大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年08月28日 | 植物

<3512> 奈良県のレッドデータブックの花たち(102) クリンソウ(九輪草)            サクラソウ科

                   

[別名]   シチカイソウ(七階草)、ホドゲ(宝塔華)。

[学名] Primula japonica

[奈良県のカテゴリー]  絶滅危惧種

[特徴] 山地の谷筋などやや湿ったところに生える多年草で、長さが15~40センチの倒卵状長楕円形の根生葉を輪生状につける。葉には鋸歯が見られ、表面に縮れた皴が出来る。花期は5~6月で、葉の根元から高さが40~80センチの花茎を直立。上部に直径2センチほどの花冠が5裂する明るい紅紫色の花を2段から数段咲かせ、下から順に開花する。花には淡紅色や白色のものも見られる。クリンソウの(九輪草)の名はこの段になって咲く花の姿を塔の屋根の上に伸びる九輪の相輪に見立てたもの。

[分布] 日本の固有種。北海道、本州、四国。

[県内分布] 奈良市、山添村、桜井市、宇陀市、御所市、天川村。

[記事] 観賞用として昔からよく知られていたようで、江戸時代末に来日し、『幕末日本探訪記』を記した英国の植物学者ロバート・フォーチュンが贈られたクリンソウの花にいたく感動した逸話が残っている。別名のシチカイソウ(七階草)も地方名のホドゲ(宝塔華)もクリンソウ(九輪草)と同じ発想による。小林一茶に「九輪草四五輪草でしまひけり」の句が見える。実際九輪に及ぶものは殆ど見ない。まこと一茶の観察通りである。

   全草にサポニンなどの有毒物質を含み、シカは食べないと見られ、まだ、私は見ていないが、春日山の自生地は保たれているようである。しかし、自生地はごく狭い範囲に限られ、絶滅が危惧されている。なお、全草を日干しにし、煎じて服用すれば、鎮咳、去痰などに効能があるという。 写真は花期のクリンソウ(金剛山)。

   私たちにとって

   花のありがたさは

   まず もって

       その美しさにある


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2014年04月28日 | 植物

<967> 花の大和  (2)  ボタン (牡丹)

           句を添へて 大和だよりの 大牡丹

 ボタン(牡丹)は中国原産の落葉低木で、我が国には奈良時代の末に僧空海が唐より持ち帰ったのが最初であると言われる。空海は栄西に先がけ、チャも持ち帰っているので、ボタンはチャとともにこの大和の地にもたらされたということになる。

 ボタンは豪華な花を咲かせ、中国では花王、花神、富貴草などと呼ばれるほどであるが、根皮に消炎、止血、沈痛などの効能があり、主に婦人病に用いる薬用植物として名高い。ということで、空海は花が目的ではなく、薬用としてボタンやチャを持ち帰り、チャは空海ゆかりの仏隆寺の所在地、宇陀市榛原赤埴に植え、ボタンは奈良の寺院などに植えたと見られている。いわゆる、我が国のボタンは奈良が発祥の地ということになる。

                                                         

  このように、ボタンは薬用として八世紀末には我が国に渡来していたと見られるが、花が立派なため、花に主眼が置かれるようになって行き、ボタンが一般に知られるようになるのは花によるもので、少し遅れ、『万葉集』や『古今和歌集』にはその姿が見られず、平安時代中期の『枕草子』に「露台の前に植ゑられたりけるぼうたんのからめきおかしきこと」と、「ぼうたん」の名で登場を見ることになる。なお、和歌には『詞花和歌集』と『新古今和歌集』にボタンを詠んだ次のような歌が見える。これも平安時代の中期以降である。

   咲きしより散り果つるまで見しほどに花のもとにて二十日へにけり                                            藤 原 忠 通

   かたみとてみれば歎きのふかみ草なに中々の匂ひなるらん                                                太宰大貳重家

  両歌とも歌にボタンの名は見えないが、詞書に「牡丹」とあるので、ボタンの花を詠んだものと知れる。これらの歌が詠まれた後、ボタンは「二十日草」、「ふかみ草」と呼ばれるようになったと言われる。ただ、立派な花とは言われるものの、現在見られる豪華な花はボタンの栽培が盛んになる江戸時代以降に改良されたもので、当時は、まだ、原種に近い濃い紫色の花ではなかったかと思われる。

 これらのことを踏まえて、大和におけるボタンを見ると、ボタンは、やはり、お寺で、まず、一番にあげられるのが、西国三十三所観音霊場の八番札所である桜井市初瀬の長谷寺である。長谷寺には百五十種、七千株以上のボタンが境内の各所に植えられ、花のころはみごとである。

  次にボタンでよく知られるのは、葛城市當麻町の当麻寺や石光寺で、石光寺の寒牡丹は名高い。また、五條市野原町の金剛寺もボタンの花で知られるお寺である。花はどこもゴールデンウイークのころが盛りで、この時期のボタン寺は沢山の人出でにぎわう。 写真は左が長谷寺のボタン、右が当麻寺奥院のボタン。

 

 


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2012年06月11日 | 植物

<283> 大和に見るツツジ科の仲間たち (3)

         つがざくら 寿ぐほどを 夢に見ぬ

 今回はツツジ科の中のイワナンテン属のイワナンテンとハナヒリノキ、イワナシ属のイワナシ、ツガザクラ属のツガザクラを紹介したいと思う。この四点はツツジ科の中では小低木の部類に属し、大和では貴重な存在で、大切にしたいものばかりである。

 イワナンテンは岩場に生える常緑小低木で、紀伊山地を南限に関東地方まで分布する。大和では北部の低山帯では見かけない。ハナヒリノキは落葉低木で、私が出会ったのは標高千五百メートルより高い位置だった。大和では限られた場所でしか確認されておらず、希少種である。

 イワナシは常緑の超小低木で、奈良盆地周辺の青垣の山々の山足でときに見かける。その名の通り、岩崖のようなところに生え、早春のころに可愛らしい淡紅色の花をつける。高山植物としても知られるが、大和ではむしろ里の近くで見られ、絶滅危惧種である。

 ツガザクラも常緑の超小低木で、ツガに似た葉を有するのでこの名がある。大峰山脈の高所、亜高山帯に当たる明るい岩場にわずかばかり小群落をつくって生えており、大和では絶滅寸前種にあげられている。調査に当たった識者は「シカの食害のひどい地域なので心配される」と言っているが、心ない人による採取の方が気になる。 写真は左からイワナンテン(十津川村の果無集落付近)、ハナヒリノキ(山上ヶ岳)、イワナシ(矢田丘陵の松尾山付近)、ツガザクラ(大峰山脈の高所)。

                      

 


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2012年03月25日 | 植物

<205> キバナノアマナ
          見つけ出す この喜びよ 絶滅が 危惧されてゐる キバナノアマナ
  キバナノアマナはアマナに似たユリ科の多年草で、草丈二十センチ前後、線形で緑白色の葉を有し、三、四月ごろ花被片六個の花を咲かせる。アマナが白い花であるのに対し、キバナノアマナは黄色いのでこの名がある。中部以北と四国に分布するとされているが、大和でも吉野地方に見られる。日当たりのよい草原や林縁などに生え、吉野のものは自生地が限定的で極めて少なく、奈良県のレッドデータブックには絶滅寸前種としてあげられている。

                                   
  このように、 キバナノアマナは、大和ではなかなか出会うことが出来ない貴重な草花であるが、 今日は五條市西吉野町を歩いていたときこの花を偶然に見かけた。 果樹園の斜面になった草原にネコノメソウやタネツケバナやニリンソウなどとともに黄色い花を咲かせ始めていた。 周囲を覗ったところほかに五株ほど見られ、みな蕾をつけていた。
  どんな出会いも、 出会いというのは縁(えにし)にほかならないが、 絶滅寸前種のような特別な草花に、それも思いがけず出会うというのは最高で、花を見たときには「やたー」と小躍りしたくなる気持ちになった。 以前に出会った場所とは異なり、新しい場所なので余計に嬉しかった。四月に入れば、賑やかに花を咲かせるだろう。 こういう場所は、そっとしておいて、いつまでもその生育条件が保たれていて欲しいという気になる。 写真は咲き始めたばかりのキバナノアマナ。