雨も降り、朝夕はしのぎやすく秋を感じる。定例の農作業に汗を流した。畑そばの雑草の中から虫の鳴き声が聞こえる。足音に驚いたコウロギが1匹か飛び出し居場所を変える。暑さに耐えたピーマンやなすびが収穫されるのを待っていた。待ちすぎて赤ピーマンに変身したいくつかが、緑の中で目だっていた。
秋の気配はするが、身体を動かせばたっぷりと汗をかく。その臭いに蚊が寄ってくる。まだ元気そうだ。休憩のお茶を飲むそばで蚊取り線香が焚かれている。放送からの受け売りだが、明治18年ころに除虫菊が日本に入り、同23年に棒状の蚊取り線香が作られ、その数年後に今の渦巻型蚊取り線香が誕生したという。
古くは蚊取り線香を「蚊遣り火(かやいりび)」と呼んだという。この言い方、蚊を遣っ付けるという意味に変わりはないが、蚊取り線香の殺虫剤的呼び方に比べ何か情緒ある呼び方に思う。徒然草に「蚊遣り火ふすぶるもあわれなり」とあるそうだ。CMの落ちる落ちる蚊が落ちる、よりは風情がある。
家で庭仕事をするとき丸い保護器に入れて腰にぶら下げている。見かけより効果があり、工夫された一品ということが分かる。しかし、家の中で使わなくなって何十年だろう。蚊帳の向こうにぼーと灯っていた赤い火を思い出す。便利さと安全に押され、子どものころの見慣れた光景は記憶は遠ざかっていく。