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酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ジブリ、そして狭山~3本のドキュメンタリーを堪能する

2019-05-23 19:58:53 | カルチャー
 週をまたいでドキュメンタリーを観賞した。まずはジブリ関連から……。宮崎駿をメーンに据えた「夢と狂気の王国」(砂田麻美監督)と、昨年亡くなった高畑勲の実像に迫った「高畑勲 『かぐや姫の物語』をつくる」(三木哲・佐藤英和共同ディレクター)で、それぞれ日本映画専門チャンネルとWOWOWで放映された。

 ともに2013年製作で、宮崎は「風立ちぬ」、高畑は「かぐや姫の物語」の完成に向け苦闘していた。ジブリの二枚看板だが、評価と人気は宮崎が凌駕している。先月末、帰省中に従兄宅で見た「平成ニッポンのヒーロー」では、リアルタイムの視聴者投票で宮崎が「ニュース・文化部門」1位に輝いた。

 放送された作品を幾つか見た程度で、ジブリと縁が薄い。最も印象に残っているのは高畑監督作の「火垂るの墓」だ。原作(野坂昭如)の素晴らしさに加え、兄妹のドラマであることが自身と重なったからだ。ジブリに距離を感じるのは理由がある。知人の女性はアニメーターで、下請けプロダクションでジブリ作品も担当していたが、待遇はブラックどころか地獄で、エンドロールに名前が載ることだけが〝ご褒美〟だった。世紀が変わる頃、彼女は別業種に転職する。

 ジブリのファンタジーを支えているのは、血と汗と涙である……。などと書くと、「おまえは夢のない奴」と罵られるかもしれない。「夢と――」であるスタッフは宮崎との付き合い方について、「守るものがある人は辛いと思う。自己犠牲が必要」と語っていたが、言葉の端々に〝王の孤独〟が滲む宮崎は、自身が独裁者であることを十分理解している。

 宮崎は高畑に見いだされ育てられた。〝人格破綻者〟とも評される高畑は「かぐや姫の物語」撮影時、77歳だったが、見た目は5歳下の宮崎より遥かに若い。高畑は愛の鞭ならぬ潰しの礫を打つ人だったが、宮崎は受けて立ち、業界でのポジションを逆転した。

 宮崎は反戦、反原発、護憲を訴えてきたが、その思いが作品にどう投影されているのかわからない。宮崎は広河隆一と交流があった。福島で体内被曝した可能性のある子供たちのため、広河が立ち上げた保養施設「沖縄球美の里」のシンボルマークを宮崎がデザインした。晩節を汚した広河の二の舞いにならぬことを祈っている。

 週末は高円寺グレインで「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」(金聖雄監督)を観賞した。1963年、女子高生殺人犯にデッチ上げられた石川一雄さんを追った作品で、2014年度毎日映画コンクールでドキュメンタリー部門作品賞に輝いた。長谷川豊氏の暴言(=本音)には愕然とさせられたが、本作の背景にあるのは差別と貧困、そして警察の暴力と誘導である。

 石川さんは32年間、獄中で過ごし、現在は仮出獄中だ。脅迫状の筆跡鑑定は99%、石川さんが無実であることを示している。再審請求が通り、証拠開示が認められたら無罪は明らかだが、権力者は石川さんの死を待ち望んでいる。国連自由権規約委員会は狭山事件に言及し、<司法手続きにおける証拠開示について、公正な裁判の原則に立つべき>と日本政府に勧告したが、状況は変わらない。

 学生時代、韓国民主化支援と狭山事件に関わっていた。俺の物差しを作ってくれたのが二つのテーマである。開演前、金監督がマイクを握り、石川さんと奥さんの早智子さんを紹介する。支援者の願い(再審)が叶わぬことへの忸怩たる思いでストイックに生きる石川さんを、早智子さんが優しく包み込んでいる。夫婦漫才のような会話で紡がれた夫妻は理想のカップルと映った。

 「冤罪三部作」の陣内直行プロデューサー、ソシアルシネマクラブすぎなみの大場亮代表、文化交流の場を提供する加藤真グレイン店主はいずれもグリーンズジャパンのメンバーだ。そして闘争のシンボルだった石川さんが、飄々としたユーモアを湛えて左前に座っている。グリーンズジャパンに入会したことで、40年の時間が遡行し、凝縮して逆流する。俺は絆の意味をしみじみ実感した。
 
 俺もかつて参加した「狭山事件現地調査」、そして早智子さんの帰省先(徳島)で開催された交流会にも若い世代が目立っていた。客席にも若い女性が多く詰め掛けている。俺は微かな希望を覚えた。ちなみに鳴門の海岸は夫妻にとって思い出の場所らしい。「この映画はラブストーリーです」と語っていた通り、金監督は眩いほどの愛で本作を締めた。
 
 最後に告知を。本作の呼び掛け人のひとり、小室等が結成した獄友イノセントバンドのライブが6月2日、阿佐ヶ谷ロフトで開催される。ゲストは李政美という豪華ラインアップで、獄友たちも顔を見せるかもしれない。関心のある方は阿佐ヶ谷ロフト(℡03・5929・3445)もしくは高円寺グレイン(℡03・6383・0440)まで。
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