酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「トーク・トゥ・ハー」~狂気もまた愛に渇く

2005-11-27 03:45:40 | 映画、ドラマ

 昨日(26日)未明、「朝まで生テレビ」を見た。少子化や非婚について、構造や制度とリンクして論じられていたが、事の本質は<愛の形>ではないだろうか。

 勤め人時代、女性が多い職場で「暴言」を吐き続けていた。最たるものは「女はサル」である。20~30代の女性が<階層・金・ルックス>で男を選ぶのは、<計算>ではなく、サルの群れで観察される<本能>そのものと感じたからだ。いわば先祖帰りだが、「目に見えるもの」を追求する社会で<愛の形>が変容するのは当然だと思う。

 前置きは長くなったが、今回はペドロ・アルモドバルの「トーク・トゥ・ハー」(02年)について記したい。看護師のベニグノとバレリーナのアリシア、ジャーナリストのマルコと女闘牛士のリディア……。2組の男女を軸にストーリーは進行する。ベニグノはアリシアに好意を抱き、ストーカー紛いに接近するが、思わぬ成り行きで願いが叶う。事故で植物状態になったアリシアが、勤務先のクリニックに入院したからだ。ベニグノはアリシアを献身的に介護し、日常の出来事や思いを語りかける。もちろん、アリシアは答えない。タイトルに込められた作者(脚本もアルモドバル)の意図が、ドラスティックな終盤部分で明かされていく。

 マルコは取材を通じて傷心のリディアと出会う。リディアはスタジアムで重傷を負い、昏睡状態でアリシアと同じクリニックに運ばれた。再会したマルコとベニグノは、時に反発しながら絆を強めていく。再び孤独に沈んだマルコは、旅先で悲しい知らせを受け、真実を探るためスペインに戻って来た……。

 オープニングでベニグノとマルコを隣り合わせで紹介し、ラストではエンドマーク後の愛の奇跡を仄めかせている。両方で用いられるバレエの舞台が印象的だ。官能的な映像にマッチした音楽、エピソードとして挿入されるサイレント映画の寓意など、繊細な気配りが隅々に行き渡っていた。

 アルモドバルは倫理観や常識を超越(=逸脱)している。「アタメ」(90年)では、精神病院を出た青年がポルノ女優を監禁して愛を得る。切り口がマイルドな「オール・アバウト・マイ・マザー」(99年)にも、売春、バイセクシュアル、エイズが背景に織り込まれていた。「あなたたちのお行儀のいい愛は贋物だよね」と、見る側の価値観を揺らして高笑いしているようだ。アルモドバルが描く<愛の形>は、「狂気」と「兇器」の刃でありながら、「許容」と「救済」の鞘をも用意している。設定の妙と洞察力に感嘆するしかない。

 本作を見て、愛に堪えるだけのパワーが自分に残っているのか試したくなった。ベニグノのように振る舞えば、確実に刑務所行きだけど……。

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8 コメント

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Unknown ()
2005-11-27 15:05:42
なんか、色々と過去を思い出して少し苦しくなりました(笑)



愛とは?と



アタシは、束縛とコントロールが感じられなければ

愛されてると感じれないのです



多分親からの愛がそうだったからでしょう



なので、

ある一定以上人との距離が近くなる=愛を感じ始めると

相手からの束縛とコントロールととらえてしまい

(実際そうでなくても)

無性に逃げたくなります



愛されたいのに、逃げたくなる



それの繰り返しです





少しずつ相手はおかしくなります

束縛を喜び

逃げ出すのを繰り返す



それをされたら

どんどん束縛しなくてはならない!と感じるから

当然のことでしょうね





自分の中の何かを変えないと

何も変わらないんですけどね(苦笑)
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↑愛もいろいろ (酔生夢死浪人)
2005-11-27 17:34:45
 松坂慶子が「愛の水中花」で、♪これも愛 あれも愛 たぶん愛 きっと愛……なんて歌ってましたが、いろいろな愛があるのでしょう。形(結婚とか)にしないと不安だけど、形にしてしまえば本質が失われたような気もする。それも、愛の普遍的な問題かもしれません。
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観ました (そら)
2005-11-27 22:26:45
はじめまして。

「トーク・トゥ・ハー」のタイトルに惹かれてきてしまいました。



自分はあそこまでされたくないかもしれない。

でも相手にはしてしまうかもしれない。

ベニグノは100%愛情からしていることだけど、周囲からみたら、やはり異常なことで。



愛ってそんなもんなんでしょうね。

されたいこととしたいことは必ずしも同じではないし、周りからみて異常なことでも2人にとっては何でもないことであったり。

”合意のもと”が必須条件ですけどね。

愛の形というのは、カップルの数だけきっと存在するのでしょう。

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↑アルモドバル的 (酔生夢死浪人)
2005-11-27 23:03:02
 ベニグノの行動は狂気であり、猟奇的とさえいえる。「キモ面のストーカー」ですから。でも、逸脱を神話に変えてしまうのが、アルモドバルの凄さでしょう。



 「自分はマトモ」と思っている人は、異物を呑み込んだような不快を覚えるでしょう。そんな声を実際、聞いたことがあります。
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Unknown (シャンタル)
2005-11-29 01:27:22
アドモドバル監督映画はホントにスバラシイ。

色彩感覚、画面の隅まで気配りがある。ブラックジョークも効いてて、最高!!



アタメの最後なんて以外過ぎる結果だしネ!!



イタリア映画最高!!
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↑確かに (酔生夢死浪人)
2005-11-29 14:11:01
 繰り返して見ると、意外な発見があったりする。映像と音楽も素晴らしいですね。新作は見ていないのですが、機会があればと思っています。
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私も同感です。 (reona)
2005-11-29 22:47:23
私も実は朝まで生テレビ見ました。



パネリストの方々の意見も分かったのですが、

果たして自分に結婚するまでの努力を今できるかといったら疑問になりました。

(恋愛過程とか。。。)



私も実はアルモドバルの作品大好きです。



自分に失われてしまった感情を彷彿と思い出させてくれるから、魅力を感じてしまうのかは分かりません。

ただ、彼の価値観には納得する部分があります。

(すごくうまくいえなくてすみません。)



でも、彼の作品を見ると、

日本の社会や常識などなど、それを超えた人間として想う気持ちが痛いほど分かってしまうのです。



その時々で善悪なんて変わってしまうけれど、

人間として想う気持ちはいつの時代も同じなんだなと想うのです。



今までいい恋愛をしていない私だからかもしれませんが、

アルモドバルの作品は自分の若かったなーと今では笑える位の熱さを思い出したり、更には作品に感動して泣いたりと、一番私にとって楽しみにしてる作品です。

あ、すみません、なんか、熱く語ってしまいました。

それくらい好きなので。。。



mixiで彼の映画について色々とお話できるとうれしいですー

(周りにいなくて。。。ごめなさいー)
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↑コメント、どうも (酔生夢死浪人)
2005-11-29 23:12:18
 アルモドバルのファン、女の方が多いようですね。決して「サル」ではない方が……。いろいろと騒がれた最新作は見ていません。機会があればと思っています。
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