酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「桜三月散歩道」~気分はすっかりジャパネスク

2007-03-31 00:16:22 | 戯れ言
 29日夕、井上陽水の「桜三月散歩道」に倣って花見と洒落てみた。新青梅街道から中野通りに連なる桜並木で、哲学堂や新井薬師にも足を踏み入れる。

 俺が陽水を聴いたのは70年代だ。過剰なセンチメンタリズムと抒情性に彩られたウエットな貌……、冷徹な観察眼と世間との阻隔感が窺えるドライな貌……。このアンビバレンツこそ、初期陽水の魅力だと思う。

 「桜三月散歩道」の歌詞を以下に紹介したい。

 ♪ねえ君 二人でどこへ行こうと勝手なんだが 川のある土地へ行きたいと思っていたのさ(1~3番共通)
 町へ行けば花がない 町へ行けば花がない
 今は君だけ見つめて歩こう だって君が花びらになるのは だって狂った恋が咲くのは三月

 ♪町へ行けば風に舞う 町へ行けば風に舞う
 今は君だけ追いかけて風になろう だって僕が狂い始めるのは だって狂った風が吹くのは三月

 ♪町へ行けば人が死ぬ 町へ行けば人が死ぬ
 今は君だけ想って生きよう だって人が狂い始めるのは だって狂った桜が散るのは三月

 作詞は漫画家の長谷邦夫氏で、「氷の世界」版とは別にソノシート版(原詞)がある(昨年11月、復刻CDが発売)。同曲の特徴である語りの中身は、「氷の世界」版とソノシート版では大きく異なる。ソノシート版では、長谷氏の少年時代を過ごした下町の風景が綴られている。

 ソノシート版で「町に行けば革命だ」の部分は、「氷の世界」版で「町へ行けば人が死ぬ」に差し替えられている。長谷氏は60年代、赤塚不二夫氏らとともに「文化革命」を担った前衛だった。「氷の世界」発表時(73年)、「革命」は死語になっていたのだろうか。

 「桜三月散歩道」は図らずも、次世紀を予言した曲になった。環境破壊が進み、「狂った(東京で)桜が散るのは三月」は遠からず常態になるだろう。「狂い」は桜の開花時期だけでなく、生態系すべてに及び、社会に、そして個人に浸透しつつある。しめやかな狂気ではなく、荒々しく血なまぐさい狂気が……。

 散策中に口ずさんだのは陽水ナンバーだった。

 ♪花見の駅で待ってる君にやっとの想いで逢えた 満開花は満開 君はうれしさあまって気がふれる

 桜とは、対象と主観を調和させ、独特の情緒を形成する日本的「もののあはれ」の象徴だ。刹那的な優美さを湛えた桜を、狂気へのとば口として描いた詩歌や小説は多い。「東へ西へ」にも同様の作意が感じられる。

 ♪目の前を電車がかけぬけてゆく 想い出が風にまきこまれる 思いもよらぬ速さで 次々と電車がかけぬけてゆく ここはあかずの踏切り

 西武新宿線のあかずの踏切りも、桜に見とれていたので気にならなかった。

 五十路突入後、気分はすっかりジャパネスクだ。黄昏時の桜を満喫し、心がそよぐのを覚える。美しく散るには老い過ぎた。腐らぬよう枯れたいが、煩悩多き身ゆえ、決してたやすいことではない。

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5 コメント

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Unknown (kimuhaji)
2007-03-31 18:41:09
初めまして、足跡から来ました。桜三月散歩道、僕は川のある土地、に思うところがあります。
いい歌ですね。
コメント、どうも (酔生夢死浪人)
2007-03-31 21:37:30
 ファンってこともないのですが、70年代の陽水はラジオを聴けば必ず流れる「必修科目」。「桜三月散歩道」もそうですが、シングルカットされていないのに、誰でも知っている曲が多かった。

 吉田拓郎は「あの声にはかなわない」と陽水を絶賛していた。ボイストレーニングをしたのでしょうか。それとも天性? 声の説得力は日本歌謡史で五指に入ると思います。
Unknown (Unknown)
2013-10-12 20:11:43
6年も前の記事にコメント申し上げます
桜三月散歩道の歌詞が難解だったため
「桜三月散歩道 歌詞」で検索して
ここにたどりつきました。

「狂った(東京で)桜が散るのは三月」
桜開花時期がずれているから“狂った”桜なんですね。

町へ行けば人が死ぬは
文化革命を示しているのですね。

自然の中に、人の中に、見つけた「狂気」を
二番で自分のなかにも見つけているところが
良い味になってると感じます。

陽水の狂気 (酔生夢死)
2013-10-19 10:35:37
 井上陽水って、特に初期ですが、狂気とか酷薄さを感じさせる歌手といえます。抒情や情感とが入り混じって、なかなかミステリアスです。

 80年以降はほとんど聴いていないのですが……。 
Unknown (吉田)
2021-05-27 15:04:56
ちょうど今、この唄をYouTubeで聴いていました。当時より歌詞の内容が過激であったのは覚えていましたが、語りのセリフは井上陽水だったか大野進であったか、それとも両方であったか定かではありません。しかし、ここ日記で初めて知り改めてこの名曲を見直しました。

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