大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年01月27日 | 植物

<1855> 大和の花 (131) カタバミ (酸漿・傍食・片喰)                      カタバミ科 カタバミ属

         

 茎が地を這って広がり、庭や道端に生える多年草の雑草で、春から秋にかけて1センチ弱の小さな黄色の5弁花を咲かせ、そこいら中で普通に見られる。花が萎むと下向きになり、その先端に出来る円柱形の蒴果は上向きになり、熟すとはじけ、多数の種子を辺りにまき散らす。茎が地を這う勢いとこの種子の散布により、取っても取っても直ぐに生え出して来る繁殖力がある。

  カタバミ属の仲間は葉が就眠運動をし、夕方になると長い柄の先についたクローバーに似たハート形の3個の小葉が主脈を中心に閉じて一方が欠けたように見えるのでこの名がある。漢字では酸漿の字が当てられているが、これは茎葉に蓚酸を含み、噛むと酸っぱいことによる。別名のスグサ(酸草)やスイモノグサ(酸い物草)もこの蓚酸に由来する。このように、カタバミは蓚酸を含むため、昔は生食のほか、塩もみ、漬物等にし、全草を煎じてその煎汁によって患部を洗浄し痔や皮膚炎などに効能があるとして民間薬に用いられた。また、蓚酸の効用によりカタバミで鏡や真鍮等を磨いたという。

 カタバミの仲間はその繁殖力により、日本全土をはじめ世界に広く分布する広域植物の一つにあげられ、地方名も多く、その数は180以上にのぼるという。奈良公園や若草山ではその繁殖力によりシカの食害に遭いながらも、矮小化して生き延びる姿がそこここに見受けられる。このように、カタバミは繁殖力により、武家に好まれ、葉を模った家紋が桐紋に次いで多用されて来た。なお、カタバミは葉が緑色のほか濃紫紅色の葉を有するものがあり、これは変種としてアカカタバミと呼ばれる。このカタバミは日照りに強いタイプで、生える場所を異にする。

 写真は左からカタバミの花と実、花のアップ(アブの仲間が来ていた)。次は若草山の草原で見かけた矮小化したカタバミ(地に貼りつくように生え、花を咲かせていた)。右端の写真はカタバミの変種で知られるアカカタバミ。  寒の朝走る人あり競はずに

<1856> 大和の花 (132) ミヤマカタバミ (深山傍食)                         カタバミ科 カタバミ属

         

  その名にミヤマ(深山)とあるが、低山からその山足、山間の低地に至る半日陰の地に見られる多年草で、カタバミ属の特徴として見られる葉の就眠運動によって長い柄を有する3小葉が開いたり閉じたりする。その小葉は三角形に近く、付け根は切り形で、中央が凹み、両先は尖らず、開くと3小葉は形よく一組になり、瑞々しい緑色が映えて美しい。

  花期は3月から4月ごろで、花茎の先端に直径3センチから4センチほどの白い5弁花を普通横向きに開く。花弁には紫色の条が入るものも見られ、その姿はよく目につく。花期を過ぎると閉鎖花をつけ、閉鎖花はよく結実する。本州、四国、九州に分布し、ヒマラヤにも見られるという。花期に金剛山に登れば、その白花に出会える。また、奈良盆地周辺の青垣の山足でも見られる。

 写真は左から根生の瑞々しい緑の葉に白い花が映えるミヤマカタバミ、低いアングルから見た花、花期の過ぎた6月に撮影した閉鎖花(いずれも金剛山)。      固けれど春を秘めつつ冬芽立つ 立つは即ち明日への望み

<1857> 大和の花 (133) コミヤマカタバミ (小深山傍食)                     カタバミ科 カタバミ属

       

  深山の針葉樹林帯に見られるカタバミの仲間の多年草で、北半球の温帯から亜寒帯に広く見られ、日本では中国地方を除く北海道から九州まで分布し、大和(奈良県)では主に紀伊山地の台高山系や大峰山系の標高1500メートル以上の高所部に自生している。ミヤマカタバミによく似るが、全体に小振りでこの名がある。また、葉の形がミヤマカタバミより丸みを帯びるので雰囲気を異にする。

  花期は6月から8月ごろで、生える場所の標高差によるからか、ミヤマカタバミが春季の花であるのに対し、コミヤマカタバミは夏季の花である違いが見られる。花は直径が2センチから3センチの白色5弁の花であるが、ときに花弁全体に淡紅色の条が入り、別種を思わせるような花にも出会うことがある。こうした花に出会えるのも野生の花を求めて巡る山岳行の楽しみの一つである。  

  写真は左から葉に丸みが見られるコミヤマカタバミ。苔むしたトウヒ林の林床に生え出し、花を咲かせるコミヤマカタバミ。花には小さなクモの仲間が来ていた。次の写真は花弁に淡紅色の条の入った個体。葉が閉じられているのは就眠運動によるもので、日が差していない早朝に出会ったからと思われる。右端の写真は淡紅色の条が濃いタイプの花で、別種を思わせる姿があった。大台ヶ原山と大峰山系の弥山(みせん)山頂付近での撮影)。  冬耕に虫出でゐたり百舌来たる果して生きるものたちの地表

<1858> 大和の花 (134) ムラサキカタバミ (紫傍食)                            カタバミ科 カタバミ属

                                                  

  南アメリカ原産の帰化植物として知られるカタバミの一種の多年草で、紅紫色の5弁花を咲かせるのでこの名がある。カタバミの仲間は宿根性のものと球根性のものとがあり、カタバミのような在来種はほとんど宿根性であるが、外来種には球根性のものが多く、このムラサキカタバミも球根性で、鱗茎を有し、花の美しさが目につく。花期は5月から7月ごろである。

  このため、江戸時代に観賞用としてもたらされ、植えられていたものが逸出して野生化し、今では関東地方以西に分布、道端の草むらなどで野生然として見られるようになった。日本のムラサキカタバミは結実しないが、鱗茎の片々によって繁殖し、その勢いはカタバミに劣らないほどで、暖かな場所では長い柄を有するハート形の3小葉が枯れることなく青々として見える。我が家の庭にはカタバミとともにいつの間にかムラサキカタバミが入り込み、鱗茎ごと取らないと、また、同じ場所に生え出して来るといった具合である。 写真は紅紫色の花が艶やかなムラサキカタバミと花のアップ。    命あるものに生きゐる強さあり弱さの中の強さなりけり

 <1859> 大和の花 (135) イモカタバミ (芋傍食)                                カタバミ科 カタバミ属

         

  ムラサキカタバミと同じく南アメリカ原産の帰化植物の多年草で、観賞目的により渡来した。ムラサキカタバミは根茎が葉の変形した鱗茎であるのに対し、イモカタバミは茎が変化した塊茎の違いがある。このため、鱗片によって繁殖するムラサキカタバミに比べ、繁殖力が劣り、逸出して野生化したものもムラサキカタバミほどには見られない。

  花期は4月から9月と長く、ムラサキカタバミより一回り小さい濃紅色の5弁花を咲かせる。花の色はよく似るが、イモカタバミでは花弁の基部が濃い特徴がある。花が小さいかわりに多数つくのでにぎやかに見える。雄しべは10個で上下に五個ずつ分離してつくので、黄色い葯は5個しか見えない。 写真は群生して花を咲かせるイモカタバミと花のアップ(大和郡山市内)。   ぶり返す寒さに熱きコーヒーを欲せば視野に蹲る猫

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年01月26日 | 写詩・写歌・写俳

<1854> 余聞・余話 「法隆寺の防火演習」

         寒中の寒の緩みの日差しかな

 文化財防火デーの二十六日、世界遺産の奈良県斑鳩町・法隆寺で防火演習があった。昭和二十四年(1949年)一月二十六日に解体修理中の金堂から出火し、世界最古の木造建造物群の一つとして知られる金堂が焼け、全焼は免れたが、国宝の壁画が焼損した。この火災をきっかけに、昭和三十年(1955年)、国はこの日を文化財防火デーに定め、文化財保護の啓発を始めた。この呼びかけにともない、法隆寺では毎年この日に防火演習を行なっている。

                                                                

 防火演習の一斉放水は恒例となり、今日も西和消防署、地元斑鳩町消防団、法隆寺の自警団等が参加し、防火を願う法要の後、午前十一時から境内の鏡池畔で五重塔などの国宝建造物群を背景に消防車四台によって一斉放水が行なわれた。このところの冷え込みで池面は薄く氷が張っていたが、放水は威勢よく、塔を凌ぐ高さまであがった。快晴の天侯で、放水によって虹が現われた。

  法隆寺では平成三十年(2018年)末の完了を目途に中門の解体修理が行なわれており、文化財保護が一層望まれるところである。 写真は好天に恵まれ、虹が出来た防火演習の一斉放水(左)と西門に掲げられた文化財防火週間の啓発看板(右)。


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2017年01月23日 | 植物

<1851> 大和の花 (128) チャルメルソウ (哨吶草)                 ユキノシタ科 チャルメルソウ属

                                     

 苔むすような渓谷や渓流沿いに生える多年草で、根生の葉は広卵形、または卵形で基部は心形。花茎は長く、20センチから大きいもので40センチほどに直立する。花期は4月から6月ごろで、花茎の上部に多数の小さな花を連ねる。萼裂片は直立し、5個ある濃紅色の花弁は羽状に細く3~5深裂する。果実が開口したところが唐人笛のチャルメラに似るところからこの名がつけられたという。

 本州の福井、滋賀、三重県以西と九州の北部に分布するとされる日本の固有種で、大和(奈良県)でも見られる。 写真は奈良市の春日山遊歩道での撮影。一見するだけでは、コチャルメルソウにもオオチャルメルソウにも似るところがあり、判別に迷うが、葉の形、花弁の裂け方、花数の多少などにより区別出来る。チャルメルソウはコチャルメルソウより花茎が長く、花数が多い違いがあり、オオチャルメルソウは葉の先が尖るのでそれとわかる。花弁が3裂しているのがチャルメルソウの最も特徴的なところである。 なお、チャルメルソウ属の仲間はテンナンショウ属の仲間と同じく地域変異が多い草本と言われる。    寒風や道を隔てて家二軒

<1852> 大和の花 (129) コチャルメルソウ (小哨吶草)          ユキノシタ科 チャルメルソウ属

    

  山岳の渓谷や増水すると水を被るような渓流の岩陰などに生える多年草で、チャルメルソウの仲間の中では小形であるのでこの名がある。根生の葉は広卵形から卵円形で、花茎の高さは大きいもので30センチほど。花期は4月から6月ごろで、花茎の上部に2個から10個の小さな花をつけ、他種に比べ、全体にずんぐりとした印象を受ける。

  5個の花弁は紅紫色または淡黄緑色で、羽状に細く7~9深裂する。雄しべは花弁の基部から離れ、花盤上につく特徴がある。花の後、地中に走出枝を伸ばして繁殖し、群落をつくることが多い。本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では低山から深山に広く見える。 写真は渓谷の岩陰に群生するコチャルメルソウ(西大台)、花弁が淡黄緑色系と紅紫色系のコチャルメルソウ。 陽が恋し 雀ふくらむ 寒の底

<1853> 大和の花 (130) オオチャルメルソウ (大哨吶草)      ユキノシタ科 チャルメルソウ属

                

  山地の谷沿いや山間の水湿地などに生える多年草で、長い葉柄を有する長卵形の根生の葉が見られ、他種との判別が出来る。花茎の高さは大きいもので40センチ前後になり、チャルメルソウの仲間の中では大きいのでこの名がある。

  花期は4月から5月ごろで、花茎の上部に小さな花を多数連ねる。花弁は5個で、羽状に細く5~9深裂し、萼裂片は平開して、1つ1つの花はクモの巣のような形に見える。紀伊半島、四国、九州に分布する日本の固有種で、襲速紀要素系の植物種群の分布域に当たる。大和(奈良県)でも南部を中心に見られが、個体数が少ないとしてレッドリストの希少種にあげられている。写真は左から長卵形の葉を有するオオチャルメルソウ、束生して花を咲かせるオオチャルメルソウ、花茎のアップ(西吉野町)。 雲の筋西高東低日本海

 

 

 


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2017年01月22日 | 写詩・写歌・写俳

<1850> 余聞・余話 「神について」

            神は実写出来ない

         実写出来ないゆえに

              神は神として存在する

 この間、「科学について」において神に触れた。今回はこの神について考えてみた。『国語辞典』では「人知を越えて、すぐれ、とうとく、不思議な存在。宗教的信仰の対象としても、威力のすぐれたものとしても、考えられている。云々」と説明している。『広辞苑』には「(1)人間を超越した威力者。冥々の間に存在して、不可思議の能力を有し、人類に禍福を降すと考えられる霊。即ち宗教上帰依し、畏怖される対象。(2)キリスト教において、全知全能で宇宙を創造し支配する絶対の主宰者。上帝。天帝。(3)日本の神話で、国土を創造生育し、支配する神聖な存在。(4)天皇の尊称。(5)神社に奉祀される霊(6)人知を以てはかることのできぬ、おそれかしこむべき者(7)なるかみ。雷鳴」とある。

 私が「科学について」の中で触れた神は、宗教的信仰上の神というよりは「人知を越えて、すぐれ、とうとく、不思議な存在」という意の神であり、この世の全てに関わる存在として、実態は見えることなく私たちに影響していると思われるところの神と言えようか。例えば、南方熊楠が言っている「今日の科学、因果(原因と結果)は分かるが、縁が分からぬ。この縁を研究するのが、われわれの任なり、云々」というような縁なども人知の及ばない神の範疇に属すると言ってよかろう。神はそういうところにうかがえる畏怖の存在として迎えられることが思われる。

                                                    

  「旅は道づれ 世は情け」と言われるが、神の立場からして言えば、「道づれ」も縁なら別れも縁であろうことが考えの中に浮かんで来る。地縁、血縁とはよく言われることで、これらの縁は私たちによく理解されているように思われがちであるが、少し思いを深めて問えば、答えられないところに行き当たる。この答えられないところを神の領域、範疇とみるわけで、そう見なすことによって、私たちはその答えられない、つまり、分からないところを埋めることが出来る。言わば、神の存在をもって私たちは自分の生を納得するのである。

  結縁、離縁は生きものの間にあっては必然的に起きることになっているから、言ってみれば、この世は縁の混成、或いは縁の錯綜によって成り立っているとも言える。これを諸因果の総体と見るのが熊楠の考えであるが、この不可思議な総体的相対の図はやはり科学では及べない、神の存在を考えに置かなくては理解し難いことが思いに上って来ると言える。熊楠は中国の古書に言われる宇宙(宇は空間、宙は時間)に因果総体の基を探り、縁を考えねばならないというようなこともにおわせている。この宇宙の創造主イコール神と考えることで、この世の理解は深まり、神の存在も説明出来ると考えるのである。もちろん、神を考えるとき、縁は一例に過ぎない。

  世の中には無神論を唱える人たちがいるが、それは宗教上に限定された狭義の意味における考えではなかろうかと思われる。何故なら、上述した人知に及べない、言わば、私たちの能力ではどうにもならないところのものに対し、その理解に無神論はどう答えるかで悩むほかないからである。私はそういう意味において「神、おそらく、それを考えない民族はほとんどない」という梅原猛の『哲学する心』の言葉はよく理解出来る。

  「神社仏閣は、次から次へとわれらのまのあたり崩壊して来たが、ただ一つの祭壇、すなわちその上で至高の神へ香を焚く「おのれ」という祭壇は永遠に保存せられている」と岡倉天心(覚三)は『茶の本』に述べている。この言葉は廃仏毀釈の時代の影響だろうが、この神は冥々のうちにあって存在していることを示す重要な言葉として受け取れる。実利のみを真に置く無神論者にしても「おのれ」という祭壇に己の神を信じず、敬うことをしないということは考え難いと言えるからである。

  分からないことは分からないで済ませられる御仁は生きる上に強く、悩みなどを知らないということになりそうであるが、生身である者をして言えば、そういう御仁の無神論を直ぐに理解するのは難しい。むしろ、分からないこの世に生を得て命を育んでいる身にして言えば、神を考えに置くことをしないということは不遜にも思えて来る。まあ、人さまざまではあるが、「おのれ」という祭壇は誰もがその胸の中に持ち合わせて日々暮していると思える。 写真は月。太陽とのバランスにおいて地球に関わりを持つ月の運行は宇宙の一端の意識の中で神の存在を思わしめるところがある。

 


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2017年01月19日 | 植物

<1847> 大和の花 (125) シロバナネコノメソウ (白花猫目草)            ユキノシタ科 ネコノメソウ属

          

 山地の谷筋に生える多年草で、高さは10センチ前後。鋸歯を有する長さが1センチ弱の小さな扇形の葉が対生してつく。花期は4月から5月ごろで、白い4個の萼裂片と暗紅色の8個の雄しべの葯が美しい花で、この名がある。ハナネコノメ(花猫目)によく似るが、シロバナネコノメソウでは斜開する萼裂片の先が尖り、ハナネコノメではまるい違いがあるので容易に判別出来る。萼裂片は花が終わった後、緑化する。

  本州の近畿地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では奈良盆地を囲む青垣の山々の谷沿いで見ることが出来るが、自生地、個体数とも少なくレッドリストの希少種にあげられている。。写真は左から小群落をつくって花を咲かせるシロバナネコノメソウ(金剛山の谷筋)、白い4個の萼裂片に暗紅色の葯が散りばめられたようで美しい花(五條市西吉野町)、花のアップ。花被はない(金剛山の谷筋)。   寒風や後ろを向いて歩く人

<1848> 大和の花 (126) コガネネコノメソウ (黄金猫目草)             ユキノシタ科 ネコノメソウ属

                  

  山地の渓谷沿いなど陰湿地に生える多年草で、花茎は高さが10センチ前後になる。柄を有する葉はまるみのある扇形で、長さは15ミリほどと小さく、鋸歯がある。花期は3月から5月ごろで、花茎の先端に鮮黄色の萼裂片4個が角状に直立し、雄しべ8個のこれも鮮黄色の葯を囲うようにつくので花は小さいが、映えて見え、印象的でこの名がある。萼裂片は花が終わると緑化し目立たなくなる。

  本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、国外では済州島に見えるという。大和(奈良県)でも見られるが、自生地が限られ、個体数も少なく、レッドリストの希少種にあげられている。金剛山の山頂付近の自生地はよく知られる。 写真は群生して花を咲かせるコガネネコノメソウ(左)と葉と花のアップ(中)、真横から見た花(右)。  寒風に鴉も押され飛び行けり

<1849> 大和の花 (127) タチネコノメソウ (立猫目草)                     ユキノシタ科 ネコノメソウ属

                 

 山地の谷間のコケが生えるような水湿地に走出枝を延ばして生育する多年草で、花茎の高さは10センチ前後。これより小さいものも見られるが、写真のように茎が直立する姿が印象的で、この名があるのだろう。円形の根生葉が花時にも残る。茎葉はないか、1、2個が互生する。

 花期は4月から5月ごろで、苞は卵形で、3個から5個のまるい鋸歯がある。萼裂片は淡緑色で平開する。雄しべは8個で、花時には直立する。葯は黄色。果実は蒴果で、熟すと縦に裂け、多数の種子が覗く。別名トサネコノメ(土佐猫目)。本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種として知られる。 写真は左から花時のタチネコノメソウ(天川村北角と金剛山の谷筋)、果期に入り、花も残っている時期のタチネコノメソウ(五條市大塔町の清水ヶ峰登山道)。 体調を気遣ふ妻と冬籠り