1.背景
環境影響評価法は、新幹線鉄道の設置又は改良の工事を対象事業としており、環境大臣は、環境影響評価書(※)について、国土交通大臣等からの照会に対して意見を述べることができるとされている。
本件は、東京都と名古屋市間を結ぶ中央新幹線に係る環境影響評価書について、この手続きに沿って意見を提出するものである。。
今後、国土交通大臣から事業者である東海旅客鉄道株式会社に対して、環境大臣意見を勘案した意見が述べられ、事業者である東海旅客鉄道株式会社は、意見の内容を検討し、必要に応じて見直した上で評価書を確定し、公告縦覧等を行うこととなる。
※環境影響評価書:環境影響評価の結果について記載した準備書に対する意見を踏まえて、必要に応じてその内容を修正した文書。
2.事業の概要
本事業は、東京都港区と愛知県名古屋市の間、約286kmを超伝導リニアにより結ぶものである。首都圏及び中京圏の市街地では、大深度地下を利用し、その他区間も河川以外は、ほとんどトンネルにより通過する。
本事業の事業規模は極めて大きく、本事業の実施に伴い、トンネル工事により生ずる湧水に起因する地下水位の低下や河川流量の減少、供用時に利用するエネルギー負荷の増加、希少動植物への影響、騒音振動や大気質への影響等の環境影響が生じる懸念がある。
3.環境大臣意見の概要
環境大臣意見の概要は、以下のとおりである。なお、環境大臣意見の取りまとめに当たっては、大同大学の大東教授及び静岡大学の増澤特任教授から助言をいただいた(別紙2参照)。
(1) 前文
・本事業により相当な環境負荷が発生。低炭素・循環・自然共生が統合化された社会に向け、環境保全について十全な措置を行うことが本事業の前提。
・地方公共団体や住民の関与について十全を期すこと。
・国土交通大臣は、適切な環境保全配慮がなされるよう、事業者に対して適切な指導を行うこと。
(2) 総論
・土地の改変は必要最小限とし、環境影響の回避・低減に必要な措置、モニタリング、事後調査を適切に実施。
・工事期間が長期にわたることから、状況の変化を踏まえ、評価項目を再検討し、追加的な調査予測及び評価を行い、適切な措置を講じる。
(3) 各論
【1】 温室効果ガス
・本事業の実施に当たっては、本事業について、また、事業者全体として、再生可能エネルギーや省エネ設備の導入計画(定量的な削減目標を可能な限り設定)を策定し、計画的に温室効果ガス排出量を削減。
・供用時に調達する電力は可能な限り再生可能エネルギーとするとともに、省エネを徹底し、増加する温室効果ガスを最大限抑制。。
・工事時の省エネや再生可能エネルギーの利用を徹底。
・事業者全体として、再生可能エネルギーや省エネ化設備の導入計画(定量的な削減目標を可能な限り設定)を策定。計画的に温室効果ガス排出量を削減。また、省エネや技術開発等の長期的な温室効果ガス排出削減対策を実施。
・さらなる温室効果ガス排出削減を図るため、他の事業者と連携し、効果的な方策に最大限取り組むこと。
【2】 水環境
・地下水位や河川流量について、精度の高い予測を実施、影響を最小限化する工法を採用。
・工事実施前から地下水位や河川流量を把握。工事実施後までモニタリングを実施。
・水資源に影響を及ぼす可能性が確認された場合は、まず応急対策を講じた上で、恒久対策としての措置を実施。
・湧水については、水質、水量等を管理し、適正に処理。湧水を放流する際には、表流水への影響を回避・低減すべく、できるだけ多地点で放流。
・沢及び河川等の表流水からの工事用取水を最小化することにより、生態系への影響を回避・低減。
【3】 動物・植物・生態系
・南アルプス国立公園及び拡張予定地の影響をできる限り回避。
・ユネスコエコパーク登録申請地の資質を損なうことがないよう配慮。
・クマタカ等の希少猛禽類の繁殖活動への影響の回避・低減。
・河川流量の減少に伴うヤマトイワナ等の水生生物について、水系ごとの生息状況等のモニタリングと措置を実施。
・サンショウウオ類等の移動力が低い動物について、移動経路の確保及び移植等の措置を実施。
・夜間照明等による野生生物への影響を把握。
・希少な植物について、生息地の回避を原則とし、移植等は計画を作成し実施。
【4】 人と自然との触れ合い
・工事車両の運行計画の調整等により登山者への影響を回避・低減。
・長期間の工事であることから、その影響を評価し、措置を実施。
【5】 廃棄物等
・発生土を抑制。地方公共団体と協議して管理計画を作成、適切に管理。
・発生土置場は、動植物の生息生育地や自然度の高い区域等を回避。
・発生土の譲渡先が講じるべき措置を伝達する等の措置を実施。
・廃棄物の発生抑制と再生利用、適正処理を徹底。
【6】 大気・騒音・振動
・地域の特性に応じた大気質、騒音、振動のモニタリングと措置を実施。
・走行条件の変更時等の予測の前提条件が変更した場合には、追加的な予測調査と措置を実施。
【7】 土壌
・工事に伴い生じる自然由来の重金属等に汚染された土壌について、モニタリングと措置を実施。