大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年09月20日 | 植物

<2813> 大和の花 (896) ゴンズイ (権萃)                                    ミツバウツギ科 ゴンズイ属

                                 

 日当たりのよいやや乾燥した二次林の林縁などに生える落葉小高木で、高さは3メートルから8メートルほどになる。樹皮は若木で灰褐色。老木になると黒褐色になり、縦に白く細かい条が入る。葉は長さが10センチから30センチの奇数羽状複葉で、5個から11個の小葉がつき、長い柄を有して互生する。小葉は長さが5センチから9センチの狹卵形で、側小葉が頂小葉よりやや大きく、先が尖る。縁には芒状の鋸歯が見られ、表面はやや光沢のある濃緑色で、裏面には脈上に毛が生える。

 花期は5月から6月ごろで、本年枝の先に長さが15センチから20センチの円錐花序を出し、黄緑色の小さな花を多数つける。花は花弁、萼片、雄しべ各5個、雌しべは1個で、柱頭が3裂する。花弁も萼片もほぼ同等で、ともに平開しない。袋果の実は長さが1センチほどの半円形で、秋になると鮮やかな赤色に熟し、裂開して黒い光沢のある種子を1、2個露わにする。赤色の果皮と黒色の種子がよく目につく。

 本州の関東地方以西、四国、九州、琉球列島に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域的に見られるが、どちらかと言えば、暖地性で、標高のたかいところでは見かけないようである。

   ゴンズイ(権萃)とは奇妙な名であるが、一説に材の異臭により利用価値がないことから同じく役に立たない海水魚のゴンズイの名を借用してつけられたという。別名のショウベンノキ(小便の木)は春先に枝を切ると、樹液が溢れ出ることによるという。若芽は山菜として救荒のため用いられて来た経歴がある。 写真はゴンズイ。花(左)と実(右)。    虫の声なぜか宇宙が思はるる

<2814> 大和の花 (897) ヤブサンザシ (薮山櫨子)                              ユキノシタ科 スグリ属

             

 日当たりのよい山野に生える落葉低木で、株立ちし、高さが1メートル前後になる。樹皮は紫褐色で、縦に裂けてはがれる特徴がある。若枝は灰白色で、はじめ軟毛が密生するが、その後無毛となる。葉は長さが2センチから6センチの広卵形で、掌状に浅く3裂から5裂し、基部は切形乃至は浅い心形。裂片の縁には欠刻状の浅い鋸歯が見られる。質は薄く、両面に短い軟毛が生える。葉柄は長さが3センチほどで、互生する。

 雌雄異株で、花期は4月から5月ごろ。前年枝の葉腋に黄緑色の小さな花を1個から数個つける。花は花弁、萼片、雄しべ各5個。花弁は小さく直立して目立たず、萼片が平開して反り返り花弁のように見える。雌花にも雄しべはあるが、小さく稔性はない。雌しべは1個で、花柱は短く、柱頭が2裂して皿状になる。液果の実は直径8ミリほどの球形で、秋から冬にかけて赤く熟す。

 本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では自生の状況が定かでなく、『大切にしたい奈良県の野生動植物』(2016年改訂版)は「奈良市、五條市西吉野町、平群町、黒滝村などで、野生株が見つかっているが、本種は花木として栽培されるので、現時点では自生か逸出かの判断は難しい」とし、情報不足種にあげている。  写真はヤブサンザシ(いずれも雌花。天理市の山の辺の道付近。自生か植栽起源かはっきりしない)。 虫もまた地球生命鳴いてゐる

<2815> 大和の花 (898) ヤシャビシャク (夜叉柄杓)                            ユキノシタ科 スグリ属

         

 ブナなど深山の樹上に着生する落葉小低木で、長さが50センチから1メートルほどになる。葉は直径3センチから5センチの腎円形または5角状円形で、掌状に浅く3裂から5裂し、欠刻状の鋸歯が見られ、柄があって、短枝の先に2個から5個互生する。

 花期は4月から5月ごろで、短枝の先の葉腋に淡緑白色の花を1個から2個つける。萼片5個が花弁のように開き、花弁は小さく、萼片に隠れて目立たない。子房には針状の腺毛が密生する。液果の実は直径1センチ弱の球形乃至は卵球形で、秋から冬に熟す。実には子房の腺毛が残る。

 草木の和名にはゴンズイ(権萃)のような奇妙な名がときに見られるが、このヤシャビシャク(夜叉柄杓)にも言える。この名は一説に、樹上に着生するところから、天を翔る夜叉が置いて行った柄杓と考えたことによると言われる。奇異な名であるが、それゆえか、忘れ難い名である。なお、別名のテンバイ(天梅)、テンノウメ(天之梅)、キウメ(樹梅)は高い樹上で咲かせる花がウメの花に似るからという。

本州、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では深山の冷温帯域に野生しているが、個体数が極めて少なく、昨今、園芸採取によると見られるところから、絶滅の危険度が増しているとして、レッドデータブックは希少種(準絶滅危惧種)から絶滅危惧種に危険度がランクアップされ、現在に至っている。全国的にも個体数が少なく、環境省も準絶滅危惧にあげている。  写真はヤシャビシャク。花と実(花にも実にも針状の腺毛が目につく。    そも命そも命また虫の声

<2816>  大和の花 (899) ズイナ (瑞菜・髄菜)                                   ユキノシタ科 ズイナ属

             

 林縁などに生え、林道や登山道で出会う落葉低木で、高さは2メートル前後。よく分枝し、枝が横に広がる。葉は長さが5センチから12センチほどの卵状長楕円形乃至は楕円形で、先が鋭く尖り、基部が円形に近く、縁にはやや不揃いの鋸歯が見られる。脈は裏面に突出し、表面は凹む。葉柄は長さが1センチ前後で、互生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝先に長さが10センチから20センチの穂状の総状花序を出し、小さな花を節ごとにつけ、多数に及ぶ。花序軸には白い開出毛が密生し、果柄は花序軸にほぼ直角につく。花は萼片、花弁、雄しべともに5個。雌しべは1個。花弁は長さが3ミリから5ミリの狹披針形で、やや平開する。花は全体に白色で、花盤が黄色でよく目立つ。実は蒴果で、長さが3ミリほどの広卵形。秋に熟す。

 本州の近畿地方南部、四国、九州に分布する日本の固有種で、襲速紀要素系植物として知られ、大和(奈良県)では南部の紀伊山地に集中的に見られる。学名はItea japonicaで、Iteaはヤナギの意。ズイナの名は別名のヨメナノキ(嫁菜の木)と同様、若葉が食用にされて来たことによる。 写真はズイナ。花期の姿と花序のアップ(川上村、上北山村)。     虫の声はたして命を燃やしゐる

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年05月24日 | 植物

<1973> 大和の花 (227) ホンシャクナゲ (本石楠花)                                   ツツジ科 ツツジ属

          

 ツツジ属の最後に大和(奈良県)に自生するシャクナゲ亜属のシャクナゲ(石楠花)2種を見てみたいと思う。まずは、ホンシャクナゲ(本石楠花)から。ホンシャクナゲは大きいもので高さが7メートルほどになる常緑低木で、温暖帯域から寒温帯域まで見られ、通常冷温帯域に多く、本州の新潟県西部以西と四国中北部の山地に分布する日本の固有種で知られる。

  ホンシャクナゲは紀伊半島、四国、九州に分布する襲速紀要素系の植物にあげられているツクシシャクナゲ(筑紫石楠花)を母種とするシャクナゲで、大和(奈良県)においては、一部低山帯にも見られるが、概ね深山、山岳の冷涼域の多湿で水はけのよい痩せた傾斜地や岩場に群落をつくって自生している。

 長楕円形から倒卵状長楕円形の葉は枝先に集まり、輪生状に互生し、革質で表面が濃緑色のものが多く、光沢がある。裏面は褐色の軟毛が一面に生えるものの薄く、革質部分が見える特徴がある。花期は5月から6月ごろで、枝先の総状花序に紅紫色から淡紅紫色、稀に白色の漏斗状鐘形の花を多数つける。花冠は直径5センチほどで、7、8裂し、雄しべは14個、稀に16個つく。花糸の下部と子房には軟毛が密生し、花柱は無毛で、花柄には褐色の毛が生える。 写真はホンシャクナゲ(日出ヶ岳山頂付近)。   石楠花の透明感の花五月

<1974> 大和の花 (228) ツクシシャクナゲ (筑紫石楠花)                            ツツジ科 ツツジ属

                     

 ホンシャクナゲ(本石楠花)の項で触れた通り、ツクシシャクナゲ(筑紫石楠花)はホンシャクナゲの母種として知られる常緑低木のシャクナゲで、大きいもので高さが4メートルほど。葉は長さが15センチ前後の長楕円形もしくは倒披針形で、革質である。表面は通常濃緑色で、光沢があり、裏面は濃褐色のビロード状の毛が密生し、スポンジ状になる。これが葉裏に毛が密生しないホンシャクナゲとの葉による相違点である。

 花期は5月から6月ごろで、枝先の総状花序に紅紫色から淡紅紫色、まれに白色の漏斗状鐘形の花を多数咲かせる。花冠は直径4センチから6センチほどで、7裂し、雄しべは14個。以上の点はホンシャクナゲの花とほとんど変わりないが、花糸に毛が少なく、花糸の基部に毛が密生するホンシャクナゲとこの点が異なり、花における相違点である。子房はともに毛が密生し、花柱は両方とも無毛である。

 紀伊半島(三重、奈良、和歌山)、四国の南部、九州に分布する日本の固有種で、襲速紀要素系の植物に分類され、大和(奈良県)ではホンシャクナゲと生育地をわけ、概して、ホンシャクナゲの方が広い生育域にあり、ツクシシャクナゲの方は大峰山脈の高所域に分布を限っているという報告が見られる。

 それにしても、ツクシシャクナゲとホンシャクナゲは極めてよく似ていて、1群落の中でも判別し難い中間的な形質の個体が多く見られる。大和(奈良県)に野生するシャクナゲはこのような状況にあり、考えさせられる。という次第で、写真の個体については総体的な見地から私の目視によって判断したことを断って置かなくてはならない。 写真はツクシシャクナゲ(左から天川村の稲村ヶ岳山頂付近、上北山村の弥勒岳尾根付近、天川村の弥山登山道)。  石楠花や貴婦人といふ言葉感

<1975> 大台ヶ原のシャクナゲ

          客観は主観なくしては論じがたく

         主観は客観なくしては覚束ない

         言わば 主観と客観は論の両輪で

         互いの持ち前を発揮するところに

         私たちの真実の行方は納まりゆく

  シャクナゲは大和(奈良県)が誇る花の一つである。咲き始めの濃紅紫色から咲き盛るときの淡紅紫色の色合いは貴品に満ちた深山の令嬢、あるいは貴婦人といった趣にある。晴天の日差しの中でも深い霧の中でもその花の姿はまことに麗しい。これは透き通るような花冠の質感から生じて来るものと察せられる。このようにしてある大和(奈良県)の野生するシャクナゲは深山の初夏を魅惑的に彩るが、全てが同じシャクナゲではなく、二種のシャクナゲが分布していると言われる。

  一つは紀伊半島(三重、奈良、和歌山)と四国(南部)、九州の襲速紀要素系植物の分布域に自生するツクシシャクナゲ(筑紫石楠花)であり、一つは本州の新潟県西部以西と四国に分布するツクシシャクナゲを母種とするホンシャクナゲ(本石楠花)である。両者は極めてよく似ているので、見分け難いところがあり、植物を研究する専門家もその判別には悩まされているところがうかがえる。一般的には総称のシャクナゲで間違いはなく、何ら問題にはならないが、分類をはっきりさせなくてはならないところにおいては難儀な植生の一つということになる。

  両者には葉と花の一部に明らかな違いが見られ、目視や触手によって判別され、図鑑等にも説明がなされている。葉の方は裏面に顕著な違いが見られ、ツクシシャクナゲでは褐色の真綿状の軟毛が密生しスポンジ状になるのに対し、ホンシャクナゲでは褐色の毛が一面に生えるけれども薄く、スポンジ状にはならない。一方、花の方は雄しべの花糸における毛の生え方に違いが見られ、ツクシシャクナゲでは全体的に毛が少ないのに対し、ホンシャクナゲでは花糸の上部に毛がなく、下部に毛が密生する特徴がある。

                                  

  両者にこれだけのはっきりした違いがあるからは簡単に見分けられると思えるが、自然の状況は複雑で、どちらとも判断し難い所謂中間タイプが存在し、判別を難しくし、混乱を招くということが起きる。この悩ましくもすっきりしない両者の判別問題が実際に起きていることに奈良県の樹木調査報告書である『奈良県樹木分布誌』(森本範正著)が触れている。

  この本のツクシシャクナゲの項に、「大台ケ原には(ツクシシャクナゲの)記録があるが、私はまだ見ていない。同定についてはかなり混乱がある。ホンシャクナゲとの違いは葉裏の毛の多寡ではなく、毛の形である。毛の形は顕微鏡でなければわからないが、肉眼的また触覚的には、ホンシャクナゲは毛が葉に圧着していて、ほとんど毛の層の厚みを感じない。ツクシシャクナゲは毛の層が厚く、ふわふわしてスポンジ状である」とツクシシャクナゲとホンシャクナゲの相違点を示し、大台ヶ原にツクシシャクナゲは見られないと指摘している。

  ところが、大台ヶ原周遊道のシオカラ谷から大蛇嵓に至るシャクナゲ廻廊のシャクナゲ群落についてはずっと以前からツクシシャクナゲの群落であるとし説明板が立てられている。私がシャクナゲ回廊を初めて歩いたときからであるから、十年、否それ以上前からこの一帯のシャクナゲはツクシシャクナゲの認識にあった。

  多分、ツクシシャクナゲの判断に至ったそのときも、同じく葉裏の目視と触手によって判別したはずである。観察者が同一人ではないからそこに多少の判断の違いは生じるところであるが、判別を異にするその差において言うならば、どちらが正しいかということは言い難い。実際私なんかも観察してみるが、さっぱり判断がつかない。で、私はこの問題について一つの仮説を立てて見た。それは両観察者の尊厳を踏まえてのことである。端的に言えば、両者の観察は真摯に行なわれ、両当時のシャクナゲの姿によって判断した。言わば、ともに正しい判別をした。私はそのように思う。このことを踏まえ、私の仮説を以下に示してみたいと思う。

  一方がツクシシャクナゲとするのに対し、一方がホンシャクナゲとする見解の違いを考えるに、この問題を解くには調査年月の隔たりがキーワードとしてあげられる。どちらの観察、調査も専門の研究者が当たっているはずであるから、そこに観察者の個人差や優劣を俎上にあげて考察するのは好ましくなく、そこに論点を持って行くのはよくないと言える。そこで考えられるのが、時の移り変わりによるシャクナゲの変質、あるいは変異ということで、それがシャクナゲ廻廊のシャクナゲにあったのではないかということ。この調査結果による見解の相違は、見方という主観的な因子による違いではなく、時の隔たりという客観的な因子による違いの現われということが考えに上って来るわけである。

  そして、なお思うに、時の移り変わりによって紀伊半島の自然環境に変化がもたらされ、シャクナゲの植生にもそれが及んで変化が生じ、ツクシシャクナゲがホンシャクナゲの形質に変異して両者の中間タイプが現出し、観察者の見解に混乱を招く結果になった。これは私の個人的な推論によるもので、大台ヶ原のシャクナゲ廻廊のシャクナゲ問題はこのようにも考えられる次第である。この考察からすれば大台ヶ原のシャクナゲはツクシシャクナゲを母種とする変種の中の新変種で、オオダイシャクナゲ(大台石楠花)とでも名づければよいようにも考えが進む。

  シャクナゲはツツジ科ツツジ属に含まれるツツジの一種で、ツツジの形質を有し、主に北半球の亜熱帯から亜寒帯に広く分布し、世界に数百種、日本列島にも分布域を限りながら変種を含め十種前後が自生している。ツクシシャクナゲとホンシャクナゲのように分布域の重なる種も見られるが、シャクナゲは地域的変異が顕著で、ほかのツツジ類にも言えることであるが、自分を変えて環境に適合してゆく柔軟性をもった涙ぐましい植物としてシャクナゲのあることが、大台ヶ原のシャクナゲ廻廊のシャクナゲが投げかけているシャクナゲ問題を解くカギにもなり得ると考えられるわけである。

  例えば、年月を隔てたことによる変質、変異の理屈が、シャクナゲの特徴の一つとしてある亜寒帯に分布するシャクナゲの常緑広葉樹としての存在に見え隠れしている点である。詳しく言えば、シャクナゲは広葉を貫いて針葉にはなっていないことである。それは葉裏を軟毛で被い、寒さに耐えるべく備えを施していることの証である。寒暖の差が大きく、寒さの厳しい大和(奈良県)の山岳高所では、落葉樹か常緑樹でも針葉樹となるのが植生の自然の姿として見える。だが、ツツジ類、殊にシャクナゲは常緑広葉樹にもかかわらず山岳高所に存在し生育している。このことと大台ヶ原のシャクナゲ廻廊の種を異にする見解の相違問題は関わりがあると見るのが私の仮説のポイントである。

  つまり、大台ヶ原のシャクナゲが問いかけているツクシシャクナゲではなくホンシャクナゲではないかとする問題点にこの常緑広葉樹たるシャクナゲの葉の形質が関わっていると思われるからである。近年、地球温暖化が進み、気温上昇によって標高約一六〇〇メートルの大台ヶ原においても温暖化が進み、ツクシシャクナゲの形質である葉裏に軟毛がびっしり生える特質を必要とするにあらざる自然環境に置かれることとなり、葉裏に防寒の毛が少ないホンシャクナゲに近い判別し難い形質のタイプが顕われて来た。判別に当たった両観察者を信頼すれば、このような考察も出来るのではないかと思えて来る次第である。

  結論的に言えば、温暖化という自然環境の変化にともない大台ヶ原のツクシシャクナゲはその環境に合わせて変質を余儀なくされ、現在に至っているという次第で、シャクナゲ廻廊の事態も生じたと考えられるわけである。大台ヶ原にツクシシャクナゲの形質を明らかに有するシャクナゲが存在せず、ツクシシャクナゲが大峰山脈の高所のわずかなところにしか分布しないという最近の調査報告ともこの仮説は符合する。こうした意味で言えば、紀伊半島のツクシシャクナゲは絶滅が心配される状況にあるということが出来る。これは大台ヶ原のコケ群が貧弱になっている要因にも重なるところである。 写真はツクシシャクナゲ(左・上北山村の大普賢岳の北尾根)とホンシャクナゲ(右・上北山村の大台ヶ原山)の花。私の目視によって判断した。

 

 

  

 


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2017年04月24日 | 植物

<1943> 大和の花 (200) ハタザオ (旗竿)                            アブラナ科 ヤマハタザオ属

                       

 今回からはアブラナ科の花を採り上げてみたいと思う。まずはハタザオ(旗竿)と名のつくものたちから。ハタザオは海岸の砂地や山野の草地に生える2年草で、北海道、本州、四国、九州とほぼ全国的に分布し、朝鮮半島、中国、西南アジア、北アフリカ、ヨーロッパ、北アメリカなどに広く見られるという。茎はほとんど分枝することなく直立し、その先端部に総状花序を出して次々に花を咲かせ、実をつけて伸びあがり、大きいものでは高さが1メートル以上に及ぶものもある。

 葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉はへら形、茎葉は楕円形乃至披針形で、基部は茎を抱き、上部の葉ほど小さい。花期は4月から6月ごろで、黄色を帯びた白色の小さな4弁花を開く。実は線形の長角果で5センチ前後になり、茎に密着するようにつく。草丈の全体の印象によりこの名がある。 写真はハタザオ(金剛山の水越峠付近)。   旗竿に旗の花咲く五月かな

<1944> 大和の花 (201) ヤマハタザオ (山旗竿)                            アブラナ科 ヤマハタザオ属

                                                    

  ハタザオ(旗竿)に似て、茎はほとんど分枝せず、直立して高さ80センチ前後になる。冬も枯れることのないロゼット状の根生葉によって越冬する越年草で、丘陵や高原、山地の草地や林縁に生え、北海道から本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国、ロシア、ヨーロッパ、北アメリカに見られるという。大和(奈良県)では曽爾高原でよく見かける。

  ハタザオと同じく、茎葉には柄がなく、葉身の基部が茎を抱く。花期は5月から7月ごろで、茎頂に総状花序を出し、ミリ単位の小さな白い4弁花を咲かせる。実は長角果で、茎に沿って直立する。角果に種子が2列するハタザオに対し、ヤマハタザオは1列になる違いがある。 写真はヤマハタザオ(曽爾高原の周遊道の傍)。 ああ日本みんなのうへに春が来る諍ひなどに巻き込まれるな

<1945> 大和の花(202) ハクサンハタザオ (白山旗竿)               アブラナ科 ヤマハタザオ属

           

  ツルタガラシ(蔓田辛し)の別名もある北海道の西南部から九州の宮崎県まで分布し、国外では朝鮮半島に見られる多年草で、垂直分布でも山間地から山岳の高所まで広範囲に自生する。大和(奈良県)では野迫川村、五條市西吉野町、曽爾村の山間地等の山足や道端から標高1800メートル以上に及ぶ大峰山脈の尾根上まで点在するが、大和(奈良県)での自生地は限定的で、個体数も少なく、レッドリストの希少種にあげられている。別名ツルタガラシ。

  日当たりのよい草地や砂礫地に生え、茎は株状に立ち、草丈は30センチほどになる。茎は軟弱で、花の終わるころには倒れ伏し、節の部分から新芽を出して広がり、ときに群生することもある。葉は根生葉と茎葉が見られ、根生葉は短い柄があって羽状に裂け、頭頂の葉が大きい。茎葉は細く、羽状に中裂するものや鋸歯の見えるものがある。他種と異なり、葉は茎を抱かない。

  花期は4月から6月ごろで、茎頂部の総状花序に柄を有する白い4弁花を咲かせる。花弁は長さが数ミリの倒卵形でかわいらしい。実は線形の長角果である。 写真はハクサンハタザオ。左から西吉野町、野迫川村、弥山で見かけたものと花のアップ。雄しべは6個。

  日本は 四季の国 四季にともない 色とりどりの 花が咲く 概して 春は黄色 夏は白色 秋は青紫色 冬は紅色 これは 私の印象 とにかく 千差万別 色とりどりの 花が咲く はたして これは 如何なるわけによるものか 思えば 日本は 四季の国 四季にともない 色とりどりの 花が咲く

 

<1946> 大和の花 (203) フジハタザオ (富士旗竿)                   アブラナ科 ヤマハタザオ属

               

  富士山に多く見られるのでこの名があるヤマハタザオの仲間の多年草で、深山の岩場や砂礫地に生える。茎は株状にかたまって立ち、草丈は大きいもので30センチほどになる。根生葉は広倒披針形で、茎葉は長楕円形となり、矢じり形の基部が茎を抱く。花期は7月から8月ごろとされ、茎頂部に総状花序を出して直径2センチ弱の白色4弁花を開く。

  写真は5月末に大台ヶ原の標高約1450メートル付近で撮影したもので、フジハタザオに言われる花期より1ヶ月ほど早く、フジハタザオの変種とされるシコクハタザオ(四国旗竿)に同定する向きもうかがえるが、両者はよく似ているので判別が難しく、正確なところはわからない。両者一体と見れば、本州の関東地方南部以西、四国、九州に分布し、韓国の済州島にも見られるという。

  2016年改定版の奈良県のレッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』はシコクハタザオイコールフジハタザオとして、自生地も個体数も少なく、シカの食害が甚大として希少種にあげている。 ここではフジハタザオとしてとりあげた。  写真はフジハタザオ。  花満ちて春たけなはとなりにけり

<1947> 大和の花 (204) キバナハタザオ (黄花旗竿)         アブラナ科 キバナハタザオ属

       

  キバナハタザオ(黄花旗竿)は大峯奥駈道が通る大峰山脈の尾根上の一角、天川村の標高約1400メートルの日当たりのよい石灰岩地に稀産する多年草で、黄色の花を咲かせるのでこの名がある。最初に出会ったときはセイヨウカラシナ(西洋芥子菜)かと思い、こんなところにまで広がって来ているのかと思いながらカメラに収めた。

  後日、確認のため図鑑を見ていたらキバナハタザオが目に入り、セイヨウカラシナは誤認で、これだという気がして調べ直してみた。結果、本州の中部地方と九州の対馬、それに朝鮮半島、中国に分布するとわかった。大和(奈良県)では大峰山脈のこの一箇所のみに自生し、個体数が極めて厳しい状態に置かれ、絶滅寸前種にあげられているとわかった。絶滅危機の要因にはシカの食害、周囲の草木による圧迫、人の持ち去りなどが考えられ、もっとも心配されるシカの食害を防ぐためシカ避けの防護ネットが張りめぐらされ、その中において保護されている。

  高さは大きい個体で子供の背丈ほどになり、茎は直立気味に立ち、わずかに分枝も見られる。葉はごく短い柄があり、葉身は披針形で、茎を抱かず、波状の鋸歯が見られる。花期は6月から7月ごろで、茎頂や枝の先端部に総状花序を出し、長さが1.5センチほどの黄色い4弁花を咲かせる。実は長角果で15センチほどと長い特徴が見られる。 写真は草地から抜きん出て黄色い花を見せるキバナハタザオ(左)、花のアップ(中)、長角果(右)。 時を得て咲き出す花は命なりいづこの小さきわづかな花も

 

 

 

 

 

 


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2017年03月11日 | 植物

<1899> 余聞・余話 「花のつき方について」 (勉強ノートより)

         蕺草は蕺草にして花咲かすその一分を思はせるごと

 花は植物の種類により一定の方式にともなって配列する。この配列する花のついた枝(軸)全体及び花のつき方を合せて花序という。花序は果期には果序と呼ばれる。花序が複数の花からなる場合、これらの花を支える共通の柄を花梗(総梗)という。花序が分枝する場合は二次、三次の花梗が見られ、最終的にはそれぞれの花(花柄)に続くことになる。例えば、サクラでもヤマザクラは花梗と花柄が認められるが、ソメイヨシノやエドヒガンでは花が枝木に直接散状につき、明瞭な花梗は見られない。この場合、花が単生する状態では花柄が総梗ということになる。

 苞(苞葉)は花の基部もしくは花柄上に見られ、質、色が多少とも変形したものを指し、小苞とも呼ばれる。例えば、ドクダミでは花序の基部に白い4個の花弁状の苞が見られ、多数つくそれぞれの小花にも微細な苞がつく。この場合、花弁状の4個の苞は総苞と呼ばれ、その4個の1個1個は総苞片という。頭状花で知られるキク科のタンポポは、舌状花が多数集合して1花を形成し、花全体の基部に鱗片状の総苞乃至総苞片が見られ、小花である個々の舌状花には苞がつかない。また、特異なものでは、テンナンショウ属の花のように花序を包む大きな苞がある。これは仏炎苞と称せられ、花序は肉穂花序と呼ばれる。

                   

 花序が複数の花をつける場合、花序の中心にある軸を花序軸という。例えば、ヤナギ科では花序の中心軸に花が直接つくので、花序軸がはっきりしている。花序軸が際立って短くなり拡張して広がる花序は頭状となるものが多く、この場合、花序軸は花床となる。キク科の花がよい例としてあげられる。また、イネ科やカヤツリグサ科では花序の単位は小穂で、特殊な構造になっていて、その中心軸は小軸と呼ばれる。

 一方、花と花序の関係で見てみると、一つの花序の頂端につく花を頂花、それ以外の花を側花という。花序が単一である場合頂花は1個、側花は普通複数に及ぶが、複合する花序では複合する花序の数だけ頂花が見られ、側花も増える。側花が苞に腋生する場合は腋花という。頂花はしばしば側花とは異なる形質を持ち、例えば、ドクダミの頂花は両性花であるのに対し、頂花付近の側花は雄花となる。フキの雌株の頂花は両性花であるが、側花は雌花が現れる。

 一つの花序でありながら、花が小さく且つひとまとまりになって、一見一つの花に見える場合を偽花という。例えば、ドクダミの穂状花序、トウダイグサ属の杯状花序、キク科やマツムシソウ科の頭状花序は偽花である。また、長い花序軸に多数の無柄乃至は短柄の側花を密生した花序をと呼ぶ。ナギナタコウジュ属、タデ属、ガマ属など多くの例が見られる。偽花や穂のように小さい花が緊密に花序を形成する場合、個々の花を小花という。  写真は左から白い4個の苞が目につくドクダミ。中央に立つ穂状花序の穂の部分に小花が多数つく。次はキク科のハルジオンの花。頭状花の一つで、筒状花(管状花)と舌状花多数の小花からなる偽花である。次はイネ科のススキの花穂で、多数の小穂からなっている穂状花序である。右端は長い花序軸に側花を密生したナギナタコウジュの穂。 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年12月11日 | 植物

<1808> 余聞・余話 「花の模式図」 (勉強ノートより)

              花はどんなに苛酷なところに咲いていても

          一旦咲き出すと 自然の環境の中で

                与えられた命の未来を負ってひたすらに咲く 

          それは何とも晴れやかに見えるほどである

          この草木の花たちを見ていると

          私たち人間よりも弱々しい存在ながら

          神の授かりものに違いない自然の環境に従順で

                  それはまさに愚直なほどに見えるが

                  そのひたすらな愚直さをもって

                  花は おそらく 私たち人間よりも

                  神から与えられた地上の自然の環境の中で

                  強く生き長らえて行くのに違いないと思えてくる

                  そして その祝福と感謝の光景にして

                今も 時を得た草木の花たちは咲いている

 「花は植物の生殖器官である」と多くの人が言っている。誰が最初に言い出したものか。植物学者か、それとも詩人か、どちらでもよいがこの認識は当を得ていると思われる。花の定義は難しいが、大方の花が生殖器官の任にあることは確かに言える。まず、一般的な認識では、外側に萼があり、次に花弁があり、その内側に雄しべ(雄ずい)と雌しべ(雌ずい)があるのが花である。この雄しべと雌しべの役割は子孫を次に繋げる役割がある。雌しべには受精して得た果実を育てる仕組みが整えられている。つまり、花は植物が種を保ちゆくための重要な部分で、これを動物に例えれば生殖器官ということになる。これは雌雄からなる生きものの重要な仕組みの一端である。

                                       

 では、ここに一般的な花の模式図を示し、生殖器官としてうまく出来ている花を見てみたいと思う。まず、花は草木の枝や茎に咲き出し、葉の変形したものとの考えもある。直接咲き出す花も見られるが、枝や茎と花を繋ぐ役目の花梗や花柄の存在がある。その花梗や花柄の先に花托や花盤が出来、花の基盤となる。その花盤の上に花の主要な部分が乗っかってつく。

 まず、花にはつぼみのときから花を包んで守る萼が最も外側につき、その内側に重要な内陣を守る花弁(花びら)があるものが多い。言わば、花は外部に向って二重の防御をしていることになる。花にとってもっとも影響が大きいのは風雨で、これへの対策が花弁や萼にはあるが、これについては、花の撮影に出かければすぐに気づく。雨の日に花弁を閉じるものが多いのはその一例である。タンポポやリンドウなど上を向いて咲く花にこの傾向が見られる。

                                     

  花弁の部分は花によって花冠とか花被とかとも呼ばれ、内陣を守るだけでなく、内陣の環境を整え、生殖の手助けをしてくれる昆虫や鳥たちを誘い導く役目も担っており、美しく装うものが多く見られる。花はその来客をもてなす仕組みを有し、その生殖機能をなるべく有効に働かせるように工夫している。花を守る役目が一番である萼も昆虫や鳥たちを誘うために美しく装うものがある。萼片が美しく彩るアジサイ類がそのよい例である。

  花の内陣は雄しべと雌しべからなり、雄しべは花粉を出し、雌しべは花粉を受け取るようになっている。雌しべは受け取った花粉を子房の中に入れ、胚珠に至って受精し、果実を生むことになる。近親相姦は元気な子孫に繋がらないので、自家受粉をなるべく避けることが必要で、花にはそれが求められ、その対策も花はこなしている。

  例えば、雄性先孰(雄しべ先孰)のウツボグサがあり、雌性先孰(雌しべ先孰)のオオバコなどがある。これは時間差によって自家受粉を出来なくする方法であるが、雌雄異株のように空間的に自家受粉を避ける植物も見られる。ほかにも、自家受粉を避けるため来訪者を花の側面から誘い入れ、自花の雄しべに触れさせずに雌しべの位置に誘導し、来訪者が花から出るとき雄しべに触れて花粉を別の花へ運ぶように仕組んでいるアヤメ科のような花も見られる。

 果実が出来ると、花は役目を終え、枯れて行き、それからは果実の中の種子の扱いに移って行くことになる。花は種子が有効に発芽して命を繋いで行くように最後まで工夫と努力を怠らない。下向きに咲く花が果期になると上向きになり、冠毛に付いた種子がなるべく飛散するような仕組みになっているキセルアザミのような花もある。

  花は単に美しく咲いているのではなく、子孫を残すために工夫を重ね、日夜努力しているその工夫と努力の結集による姿が花の美しさに繋がっているのである。 写真上段は左から花の模式図、雄性先孰のウツボグサの花、雌性先孰のオオバコの花。下から上へと咲き上がる。写真下段は左から雨になると花弁を閉じるタンポポの仲間のセイヨウタンポポ、昆虫をうまく誘導する工夫が見られるカキツバタの花、種子がうまく飛散するように最後の最後まで努力するキセルアザミの花。種子の出来るころになるとこの花が真っ直ぐに立って、種子がついた冠毛が飛ぶのを助ける。