酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「鵞鳥湖の夜」~スクリーンの闇に誘われ、夢現を彷徨う

2020-10-09 12:51:56 | 映画、ドラマ
 王将戦挑決リーグで豊島竜王が藤井2冠を、王座戦第4局では久保九段が永瀬王座を破った。ともにAI的には大逆転で、天才たちの〝人間の証明〟というべきかもしれない。棋界最大のイベントがきょう始まった。タイトル100期を目指す羽生九段が復調気配の豊島竜王に挑戦する。結果と感想は逐一、ブログで紹介したい。

 香港政府は共産党の圧力を受け、「独立思想を教えた」として小学校教師の登録を取り消した。日本でも同様のことが起きている。官邸による日本学術会議への人事介入だ。任命拒否されたのは戦争3法に反対した学者6人で、伏線は3年前に遡る。同会議の日本版「軍産学複合体」反対声明を、<安倍機関=菅機関>の読売新聞などが批判していた。中国、ハンガリーら独裁国家はメディアを実効支配しているが、日本の現状もかなり深刻だ。

 トランプのこの間の常軌を逸した言動に愕然とさせられたが、最悪なのはコロナ禍による失業者、困窮家族救済を軸とした共和・民主両党の協議を打ち切ったことだ。<1%>のみの利益を追求する〝狂気〟のトランプは、〝普通〟のバイデンに水をあけられつつある。

 枕が殊の外、長くなったのには理由がある。新宿で先日、中国映画「鵞鳥湖の夜」(2019年、ディアオ・イートン監督)を見たが、夜景のシーンが続くスクリーンに見入っているうち、業後の疲れもあったのか、闇に落ちてしまったのだ。的外れの感想を以下に。

 チョウ(フー・ゴー)は降りしきる雨の中、高架駅の前で妻ヤン(レジーナ・ワン)を待っていた。「おにいさん」と声を掛けてきたのは、鵞鳥湖で水浴嬢(娼婦)を生業にするアイアイ(グイ・ルンメイ)で、ヤンは来ないという。チョウは自分に掛けられた懸賞金(30万元)を妻に渡したかったのだ。

 チョウは5年の刑期を終え、バイク窃盗団に戻ったが一騒動あり、誤って警官を射殺してしまう。指名手配されたチョウを、捜査を指揮するリウ隊長(リャオ・ファン)、ギャングたち、水浴嬢を束ねるホア(チー・タオ)らが追いかける。朦朧としていた俺を時折刺激したのが光の渦、銃声、雨音、バイクの轟音だった。鮮やかで妖しい照明、音響、美術に、鈴木清順の作品の断片を重ねていた。

 <アウトサイダーとファムファタールが織り成すフィルムノワール>が本作の謳い文句で、俺は観賞、いや、ぼんやりスクリーンを眺めているうち、既視感を覚えていた。イーナン監督の前作「薄氷の殺人」(14年)でW主演を務めたグイ・ルンメイとリャオ・ファンが重要な役柄を演じていたことが大きかった。主役のフー・ゴーは目の動きで、凍えるような心象風景を表現していた。全編を貫くダークな色調はオーソン・ウェルズ、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーに共通している。

 冒頭で謎を突き付けられた。なぜ、水浴嬢のアイアイが妻の代わりに来た? 2人の関係は?……。「悪魔のような女」(上記のクルーゾー)のような展開がよぎる。俺が肝心な糸口を見落としていたに相違ないが、太陽の下でのラスト、リウ隊長も呆然としていた。もう一度見たら、謎は解けるだろうか。
 
 この間、中国映画を見る機会が多かったが、絶賛の嵐だったビー・ガン監督の「凱里ブルース」と「ロングデイズ・ジャーニー」には距離を感じた。一方で自ら命を絶ったフー・ボー監督の「象は静かに座っている」は昨年のベストワンで、冒頭から心を掴まれ緊張を切らさず4時間を過ごした。その時の体調で見え方が変わってしまうのは仕方ないが、本作のイートンにしてもフー・ゴーにしても、中国の映画監督には試練が待ち受けている。

 映画は社会とリンクした芸術ゆえ、映画祭で香港、ウイグル、国内の言論封殺について、監督たちは質問攻めに遭うだろう。1968年、ルイ・マル、トリフォー、ゴダールらは学生、労働者、市民との連帯を訴え、カンヌ映画祭を中止に追い込んだ。マフマルバフ、ゴバディ、パナヒらイランの巨匠たちは弾圧と検閲をかいくぐり、物語が神話に飛翔する一瞬をスクリーンに焼き付けた。

 「鵞鳥湖の夜」の多くのシーンは武漢で撮影されたという。<コロナは大丈夫>という国家のフェイクで肉親を失い、当局に抗議して監視下に置かれている家族が、昨夜の「国際報道2020」で紹介されていた。イートンが<AI独裁国家>に疑問を抱き、イラン人監督たちに倣って国外に出る日が来るかもしれない。本作に漂う閉塞感が前触れというのは、俺の勝手な妄想だけど……。
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