この地方にLPガスが普及し始めたのは昭和30年代の初めころ。それまでの家庭用燃料の主役は薪(まき)。薪は雑木や伐採して用材にならなかった捨木を切り、斧で割って燃料にした。
どこの家にも軒下に薪が積み上げられていた。特に冬前にはひと冬分のそれを準備するので子どもながらも手伝っていた。祖父は積み上げた薪を眺めながながら「気持ちが明るくなるのう」、と煙管をまわしていた。
昔から薪も取り扱う店の軒下に、割り目も新しい薪の束が、昔のままの積み上げかたで並んでいる。この頃は家庭燃料に薪を使う家はないだろう。どこへ買われていくのだろう。どんな人が何に使っているのだろうかと興味がわく。小さな町にはまだ懐かしい風景が見られる。
(写真:割り目も新しい積まれた薪の束)