「写真部に入る」と高校入学式の日に息子が言う。カメラを手にした第一声は「おばあちゃんを写す」。よそ行きの姿で嬉しそうな母へ、ポーズをつけながら、何度もシャッターを押していた。
母はその中の1枚を大そう気に入り「遺影はこの写真で」とよく話していた。軽い気持ちで聞き流していたが、それから2年目の春、その写真は母の願い通りになった。母は、こうなることを予知していたかのようで不思議な気がした。
春には25回忌。少し斜に構えた遺影の微笑みを見ると、あの時のシャッター音が聞こえるようだ。
(写真:カシャという静かなシャッター音のカメラ)