酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ラインゴールド」~波瀾万丈のクルド人の半生

2024-04-14 21:15:31 | 映画、ドラマ
 川口市で一般住民とクルド人の軋轢が社会問題になっている。表面に現れる事象だけで判断するのが難しいことは、難民認定と入管での外国人の処遇を後景に据えた映画「マイスモールランド」でも明らかだ。排外主義的な意見が優勢を占めがちだが、クルド人の特殊性を理解し、<受けて立つリベラル>を育成することが肝要と、ネットで倉本圭造氏が主張していた。俺も踏み込んで学んでいきたい。

 クルド人について何度か記してきた。小説では「砂のクロニクル」(船戸与一著)に感銘を覚えたが、映画も数作紹介してきた。イラン・イラク戦争下、フセインによるクルド人虐殺を背景に描かれた「キロメートル・ゼロ」、クルド人のバフマン・ゴバディ監督による「わが故郷の歌」、「亀も空を飛ぶ」、「半月~ハーフ・ムーン~」も記憶に残っている。

 シネマート新宿で先日、クルド人を主人公に据えた「ラインゴールド」(2022年、ファティ・アキン監督)を見た。トルコ系移民の一家に生まれたアキンの作品を見るのは「ソウル・キッチン」以来だ。同作でどん底から這い上がる主人公はギリシャ系で、登場人物の大半は移民だったが、「ラインゴールド」の主人公ジワ・ハジャビ(エミリオ・ザクラヤ)はクルド系だ。本作は実話に基づいており、チンピラだったジワがミュージシャン、プロデューサーのXatar(カター:危険な奴)に成り上がる波瀾万丈の生き様が描かれている。

 本作は複数の要素で成り立っている。まずはジワ一家の苦難だ。父エグバル(カルド・ラジャーディ)は西洋音楽とペルシャ音楽の融合を実践する音楽家だったが、芸術全般を禁止するイラン革命で職を失い、母ラサル(モナ・ビルサダ)とともにホメイニと戦うことになる。ともに獄中で拷問に耐え抜き、赤十字に救出されてフランスからドイツに渡る。音楽家としての名声が大きかった。

 ジワはラッパーとして一世を風靡するが、本作のベースになっているのはワーグナーの「ラインの黄金」即ちタイトルの「ラインゴールド」だ。人魚が海底の黄金を守るというオペラに沿う形で、ジウたちが金(きん)を強奪する物語が用意されていた。金の行方は、そして金よりも価値のあるものは……。ダイアー・ストレイツのアルバムタイトルではないが、〝ラヴ・オーヴァー・ゴールド〟が本作のテーマになっている。

 さらに、父子の相克と和解だ。オペラ「ラインの黄金」の素晴らしさを伝えた父は、ジウにピアノの英才教育を課す。愛人宅に去った父への反発もあって、ジウはラッパーを目指した。父=クラシック、息子=ラップと志向は対極に見えながら、マエストロ(デニス・モシット)の協力もあり、父が作った曲をベースにしたラップはヒットチャートを席巻する。ラインの黄金への憧れは、父、ジウ、娘と引き継がれていくのだ。

 ボンとアムステルダムを舞台にジウと相棒ミラン(アルマン・カシャニ)が疾走するピカレスクは息つく暇もない痛快なエンターテインメントだ。クルド人、トルコ人、イラン人、シリア人らが街を闊歩している。実在する娼婦ラッパーが登場するように、抵抗と直結する音楽ではロックではなくラップであることを実感出来た映画だった。
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