酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「キングVSマルコムX」が示す変革の条件

2015-07-01 23:55:13 | カルチャー
 ギリシャが深刻な状況を迎えている。<ルールを守らぬギリシャ=悪>という見方は、果たして的を射ているのだろうか。格差と貧困を生むグローバリズムを推進しているのが、EUでありIMFだ。ギリシャに続くのはポルトガル、スペイン、イタリアといわれている。中国の財政破綻が日本のデフォルトのきっかけになると指摘する識者もいる。

 反グローバリズム、反資本主義の象徴として欧州で期待を集めているのがスペインのボデモスや市民党で、バルセロナとマドリードの市長選で支持候補が勝利を収めた。風で終わるのか、地殻変動のきっかけになるかは未知数だが、日本でも変化の兆しが表れた。

 同年代の知人に久しぶりに会った際、彼は「シールズ(SEALDs)って凄いな」と切り出した。官邸前で抗議活動を展開する若者グループだが、俺はその存在を知ったばかりだった。WWEで現在、ストーリーラインの中心になっている元シールドの3人について喋ったら、あきれ顔をされたに違いない。

 俺もシールズに新鮮な驚きを覚えている。2年前の参院選時の選挙フェス、都知事選で宇都宮候補の応援に集まったアート系の若者や若い女性たち……。それらを目の当たりに胎動の予感を覚えたが、勢いは継続しなかった。スペインでようやく、直接民主主義と議会制民主主義の回路が繋がる。シールズには来夏の参院選まで熱気を保ち、変革の端緒になってほしい。

 変革にはいかなる条件が必要なのか。ヒントになりそうなドキュメンタリーを見た。NHKで放映された「キング牧師VSマルコムX」で、フランスのテレビ局が制作した「ライバルたちが時代をつくる」シリーズの一作である。

 2人が目指した変革が半世紀の現在も道半ばであることは、最近の出来事からも明らかだ。黒人への警察の暴力はやまず、サウスカロライナ州議会議事堂にはいまだに南部連合旗が翻っている。とはいえ、1950年代と比較したらあらゆる面で改善されている。礎になったのは、演説で人々の心を揺さぶったキング牧師とマルコムXである。

 変革への一本道はない。日本では天秤はたちまち傾き、多数派に収斂される傾向が強いが、キング牧師とマルコムXは険阻な道を別々に登り、夢の実現を目指した。白人と友好な関係を築きたい穏健派はキング牧師を、白人と闘って対等な地位を得たいラディカルはマルコムXを支持した。だが、2つの志向は全ての黒人が内面に抱えていた葛藤の表現でもあった。

 キング牧師とその周辺は、メディアを利用することに長けていた。情報操作が変革の大きな武器になることは、映画「NO」に描かれていた通りである。一方でマルコムXは言動が誤解を与えることが多かった。暗殺されたケネディ大統領を揶揄した発言が波紋を呼び、「ネーション・オブ・イスラム」から追放される。

 タイトルには「VS」が付いているが、後半部分で2人の生き様は交錯する。1964年7月に公民権法が成立し、キング牧師は署名するジョンソン大統領の傍らに立っていた。しかし、叶ったはずのキング牧師の夢は数日後、悪夢に変わる。黒人少年を殺した警官が無罪放免されたことがきっかけで、全米で黒人暴動の嵐が吹き荒れた。

 翌年2月に暗殺されたマルコムXは、黒人層の心に「革命家」として刻まれ、死後に評価を高めていく。人種差別の背景にある貧困問題を訴えるようになり、ベトナム反戦に傾いた〝マルコムX化〟したキング牧師は、エスタブリッシュメントから次第に煙たがられるようになる。

 ケネディ大統領、マルコムX、キング牧師、そしてロバート・ケネディ上院議員と、黒人の地位向上に尽力した4人が次々に暗殺された。アメリカの影は、今も社会を覆っているのだろうか。

 卓越した2人の活動に焦点を当てた以上、語られていない部分は大きい。黒人の地位向上に大きな役割を果たしたのは、音楽とスポーツではなかったか。50年代のジャズミュージシャン、とりわけチャールズ・ミンガスは差別を糾弾する作品を発表している。ボブ・ディランを含め多くのフォークシンガーが、公民権運動に加わった。

 ブルースからの影響が大きいローリング・ストーンズやアニマルズ、そして当人は右派でありながら<黒人のように歌い踊る格好良さ>を世界に知らしめたエルヴィス・プレスリーも貢献大といえる。カシアス・クレイから改名したムハマド・アリはマルコムXと親交が厚く、米メジャースポーツ界で活躍した黒人選手は、人種を超えて敬意を勝ち取った。

 広い意味でカルチャーの力が社会に与える影響は絶大だ。来夏の参院選は日本の変革に向けたチャンスになるが、既に多くの文化人や知識人が態勢をつくりつつある。作家、映画監督、ミュージシャンらが大挙して輪に加わることを期待している。
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