日々のことを徒然に

地域や仲間とのふれあいの中で何かを発信出来るよう学びます

祖母の声

2018年12月24日 | エッセイサロン
2018年12月24日 中国新聞「明窓」掲載

 夕食後、虫の知らせにせかされ病院へ急いだ。到着後、退院予定だった父の病状が急変し、私が見守る中で命を閉じた。病室から出てしばらく待つように看護師に促される。
 父は50代半ばだった。病身で伏せている母、私、高校生の妹を含む3人の弟妹を残しての急逝。長男とはいえ私は20代半ば。突然、家族を守る重い責任を背負う。どうするか、暗い廊下の長椅子で考え込む。
  「大きくひと息して」。ピシリとしているが、優しく言い聞かせる声がした。驚き見回したが廊下に人影はない。誰、と思った時、祖母の声と気付いた。
 私が人の最期に初めて接したのは祖母の時で小学6年。祖母は生前、何かといえば「長男は」と話していたが、深い意味など感じることはなかった。
 こうした機に備える心構えを教えたかったのでは。そう思い、大きく深呼吸。スーと何かが体から抜け、続いて何かがみなぎった。看護師に呼ばれ、父のそばへ。最期の時と違う自分に気付く。伏せている母へ、父の姿を伝える心構えができた。
 あの時から50年以上過ぎた。それでも父の命日が来ると、信じ難いと言われるかもしれないが、祖母の声を聞いた不思議なことを思い出す。
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