酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

コンピューターは美学と矜持を壊す?~唯一の希望は麻雀か

2016-04-17 19:56:45 | カルチャー
 14日夜、録画しておいたチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝、バルセロナ対Aマドリードの2ndレグを見た。バルサが0対2(トータル2対3)で敗れ、ベスト4進出を逃す。先月末時点で3冠(CL、リーガ、国王杯)の可能性大だったが、縁あるヨハン・クライフの死後、急ブレーキを踏む。リストに載っていたメッシが精彩を欠いており、パナマ文書の余波かもしれない。

 試合を見た後、読書する。ページを繰るうち眠くなり、朝刊で熊本地震を知った。亡くなられた方の冥福を祈ると同時に、被災地の一日も早い復興を願っている。すぐさま原発が心配になったが、<阿蘇山や桜島の火山活動と今回の地震は無関係で、川内原発への影響はない>が公式見解だった。<今回の地震及び余震が火山活動を誘発する可能性がある>との地震学者のコメントに説得力を感じたら、阿蘇山で火山活動が観測された。

 桃田と田児は断罪されたが、地震列島日本で国民の生命を脅かす原発再稼働こそ、邪悪かつ違法なギャンブルだ。別稿(12年1月12日)で紹介した「春を恨んだりしない」(11年)で池澤夏樹は、<災害と復興がこの国の歴史の主軸ではなかったか>と指摘していた。日本史≒地震史で、災害は無常観と美意識を育み、国民は政府の無策まで天災として受け入れるようになった。
 
 日本人の美意識といえば、太宰治が「源実朝」に託した<滅びの美学>、寺山修司が競馬評論に織り交ぜた<敗北の美学>を思い出す。だが、美しく負けることの素晴らしさを説いたのは上記のクライフだ。岡田武史、北澤豪との対談を収録したWOWOW製作の追悼番組で、<トータルフットボールの原点は仲間を助けたいという愛>と語っていた。

 クライフは自身が異端児であることを自覚していたからこそ、要職に就かず美学と哲学を貫いた。そもそもスポーツは人間を陶冶するものではない。清原しかり、プラティニしかり……。自身と対峙するゴルフという競技に幻想を抱くファンも多いが、タイガー・ウッズは聖人と程遠いし、日本のトッププロも悪いマナーを指摘されてきた。

 ならば、勝負事はどうか。川端康成が「名人」で描いた囲碁の本因坊秀哉は実にチャイルディッシュな老人だった。将棋の山崎隆之叡王は名人戦移行問題が世間を騒がせた頃、NHK杯の解説で青野照市九段を「将棋界に珍しい人格者」と紹介し、司会の千葉涼子四段を慌てさせていた。クライフの言を借りれば、<勝つことへの執着、勝たねばという強迫観念>が、人格を歪めるということか。

 コンピューターが囲碁界、将棋界を震撼させている。伊田篤史十段に敗れて7冠制覇が持ち越しになった井山裕太名人は、史上最強の声もある李九段が人工知能に敗れたことに大きなショックを受けていた。将棋界では、かつて7冠を独占した羽生善治4冠が名人戦第1局で佐藤天彦八段を下したが、上記の山崎叡王とPONANZA(最強コンピューター)が相まみえた電王戦第1局にもファンの目が注がれた。結果は山崎の負けだった。

 亡き父は定石無視の囲碁好きで、将棋の方も定跡に囚われない無手勝流だった。父は<囲碁は宇宙旅行、将棋はスポーツ>と評していた。囲碁は19×19=361、将棋は9×9=81でマス目が4倍違う。囲碁でコンピューターが人間に勝つには時間がかかるというのが定説だった。将棋界では既に、コンピューターとうまく付き合うことが強くなるための条件になっている。美学と矜持は世の中だけでなく、文化としての将棋でも死語になりつつあるのだろう。

 チェス、将棋、囲碁の順番で、人間はコンピューターの軍門に下った。<知・理・利>をベースに勝利を目指す以上、必然の結末だったといえる。だが、落胆するのは早い。最後の関門が残されている。それは麻雀だ。熟練のプロは感性や直観を重視し闘牌する。自身の方法論に殉じることもあるし、流れが悪ければ局を捨てる。ギャンブルとしての要素も強い。

 美学と矜持を備えた小島武夫、灘麻太郎と、コンピューターが2対2で局を囲んだらどうなるか。情報量はイーブンで、コンピューターは自らの手の内と対戦者の切り牌で読み合う。例えば将棋だと、タイトル戦でも50手まで類似形が過去に数十局あるケースが多い。定跡が確立しているからだが、麻雀だと配牌から初手で何を切るか、打ち手によって大きく異なる。確率が低い字牌の地獄待ち、引っかけの嵌張待ちが三面待ちに勝つケースも頻繁で、優秀であるほどコンピューターは戸惑うのではないか。

 昨日は白河に向かい、東京には昼に戻ってきた。熊本では地震が続き、被害はさらに拡大している。川内原発の稼働を停止し、汚れた金が環流する東京五輪も中止して、東北と熊本の復興に回すべきだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「あまくない砂糖の話」~資... | トップ | ハードな週末~「プロジェク... »

コメントを投稿

カルチャー」カテゴリの最新記事