ドイツ総選挙の暫定結果が出た。キリスト教民主・社会同盟(保守)が得票率35・2%で225議席、与党の社民党(中道左派)が34・3%で222議席。2大政党の争いに埋没することなく、少数派も議席を確保している。自民党が9・8%で61議席、左派党が8・7%で54議席、緑の党が8・1%で51議席と、日本と違い死に票がない。民意を正確に反映する選挙制度といえそうだ。
さて、本題。前原誠司氏が菅直人氏を2票差で破り、民主党の新しい代表に決まった。<日本版9・11>の余波どころか、政界の流れを左右する選択になりそうだ。民主主義の墓場というべき<米国型保守2党制>の一翼を担うのか、先進国で主流の<社民型>を目指すのか……。民主党代表選は二つの指向を対立軸に戦われるべきだったが、<世代交代>ばかり重視され、耳目を集めぬうちに幕を閉じた。
田原総一朗氏は菅氏を<中古品>と断じ、前原氏への期待を隠さなかったが、俺は菅氏の勝利を望んでいた。菅氏は名前の響きと逆に、<民(たみ)>に立脚する数少ない政治家だ。代表復帰となれば、党の舵を左に切り、<竹中―小泉路線>で創出された負け組の支持を獲得できたと思う。残念ながら、逆の目が出た。菅氏は既定方針通り、都知事を目指すことになりそうだ。
前原代表は自公と紙一重の<米国型新自由主義>を掲げている。防衛政策、憲法へのアプローチは自民党と区別がつかない。次回の総選挙は、<政策は同じでも、経験のある自公>と、<政策は変わらないが、しがらみのない民主党>という、不毛の選択になるだろう。民主党が本気で勝ちたいなら、強固な基盤を作るしかない。都議選(7月)での得票率が、党の脆弱さを物語っている。自公の48・7%に対し、民主は24・5%だった。いくら<風>が吹いても、基礎票が半分では太刀打ち出来ない。
<格差拡大>と<地方切り捨て>が進行し、<一億総中流>のすり込みも利きづらい状況になっている、国民の多くが自らの貧しさに気付けば、投票行動も変わるはずだ。怒った有権者を吸収する<第三の極>は形成されるのだろうか。キーワードは護憲、平和、福祉、環境である。代々木の方から「俺たちを忘れるな」という声が聞こえてくる。共産党ねえ……。でっかい鍋でいろんな具を煮込んだとしよう。食い荒らされた鍋の底、硬い小石が残っていた。それが即ち、煮崩れしない共産党なのである。化学反応を阻害することもあるから、厄介な存在といえる。
識者たちは民主党と連合との癒着を指摘し、「だから改革は不可能だ」と責め立てている、前原代表の「脱組合宣言」はテレビで好意的に受け止められていたが、ちょっと待て……。組合は時に桎梏になるかもしれないが、田原氏をはじめメディアの人間は、どうして自民党に刃を向けないのだろう。「財界に気兼ねして法人税を元に戻さないのか」とか、「米国の『年次改革要望書』に引きずられて郵政民営化に走ったのか」と噛み付けばいいのに、権力者に従順だ。所詮は<電波芸者>、タニマチのご機嫌を損ねるわけにはいかないようだ。
最後に。中内功氏が亡くなった。氏については別項(04年11月12日)に記したことがある。冥福を祈りしたい。氏の功罪に関心ある方には、「カリスマ」(佐野眞一著)をお薦めする。確かな構図と遠近法で、中内氏を現代史に嵌め込んだ力作である。
「ベスのひとりごと」へのコメントありがとうございます。
見かけ上は殆んど同じ選挙区と比例区ですが見事に得票率に応じて議席が配分されていますね。
フランスがEU憲法を否決したこと(EUが市場原理主義へ傾斜する懸念でのNonであったこと)を思い出しました。ヨーロッパが歴史から政治に関する知恵を学び取っていることが羨ましくなります。
民主党の動向は自民党が“刺客”を送っているとかの噂もあるようですが、結局は分裂したうえで保守どおしの暗闘時代の再来でしょうか。
これでは、どこまでも国民の利益は蔑ろにされ愚弄されるばかりで、良識派の受け皿もなくなりますね。
映画で見たい作品です。
toxandoriaへコメントありがとうございます。
こちらこそ色々と勉強させて頂いております。
虚妄と厚化粧の「小泉劇場」がその典型ですが、日本の政治では、あまりにも理念が軽視されており、国民も理念部分の重要性(例えば、市場原理主義と医療・福祉等の公共サービスの何れを優先するのか、というようなこと)に気づいていないようです。
理念はバランスさせるものではなく、選択するものだと思っております。
これからも、どうぞよろしくお願いしま。.
政治の世界でも同様に、第三者からの情報発信を重視する動きは、政党間の競争で生き残るために選択される不可避の流れです。武部幹事長の懇談は自民党がこの流れを意識して選挙戦略を立てていることを示しています。この戦略を推し進めていけば、「一方通行の政策訴求から政策論議の喚起へ」重点が移行するのは時間の問題です。
個人的には、みんなこの不可避の流れに早く気づけよ、特に民主党!という焦燥がちょっとあったりします。また、国民はメディアリテラシーの一つとして情報の流れを作る仕組みについて知っておくことが望ましいでしょう。
ブログ時代・企業の情報発信術――ブロガーにとりあげてもらおう
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/literacy.aspx?i=20050915bi000bi
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