大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年11月30日 | 植物

<2883>  大和の花 (949) コウスユキソウ (小薄雪草)                              キク科 ウスユキソウ属

                        

 山岳高所の岩場や乾燥した礫地に生えるウスユキソウ(薄雪草)の変種として知られる多年草で、草丈は10センチから15センチほど。茎は叢生し、葉は長さが2センチ弱のへら形で、毛が生え、全体に白っぽく見える。西洋のエーデルワイスは仲間である。

 花期は7月から8月ごろで、花は枝先につき、灰白色の頭状花が白い苞葉の上につく。ウスユキソウ(薄雪草)の名はこの姿が薄く積もった雪のような印象にあるからで、コウスユキソウ(小薄雪草)はウスユキソウより小振りのためである。

  本州の紀伊山地(奈良県の大峰山脈高所)と四国の山岳(おもに愛媛県)、九州(宮崎県)に分布を限る日本の固有変種で、大和(奈良県)では絶滅寸前種にあげられている。筆者は天川村の稲村ヶ岳(1726メートル)で2008年8月に一度出会ったが、そのときは一株だけで、シオガマギクと混生して見られた。 写真はコウスユキソウ(シオガマギクの葉も見える・稲村ヶ岳の礫地)。    寒菊の花の盛りの日和かな


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年11月28日 | 植物

<2881>  大和の花 (947) ホソバノヤマハハコ (細葉山母子)                    キク科 ヤマハハコ属

       

 日当たりのよい山地の草原に生える多年草で、中部地方を境に東のヤマハハコ(山母子)と本種は分布を分かつ西日本型。国外では朝鮮半島、中国に見られるという。ヤマハハコが高さ60センチほどになるのに対し、本種は30センチほどと小振りで、線状披針形の互生する葉もやや細いのでこの名がある。全体に毛が多く、白っぽく見える。

 雌雄異株で、花期は8月から9月ごろ。茎上部の枝先に散房花序を出し、多数の頭状花をつける。頭状花の白い部分は総苞片の集まりで5、6重に囲み、花弁のように見える。雄花では黄色い管状の両性花が見られ、雄しべが目立つ。雌花では黄色い花冠が糸のように細い違いがある。

 大和(奈良県)では標高1300メートル以上に見られ、大台ヶ原ドライブウエイ沿いの草地に群落が見られるほか東吉野村の明神岳(1432メートル)登山道でも出会ったことがある。ヤマハハコ(山母子)の名は山に自生するハハコグサの意による。 写真はホソバノヤマハハコ。左から花を咲かせる群落、雄花のアップ(大台ヶ原ドライブウエイ)、つぼみの個体(明神岳)。                             毛布出づちゃんちゃんこ出づ冬が来ぬ

2882> 大和の花 (948) カワラハハコ (河原母子)            キク科 ヤマハハコ属

       

 川原や河川敷に生える多年草で、茎の下部からよく分枝し、こんもりとまるまった株をつくり、高さが30センチから50センチほどになる。地下茎を伸ばして繁殖し、群落をつくることが多く、濁流に襲われるようなところにも生え出していることもある。葉は長さが3センチから6センチほどの線形で、全体に細い毛が生え白っぽく見える。

 ヤマハハコの変種とされ、雌雄異株で、花期は8月から10月ごろ。上部の枝先に頭状花を多数つける。花は総苞片が5、6列に並んで囲み、白色の乾いた膜質で、花弁のように見える。実際の花はその内側の黄色の部分で、雄花には両性花、雌花には雌花がおもにつく。両性花は結実しないと言われる。

 北海道、本州、四国、九州に分布する日本の固有変種で、大和(奈良県)では十津川村や下北山村など南部に見られる。十津川村では切通しの崖地などにも生え出しているが、自生地が極めて少なく、頻発する洪水の影響か、減少傾向が著しく、絶滅寸前種にあげられている。 写真はカワラハハコ。花を咲かせる大きな株(左)、崖地の貧弱な個体(中)、崖地の花(右・いずれも十津川村)。     冬雲の冬の色もて塔の上

 


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2019年11月27日 | 植物

<2880>  大和の花 (946) イチョウ (公孫樹・銀杏)                                 イチョウ科 イチョウ属

              

 中国原産とされ、中生代ジュラ紀(約1億9千万年前)の生き残りとして知られる1科1属1種の落葉高木で、高さは30メートルにも及び、巨樹古木が見られ、老木になるとしばしば乳と呼ばれる気根の一種が出来る。樹皮は灰白色で、縦に裂け、コルク層が発達するので弾力がある。枝は長枝と短枝がある。葉は幅が5センチから7センチの扇形で、両面とも無毛。ときに切れ込みの入るタイプも見られる。長い柄を有し、長枝では互生、短枝では輪生状につく。

  イチョウは雌雄異株裸子植物で、花期は4月から5月ごろ。葉の展開とほぼ同時に開花する。雌雄とも短枝の葉腋に束生し、雄花は長さが2センチほどの円柱形で、多数つき、雌花は細長い柄の先に剥き出しの胚珠が1、2個つく。風で運ばれる花粉が胚珠の花粉室に取り込まれ、発芽して精子が出来る。精子は秋口に放出され、卵細胞を受精し、実になる。

  このとき、種子を葉につける現象が起きる個体があり、お葉つきイチョウと呼ばれ、この現象は植物の系統的深化発生を示すもので学術研究の資料として極めて貴重な存在であるとされている。実(種子)は晩秋のころ熟し、外種皮が黄色を帯び、悪臭があって、皮膚にふれるとかぶれる。中種皮は白く堅い核果で、銀杏(ぎんなん)と呼ぶ。

  黄葉が美しく、街路樹や公園樹として植えられ、各地に見られる。大和(奈良県)では古社寺に関わる巨樹古木が多く、『奈良の巨樹たち』(グリーンあすなら編)にも桜井市素戔雄神社の初瀬の大イチョウ(推定樹齢600年)や同市音羽観音寺のお葉つきイチョウ(推定樹齢500年、県の天然記念物)をはじめ、御所市の一言主神社、宇陀市の戒長寺、同市下田口水分神社、御杖村の土屋原春日神社、広陵町の弁財天社、下市町の広橋観音堂、五條市の和田丹生神社、天川村の坪の内来迎院などのイチョウがあげられている。天理市内のイチョウ並木の街路樹はよく知られ、奈良公園一帯にも巨樹や古木を誇るイチョウが見られ、黄葉の時期には一段と映える。

 日本への渡来は室町時代ではないかと言われるが、はっきりとしていない。社寺にイチョウの巨樹や古木が多いのは、中国への留学僧が持ち帰ったことに由来するとの説があるが、社寺を象徴する威厳がイチヨウ自体に具わっているからと言えそうである。材は軟らかく、緻密で、艶があり、天井板や床板、将棋、囲碁盤、将棋の駒、算盤玉などに用いられる。銀杏は茶碗蒸しに欠かせない食材であるが、多食すると中毒を起こすので要注意である。

 なお、イチョウの名の由来には諸説あるが、葉がカモの脚に似ているので、鴨脚(おうきゃく)とも書かれ、これを中国語で「ヤァチャオ」と読み、これがイチョウになったというのがもっともらしい。銀杏(ぎんなん)の名は唐宋音の「ギンアン」が転じたものと言われる。よく知られるイチョウの紋所は扇形の葉が形象化されたもので、室町時代に家紋として定着した。因みに東京大学のイチョウのバッジは学生からの応募によるもので、校庭のイチョウがモチーフと言われる。 写真はイチョウ。左から雄花、枝の実、お葉つきイチョウ、黄葉。  大銀杏天下の黄葉下の眼


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2019年11月26日 | 植物

<2879>  大和の花 (945) カキノキ (柿の木)                                  カキノキ科 カキノキ属

          

 中国原産で、古くから栽培され、日本にも渡来したと考えられている落葉高木で、10メートルほどの高さになる。樹皮は灰褐色で、成木になると、縦に裂けて剥がれる。葉は長さが7センチから15センチの広楕円形で、先は短く尖り、縁に鋸歯はなく、やや光沢があり、秋の紅(黄)葉が美しい。

 雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。新枝の葉腋に淡黄色の花をつける。雄花は直径1センチ弱の鐘形で、先が4裂し、裂片の先は反り、雄しべは16個ある。雌花は雄花より一回り大きく、広鐘形で、裂片は反り返り、雌しべ1個が目につく。また、雌花には印象的な大きな萼片が4個取り巻き、実になっても残る。

  実は液果で、秋になると、橙赤色に熟す。甘柿と渋柿に大別されるが、多くの品種が栽培されている。カキの実は日本が誇る果物の1つで、大和(奈良県)は隣りの和歌山県とともにカキの一大産地として知られ、大和が発祥の御所柿や刀根早生は有名。奈良県には五條市にカキの博物館があるほどで、カキの生産に力を入れている一面がうかがえる。

  近隣の里山にはカキノキが点在し、ヤマガキと言われるが、栽培していたものが野生化したものか、自生のものかははっきりしない。ほかにも実が小さいマメガキ(豆柿)の類がある。カキ(柿)の名は、赤い実がなるアカキのアを略したものなど、その由来には諸説ある。

  実は完全甘柿、不完全甘柿、完全渋柿、不完全渋柿などに多くの品種が見られ、渋柿の場合は渋抜きをするか干し柿にして食べる。渋柿から採れる柿渋は渋紙や雨合羽、塗料などに用いられる。材は堅く緻密で、珍重される。薬用としても知られ、へたを漢方では柿帯(してい)と呼び、夜尿症などに、また、柿渋はしもやけに効能があり、葉は柿の葉茶として用い、止血、血圧降下によいと言われる。大和地方にはカキの葉で握りの寿司を包む特産の柿の葉寿司がある。

  日本には奈良時代に中国から渡来したとされるが、記紀や『万葉集』など古文献に登場しないので奈良時代にはなかったという一方、万葉歌人柿本人麻呂に柿の字が見えることから当時すでにカキノキはあったという見方もある。カキノキは身近な木であるため、例えば、「カキノキから落ちると死ぬ」といった俗信が各地にある。これは枝木が折れやすいことへの注意喚起で言われたのではないか。また、熟れた赤い実を1つだけ残す木守柿の風習があるが、これは日本的精神性の現われと見なせる。  写真はカキノキ。左から雄花、雌花、熟した実を啄むヒヨドリなどの野鳥、里山で実をならせるヤマガキ。 吊し柿売らるる風情法隆寺

 


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2019年11月25日 | 植物

<2878>  大和の花 (944) ワレモコウ (吾木香・吾亦紅)                                バラ科 ワレモコウ属

                          

 日当たりのよい山野の草地に生える多年草で、高さが50センチから1メートルほどになる。丈の低いほかの草と混生する。葉は奇数羽状複葉で互生。小葉は長さが4センチから6センチの長楕円形乃至は楕円形で、多いもので13個つき、縁には粗い鋸歯が見られる。

 花期は8月から10月ごろで、茎頂や枝先に長さが2、3センチの楕円形の穂状花序を点頭し、暗紅紫色の小花を多数団子状につける。花に花弁はなく萼片が目につく。開花は上から下に向かい、萼片、雄しべはともに4個で、葯は黒色。

 ワレモコウ(吾木香・吾亦紅)の名は、葉に微かな芳香があるため、キク科のモッコウ(木香)に由来するとか暗紅紫の花が自分も紅色であると主張するという説など諸説あるが、「吾もまた紅」と主張する見方はユニークで、名の由来にはこの説を採りたい気分になる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、シベリアなどに見られるという。大和(奈良県)では高原や棚田の畦など、草丈の低い草地でよく見かけるが、葛城山では見かけるものの曽爾高原では出会わない。何故か。ススキの成長を促す火入れが毎年実施あれているのが影響しているのかも知れない。

 なお、ワレモコウはリンドウとともに秋のしんがりの花で、風情があり、花材として定評がある。また、漢方では乾燥させた根茎を地楡(ちゆ)と称し、煎じて止血薬とし、口内炎のうがいにも用いる。若葉は食用になる。  写真はワレモコウ。花序には多数の小花が密につき、花弁のように開いて見えるのは萼片で、4個。萼片の内側に雄しべが見え、これも4個(生駒市高山町ほか)。                      吾亦紅日当たりに咲く畦の道