大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年06月30日 | 写詩・写歌・写俳

<3452> 野鳥百態 (25) ヤマドリの擬傷行為

         

 親鳥はヒナや卵を守るため外敵と見なしたものが近づくと、敢えて自分の羽をばたつかせたり、外敵の傍に寄って気を引き、ヒナや卵から外敵の目を逸らせるような行動に出る。このような野生動物の行動を擬傷行為といい、地上に巣を設ける野鳥の間でよく見られるという。ヤマドリも該当する鳥で、私もヤマドリの擬傷行為に直面したことがある。

 六月はじめのころ、大峰奥駈道の標高約一四〇〇メートルの尾根筋から標高約一〇〇〇メートルの登山口に下る山道を歩いていたとき、午後四時ごろ、太陽が西に傾き、西日がヒメシャラの多い樹間から差し込んでいた。

   尾根筋の花が目的でそれなりに撮影し、カメラを首から下げ、カメラバックを背負って急斜面に差しかかる直前、傍らの繁みで突然ヤマドリが羽を烈しくばたつかせ、私のすぐそばまでやって来て、気を引くような行動を取り始めた。

   最初、何だかわからず、ヘビとでも格闘しているのかと思った。しかし、この時は結構冷たい風が吹いていたので、ヘビはないだろうとも思えた。と、繁みからヒナたちが四方へ散って逃げ隠れた。親鳥は尾羽がそれほど長くない母鳥である。頭の冠毛らしき羽毛を逆立て、烈しい形相に見えた。私を敵と見なす擬傷行為で、改めてそう思った。カメラには55ミリのマクロレンズをつけていたので、とっさに、走り回るヤマドリの母鳥にカメラを向け三コマ撮った。

   ヒナを追えば、ヒナの写真も撮れただろうが、懸命な母鳥の姿を見ているうち、速やかに立ち去るのがベストだと思い、急斜面に取りかかり下山に向かった。ヤマドリにとって私の存在は招かざる客というわけで、ひと騒動が起きた次第。かなり露出の厳しい日陰の暗さだったが、三コマのうち二コマ何とか撮れていた。山に入るときは草木に敬意を払い、私自身客人という気分なきにしもあらずの心持ちになるが、この日のヤマドリとの遭遇はその思いを新たにした出来事ではあった。 写真は私の傍で走り回る擬傷の演技を見せるヤマドリの母鳥。

  なお、この話は2016年6月4日、「<1619>親鳥の愛」の項で取り扱いましたが、記事中に親鳥の行為をドラミング(母衣打ち)として記事をまとめました。ドラミングと擬傷行為を混同した結果ですが、この出来事を再び載せるに当たり、擬傷行為が状況的に正しいということで、訂正しました。

   愛は健気である

   真っ当な愛は

   美しく 魅せる


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2021年06月29日 | 植物

<3451> 奈良県のレッドデータブックの花たち(72)  カワゼンゴ(川前胡)                         セリ科

               

[学名] Angelica tenuisecta

[奈良県のカテゴリー]  絶滅寸前種(環境省:絶滅危惧Ⅱ類)

[特徴] 川岸の岩場に生える多年草で、岩の隙間に丈夫な根を下ろし、川の増水による濁流にも耐える強靭な茎を伸ばし、下部で枝を分け、高さ40センチ~1メートルになる。葉は1~3回3出複葉で、小葉は長卵形。先は尖り、縁には不揃いの鋸歯が見られる。イヌトウキに似るが、葉の表面は緑色で光沢があり、裏面は淡緑色。小葉の中肋上に毛がある。花期は9~10月で、枝先に複散形花序を出し、放射状に花柄を広げ、白い小さな5弁花を多数つける。実は楕円形で2個の分果からなる。

[分布] 日本の固有種。紀伊半島南部、奈良、三重、和歌山3県境の北山川(熊野川水系)の瀞八丁一帯の川岸。

[県内分布] 十津川村の南端部、瀞八丁付近。既知の産地は2カ所の報告がある。

[記事] カワゼンゴ(川前胡)の名は、解熱や鎮痛、鎮咳などに用いられる中国の薬草前胡に似て、川岸に生えることによる。奈良県では特定希少野生動植物に指定している。近年シカの食害によって姿を消し、シカの近寄れない岩場に残存する傾向が見られる。 写真はカワゼンゴ。左から白い小さな花を多数つけた花序、果期の姿、シカの食害に遭った個体。

   自力と他力によって

   生は成り立っている

 


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2021年06月28日 | 植物

<3450> 奈良県のレッドデータブックの花たち(71) カリガネソウ(雁草)     シソ科(旧クマツヅラ科)

               

[別名] ホカケソウ(帆掛草)

[学名] Tripora divaricata

[奈良県のカテゴリー]  希少種(旧指定なし)

[特徴] 日当たりがあり、ほどよい湿気がある山地の林縁や川筋に生える多年草で、4角形の茎は上部で分枝し、高さが1メートルほどになり、群生することもある。葉は長さが8~13センチの広卵形で、先が尖り、縁には鋸歯が見られ、長い柄を有し、対生する。

 花期は8~9月で、葉腋から長い柄の集散花序を出し、青紫色の花がまばらにつき、順次開花する。花冠は長さが1センチ前後の筒形で、先が大きく5裂し、裂片の下側の1個が反曲して開く。雄しべも雌しべも筒部から長く伸び出し、先が湾曲して下向きになる。この花の形をカリの羽ばたく姿に見立て、この名がつけられたという。

[分布] 北海道、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島、中国。

[県内分布] 北端の春日山周辺から生駒山、金剛山地、宇陀山地、吉野山地、南端の十津川村の北山川の岸辺まで広く見られる。

[記事] 独特の臭気があり、シカは食べないようであるが、山道の整備や河川の改修工事などにより減少し、レッドデータブックのリスト入りした。花が風変わりで可愛らしいことから臭気の難点はあるものの観賞用の園芸種も見られる。 写真は林縁で群生する花期のカリガネソウ(右)、しべが長く湾曲して花冠の外に伸び出す花(中)、花粉の運び屋のセセリチョウが訪れた花(右・セセリチョウの重力によって花が傾き、しべの先がチョウの翅に触れるようになっている)。

   何ものにも 誰においても

       長所があり 短所がある

   短所ばかりでは こまるし

   長所ばかりも つまらない

   長短あって バランスされ

   生の世界は 展開している


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2021年06月27日 | 創作

<3449> 作歌ノート  曲折の道程 (十一)

               老子対孔子静かに争へり人たる我といふ器あり

 人にはいろいろな考えがある。私たちはそのいろいろな考えを聞きながら自分の考えの中に組み込んで行くのであるが、どちらの考えを採るべきか、考え込まなければならないこともある。そんなときには、「私利に走らず、悪しきにつかず、迷はば大道を行くべし」であるが、例えば、老子と孔子を思うに、老子は「以徳報怨」と言い、孔子は「以直報怨、以徳報徳」と言った。まことどちらの考えがよいのであろう。示しをつける意味では孔子。ことなく納めていくには老子ということであろうか。

 老子と孔子のこの違いは考えさせられるところがあるが、両者の考えを聞いて初めて真理探究の論は広がる。で、この違いは現代においても見られ、しばしば論争になる。死刑の有無に対する論争然り、凶悪犯の少年についての実名報道、顔写真掲載論争然りである。時代によって判断に微妙な差異が見られる。そして、いまなお論争には決着がつかず、意見はさまざまに出て来る。しかし、決着がつかずとも、論の展開は必要と思える。

                                                   

 ことに当たって処するに、自らの思いの中に汲まんとして汲めないことがこの世の中には多い。これが、例えば老子対孔子であるが、これに釈迦が加わり、キリストが加わり、マホメットなども加わる。「どんな悪人も死ねば仏となる身」と言えば、「右の頬を叩かれれば左の頬を」と。また「目には目を」というような考えの教えもあり、思うところはさまざまである。

   で、「結論の出ないところが人間らしいところ」と言えば、「人間は定義したがる動物である」とも。どちらも言って妙ではある。そこで、宗教論争なども展開されることになるが、凡夫たる器はいよいよもって迷妄、惑う心に収まりがつかない。という次第。思うにわからない。思うに難しい。人生はまこと難題に出来ている。では、惑いついでになお二首。 写真はイメージで、葦原のアシ。

  考へる葦たる我といふ一穂数多の中の一穂といふべし      一穂(ひとほ)

      考へる葦たる我といふ一穂及び得ざるがゆゑに戦げる      一穂(ひとほ)

 


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2021年06月26日 | 植物

<3448> 奈良県のレッドデータブックの花たち(70)  カラマツソウ(唐松草)        キンポウゲ科

                   

[学名] Thalictrum aquilegiifolium

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] 日当たりのよいやや湿り気のある山地から亜高山の冷温帯域の草地に生える多年草で、高さは70~120センチほど。葉は根生葉と茎葉があり、根生葉は柄を有し、3、4回3出複葉で、小葉は長さが2~3センチの広倒卵形。先が3~5裂する。茎葉は基部が托葉状の葉鞘になって茎につく。

 花期は7~9月で、茎頂の散房状花序に直径1センチほどの小さな白色または淡紅紫色の花を多数つける。萼片は楕円形で、早落する。雄しべは放射球状に多数つき、花糸はへら状、花糸の先端部分はその先につく葯より太い。葯は淡黄色。実は痩果。カラマツソウ(唐松草)の名はこの花を束になってつくカラマツ(唐松)の葉に見立てたことによるという。

[分布] 日本の固有種。北海道、本州。

[県内分布] 天川村、上北山村の台高、大峰山脈の深山。

[記事] 有毒植物でシカは食べないようであるが、自生地も個体数も少なく、大和(奈良県)では減少が懸念されている。 写真は花を咲かせるカラマツソウ(左)と花のアップ(右)。

   血筋は宿命で 不動のもの 愛は心の仕儀で 不動のものには非ず

   生みの父と母は血筋 育ての父と母は愛の属性 血筋も愛も大切で

   大概の親子は 両方の属性の関係性において 人生を展開している