大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2014年08月01日 | 植物

<1062> ニッコウキスゲ?を思う

        山ガール にも追い越され 夏の山

 大台ヶ原山の植生の話、今一つ。突出した巨岩で知られる大蛇嵓に立つと、右手の眼前に垂直に切り立った屏風のような岩壁が見える。高さは三百メートル以上あると思われる燕篭嵓(せいろぐら)と呼ばれる断崖であるが、その中ほどの棚状になったところにニッコウキスゲと思われる葉の細い植物が群落を作って生えている。

 ちょうど八月はじめの今の時期、黄橙色の花が点々と見られる。花は大型で、大蛇嵓からでも肉眼で何とか花であるのが確認出来る。で、昨日は四百ミリレンズに二倍のテレプラスをつけて撮影を試みた。ここに掲げた二枚の写真がそれである。アップの方は三分の二ほどトリミングしたもので、解像度がよくないが、これは我が撮影の限界である。

         

 私の見るところ、ニッコウキスゲだと思うが、ノカンゾウかも知れないという思いも絡む。ニッコウキスゲもノカンゾウもユリ科ワスレグサ属の多年草で、細長い葉を有し、群生する。花はユリに似た黄橙色の六花被片からなる漏斗状花で、七月から八月ごろにかけて花茎を伸ばし、先端部に数個の花をつぎつぎに開く。花はともに朝開き夕方萎む昼咲きの一日花である。

 分布はニッコウキスゲの方が中部以北とされ、日光の戦場ヶ原がよく知られ、この名がある。別名のゼンテイカは禅庭花で、これは戦場ヶ原を中禅寺の庭に見立てることによって生れた名だという。南端地に当たる滋賀県の息吹山はよく知られる自生地である。山地から亜高山帯に見られる、どちらかと言えば、冷涼地の植生である。これに対し、ノカンゾウの方は北海道を除く全国各地に分布し、沖縄でも見られる温暖地系の仲間で、田の畔や山足などの少し湿り気のある草地に生える特徴がある。ノカンゾウは一重咲きで、大和では希少種にあげられている。なお、大和では八重咲きのヤブカンゾウが六月ごろから咲き始め、よく見られる。

 燕篭嵓は千四、五百メートルほどの標高にあり、冬場は零下になる厳しい場所である。雨量は多く、激しい雨に見舞われる場所でもある。夏場にはよく霧が発生し、完全に乾燥することはない。崖地であるからシカによる食害はない。この岩壁にはシモツケソウの花も確認出来、ほかの場所にも点々と黄橙色の六花被片の花が見えるので、どのような手段でそのような広がりの状況になっているのか、燕篭嵓におけるこれらの諸条件を総合して考えてみると、ノカンゾウよりもニッコウキスゲの方が、この岩壁には適合しているように思われる。また、ニッコウキスゲとするのは、写真を見るに、ニッコウキスゲの特徴である葉が根際から扇形に出ているように見えるからである。どうだろうか。

 この岩壁に点々と見えるのは、種子が何らかの形でそれぞれの場所に運ばれて着床されたからであろうが、その方法は何であるか。巻き上がって来る風雨によるものか、それとも鳥が運び役になったか、そのようなことが想像される。こういう植生をしっかりと確認するにはクライマーによるしかなかろう。私にはここまでが限界である。この岩壁の花がニッコウキスゲであれば、その分布は大和(奈良県)にも及ぶということになる。どうなのであろうか。私には、ノカンゾウがこんな深山の絶壁に生育し、花を咲かせているとは考えられないのである。

 昨日の山歩きは、こういうこともあり、大蛇嵓で時間を費やした。帰りはシオカラ谷のコースを辿り、雷の音を聞きながら登り返したが、途中、ヒメシャラの花を撮っていて山ガールの三人に追い越されてしまった。写真は左の二枚が燕篭嵓のニッコウキスゲ?と牛石ヶ原付近の風景。

 


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2014年04月29日 | 植物

<968> 花の大和 (3) ツツジ (躑躅)

      満開の 躑躅に人みな 観賞者

 ツツジ科ツツジ属の植物を総称して一般にツツジと呼ぶ。単にツツジと言えば、この総称をして言うもので、個別にはミツバツツジとかヤマツツジとかサツキとか、それぞれ種名をもって呼ばれる。つまり、ツツジというのはその種の全体を称して言うものである。花はみな漏斗状に開き美しい。ただ、シャクナゲはツツジ属であるが、シャクナゲ亜属としてツツジとは言われない。

 一方、ドウダンツツジやアブラツツジのようにツツジの名を持つものがあるが、これらはツツジ科ではあるが、ツツジ属ではなく、漏斗状花をつけないので総称のツツジには入れ難く、一般にもその認識があるように思われる。また、ヒカゲツツジはツツジ属ではないが、黄色い漏斗状花を咲かせるので、一般に言われる総称のツツジの中に入れられるものであろう。ツツジの仲間はこういう事情があるからややこしいところがある。このことを念頭に置いて大和のツツジを紹介したいと思う。

 ツツジにはミツバツツジのように春先に咲く花期の早いツツジからその名でもわかるように旧暦の五月ごろ開花するサツキや春から夏にかけて長く見られるヤマツツジのようなツツジもある。大和はツツジの宝庫で、平地から深山まで十種以上のツツジが自生分布している。

 ツツジは乾燥した痩せ地や岩場などに多く見られ、壮年期の峻嶮な地勢にある大和南部の山岳地帯にはいろんなツツジが自生している。ツツジの漢名は躑躅(てきちょく)で、これはふらふらになっている足取りを言うもので、ツツジを食べた家畜がそのような症状に陥ったことによるという。

                               

  この家畜の状況はツツジ類に毒性のある証で、シカの食害が深刻な大和南部の山岳地帯にあって、ツツジが多く見られるのは、ツツジが自らの毒性によって被害を免れていることを物語るものと言える。中でもレンゲツツジは毒性が強く、シカの多い奈良市の若草山の草地にレンゲツツジが多く見られるのも納得されるところである。

 一方、刈り込みや管理がしやすい低木のツツジは社寺や公園などに多く植えられ、そこでは園芸種の花が楽しまれている。中でも花の艶やかなヒラドツツジ、キリシマツツジ、オオムラサキ、サツキ、クルメツツジなどが目を引く。殊にゴールデンウイークに花期を迎えるヒラドツツジやオオムラサキ、キリシマツツジなどはこの時期の花として見逃せないものがある。

 大和でツツジの名所と言えば、何と言っても大阪・奈良府県境の大和葛城山(九五九メートル)をあげることが出来る。山頂より南の斜面一帯に「一目百万本」と言われるヤマツツジやレンゲツツジが見られる。花期はゴールデンウイークより遅く、五月中ごろが見ごろになる。

  ほかには、宇陀市榛原の鳥見山自然公園や大和高原の主峰、神野山(六一九メートル)のツツジがあり、花期はゴールデンウイークのころからが見ごろである。平野部では寺院でよく見られ、私の知る限りでは、天理市柳本町の山の辺の道近くの長岳寺、大和郡山市小泉町の慈光院、御所市船路の船宿寺などがあり、ヒラドツツジなどがゴールデンウイーク前後に花を見せる。

 五月から六月にかけては深山にも各種ツツジの花が見られるが、ここでは省略したいと思う。どちらにしても、ツツジは美しい花を咲かせる花木の代表格であることに間違いない。写真は左が長岳寺のヒラドツツジ。中央は葛城山のヤマツツジ群。右は鳥見山自然公園のヤマツツジ。

 なお、『万葉集』にはツツジを詠んだ歌が九首見えるが、やはり、花に関心が持たれているのがわかる。花の色では「白」や「丹」の字が見える。「丹」はヤマツツジやミツバツツジ類が想像されるが、「白」は園芸種のなかった時代ゆえ、シロバナウンゼンツツジではないかと思われる。生える場所で「岩つつじ」と見えるのはサツキではないか。このブログの「万葉の花 つつじ」の項を参照されたい。

 


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2012年06月09日 | 植物

<281> 大和に見るツツジ科の仲間たち (1)

       石楠花の 花を求めて 霧の中

 ツツジの花を採りあげたので、ついでに大和における他のツツジ科の仲間たちを私の出会った範囲で四回に分け紹介したいと思う。自生する野生のもので、植栽による園芸種は除く。これらを総合するに、大和に自生分布するツツジ科の七割方は紹介出来ると思われる。では一回目はツツジ属シャクナゲ亜属、トキワバイカツツジ亜属、ヨウラクツツジ属の花を見ていただくことにしよう。

 シャクナゲの仲間で大和の山々に自生するのはツクシシャクナゲとホンシャクナゲで、ツクシシャクナゲは紀伊山地より南に自生し、ホンシャクナゲは北に自生する。大和のシャクナゲは両者の混在する様相にあるが、両者は極めてよく似て、判別は葉の裏面や花の毛の生え方によって見るが、どちらにもとれる中間型のものが多く、判別は撮影時の判断によった。

 トキワバイカツツジの仲間では、紀伊山地の限定される山地にしか見られない希少なバイカツツジが見られる。バイカ(梅花)とあるごとく、ウメの花に似たかわいらしい花を咲かせるが、花つきが少ないので目につき難く、写真は探し求めて何回目かに撮影したものである。

 ヨウラクツツジ属では、ウスギヨウラク(ツリガネツツジ)とコヨウラクツツジが見られる。ウスギヨウラクの方は標高にかかわらず、低山帯から亜高山帯まで広く分布している。コヨウラクツツジの方は標高が千五百メートル以上の山地に見られ、大和では希少種である。

 写真は左からホンシャクナゲ(台高山系の日出ヶ岳)、ツクシシャクナゲ(大峰山脈の七曜岳)、バイカツツジ(下北山村の山中)、ウスギヨウラク(御杖村の山中)、コヨウラクツツジ(大峰山系の稲村ヶ岳)。