である。

特に、テレビについては、日本がずっとトップ技術だったことが感じられるような、機器が展示されている。ラジオからテレビになった時にソニーという企業が現れたというのが日本の幸運だったのだろう。

ae1a856b.jpgそして、日本現代史の上で重要な展示品がある。一つは、昭和11年に発生した226事件に関するもの。事件当日、朝日新聞社は襲撃の対象になったが、なぜか愛宕の放送局は襲撃を免れている。この辺も反乱側の戦術の甘さなのだろう。結局、この放送局のアナウンサーの横で、書き上げられた「兵に告ぐ」という鉛筆書きの放送原稿がマイクに向かって読み上げられることになり、乱は終結した。その原稿の複製が展示されている。(余談だが、展示品を読んでいるうちに、現在、試写会などで行くことのある九段下の九段会館は、当時、軍人会館という名前で、戒厳本部が置かれた事を知る。皇居をはさんで北側が軍人会館で、南側に反乱軍が対峙するころになる。南側の建物はその後、米軍の山王ホテルとなり、現在は取り壊されてNTTドコモの本社になっている。)

ae1a856b.jpgそして、もう一つの重要展示物は、昭和20年8月15日に使用された「玉音盤」である。14日に国民向けに裕仁天皇がスピーチした録音盤で、この1枚の盤をめぐって近衛師団がミニ反乱を起こし略奪を狙ったが失敗したのは史実のとおりだ。それが展示されている。歴史を調べると、ポツダム宣言を受諾したのはこの盤による放送によるのではなく、日本時間で14日の夕方に、海外向けの短波による英語放送によるわけである。したがって、逆に玉音盤が紛失してしまった場合、前線では大変に困ったことになった可能性がある。ラジオ放送では降伏したのに、現場には伝わらないということだ。真珠湾攻撃に宣戦布告が間に合わなかったことのリピートになったかもしれないのである。

そして「災害時のNHK」にふさわしい最新技術だが、事故現場からの中継方法の一つとして、携帯電話による動画配信という方法が完成したそうである。つまり何か突然の事故があった場合、近くに在住しているNHK関係者が現場に携帯電話を持っていき、その携帯で撮影した画像を、NTT回線だけに頼らずに、画質を落とさないようにテレビ局まで送信する技術だそうだ。が、なんとなく釈然としないのは、(1)社員を大量にかかえているから、そういう人海戦術がとれるのだろう。(2)この技術は、NHKの社員専用の携帯電話ネットワークを構築したようなものではないのか。との思いがするからなのだ。

そして、これらの貴重な資料が入館料無料で、しかも愛宕下通りからは、「愛宕神社の出世階段」を上っても、あるいは無料のエレベーターを使っても簡単に見ることができる、と締めくくるのは簡単なのだが、ずいぶんと引っかかるものがあるのだ。

それは、なぜ、受信料不足に混迷するNHKが、これだけの施設を単独で運営しているのかということである。これと似ている施設は、東京大手町の逓信博物館(テーパーク)にもある。そこは郵政3事業ならぬ郵政省3事業ということで、「NTT、NHK、郵便局」の総合博物館で、もっと小規模だが同種の展示がある(入館料100円)。さらに原宿のNHK本社にはスタジオ関係の展示物がある。さらに調べていて驚愕したのは、最近、埼玉県川口市に巨大なNHKアーカイブセンターが完成している。要するに過去の放送データをすべて保存して、希望者には見てもらおうということなのだが、コストパフォーマンスは完全に無視だ。相当巨額だと思う。

そして、NHKについてのパンフレットを手に取り、決算書を眺めていたのだが、考えるのをやめることにしたのだ。何しろ、株式会社と違い、個人事業者が税務署に提出するようなものなのである。つまりバランスシートが存在せず、どんぶり勘定なのである。当該期の獲得受信料とコストとして使用した金額の差が、翌期回しということになるので、まるで町内会費の決算と同じだ。しかもコストの中には減価償却費という項目があるので、たとえばアーカイブセンターの資産価値はわからないし、総額のうちどれくらいの償却が終わっているのかなどもわからないのである。そういうことで、NHKがキャッシュリッチの無借金経営なのか、資産倒れの問題会社なのかよくわからないのである。

そして、この愛宕山の頂上の地面と建物の所有権はそれぞれ一体誰なのだろう。法務局にまで行って調べる気力はないが、「日本国」か「NHK」かどちらかなのだろうが、余裕ありすぎなのではないだろうか。