今回は予告通り、「涙シリーズ第3弾」として業田良家の「自虐の詩」(竹書房刊、上下)を取り上げる。「日本一泣ける文庫」という謳い文句そのまま、「涙アイテム」のトップに君臨する4コマ漫画である。
一つ一つは欠片に過ぎないが、完成するや三次元に飛躍し、広がりと奥行きを提示するジグソーパズル……。「自虐の詩」とはこんな感じの作品だ。上巻の解説を担当した内田春菊さんが「名作なんだからドカッと売れると信じてた」とボヤいていたのが9年前……。今じゃ「戦後文化の精華」とまで評価され、幾つもの大学でテキストとして用いられている。
俺がブレーク以前に読んでいたのは、友人から借りた「執念の刑事」(全3巻)で、業田作品の面白さを知っていたからだ。4コマ漫画の作り手の苦労は想像以上に違いない。本作でも明らかだが、キャラを浸透させるためには、「くどさとマンネリ」=「反復の美学」が求められる。パラノイア的資質がないと、4コマ漫画を描き続けるのは難しいかもしれない。
くたびれた中年女の幸江が「自虐の詩」の主人公だ。酒とギャンブルに明け暮れる無為の人イサオに、幸江はひたすら尽くしている。都会の片隅、互いの温もりだけが生きている証なのだ。臆面なく言うなら、本作のテーマは「愛」である。それも、不合理で不条理、かつ理不尽な……。隣室の未亡人、幸江のバイト先のマスターも、やるせない孤独と届かぬ想いに身を焦がしている。
読み進むにつれ、少女時代の回想が比重を増していく。甲斐性なしの父、顔も知らない母への思慕、貧困、万引、いじめ、自損行為、孤独……。幸江の過去は負の記憶に溢れている。痛みを共有する熊本さんとの出会い、幸江の側からの裏切り、そして再び紡がれた友情が、現在とシンクロしながら描かれていく。幸江とイサオの馴れ初めも明かされ、感動的なラストに繋がっていく。作者は観察力、洞察力、想像力を駆使して自らの性(男)を克服し、幸江の視点を獲得した。「黒の舟唄」で歌われる「深くて暗い川」は、本作によって奇跡的に飛び越えられたのだ。
「BSマンガ夜話」(NHK衛星第2)は漫画ファン御用達の番組だ。大月隆寛、夏目房之介、いしかわじゅん、岡田斗司夫の各氏がレギュラーを務め、一つの作品について徹底的に論じ合う。語り草になっているのが、呉智英氏と夢枕獏氏をゲストに迎えた「自虐の詩」の回だ。呉氏が口火を切るや、うるさ型が自らの「ヤラレ度」と「ウルウル具合」を競う展開になった。「何か(神か悪魔?)に憑かれて書かされていたのだろうな」といういしかわ氏の発言が印象に残っている。オンエア後、異変が起きた。アマゾンに注文が殺到し、全和書中1位になる。結果として30万部近く売り上げたという。
今回も泣けたのか? 心身がクチクラ化したせいか、涙腺決壊には至らなかったが、目元が潤むのを抑え切れなかった。俺の魂は一時のカタルシスで洗われた。たちまちブクブク音を立て、塵芥の底に沈んでいったのだが……。
はじめは嫌悪感すら覚える不条理を、ここまで温かく昇華させるのは、すごい力量ですね。
他の作品も、機会を見つけて読みたいです。
それから、熊本さんみたいな友だちもほしいものです。
深読みしてもしょうがないのですが、計算高く合理的に生きることに価値を見いだす社会へのアンチテーゼって気もします。
漫画は話やオチ考えるのが描くのと同じかそれ以上に大変ですよ。
読んでみたいですね~。
それにしても…「BSマンが夜話」見てる人多いんですね。(^_^;)
ちなみに、「自虐の詩」は朝の連続ドラマの感覚で、全体としてのストーリーの中に、それぞれが組み込まれている感じです。
目が線なんですよね。
呉智英氏の発言、聞きたかったです。
この本は会う人に勧めています。
なので文庫本貸してあげて返って来なかったりして何冊もかいました。
ゴーダさんは好きで本屋で見つけるたびに読んでいます。
また寄せてもらいますね。