40数年前でも「本人の髪を使って花嫁の正装である高島田を結える人は市内でここだけ」という美容院があった。花嫁衣裳がスリガラスの切れ目から見えていた。
時代の流れで美容院はビューティーサロン、散髪屋はヘヤーサロンとなどと、漢字でなく洋風表示になったのは時代の流れだろうか、その店も改装された。店内が道路からでも見えるようになり、ガラスの向にウエディングドレスが並び、華やいだ雰囲気が男でも感じていた。それでも美容院は書きかえられなかった。
偶にその店の前を通ることはあっても、特別に店に関心を持つことはなかった。最近、そこが更地になり売りに出された。小学校への道すがらにあるその店の前を通ると「行ってらっしゃい」と声をかけてくれる小柄なおばさんがいた。それが高島田の結えるという人だったことは後で知った。
その人は亡くなられ代替わりはしているが、「髪を結う」という日本の文化がこの町から消えていく空しさを感じる。
(写真:更地に変わった美容院の跡)