
2008年3月8日、甲府市議会初めての休日議会で3月定例会の代表質問が行われました。テレビ中継を見ていましたが、傍聴席は当初満席に近く4時間の長丁場の終わりのころには空席が目立ったようです。途中の休憩もいつもと異なり15分程度でしたので甲府市広報のCMを見ているうちに再開となりました。

私はテレビ中継に集中していたのでは無く、いつものようなナガラテレビで主として3月12日公開予定のマイクロソフト月例セキュリティ情報公開の事前通知の確認とそれに関するWeb記事を書いていました、ちなみに今月は緊急4件、全てMicrosoft Officeのセキュリティ脆弱性に関するものです。
今日の代表質問のなかで大変気になった事がひとつありましたので、そのことを書いておこうと思います。この記事のタイトルにした「甲府市NPO支援基金の提案」についてです。質問者は政友クラブの荻原隆宏議員で、お話の中から昨年6月議会でも同じ質問をされたとのこと、甲府市議会議事録からは2007.06.12 : 平成19年6月定例会(第3号) 本文を確認できました。
3月8日の質問内容は6月議事録とほとんど同じと思えますので、この議事録から質問の骨子を確認します--
行政の具体的な協働のパートナーとして考えられる自治会、NPO、企業などとどのように協働を進めていくべきか、とくにNPOとの協働について考える、
甲府市に拠点を置くNPO法人の数は70団体以上になっていること、それらNPOに不足しているものが活動資金であること、
しかしNPOの行う事業に対して補助金を支出して支援する考え方については、市民団体を行政の下請け機関にしてしまう危険性をはらんでいること、
そのためには認定NPO法人制度というものがあるが、それが現実としては形骸化し山梨県内に認定NPO法人は無い現状であることを説明されています。
そこで荻原議員のご提案は、『甲府市がNPOのための基金を設立して、企業や個人からNPO向けの寄附を受け付ける仕組みをつくってはいかがでしょうか。甲府市でお金が入るポケットになって、ここに一たん企業や市民のお金を入れてもらって、そうすれば税制の優遇は受けられる。そしてその後市民や企業が、この団体というふうに指定したNPOに、今度は甲府市が補助金という格好で出していく。』という事であると私は理解しました。
2007年6月議会で宮島市長答弁の議事録--平成16年度に「甲府市の協働によるまちづくりに関する基本方針」を策定いたしました。この方針に基づき、協働のパートナーの支援等につきましては、これまでの市民活動のかかわりを大切にする意味から、ボランティア団体などが活動の準備などに活用する甲府市ボランティアセンターを、ボランティア団体やNPOなどの広く市民公益的活動を推進している団体やメンバーの活動や交流の場として、また情報の共有化の場所と位置づけ支援をしています。 今後も甲府市ボランティアセンターと十分連携を図り、ボランティア団体やNPOなどの市民公益的活動に取り組む団体への活動支援に努めてまいります。 また、御提案をいただきましたNPOのための基金設立につきましては、先進都市や類似都市の取り組み状況、地域的特性やニーズ等の現状分析を行うなど、今後調査研究をしてまいりたいと思います。御理解を賜りたいと存じます。
今回は市民生活部からの答弁があって、支援基金については今後も引き続き検討していくという主旨と思えます。
認定NPO法人については山梨県内には先年まで「やまなしおもちゃライブラリー」がありましたが認定期間が終わり現在ではNPO法人としても活動されていないようです。議員ご提案の自治体への寄附-NPO支援基金という発想は話題のふるさと納税と同様に考えてよい訳で、寄附による減税についても制度化されています。
しかし私が思うに荻原さんにはNPO法人について大きな誤解があります。
1.従たる事務所が甲府市にある内閣府認証のNPO法人はもとより、主たる事務所が甲府市にあってもそれは甲府市とは何の関係も無い。NPO法人の活動の舞台は県内全域であり全国であり場合によっては全世界なのです。
2.NPO法人は無償活動のボランティアではない。事業計画や活動資金についてきちんと計画されて設立される起業であること。特定非営利の意味は収益を投資家や会員・職員に配当・分配するのでは無く、事業継続のために循環投資していく仕組で運営されるビジネスという意味です。ですから時には必要経費に膨大な人件費が含まれ、活動従事者の時給が5千円のNPOがあってもおかしくは無い専門性のある組織も可能です。
3.無償あるいは低所得のボランティアに見えるのは、それら活動従事者に渡せるだけの収益が得られないことから、会員としては逆に会費を払ってもその活動をするという会員の好意、熱意で運営されているだけのことです。
4.NPO法人の認証は書類審査だけであり、書類に瑕疵が無く申請縦覧期間に異議申し立てが無ければ認証されていると思えます。それだけにNPO法では事業報告や情報公開について大変厳しい設定がなされています。それは同じような組織である自治会や一般ボランティア組織とは全く異なるものです。事業報告(会計処理その他事務処理)などが大変だからとNPO法人にならない組織もあると聞きます。
5.認証についてNPO法人の思想・宗教・政治的立場は問われません、暴力団関係を排除する事と、事業活動に政治・宗教活動を含まない事が要件になっているはずです。そのことによりNPO法人は企業とは別な形で自己実現を目指す人々が集まって構成されNPO法に定められた事業活動を展開するものですから、必ずしも行政の意図するところと同じベクトルではありません。
荻原さんがお分かりのように行政の下請けになるために第三セクター的なNPO法人が設立される訳ではないし、そのような事業に組み込まれることを期待している訳でもない。そして活動の舞台は事務所が置かれた土地に限られる訳でも無いのです。行政による金銭的支援の制度化はもっとも避けるべき第三セクター的NPOをはびこらせる事になりかねないと思います。多様な組織活動への公正公平な資金パイプの制度化を行政に求めることは出来ないはずです。
政治家としてのご活動は認定NPO法人制度改正の方向に向けられることが望ましく、地方自治体にご提案のような金銭的支援策を求める事はむしろNPO制度の方向に反することと私には思えます。認証主管庁として都道府県、内閣府からは認証は容易に事後の監督は市民と共に厳しくという方向が打ち出されているのです。行政としてはNPO法人の情報公開の手助けなどのソフト的な支援に留めるべきものと思っています。甲府市に主たる事務所のあるNPO法人のリスト、リンク集などは甲府市サイトに置かれても良いし、そのへんから始めることが妥当な支援策でしょう。
内閣府資料から辿ると全国都道府県のNPO情報発信の様子が見えます。
NPO法人の活動状況が見えてくれば出来る範囲で助けよう、協働してみようという市民、NPO法人は市外、県外からも現れてくるはずです。仏教でいうところの布施の心がNPOを支えるものです。
荻原議員は県庁ご出身で甲府市に関するホームページ記事「この甲府市をどうする」は折りにふれて参考にさせて戴いておりますが、私がボランティア大国山梨県で感じるいささか奇妙なNPO認識を引きずられておられるように感じつつ議会質問を拝聴したところです。
自治体によるNPO支援基金制度について、nopweb記事から拾い出してみました
滋賀県、コミュニティビジネス支援ファンド 2008-3-7
山形県、寄付によるNPO支援基金創設へ 2008-2-22
千葉県市川市、1%支援制度結果公表 2005-6-2--1%支援制度(市民活動団体支援制度)
愛知県高浜市、市民税1%でNPO支援基金 2005-4-18--高浜市まちづくりパートナーズ基金
公益信託ぎふNPOはつらつファンド-特定非営利活動法人ぎふNPOセンター
この他にも一般的な検索をかければ環境省の「地方自治体におけるNPO支援施策・事業」一覧表など多数のページがヒットします。中には「NPO支援基金を政治家のオモチャにさせないために!」のような杉並区議員の意見もあります。ボランティアとNPO法人の異同に関する理解の程度はさまざまな局面で多様であることを私はこれまでに経験しています。まずNPO法人について基本認識を明確にすること、そこからはじめていただきたいと思っています。