酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ジャームッシュが捉えたイギー・ポップの光芒

2017-09-24 23:44:59 | 映画、ドラマ
 ジム・ジャームッシュがイギー・ポップとストゥージズの真実に迫った「ギミー・デンジャー」(16年)を、新宿シネマカリテで見た。バンドに関わった人々の証言に加え、当時のライブ映像や映画、テレビ番組がインサートされている。アニメーションやCGにも監督の遊び心を感じた。

 イギーで思い出すのが第1回フジロック(97年、天神山スキー場)だ。暴風雨の下で開催された初日(2日目は中止)、ぐったりしている日本の若者と対照的に、肉食系白人集団が大騒ぎしていた。ハイロウズが登場すると、上半身裸の甲本ヒロトに向け、「イギー・ジャップ」と叫んでいた。

 本物のイギーを見たのは翌年、豊洲(市場移転予定地)で開催された翌年のフジロックである。多くの観客が上がり過ぎて、ステージが倒壊するのではと心配になった。モリッシーのライブでも同様の事態は起きるが〝神への謁見〟風。イギーの場合は〝同じ地平に立つ〟の表現だ。

 トレーラーハウスで育ったイギーは少年時代、嫌がらせに遭った。「奴ら(強者や金持ち)の仲間には決してならないと誓った」と振り返るイギーは、著作権もギャラも公平に分配する自称〝共産主義者〟だ。反骨精神は血肉化し、70歳になってもロックの肉体性を維持している。

 ロックとは何か? この問いの回答を「ギミー・デンジャー」は提示していた。<ある時代の前衛が10年後、メーンストリームになる>というロックの格言通り、キワモノ扱いされたストゥージズは全く売れず、ツアーで心身とも疲弊する。挑発的なイギーの言動と薬物も、バンド崩壊を加速させた。

 身売りが決まった米誌「ローリングストーン」は、<カウンターカルチャーの拠点>と評されてきた。同誌のイギーの評価をチェックしてみよう。レコードガイドブック(1982年版)ではソロ作「ラスト・フォー・ライフ」が★3つ、「ザ・イディオット」と「TVアイ」が★1つ。5つが満点だから後者の2枚は「聴く価値」なしといったところだ。

 米国内で廃盤になっていたストゥージズ時代のアルバムについて、「ところどころ輝きもある」評しているが、せいぜい★2つか★3つだろう。「イギーの狂信的なインスピレーションは消えた」が同誌の結論だったが、90年以降に発売されたガイドブックでシラッと評価を書き換える。上記のアルバムの評価は★4つ、★5つに変わっていた。発売当初、ゴミ扱いしたアルバムを、時代の趨勢に応じて〝名盤〟と推奨するのが権威主義の極致、ローリングストーンの常套手段だ。逆にいえば、同時代に価値に気付かないという鈍感さの証明でもある。

 「ギミー・デンジャー」でイギーの音楽的な素養を知った。ドラマーを目指していたイギーはハイスクール時代、仲間と渡英してマーキークラブでザ・フーを見てショックを受けた。フリージャズを含め様々なジャンルを聴いたが、「子供の頃、父と一緒にフォードの工場を見学した。あの時の金属音に影響を受けた」と冗談交じりに語っていた。

 イギーが育ったミシガン州はニューヨークとウエストコーストの中間点で、カウンターカルチャーの拠点だった。先輩格のMC5も同州デトロイト出身で、マネジャーは反戦運動で名を馳せたジョン・シンクレアである。ラディカルな空気が横溢していたが、イギーは論理としての思想には染まらず、抗議と怒りのブルーカラーの哲学を身につけた。

 本作に収録されたロックフェスの映像を見ると、観客席にダイブするのが当時のイギーのスタイルだったことに気付く。ニコやデヴィッド・ボウイとの交友など裏話も披露していたが、ストゥージズ再結成にJ・マスキス(ダイナソーJR)が尽力したことを知り、両者のファンである俺は胸が熱くなった。

 かつてのメンバーにうち4人が亡くなっているが、ジェームズ・ウィリアムソンの来し方に驚いた。ストゥージズ解散後、電子工学を学び、シリコンバレーで働いたジェームズは、ソニーで副社長を務める。再結成後に声が掛かると、イギーの横でヘビーなギターをかき鳴らしている。ストゥージズは波瀾万丈のバンドなのだ。

 音楽に造詣の深いジャームッシュは、ストゥージズの価値を正しく理解している。キャッチコピーにもなっているが、ストゥージズこそ<史上最高のロックンロール・バンド>なのだ。こう書くと〝史上最も有名なロックンロール・バンド〟のファンは気を悪くするかもしれないが、<ある時代の前衛が10年後、メーンストリームになる>の格言に照らしたら納得するだろう。

 ザ・フーとともに<パンクのゴッドファーザーー>の称号に相応しいのはイギー・ポップだ。MC5、ニューヨーク・ドールズ、ラモーンズら他の米国勢も忘れてはならない。ロックの奔流かつ本流はストゥージズに溯る。本作に真実を再認識させられた。
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