三重県木本で虐殺された朝鮮人労働者の追悼碑を建立する会と紀州鉱山の真実を明らかにする会

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国民国家日本の海南島侵略犯罪史認識と伝達 10

2009年05月12日 | 大阪人権博物館
おわりに 世界近現代史・海南島近現代史

 本稿は、博物館の役割を、とくに海南島における国民国家日本の侵略犯罪と海南島における抗日反日戦争という歴史的事実の伝達にかかわって解析しようとするものであったが、最後に、博物館における展示の意味について考えたい。
 博物館展示もまたひとつの表現なのであって、展示主体が、主題にかかわるさまざまなモノや文書などを選択し、選びとったモノや文書の相互関係を明確にして展示して、観衆に事実を伝達しようとする行為である。
 したがって、博物館展示には、展示主体の社会的ありかたが、いやおうなしに示される。
 海南島近現代史にかんする展示の場合にもまた、すべての歴史にかんする展示と同様に、展示主体の歴史意識と歴史観が示される。
 あらゆる地域の歴史、あらゆる個人の歴史には、その時代の世界史が反映している。海南島近現代史にもまた、世界近現代史が反映している。世界史は地域史・個人史を内包し、地域史・個人史は世界史を内包している。
 したがって、海南島近現代史にかかわる展示をおこなうことは、世界近現代史を展示することを意味する。
 世界近現代史認識なしには、いかなる地域の展示も十分にはできない。
 海南島近現代史に内包されている世界近現代史を認識しようとすることなしには、海南島近現代史を認識することはできない。
 海南島近現代史にかんする博物館展示のためには、海南島近現代史のなかの世界近現代史認識、世界近現代史のなかの海南島近現代史認識が不可欠である。
 もちろん、海南島近現代史も世界近現代史も、その総体を展示することは不可能である。
 展示できるのは、その断片である。しかし、その断片を展示するときに、展示主体の海南島近現代史認識・世界近現代史認識の過程を示すことは可能である。
 近現代史にかかわる展示をおこなうことは、展示主体の歴史認識過程とその過渡的結果を展示という形式で報告することである。
 そのような報告は、博物館展示だけではなく、書物、ドキュメンタリーなどという形式でもおこなうことができるが、博物館展示においては、文字、映像、モノなどを複合し、相互に関係づけておこなうことができる。
 歴史的事実にかんする博物館展示は、展示主体が認識した歴史事実を伝達する基本的方法である。海南島近現代史認識作業は、現場で、証言を聞き、それを記録し、複数の証言と文書記録から、国民国家日本の侵略犯罪を解明していく作業の積みかさねである。
 海南島近現代史にかかわって何を展示するのか。何を展示しないのかは、展示主体の思想に規定される。
 しかし、展示(事実の伝達)をおこなわないというのであれば、その主題にかかわって、博物館の役割は根本のところで空無となる。
 大阪人権博物館は、「人権問題に関する調査研究をおこなうとともに、関係資料や文化財を収集・保存し、あわせてこれらを展示・公開することにより、人権思想の普及と人間性豊かな文化の発展に貢献する」ことを設立目的としている。
 海南島近現代史にかんする展示の延期状態の持続は、「人権に関する総合博物館」としての大阪人権博物館の存在理由にかかわる重大な問題であろう。
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