大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年09月30日 | 植物

<1736> 大和の花 (49) ノアザミ (野薊)                  キク科 アザミ属

               

  アザミはキク科アザミ属の多年草の総称で、北半球に250種以上、日本には約100種が高山から海岸域まで広い範囲に分布していると言われる。葉は大形で羽状に裂けるものが普通で、筒状花が多数集まった花は其部の総苞と合せて見ると牡丹刷毛のような感じに見えるところがある。概ね葉や総苞に棘を有するのが特徴で、アザミの名の由来には諸説あるが、「アザ」を棘の意とみるなど、棘に由来する説がほとんどである。アザミには地域的変異が見られ、今後も新しい品種のアザミが見つかる可能性が高いと言われる。

  このアザミの一つにノアザミがある。山野に生える高さが1メートルほどになるアザミで、本州、四国、九州に分布し、アザミの中ではもっともポピュラーな馴染みのアザミとして知られ、アジア一帯に多くの変種が見られるという。花は5、6月の田植え前後の時期に最もよく見られるが、秋、冬にも咲く個体があり、一年を通してどこかで見ることが出来る。花は紅紫色であるが、ときに白い花も見かける。花の其部の総苞は球形で、総苞片から粘液を出し粘着するのが特徴としてある。アザミは典型的な虫媒花で、ノアザミにはチョウやハチの類がよく訪れる。『万葉集』に登場しないのは不思議である。

  なお、アザミには夏から秋にかけて咲くものが多いが、アザミの季語は春で、これはノアザミに合せたものと思われる。 写真は左からスイバ(酸葉・酸模)などとともに棚田の畦に紅紫色の花を咲かせるノアザミ。黄色いチョウが蜜を吸いに来たノアザミの頭花。白い頭花のノアザミ。雪を被った冬のノアザミ(四国の高山に見られるトゲアザミのようなタイプか)。右端は風に吹かれて飛び立つノアザミの冠毛。中央に種子がついている。     渡り行く風がはじめにありしなり風の行方に夢は開かる

<1737> 大和の花 (50) ヨシノアザミ (吉野薊)                                            キク科 アザミ属

          

  中部地方以北に分布するナンブアザミ(南部薊)の変種で、日本の固有種として知られ、近畿から中国、四国にかけて分布する。その名にある「ヨシノ(吉野)」は地名に因むものではなく、このアザミを発見した植物学者吉野善介に因んでつけられたもの。ノアザミが平野部に多いのに対しヨシノアザミは山間地や山地に見られ、大和(奈良県)ではノアザミに次いで多く見かけるアザミである。

  高さは大きいもので人の背丈ほどになり、羽状に裂ける葉はときに白斑が入る。花は少し小振りで紅紫。生える場所によって濃淡が見られる。花の基部の総苞は鐘形に近く、ときに粘着する。総苞片の棘は母種のナンブアザミに比べかなり短いのが特徴であるが、アザミには変異が多く、ヨシノアザミも総苞片の棘に長短の変異が見られ、四国で見られる棘の長いタイプはシコクアザミと呼ばれているようである。とにかく、ヨシノアザミは大和地方の山地に多く、花は秋に見られる。 写真はヨシノアザミとその花のアップ。右端の写真は総苞片の棘が長く少し反り返ったシコクアザミタイプのヨシノアザミと見た(いずれも紀伊山地)。

  あざみ咲き蝶は花へと舞ひ来たりキスするごとく触れにけるかも

 

<1738> 大和の花 (51) キセルアザミ (煙管薊)                                     キク科 アザミ属

                                  

  湿地に生える高さが1メートルほどになるアザミで、50センチにもなる根生葉がロゼット状につき、花どきにも残る。茎葉は小さくまばらにつき、頭花は茎の先端に点頭して斜め下向きに咲く。花が終わると花は自力で上向きになり、種子をつけた冠毛が風に吹かれて飛びやすくする習性がある。キセルアザミの名はこの茎と花の姿から煙管を連想したことによる。別名はマアザミ(真薊)。

  本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和地方でもよく見かける。湿地に生え、8月の末ごろから咲き始め、茎が首を曲げて花を下向きに咲かせる特徴と花の基部にサワアザミのような大きな苞葉がない条件に照らせば、一見してキセルアザミとわかる。 写真は花を下向きに咲かせるキセルアザミ(左)、キセルアザミの花にぶら下がるキチョウ(中)、咲き終わって上向きになった花から旅立ちをする種子をつけた冠毛(右)。  真薊の花咲く湿地にぎはへり 蝶に蜻蛉に蜂なども見え

<1739> 大和の花 (52) ギョウジャアザミ (行者薊)                                        キク科 アザミ属

                                                    

  紀伊半島と四国に分布を限るナンブアザミ(南部薊)系の日本固有のアザミで、高さは80センチ前後、長楕円形の葉は尾状に細長く伸びて羽状に深く裂け、鋭い棘がある。花期は8月から10月ごろで、淡紅紫色の小さな花を点頭気味につける。花の基部の総苞は狭筒形で、クモ毛があり、指で触ると粘着するのがわかる。総苞片には棘があるが長短さまざまで変異がうかがえる。

  その名に「ギョウジャ(行者)」とあるのは、修験者が行に籠るような深山、殊に大峯奥駈道が通る山岳の一帯に生えることから修験の行者に因むと言えようか。ほかにも、名に「ギョウジャ(行者)」と見えるものにはユリ科ネギ属のギョウジャニンニク(行者大蒜)がある。こちらも深山に生える多年草で、その名は行者が食用にしたことによると言われる。 写真は左から小振りな花を咲かせるギョウジャアザミと花のアップ、枯れたギョウジャアザミの花(いずれも紀伊山地の標高1500メートル以上の高所林縁で)。        草木には草木の命 それぞれにある身のそして我が身の命

<1740> 大和の花 (53 ) ヒッツキアザミ (引っ付き薊)                                 キク科 アザミ属

                                          

  このアザミは近畿から中国地方にかけて分布する日本固有の珍しい薊で、山地の林縁や草地に生える。高さは大きいもので大人の背丈ほどになる。葉は長楕円形で羽状に裂け、棘がある。紅紫色の花は秋に咲き、穂状に固まってひっつくように開くのでこの名がある。花の基部の総苞は筒形で総苞片の棘は長めである。 2016年の奈良県版レッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』改定版は希少種にあげ、「確かな産地は曽爾高原だけである。大峰山脈の日本岳にも記録があるが、現状はわからない。個体数は少ない」と説明している。登山道の700から800メートル付近の道沿いに見られ、一時は増えていたが、最近、すっかりなくなり、絶滅寸前の観がある。

  これは曽爾高原がススキの名所で、大きくなるヒッツキアザミが邪魔な存在になり、処分されたと考えられる。思うに曽爾高原の現状は植生の多様性を求めるところになく、ススキオンリーの純血主義的合理主義によるところがうかがえる。この傾向は草原のほかの植生にも影響しているように思われる。 高原ではススキが第一に変わりはないが、草原はススキのみではなく、多様な植生をもって魅力ある場所になっている。この点における考察が曽爾高原のこれからには必要であると、ヒッツキアザミの状況からは思われる。 写真はススキとともに花を咲かせるヒッツキアザミとひっつくように固まって咲く花(曽爾高原で、2008年撮影)。

  秋にして秋はあるなり草木の一つ一つの姿にも見え

 

<1741> 大和の花 (54) ヒメアザミ (姫薊)                                                    キク科 アザミ属

                                                       

  本州の近畿以西、四国、九州に分布する日本固有のアザミで、山地の草地に生える。直立する茎は高いもので2メートルほどになるが、華奢なやさしい感じに見えるのでヒメ(姫)の名がある。上部でよく枝を分け、葉は長楕円状披針形の細身で、茎を抱く。花期は8月から10月ごろで、その茎や枝先などに紅紫色の花を点頭させる。花の基部の総苞は狭筒形で、総苞片には短い棘があり、クモ毛によって粘着する。総苞の付け根のところに細い苞葉があるのも特徴のアザミである。

  このアザミも奥宇陀の曽爾高原で見られるが、ヒッツキアザミ(引っ付き薊)とは生える場所を異にし、こちらはノアザミ(野薊)と同様ススキの群落に混じって生えていることが多く、花の姿は群生するススキのアンサンブルをともなって立つ感じがある。 写真は群生するススキに混じってすらりと立つヒメアザミと紅紫色の花。花のすぐ下に細い苞葉が見える。

    似て非なる花は非なれどみな同じ役目を負ひて咲きゐたるなり

 

<1742> 大和の花 (55) ニセツクシアザミ (偽筑紫薊)                                    キク科 アザミ属

           

  2006年、四国で発見された新種のアザミで、九州の山地に分布しているツクシアザミ(筑紫薊)に似るところからニセツクシアザミ(偽筑紫薊)と名づけられ発表された。この発表によって、以前、大和(奈良県)においても大台ヶ原の西大台で同じアザミが発見されていたことに気づいた。大台ヶ原のニセツクシアザミはこのような経緯によって知られるところとなった。現在では四国の山岳と奈良県の大台ヶ原に産し、大台ヶ原が北限と認識されている日本固有のアザミである。

  高さは1.5メートルほどになり、茎の下部に葉身50センチほどの楕円形の葉をつけ、しばしば群落をつくる。葉は深く裂け、鋭い棘が見られる。茎上部の葉は小さくなるが鋭い棘が生えている。花期は9月から10月ごろで、紅紫色から淡紅紫色の頭花を点頭気味につける。花の基部の総苞は筒状鐘形で、総苞片は長く伸び出し反り返ってつぼみを保護するように囲む特徴がある。

  大台ヶ原ドライブウエイの標高1500メートル付近でも見られ、一時、シカの食害などで減少が見られ、奈良県のレッドリストの絶滅寸前種にあげられていたが、シカの駆除等の効果によるものか、最近、増え、ドライブウエイ沿いでは株を張った群落も見られるほどになり、絶滅危惧種になった。なお、大台ヶ原は北限として注目種。また、奈良県の特定希少野生動植物にもあげられている 写真は大きな葉を密につけ、花を咲かせるニセツクシアザミと長く伸び出した総苞片に包まれるように見えるつぼみ。右は花(いずれも大台ヶ原ドライブウエイの道沿いで)。     知ることは思ひを開くたとふれば昨日出会ひし花のくれなゐ

1743> 大和の花 (56) アメリカオニアザミ (亜米利加鬼薊)                       キク科 アザミ属

                    

  ヨーロッパ原産の1、2年草で、帰化していた北アメリカから種子が穀物や牧草に混じって運ばれ来たったようで、最初、北海道に現れた。旺盛な繁殖力により今では全国的に広まり、大和(奈良県)でも道端などで見かけるようになった。その名にオニ(鬼)とあるように、全体に鋭く硬い棘があり、危険な外来種として国が定めた外来生物法による要注意外来生物に含まれるとして駆除が呼びかけられている。

  高さは1.5メートルほどになり、上部で枝を分け、長楕円形で羽状に裂ける葉をつけている。花期は夏から秋で、茎頂や枝先に紅紫色の頭花を点頭させる。茎は翼状になり、この茎にも葉にも花の総苞にもびっしりと鋭い棘が密生し、これが危険視され、法に照らされた次第である。舗装された道路でも少し土が見えるようなところには生え出し、群生する強さがうかがえる。言わば、嫌われものの典型のようなアザミで、見つけ次第処分される運命にある。 写真は歩道わきで群生するアメリカオニアザミとその花のアップ(奈良盆地の平野部で)。   寄る辺なき身の悲しさを思はしむ惨惨アメリカオニアザミの惨

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年09月29日 | 植物

<1735> 余聞・余話 「木本植物の分類 (3)」 ( 勉強ノートより )

 今回は木本植物の葉の形状による分類を見てみたいと思う。この場合、葉がひらたい広葉樹と針状の針葉樹に分けられる。温帯から熱帯にかけては圧倒的に広葉樹が多く、冷温帯から寒帯にかけては針葉樹が目立つ。これは光合成を行なう葉の働きと気侯の条件に関わると見られる。

             

 広葉樹(闊葉樹) ―――幅の広い葉を持つ樹木で、大小さまざまであるが、概して材が硬い硬材が特質としてある。(2)の項であげた分類と組み合わせると、落葉広葉樹常緑広葉樹にわけられる。例えば、落葉広葉樹にはキリ、コナラ、ネムノキ、ミズキ、アサガラ、ホオノキ、ガマズミ等々。常緑広葉樹にはシイ類、カシ類、ツバキ、アセビ等々があげられ、概して極相林を形成する原始林に見られる樹木である。

 針葉樹―――針状の葉を有する樹木で、大小さまざまにあるが、概して材が柔らかい軟材が特質としてある。こちらも落葉針葉樹と常緑針葉樹にわけられる。例えば、落葉針葉樹にはカラマツ、イヌカラマツ等がある。常緑針葉樹にはスギの仲間やマツの仲間をあげることが出来る。

 因みに、ナギやイチョウは広葉樹に思われるが、特殊な針葉樹であり、ヒノキやイブキは鱗片葉を有するが、これらも針葉樹である。ツガザクラは針状の葉であるが、広葉樹である。 写真は左から落葉広葉樹のキリ(花のとき・御所市で)、コジイ(ツブラジイ)とカナメモチの群集で知られる常緑広葉樹が優占する奈良市の春日山原始林の極相林(花のとき・国の特別天然記念物)、落葉針葉樹のカラマツ(黄葉のとき・大台ヶ原ドライブウエイで)、常緑針葉樹のスギ(雪のシーズン・吉野地方で)。

   それぞれにあるもの生の幅広さ奥深さみな生きゐるところ

 


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2016年09月28日 | 植物

<1734> 余聞・余話 「木本植物の分類 (2)」 ( 勉強ノートより )

 木本植物の分類の仕方には樹高や樹幹の形状によるほかに葉の存続期間による分類や葉の形による分類の仕方がある。この項では、葉の存続期間による分類の仕方を見てみたいと思う。樹木の葉というのはどんな樹木においても古い葉が必ず枯死して脱落し、新しい葉と入れ替わる。この入れ替わりの状況によって樹木の種別が行なわれる分類の仕方がある。

  その一つはすべての葉が1年以内に枯死し、脱落するある時期に緑色の葉が全くなくなる落葉性のものと、個々の葉には寿命があるけれども枯死する葉に代わって新しい葉が同時か落葉前に展開し、常に緑色の葉が存在し絶えない常緑性のものがある。また、すべての葉でなく、落葉する中にあって一部の葉は枯死せず残り常緑を保つ両性のものもある。

                

 前者の落葉性の樹木は落葉樹と呼ばれ、後者の常緑性の樹木は常緑樹と呼ばれる。両方の性質をもって葉の展開を見せるものは半落葉樹と言われる。葉が枯死して落ちるということは樹木自身が休眠状態になるということで、四季の国日本においては、夏に繁り、冬に葉を落とす場合がほとんどで、こうした樹木は夏緑樹と言われ、気候条件が雨季と乾季にあるところでは、乾季に葉を落とす場合がほとんどで、これに当たる樹木は雨緑樹と呼ばれる。

 落葉樹―――温帯に属する四季の国日本には多く見られ、四季によって樹木の姿が異なり、落葉樹林では風景の変化が顕著に現れる特徴がある。秋の紅(黄)葉や春の新緑もその一例で、例えば、ヤマザクラ、ブナ、ケヤキ、カキノキ、クヌギ、ミズナラ、リョウブ、ハギ、クロモジ、モミジ・カエデ類等々をあげることが出来る。

 常緑樹―――熱帯や寒帯、つまり、暖地性や寒地性の樹木に多く見られ、四季がはっきりしない地域に顕著に現れる特徴がある。四季の国日本で見えれば、ヤブツバキ、ツブラジイ、クロマツ、スギ、ヒノキ、ユズリハ、ヒサカキ、モッコク、モチノキ、クスノキ、ツガザクラ等々がある。

 半落葉樹―――落葉樹の中に含まれるが、常緑の葉が一部に見られるもので、例えば、アケビ、ノイバラ、フジイバラ、ヤマツツジ、モチツツジ、スイカズラ等々があげられる。写真は左から落葉樹のヤマザクラ(花のとき)とコハウチワカエデ(新緑のとき)、常緑樹のクスノキ(花と新緑のとき)とヒノキ(果実のとき)、半落葉樹のノイバラ(花のとき)とヤマツツジ(花のとき)。

       生(せい)の身は勤めることを求めらる 果してそれはすべてに及び

 


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2016年09月27日 | 植物

<1733> 余聞・余話 「木本植物の分類 (1)」 ( 勉強ノートより )

 前回草本について見たので、今回は木本について見てみたいと思う。樹木は樹高や樹幹などの形状によって分類され、それは個体個々の形状を言うものではなく、種の平均的状況において見るもので、ある一定の基準によって決められている。まずはその高さと形状による分類を見てみたいと思う。ただ、その基準は厳密に定められているものではなく、便宜的に決められているところがうかがえる。

 高木(喬木) ―――主幹がはっきりしていて高さが概して8メートル以上に及ぶもの。森林では高木層を形成する。例えば、モミ、スギ、ヒノキ、ブナ、ミズナラ、ケヤキ、トチノキ、サワグルミ、ヤマザクラ、センダン等々。これらは日本の温暖帯の代表的な高木(喬木)である。高木の中で極めて高く30メートル以上に及ぶものは超高木と称せられ、世界的にはユーカリやセコイアなどが代表木にあげられている。

 小高木(亜高木) ―――主幹が明瞭で、高さが概して3メートルから8メートルのもの。森林では小高木層を形成する。例えば、ヒメヤシャブシ、タカネザクラ、カマツカ、ミネカエデ、ヤマウルシ、ムシカリ、クサギ、ヒイラギ、ネズミモチ、ハクウンボク、アサガラ等々。

           

 低木(灌木) ――-通常根際または地下部で幹が分れて主幹がはっきりせず、高さが概して3メートル以内のもの。森林では低木層を形成する。例えば、クサボケ、シモツケ、ユキヤナギ、ネコヤナギ、ウツギ、レンゲツツジ、ガマズミ、ムラサキシキブ、イズセンリョウ、イボタノキ、ヤマアジサイ、クコ、メギ、ヘビノボラズ、サンショウ等々。

 半低木(亜低木) ―――低木同様の特徴にあるが、幹の根際部分だけが木化する植物で、低木の中でも低い部類に属し、草と木の中間の性質を持つもの。例えば、ヤマブキ、モミジイチゴ、ヤマハギ、コウヤボウキ等々。

 小(超)低木(矮性低木・匍匐性低木) ―――低木と同様の性質を持ち、高さが30センチ以下のもの。林内では草本層を形成する。所謂、地表植物に当たる。例えば、ミヤマシキミ、ヤブコウジ、イワナシ、ツルツゲ、ツガザクラ等々。

 なお、高低、大小を含め、蔓によって成長する蔓性木本がある。これは草本にも言えることであるが、蔓によって他物に絡んで伸びてゆくもの。例えば、ツルアジサイ、イワガラミ、フジ、トリガタハンショウヅル、ヤマブドウ、サンカクヅル、ツルウメモドキ、ツルマサキ、ツタウルシ、テイカカズラ、アケビ等々。クズは大きくなるけれども、草本であり、トリガタハンショウヅルやシロバナハンショウヅル、アケビなどは木本に分類されている。

 写真はそれぞれを代表して左から高木のトチノキ、小高木のクサギ、低木のヤマアジサイ、半低木のコウヤボウキ、小(超)低木のイワナシ、蔓性木本のフジ

    落葉して木々の様相一変す その木々あっけらかんとしてあり

 


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2016年09月21日 | 植物

<1727> 大和の花 (43) シロヨメナ (白嫁菜)とイナカギク (田舎菊)               キク科 シオン属

                                               

 シロヨメナ(白嫁菜)もイナカギク(田舎菊)もノコンギク(野紺菊)と同じシオン属シオン節の野菊で、木陰や林縁などの半日陰を好み、山地や山間地に限られ、平野部ではまず見かけない多年草である。シロヨメナは本州、四国、九州と台湾に分布する。山地で見かける白い頭花の野菊はほとんどがこのシロヨメナと言ってよいほど個体数が多い。大和(奈良県)でも、そこここで見ることが出来る。花期は9月から11月ごろで、秋に山歩きをすれば、その白い花に出会える。

 高さは1メートルほど、葉は披針形から楕円形で、大きな鋸歯があり、先端は鋭く尖る。ノコンキクの白花種やイナカギクに似るが、ノコンギクやイナカギクよりも心持ち花が小さい。イナカギクとの違いは、花柄が短いものの茎を抱かないところにある。

 イナカギクはヤマシロギク(山白菊)とも呼ばれ、本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、襲速紀要素系の野菊と見る専門家もいる。高さは1メートル前後、花の大きさは直径約2センチで、シロヨメナよりも少し大きい。茎や葉にビロード状の短毛が密生し、触れると柔らかな感触がある。葉は半ば茎を抱くのでシロヨメナとの判別点になる。 写真は左がシロヨメナ、右がイナカギク。

  花よりの教訓  (1)

     生きることは経験を積み重ねてゆくことである

     その経験に意義が認識できれば幸いである

 

<1728> 大和の花(44) センボンギク (千本菊)                                               キク科 シオン属

                                     

  センボンギク(千本菊)は渓流の岩場などに生える渓流植物の一つにあげられる多年草で、シオン属シラヤマギク節の野菊である。根や茎が丈夫であることと葉が細い特徴が見られるが、これは渓流植物の特徴の一つで、増水時の濁流に耐えるために鍛えられた自力の姿で、長い間の経験を生きる糧にしているところがうかがえる。

  本州中部地方以西、四国、九州に自生している渓流植物であるが、紀伊半島、四国、九州に分布しているものと、紀伊半島以外の本州に分布するものに違いが見られ、相対的に紀伊半島、四国、九州のものは小型で、タニガワコンギク(谷川紺菊)の別名で呼ばれているようである。写真の個体は吉野川の最上流の支流に当たる川上村の北股川の岩場で撮影したもので、撮影場所は紀伊半島の付け根に当たるところで、別名のタニガワコンギクと呼ぶ方が相応しいかも知れない。

  写真の個体は高さが30センチほどで、少ない線状披針形の葉が見られる。花は淡青紫色から白色まであり。写真の個体は白い花を元気に咲かせていた。増水すると濁流に襲われるぎりぎりの場所で、こうしたところに生える野菊もあるのだとカメラを向けながら思ったことではあった。 写真は岩場の隙間に根を下ろして花を咲かせるセンボンギクのタニガワコンギク。

  花よりの教訓 (2)

           生の経験はそれぞれにあり それぞれである 経験なくして生はあり得べくもなく 経験によって生の姿は変転してゆく

           その変転してゆく生の姿は 美しいことが何よりで 美しいことに越したことはない

 

<1729> 大和の花 (45) オオユウガギク (大柚香菊)                                   キク科 シオン属

                                               

  シオン属ヨメナ節に属するヨメナの仲間の多年草で、近畿地方以北の本州に分布するユウガギク(柚香菊)に対し、中部地方以西、四国、九州に分布し、国外では中国東北部からシベリアに見られるという。湿地や田の畦などに多く、山地には見られない野菊で、この点はヨメナに似る。高さが1メートル超、軟らかでしなやかな茎と厚手の楕円状披針形の葉により倒れるケースが多い。頭花は直径4センチほどになり、見た目にはノコンギクやヨメナよりも大きく、このためか、群生する花は乱れがちになることがある。

  花期は8月から11月ごろで、黄色い筒状花を淡青紫色の舌状花が取り巻き、ヨメナやノコンギクに似て紛らわしい。だが、花が大き目であることと舌状花が細身であることから花の雰囲気は幾分異なる。なお、和名にある「ユウガ」は優雅ではなく、柚香で、ユズ(柚子)の香りから来ていると言われるが、実際にはあまり香らない。 写真は休耕田に群生するオオユウガギク(左)と花のアップ(いずれも明日香村で)。

  花よりの教訓 (3)

        咲く花を見よ 見るほどに花は似ているけれども 一つとして同じ花はない 花も経験を積み重ねながら 生き継ぐ働きとして

         みな咲いている 輝く花も傾き萎れる花も  経験を積み重ねながら存在している  これは人にも言え 人生にも当てはめられる

 

<1730> 大和の花 (46) コモノギク (菰野菊)                                                  キク科  シオン属

                               

  鈴鹿山脈のほぼ中央に当たる御在所岳(1212メートル)のある三重県菰野町の地名に因みこの名がある多年草で、近畿地方の太平洋側、即ち、紀伊半島から四国にかけて分布する日本の固有種で、襲速紀要素系の植物にもあげられているシオン属シラヤマギク節の野菊である。大和(奈良県)では、大峰、台高山脈の高所部の岩場に自生し、自生場所が限られているうえ個体数も少ないためレッドリストには絶滅寸前種としてあげられている。

  私は大峰、台高の山岳4箇所ほどで見かけたが、全てがシカも近寄りがたい絶壁の崖地で、みな崖地のわずかな土に根を下ろし、風雪に耐えて命脈を保っている共通点が見られた。花期は7月から9月ごろで、場所は限定的であるが、コモノギク(菰野菊)の花が咲く期間は長いので、場所さえわかれば、花に出会うのはそんなに難しくはない。

  草丈は50センチほどになり、葉は長楕円形で、少し厚みがあり、半ば茎を抱く。茎頂や側枝の先に淡青紫色の舌状花と黄色い筒状花の頭花をつけるが、舌状花は限りなく白色に近い。群生しても花はそれほど密にはならず、点々と咲く。蕾が球形になるので、タマギク(玉菊)とも呼ばれる。 写真は絶壁の岩上を居場所にして花を咲かせるコモノギク。(大峰山脈の標高1650メートル付近で)と花のアップ(舌状花は白く見える)。

  花よりの教訓  (4)

        輝く花も萎れるときが来る  傾き萎れる花も輝くときを経験し  経験が生そのものであれば  経験に勝るものはない

        経験より生に生じる意義と美しさ  それを学び認識できれば その経験即ちその生は幸いと言えよう

 

<1731> 大和の花 (47) シオン (紫苑)                   キク科 シオン属

                      

  属名にもなっている多年草の野菊で、山地の草地に生える。日本列島では中国地方から九州に自生するものがあると言われるが、妙なことに四国には自生しないという。海外では朝鮮半島から中国北部、シベリア等、東アジアに広く分布している。シオン(紫苑)の名は根が紫色を帯びているからで、漢名紫菀の音読による。『万葉集』には登場を見ないが、『枕草子』や『源氏物語』にはその名が見え、着物の裾模様にも描かれた。

  『今昔物語』にはヤブカンゾウ(薮萱草)の忘れ草に対し、思い草として登場し、親を亡くした兄弟の話に用いられている。兄は仕事のため忙しい身であったので親のことをなるべく忘れたいと思い忘れ草のヤブカンゾウを墓に植えた。弟は親を忘れたくないと思い、思い草のシオンを植え、墓参を欠かさなかった。この様子を見ていた墓守の鬼が弟の孝心に感心し、褒美を与えて報いた。この話によりシオンは鬼の師子草とも呼ばれるようになった。また、シオンはノシ、シオニという古名でも知られる。

  シオンは高さが大きいもので2メートル前後になり、直立する茎に長楕円形の葉を密につけ、下部から徐々に小さくなり、上部で枝を分けて、8月から10月ごろ淡紫色の舌状花と黄色い筒状花の直径3センチほどの頭花を散房状に多数咲かせる。茎や葉はざらつくが、その花が平安貴族の女性たちに好まれ、観賞されたものと思われる。

  また、シオンは乾燥した根を煎じて鎮咳や去痰の薬用植物として中国から渡来したが、花に魅力を感じたことによって観賞用に植えられ、都でも見られるようになったのではなかろうか。現在、大和(奈良県)に見られるものは植えられたものか、植えられたものが野生状態に置かれているもので、自生するものではない。 写真は野生状態になって花を咲かせるシオン(左)と畑の一角に植えられたシオン。

  花よりの教訓  (5)

         生の世界は経験を積み重ねるものたちによって展開されてゆく

         経験にはそれぞれに悲喜苦楽がまといつくのが常であるが

         経験に意義と美しさが認識できれば当事者には何よりである

 

<1732> 大和の花 (48) フランスギク (仏蘭西菊)                                     キク科 キク属

           

  ヨーロッパ原産で、その名はフランスの国名に因む。ヨーロッパのみならず、アジアや南北アメリカ等に広く分布している多年草で、温帯に多く自生するが、一部熱帯でも見られるという。日本でも各地で野生化し、大和(奈良県)でも植えられたものが逸出して野生化したものが見られる。所謂、フランスギクは外来種の帰化植物である。

  茎は直立し、其部で分枝し、高さが80センチほどになる。葉は柄のあるヘラ形の根生葉と互生して茎を抱く茎葉があり、根生葉で越冬する。花期は5、6月ころで、茎頂や枝先に直径5センチほどの白い舌状花と黄色い筒状花からなる頭花を咲かせる。その花は帰化植物の認識によるからか、異国を感じさせるところがある。まだ、野生化して間がないので野菊としては未熟であるが、そのうち風土に馴染んで野菊の一つに認められるに違いない。 写真はともに林道工事で造られた則面を飾るため播かれた種が周囲に散って道路脇の草地で野生化したもの(黒滝村で)。写真の色調が異なるのは日当たりと日陰によるもので、同じ群落の花である。

 以上が大和(奈良県)で私が出会った野菊と称せられるキクと言ってよいが、大和地方では限定分布する珍しいキク属のイワギク(岩菊)とシオン属のキシュウギク(紀州菊)とも呼ばれるホソバノギク(細葉野菊)には未だ出会えずにいる。奈良県におけるイワギクは絶滅寸前種、ホソバノギクは絶滅危惧種の野菊で、私にはこれからも挑戦したい野菊ではある。

  花よりの教訓  (6)

         経験は自らが負うものであれば 経験は自らのもの だから経験の 意義は自らのものであり 美しさも自らのものである

         この経験から得られる意義も美しさも 全体の中に融合され 全体の意義と美しさにつながる これが生の仕組み 姿である

         それぞれに咲く花々があり それぞれに生きる私たちがいて 花々も私たちも 全体に与しながら生の世界は展開している

         つまり 経験は自らがそれぞれに負うもので、経験を生かすも生かさないも それは自らにかかっているということである