酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

頭脳警察at花園神社~時代は今こそ「銃をとれ」

2019-04-11 22:29:46 | 音楽
 先日7日、歴史的イベント、頭脳警察50周年1stライブ(花園神社水族館劇場)に参加した。PANTAが楽曲を提供し、同会場で開催中のNachleben「揺れる大地」公演との連動企画である。PANTA(ギター、ボーカル)とTOSHI(パーカッション)を4人の若いメンバーがサポートしていた。

 今世紀末を舞台にした奧泉光著「ビビビ・ビ・バップ」(16年)では、1960年代後半の新宿がバーチャルに再現され、新宿騒乱当日、頭脳警察は花園神社で「銃をとれ」を演奏していた。寺山修司、高橋和己、大島渚らとともに、頭脳警察は熱い時代のイコンであり、いまだにフレッシュだ。フルハウスの満員で、若い世代も多く詰めかけていた。

 安田講堂攻防戦、公害への抗議、連続ピストル射殺事件、ベトナム反戦運動の拡大、大菩薩峠での赤軍派逮捕、佐藤首相訪米阻止行動、創価学会の言論妨害……。1969年はまさに嵐の一年で、アングラ演劇とフォークゲリラが時代の象徴だった。

 今回のライブは、当時のパトスを再現しつつ、成熟が加味されていた。PANTAがMCで、「俺たちが半世紀後も生き残っているなんて不思議」と話していたが、発禁処分の連続で抹殺寸前だった頭脳警察は、世界に先駆けたパンクバンドでありながら、フォーク色が濃かった。

 オープニングで寺山修司「アメリカ」を朗読し、寺山と高取英が共作した詩に曲をつけた「時代はサーカスの象にのって」を歌った後、PANTAは高取への弔意を示す。「コミック雑誌なんていらない」からタイトルを引用した内田裕也は、同名の映画で脚本と主演を担当した。今回のライブには、同志たちへの「惜別」の思いが込められていた。

 一番盛り上がったのは「揺れる大地」で、劇団メンバーがセットの上と客席に登場し、PANTAと唱和する。芝居は門外漢だが、歌詞に感銘を覚えたこともあり、楽日(16日)のチケットを申し込んだ。最も心に染みたのは「さようなら世界夫人」だ。原作者ヘルマン・ヘッセは崩壊するドイツへの哀悼を込めたとされる。

 ♪世界はがらくたの中に横たわり かつてはとても愛していたのに 今僕等にとって死神はもはや それほど恐ろしくないさ さようなら世界夫人よ さあまた 若くつやつやと身を飾れ 僕等は君の泣き声と笑い声には もう飽きた

 PANTAは原詩の精神を保ちながら、自身の世界観を織り込んだ。世界夫人とは、そして死神とは何か。日本の現状を踏まえ、あれこれ思いを巡らせている。切なく美しい「さようなら世界夫人」は、俺にとって日本のポピュラーミュージック史上ナンバーワンの曲である。

 頭脳警察は90年、一時的に再結成し、7thアルバムを発表する。収録曲「万物流転」は詩的かつ知的なイメージに彩られていた。MCで「何も変わらなかったことに絶望して作った」と前置きしていた。「銃をとれ」と「ふざけるんじゃねえよ」で締め括る。♪無知な奴らの無知な笑いが うそで固められたこの国に響き続ける……。安倍政権を連想させる歌詞だ。

 昨年から今年にかけ、欧米で熱気が蔓延している。バーニー・サンダースの影響を受けて社会主義を掲げる米民主党オルタナティブは徐々に浸透している。フランスのイエローベスト運動は階級闘争の様相だ。日本でも深刻な貧困と格差で<板子一枚下は地獄>の状況だ。サブタイトル通り、今こそ「銃をとれ」の叫びが相応しい。闘い、抗うため、心を高揚させるためのツールとして……。

 目取真俊の小説を読んで、<暴力の内包>が必要であることを学んだ。<憲法9条があったから、日本は戦争と無縁だった>など、沖縄を捨象して語るリベラルに苛立ちを覚える。「戦争しか知らない子供たち」と歌ったPANTAも、目取真と同じ地平に立つ。

 1969年、日本のGDPは世界2位になり、老人医療無料化が自治体に広まった。富を国民に還元する仕組みが崩壊した50年後、頭脳警察の世界観、知性、そして憤怒が褪せることはない。
  
 2日後、日本橋公会堂に足を運び、第7回「春風亭一之輔 古今亭文菊 二人会」を堪能した。古典を現代風にアレンジする一之輔、伝統に殉じる文菊……。芸風は対照的で、一之輔「新聞記事」→文菊「お見立て」→文菊「長短」で進行し、一之輔が枕抜きで披露した「百年目」に、文菊へのライバル意識を感じた。馴れ合い、楽屋ネタが一切ない清々しい会だが、来年はチケットを取れるだろうか。
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