<1855> 大和の花 (131) カタバミ (酸漿・傍食・片喰) カタバミ科 カタバミ属
茎が地を這って広がり、庭や道端に生える多年草の雑草で、春から秋にかけて1センチ弱の小さな黄色の5弁花を咲かせ、そこいら中で普通に見られる。花が萎むと下向きになり、その先端に出来る円柱形の蒴果は上向きになり、熟すとはじけ、多数の種子を辺りにまき散らす。茎が地を這う勢いとこの種子の散布により、取っても取っても直ぐに生え出して来る繁殖力がある。
カタバミ属の仲間は葉が就眠運動をし、夕方になると長い柄の先についたクローバーに似たハート形の3個の小葉が主脈を中心に閉じて一方が欠けたように見えるのでこの名がある。漢字では酸漿の字が当てられているが、これは茎葉に蓚酸を含み、噛むと酸っぱいことによる。別名のスグサ(酸草)やスイモノグサ(酸い物草)もこの蓚酸に由来する。このように、カタバミは蓚酸を含むため、昔は生食のほか、塩もみ、漬物等にし、全草を煎じてその煎汁によって患部を洗浄し痔や皮膚炎などに効能があるとして民間薬に用いられた。また、蓚酸の効用によりカタバミで鏡や真鍮等を磨いたという。
カタバミの仲間はその繁殖力により、日本全土をはじめ世界に広く分布する広域植物の一つにあげられ、地方名も多く、その数は180以上にのぼるという。奈良公園や若草山ではその繁殖力によりシカの食害に遭いながらも、矮小化して生き延びる姿がそこここに見受けられる。このように、カタバミは繁殖力により、武家に好まれ、葉を模った家紋が桐紋に次いで多用されて来た。なお、カタバミは葉が緑色のほか濃紫紅色の葉を有するものがあり、これは変種としてアカカタバミと呼ばれる。このカタバミは日照りに強いタイプで、生える場所を異にする。
写真は左からカタバミの花と実、花のアップ(アブの仲間が来ていた)。次は若草山の草原で見かけた矮小化したカタバミ(地に貼りつくように生え、花を咲かせていた)。右端の写真はカタバミの変種で知られるアカカタバミ。 寒の朝走る人あり競はずに
<1856> 大和の花 (132) ミヤマカタバミ (深山傍食) カタバミ科 カタバミ属
その名にミヤマ(深山)とあるが、低山からその山足、山間の低地に至る半日陰の地に見られる多年草で、カタバミ属の特徴として見られる葉の就眠運動によって長い柄を有する3小葉が開いたり閉じたりする。その小葉は三角形に近く、付け根は切り形で、中央が凹み、両先は尖らず、開くと3小葉は形よく一組になり、瑞々しい緑色が映えて美しい。
花期は3月から4月ごろで、花茎の先端に直径3センチから4センチほどの白い5弁花を普通横向きに開く。花弁には紫色の条が入るものも見られ、その姿はよく目につく。花期を過ぎると閉鎖花をつけ、閉鎖花はよく結実する。本州、四国、九州に分布し、ヒマラヤにも見られるという。花期に金剛山に登れば、その白花に出会える。また、奈良盆地周辺の青垣の山足でも見られる。
写真は左から根生の瑞々しい緑の葉に白い花が映えるミヤマカタバミ、低いアングルから見た花、花期の過ぎた6月に撮影した閉鎖花(いずれも金剛山)。 固けれど春を秘めつつ冬芽立つ 立つは即ち明日への望み
<1857> 大和の花 (133) コミヤマカタバミ (小深山傍食) カタバミ科 カタバミ属
深山の針葉樹林帯に見られるカタバミの仲間の多年草で、北半球の温帯から亜寒帯に広く見られ、日本では中国地方を除く北海道から九州まで分布し、大和(奈良県)では主に紀伊山地の台高山系や大峰山系の標高1500メートル以上の高所部に自生している。ミヤマカタバミによく似るが、全体に小振りでこの名がある。また、葉の形がミヤマカタバミより丸みを帯びるので雰囲気を異にする。
花期は6月から8月ごろで、生える場所の標高差によるからか、ミヤマカタバミが春季の花であるのに対し、コミヤマカタバミは夏季の花である違いが見られる。花は直径が2センチから3センチの白色5弁の花であるが、ときに花弁全体に淡紅色の条が入り、別種を思わせるような花にも出会うことがある。こうした花に出会えるのも野生の花を求めて巡る山岳行の楽しみの一つである。
写真は左から葉に丸みが見られるコミヤマカタバミ。苔むしたトウヒ林の林床に生え出し、花を咲かせるコミヤマカタバミ。花には小さなクモの仲間が来ていた。次の写真は花弁に淡紅色の条の入った個体。葉が閉じられているのは就眠運動によるもので、日が差していない早朝に出会ったからと思われる。右端の写真は淡紅色の条が濃いタイプの花で、別種を思わせる姿があった。大台ヶ原山と大峰山系の弥山(みせん)山頂付近での撮影)。 冬耕に虫出でゐたり百舌来たる果して生きるものたちの地表
<1858> 大和の花 (134) ムラサキカタバミ (紫傍食) カタバミ科 カタバミ属
南アメリカ原産の帰化植物として知られるカタバミの一種の多年草で、紅紫色の5弁花を咲かせるのでこの名がある。カタバミの仲間は宿根性のものと球根性のものとがあり、カタバミのような在来種はほとんど宿根性であるが、外来種には球根性のものが多く、このムラサキカタバミも球根性で、鱗茎を有し、花の美しさが目につく。花期は5月から7月ごろである。
このため、江戸時代に観賞用としてもたらされ、植えられていたものが逸出して野生化し、今では関東地方以西に分布、道端の草むらなどで野生然として見られるようになった。日本のムラサキカタバミは結実しないが、鱗茎の片々によって繁殖し、その勢いはカタバミに劣らないほどで、暖かな場所では長い柄を有するハート形の3小葉が枯れることなく青々として見える。我が家の庭にはカタバミとともにいつの間にかムラサキカタバミが入り込み、鱗茎ごと取らないと、また、同じ場所に生え出して来るといった具合である。 写真は紅紫色の花が艶やかなムラサキカタバミと花のアップ。 命あるものに生きゐる強さあり弱さの中の強さなりけり
<1859> 大和の花 (135) イモカタバミ (芋傍食) カタバミ科 カタバミ属
ムラサキカタバミと同じく南アメリカ原産の帰化植物の多年草で、観賞目的により渡来した。ムラサキカタバミは根茎が葉の変形した鱗茎であるのに対し、イモカタバミは茎が変化した塊茎の違いがある。このため、鱗片によって繁殖するムラサキカタバミに比べ、繁殖力が劣り、逸出して野生化したものもムラサキカタバミほどには見られない。
花期は4月から9月と長く、ムラサキカタバミより一回り小さい濃紅色の5弁花を咲かせる。花の色はよく似るが、イモカタバミでは花弁の基部が濃い特徴がある。花が小さいかわりに多数つくのでにぎやかに見える。雄しべは10個で上下に五個ずつ分離してつくので、黄色い葯は5個しか見えない。 写真は群生して花を咲かせるイモカタバミと花のアップ(大和郡山市内)。 ぶり返す寒さに熱きコーヒーを欲せば視野に蹲る猫