大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年02月28日 | 写詩・写歌・写俳

<1887> 余聞・余話 「 二 月 尽 」

        晴れてよし 大和国中 二月尽

 月が終わることを二月尽という。歳時記には初春の季語としてあり、概ね俳句に用いられる言葉として見える。ほかにも、1月から12月の間で言えば、私が愛用している講談社版『日本大歳時記』には次のようにある。2月の終わりの二月尽、3月の終わりの三月尽、4月の終わりの四月尽(弥生尽)、五月の終わりの五月尽、6月の終わりの六月尽、七月の終わりの七月尽(水無月尽)、8月の終わりの八月尽(葉月尽)、9月の終わりの九月尽といった具合である。1月と10月以降は見えないが、句作の用例が見当たらないため敢えて省いていることが思われる。一月尽も十月尽も十一月尽もあるわけで、十二月にあっては大晦日という言葉があるので、尽は使わないことが想像される。

                                  

 睦月尽、弥生尽、水無月尽、葉月尽は陰暦(旧暦)に沿っているわけで、陰暦(旧暦)では1、2、3月が春、4、5、6月が夏、7、8、9月が秋、10、11、12月が冬で、陽暦(新暦)の現在よりも約1ヶ月早いことになる。四月尽が3月の弥生尽、七月尽が6月の水無月尽となり、一月尽と八月尽は睦月尽と葉月尽に等しいことになっている。陰暦(旧暦)で呼ばれないほかの尽日においても陰暦(旧暦)を意識に置いて作られている句があれば、陽暦(新暦)に合せて作られている句もあるので、季語に縛られている俳句の世界のややこしさがそこにはうかがえることになる。

 これについては『日本大歳時記』に説明がなされている。九月尽の解説の中で次のように言っている。「正しくは陰暦九月末日を指すというから、陽暦にすると、十一月のはじめごろに当たるだろう。しかし、今日の作句例としては、陽暦九月晦日を詠った場合の方が多いようである。ことに、尽という文字に、惜しむ気持が含まれることになると、作の新古によって、いちいち区別しなければ誤った解釈を生むことになる。これも季題・季語の約束の厄介な問題のひとつかもしれない」(飯田龍太)と。これはまさに陰暦(旧暦)と陽暦(新暦)に因があるわけで、俳句の難しさがそこには横たわっており、俳句鑑賞における一つの注意点として見ることが出来る。

 そこで、二月尽であるが、2月という月は平年と閏年では尽日が異なり、平年では28日、閏年では29日となる。2月の初旬に二十四節気の第一番である立春(陰暦では1年の初め)があり、その後、雨水、啓蟄、春分(3月21日)と続き、二月尽は立春と春分のちょうど中間点で、冬眠している虫が這い出して来る啓蟄よりも少し前に当たり、立春が名のみであるのに対し、二月尽は冬が収まり、本格的な春への気分的転換を意味していることが言える。ここに季節感十分な言葉の響きをもってある二月尽という言葉は、短詩形の俳句には便利な言葉として利用されるわけである。では、二月尽で今一句。 時は往く 東西南北 二月尽   写真は晴れ渡った二月尽の大和青垣の山並。

 


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2017年02月21日 | 植物

<1880> 大和の花 (148)  ハコベ (繁縷)、コハコベ (小繁縷)、ウシハコベ (牛繁縷)      ナデシコ科 ハコベ属

            

 この頁ではハコベ属の仲間たちを紹介したいと思う。まずはハコベ(繁縷)について。ハコベは春の七草のハコベラでお馴染みの1年草乃至は2年草で、古くから知られ、日本初の本草書である平安時代に出された『本草和名』(深江輔仁著・918年)に見える波久倍良(はくべら)が、ハコベラ、ハコベと転訛して来たものと考えられている。

 世界各地に分布し、日本でも全土で見られ、道端や田の畦などそこいら中に生えている雑草で、高さが10センチから30センチほどになる。葉は1、2センチの卵形で、対生し、茎はよく分枝して繁茂する。全体に軟らかく、昔から食用にされ、春の七草にも加えられ、七草粥にされた。

  また、ヒヨコや小鳥の餌に利用されたことから、英名はChickweed(ヒヨコの雑草)で、日本でもヒヨコグサの俗称で呼ばれ、ハコベの認識が洋の東西で変わらずあることがわかる。正岡子規の句には「カナリヤの餌(ゑ)に束(つか)ねたるはこべ哉」と見え、小鳥の餌にしたことも、その昔にはあったことがうかがえる。

 ほかにも、ハコベはハコベ塩にし、齒磨きに用いたと言われる。これは江戸時代のことで、『倭漢三才図会』(寺島良安編纂・1715年)によれば、ハコベの青汁を塩とともに炒ったものを指先につけて齒を磨いたとされる。歯ぐきの出血や歯槽膿漏の予防によいとされ、庶民の間で用いられた。今は厄介な雑草扱いであるが、昔は暮らしの中で大いに利用されていた植物の一つだったということが出来る

 ハコベは本来、茎が緑色のアオハコベ(青繁縷)をいうようであるが、ほかに、全体が小形で、茎が暗紫色を帯びるコハコベ(小繁縷)があり、これも含めてハコベと認識されているとも言われる、また、花柱が3個のハコベやコハコベに対し、花柱が5個のウシハコベ(牛繁縷)が見られる。

 写真は左からハコベ、コハコベ、ウシハコベの花。花期はみな春から秋で、5弁の白い花を上向きに咲かせるが、花弁が基部まで裂けるので10弁に見える。3者の花はよく似るが、ハコベは萼片が花弁よりもかなり大きく、コハコベも少し大きい。ウシハコベは花の中央に位置する白い花柱が5個の違いがある。    繁縷咲く 母子が外の面の 陽気かな  

<1881> 大和の花 (149) ノミノフスマ (蚤の衾)                               ナデシコ科 ハコベ属

                                     

  日本の全土に分布し、アジアの一帯に見られ、田畑の畦や荒れた草地などでよく見られる1年草乃至は2年草で、高さは大きいもので30センチほど。全体に無毛で、よく繁茂して群落をつくる。葉は1、2センチの長楕円形で、ノミノフスマ(蚤の衾)の名はこの小さな葉にノミの寝床を連想したことによると言われる。

  花期は4月から10月と長く、花は白い5弁花で、花弁が深列して10弁に見えるところはハコベ属の仲間の特徴で、一見したところ、ハコベ等と見間違うこともあるが、花の中心の花柱が5個に及ばず、花弁が萼片よりも大きく、ときには萼片が花弁に隠れて見えないこともある点によってノミノフスマと同定出来る。なお、夏の花は花弁の見えないものもある。とにかく、ハコベ属の仲間たちの白い小さな5弁花が咲き始めると、春も本番入りで、ほかにも春の花が咲き始めにぎやかになる。 写真はノミノフスマの花。   雪を見し岡の衾も芽ぶき初む

<1882> 大和の花 (150) サワハコベ (沢繁縷)                                        ナデシコ科 ハコベ属

                                                 

  山地の谷沿いの湿地に生える多年草で、茎は地を這い、上部は斜上して、草丈は10センチから20センチになる。葉は対生し、三角状卵形で短い毛があり、縁に鋸歯はない。花期は5月から7月ごろで、上部の葉腋に細い花柄を出し、その先に直径が1センチから1.5センチほどの白い5弁の花を開く。花弁は中裂する特徴が見られる。

  本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では山中の谷沿いの湿ったところで見かける。春日山で見かけたときにはアブラナ科のマルバコンロンソウ(丸葉崑崙草)と同時に花を咲かせていた。 写真はマルバコンロンソウに紛れて花弁が中裂する白い5弁花を咲かせるサワハコベ(左)、花柄を直立させて咲くサワハコベ(中)、大きさが4センチほどの三角状卵形の茎葉と花(右)。 芽ぶくもの競ふでもなく競ひゐる

<1883> 大和の花 (151) ミヤマハコベ (深山繁縷)                                      ナデシコ科 ハコベ属

       

  サワハコベと同じく山地の谷沿いの湿り気のあるところに生える多年草で、サワハコベに比べ、本種は日当たりのよい明るいところを好み、群生することが多く、花どきにはよく目に出来る。北海道の西南部から本州、四国、九州に分布し、国外では済州島に見られるという。名にミヤマ(深山)とあるが、大和(奈良県)では標高1300メートル以下の低山帯でよく見かける。

  茎は地を這い、上部で斜上し、高さは大きいもので40センチほどになる。葉は広卵形で対生し、鋸歯はなく、表面は無毛、大きさは長さが3センチほどになる。花期は5月から7月ごろで、上部葉腋から毛のある花柄を立て、直径が1.5センチ前後の白い五弁花を上向きに開く。花弁はハコベ属の特徴で、深裂するため、10弁に見える。ほかのハコベ属の花に比べ、大きいので立派に見える。 写真は左から群落をつくって花を咲かせるミヤマハコベ、萼片が花弁とほぼ同長の花、萼片が花弁よりも短い花(御杖村山中と金剛山)。   どんな花咲かすか芽ぶくチューリップ

<1884> 大和の花 (152) オオヤマハコベ (大山繁縷)                             ナデシコ科 ハコベ属

                                                  

 山地の湿った林内の半日陰に生えるハコベの仲間の多年草で、茎は上部でよく分枝し、高さは40センチから80センチほどになり、短い柄のある長さが10センチほどの長楕円形で先が尖る葉を対生する。花期は8月から10月ごろで、上部の葉腋に花柄を出し、白い小さなミリ単位の5弁花を集散状につける。よく見ると、花弁の基部が極端に細く、先が裂けてカニの爪のような形に見える。萼片はその花弁より長く、花糸も長い特徴がある。萼片や花柄には腺毛が目立つ。

 本州の岩手県以南、四国、九州に分布し、国外では中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では吉野川より南の紀伊山地で見受けるが、シカの食害が心配され、奈良県のレッドデータブックは希少種にリストアップしている。私が出会った天川村の山中では、ミカン科のマツカゼソウと混生するように生え、小さい白い花の雰囲気が似ていることから見間違ったことがある。また、薄暗いところに生えるので、微風にも花が揺れて写真に撮りづらい花の印象がある。 写真は群生して白い小さな花を咲かせるオオヤマハコベ(左)と花のアップ。   花の数 数ある命と思ふべし

<1885> 大和の花 (153) ミミナグサ (耳菜草)                              ナデシコ科 ミミナグサ属

                

  道端や田畑の畦など日当たりのよい草地に生える多年草で、日本全土に分布し、朝鮮半島、中国からインドにかけて見られ、大和(奈良県)では平野部から標高1500メートルの山岳まで高低差にかかわらず見受けられる。東吉野村の標高約1300メートルの明神平の草地にツメクサ(爪草)やニョイスミレ(如意菫)とともに見られるのは種子が登山者によって運ばれた可能性が強い。山上ヶ岳の大峯奥駈道の分岐付近でも見かけたが、これも同じことが言えようか。平野部では帰化したヨーロッパ原産のオランダミミナグサ(和蘭耳菜草)の進出にともない少なくなっていると言われる。

  茎は暗紫色のものが多く、草丈は大きいもので30センチほどになり、全体に短毛がある。葉は3センチ前後の卵形から長楕円形で、対生し、この葉をネズミの耳と見たことによりこの名があるという。花期は4月から6月ごろで、茎頂の葉腋からまばらに花柄を出し、先端がわずかに2裂する白い5弁の花を開く。萼片は花弁とほぼ同長で、暗紫色を帯び、軟毛や腺毛が生えている。実は円柱形の蒴果で、先端が10裂して種子をばらまく仕組みになっている。 写真はミミナグサ。全体に毛の多いのがわかる。   真鴨二羽泳ぎにも見ゆ仲のよさ

<1886> 大和の花 (154) オランダミミナグサ (和蘭耳菜草)           ナデシコ科 ミミナグサ属

                     

  ヨーロッパ原産の越年草で、温帯に広く分布し、明治時代の末に植物学者の牧野富太郎によって見つけられた帰化植物である。日当たりのよいところに生え、今では北海道を除く各地に広まり、大和(奈良県)でも道端や田畑の畦などで普通に見られる。高さは30センチほどになり、葉はミミナグサに等しく対生する。全体に軟毛と腺毛が多いので触れるとべたつく特徴がある。

  花期は4月から5月ごろで、茎頂の集散花序に花弁の先端が2裂する白い5弁花を咲かせ、葉も花もミミナグサによく似るが、ミミナグサに較べ花柄が短く、ほとんどないように見える点と花弁の裂け方がミミナグサより深く、花数が多い傾向にある。

  なお、オランダミミナグサの進出によって在来のミミナグサが追いやられ、平地部では少なくなって来たと言われる。これは外来と在来の関係性によるものであろう。グローバル化する現代の植生の一つの傾向と見ることが出来る。 写真はオランダミミナグサの花。ミミナグサよりも花数が多く、にぎやかに見える。  鴨の群 旅立ち近し 元気なり

 

 

 

 

 


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2017年02月20日 | 写詩・写歌・写俳

<1879> 余聞・余話 「作曲家船村徹さんの逝去に寄せて」

         移ろへる時の定めとともにある人生ゆゑに歌などもある

 また一人昭和の人が逝った。作曲家の船村徹さん(84)。心不全で倒れたという報。戦後を代表する作曲家の一人である。だが、亡くなったとは言え、歌は残るという思いがする。昭和三十年(1955年)の「別れの一本杉」(詞 高野公男・唄 春日八郎)に始まり、これは私の青春時代で、私の中ではそれからずっと船村演歌に浸って来たところがある。発表年次に従ってその代表作を見てみると、私には次のような歌があげられる。みな本筋の演歌で、昭和とともにある歌謡曲、流行歌である。

                  

  「あの娘が泣いてる波止場」(三十年・詞 高野公男・唄 三橋美智也)、「東京だよおっ母さん」(三十二年・詞 野村俊夫・唄 島倉千代子)、「柿の木坂の家」(同年・詞 石本美由起・唄 青木光一)、「哀愁波止場」(三十五年・詞 石本美由起・唄 美空ひばり)、「王将」(三十六年・詞 西条八十・唄 村田英雄)、「なみだ船」(三十七年・詞 星野哲郎・唄 北島三郎)、「風雪ながれ旅」(五十五年・詞 星野哲郎・唄 北島三郎)、「矢切の渡し」(五十八年・詞 石本美由起・唄 ちあきなおみ・細川たかし)、「兄弟船」(同年・詞 星野哲郎・唄 鳥羽一郎)、「女の港」(同年・詞 星野哲郎・唄 大月みやこ)、「みだれ髪」(六十二年・詞 星野哲郎・唄 美空ひばり)、「紅とんぼ」(六十三年・詞 吉田旺・唄 ちあきなおみ)

  私の中で船村演歌と言えば、ほかにもあるが、概ねこのようである。歌の世界で公私に活躍を見せたことは既に新聞等で伝えられている。昨年授与された文化勲章が全てを物語っているが、その哀愁に満ちたメロディ―は多くの人に愛され、昭和の言わば戦後という時代の歌謡曲という庶民的な文化の一端に大きく貢献した。三十年代で言えば、私には一方に「有楽町で逢いましょう」、「誰よりも君を愛す」、「いつでも夢を」といった憧れのロマン的都会調のメロディ―を生んで来た国民栄誉賞の作曲家吉田正がいて、二人の好対照な歌が深く印象に残っている。

  「別れの一本杉」、「なみだ船」、「みだれ髪」の系譜は、前述の通り、人の心の痛みに寄り添う哀愁のメロディ―の系譜と言ってよかろう。自分自身の心情や思いを歌にする傾向が見られ、歌にも時代性がうかがえる昨今であるが、そういう歌の中にあっても、船村演歌の哀愁の調べはこれからも唄い継がれて行くだろう。 

  冥福は「みだれ髪」を口ずさみながら --- 。 ♪♪  髪のみだれに 手をやれば 赤い蹴出しが 風に舞う 憎や 恋しや 塩屋の岬 投げて届かぬ 想いの糸が 胸にからんで 涙をしぼる ♪♪  写真はイメージで、海。  

 


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2017年02月16日 | 植物

<1875> 大和の花 (144) イヌノフグリ ( 犬の陰嚢 )               ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

              

 膨らみのある蒴果の形からイヌの陰嚢(いんのう)を連想したことによりこの名がある在来の越年草乃至は2年草で、本州の中部地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、東アジアの一帯に見られるという。大和(奈良県)では、道端などで普通に見られていたが、同属で外来のオオイヌノフグリやタチイヌノフグリが入って来て勢力を伸ばし、繁茂するに従って姿を消し、今では石垣の隅に追いやられるような姿で生き残っている様子がうかがえ、奈良県のレッドデータブックには絶滅危惧種として見える。

  茎は地を這うように生え、下部で分枝し横に広がる傾向が見られる。少し厚みのある葉は下部で対生、上部で互生し、長さ幅とも2センチ弱の卵円形で、4個から8個の鋸歯を有している。花期は3月から4月ごろで、茎上部の葉腋から1センチに満たない花柄を出し、淡紅色に紅紫色のすじが入るミリ単位の花を1個つける。

 種子をアリが運ぶことで知られ、石垣の隙間でも生き継いで行けることが証明されている。だが、帰化した外来種に圧せられ、最後の砦とも言える石垣もコンクリートで固められる昨今の環境事情はイヌノフグリにとって著しく生き難い時代になっているのかも知れない。かわいらしい花だけに見ているといじらしさが募って来るところがある。  写真は石垣を住処にして生え、横に広がるようにして花を咲かせるイヌノフグリ(左)とイヌノフグリの花と若い実 (ともに奈良市内での撮影)。

    「かはいいね」言はれて見れば確かなるイヌノフグリの淡紅の花

 

<1876> 大和の花 (145) オオイヌノフグリ (大犬の陰嚢)    ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

          

  シソ科のホトケノザ(仏の座)とともにいち早く春を告げて咲き出し野を染める。ホトケノザの下向きに咲く紅紫色の花に対し、オオイヌノフグリは青空を映したような空色(瑠璃色)の花を上向きに開く好対照な花である。イヌノフグリが在来であるのに対し、オオイヌノフグリは西アジアから中近東が原産とされる外来の越年草乃至は2年草で、渡来は明治年間と目され、日本の風土に適合し、全国的に広がり、今ではイヌノフグリを完全に凌駕し、日本全土を席巻する勢いである。

  茎はよく分枝して広がり、群生する。葉はイヌノフグリと同じく、下部で対生、上部で互生するが、形は卵状広楕円形で、鋸歯がイヌノフグリよりも明らかに多く8個から16個で、葉でも違いがわかる。花期は3月から5月ごろであるが、場所によっては2月に花を見せる個体も見られる。花は直径1センチほどで、4裂する合弁の花冠には濃いすじが入り、2個の雄しべの葯がSF映画に登場する異星人の目玉を幻想させる。

  それにしてもかわいらしい花で、ルリカラクサ(瑠璃唐草)、テンニンカラクサ(天人唐草)、ホシノヒトミ(星の瞳)などの別名がある。 写真左は一面に咲くオオイヌノフグリ(夜間や雨の日は花を閉じる。右下の白い花はハコベ)。次は花をローアングルで見たもの。右は花とナナホシテントウムシ。テントウムシは花の周りによく姿を見せる。比較すると花の大きさがわかる。

 花に来てゐるものたちよ幸せを身に帯びながら働いてゐる

 

<1877> 大和の花 (146) タチイヌノフグリ (立犬の陰嚢)             ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

          

  欧州の原産とされる外来の越年草乃至は2年草で、明治時代に渡来した外来の帰化植物である。オオイヌノフグリほど目立たないが、全国各地に広がり、在来然としたところがうかがえる。茎は直立して高さが30センチほどになるのでこの名がある。

  対生する葉は2センチほどの広卵形で、上部では小さくなり、苞となる。花期は4月から6月ごろで、上部の葉腋に花冠が青色の花をつける。直径が5ミリ弱の小さな花で、花柄はほとんどなく、萼片や苞に埋もれるように咲く特徴がある。実は大きさが3、4ミリの扁平な蒴果で、葉にも実にも腺毛が目立つ。 写真は花を咲かせるタチイヌノフグリ(斑鳩の里と東吉野村の明神平での撮影)。

 梅だより三寒四温の日々にあり

 

<1878> 大和の花 (147) フラサバソウ                                            ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

           

 欧州が原産のイヌノフグリの仲間の越年草乃至は2年草で、世界に広く行き渡り、日本にも帰化して各地に広がりを見せている。茎が下部で分枝して繁殖し、ときに道端の草地などで群生している。1センチ前後の広楕円形の葉が互生し、2個から4個の鋸歯が見られる。花期は4月から5月ごろで、上部の葉腋から花柄を出し、ミリ単位のごく小さな淡青紫色で紅紫色のすじのある花を1個つける。花は4裂する合弁花で、イヌノフグリに似るところがあるが、花を被う萼片や葉や実に毛が生えているので見分けられる。

 それにしても、フラサバソウとは奇妙な名で、この名については次のような由来譚がある。フランスの植物学者A.FranchetとP.Savatierが明治時代の初めに共著として出した『日本植物目録』(1875年)にフラサバソウが記録されていた。だが、実物が見つからず、幻の植物になっていた。昭和12年(1937年)、このフラサバソウの長崎で採集した標本が発見され、この2人を記念して2人のFraとSavaを採って組み合わせフラサバソウと名づけるに至ったという。 

 写真はフラサバソウ。群生して花を咲かせるフラサバソウ(左)、長い毛がびっしりと生え、実も毛に被われており(中2枚)、花はオオイヌノフグリよりかなり小さいのが見て取れる(右)。明日香の里と河合町での撮影。

   遠くより呼ぶ声がする夢の中誰かは知らずふるさとの岡

 

 

 

 

 

 


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2017年02月15日 | 植物

<1874> 余聞・余話 「葉について(4)」 ( 勉強ノートより )

    生きるとは果して哀楽喜怒のうちこの身周囲に関はりながら

 (3) 葉のつき方

 葉は茎や枝木につき、種によって一定の配列様式にともなってつく。これはどういう因果によってそうなっているのか、遺伝子上の違いであろうが、植物の大昔からの因果(経験)によるものと思われる。これは花にも言えることであるが、植物の葉を見ていると、そのつき方には一定の様式をもってあることがわかる。ここでは、その葉のつき方の様式の違いについて見てみたいと思う。(図参照)

                

 互生葉序――――――――---茎の一節に1個の葉がつく様式を互生葉序といい、略して互生という。多くの場合、葉の茎に対する着点が茎の周りに螺旋状に配列するので、これについては螺生という。種によって螺生の現れ方はさまざまで、密なものとそうでないものが見られる。言わば、互生葉序は茎に対して角度を変えて互い違いにつくものであるが、ウワバミソウのように茎に対し、90度と270度の2列に並列してつく2列互生のものやコクサギのように角度が180度、90度、180度、270度が順に現われる4列互生に配列されるものが希に見られる。

 対生葉序――――――――---茎の節に2個の葉がつく様式を対生葉序といい、略して対生という。中でも葉の茎に対する着点の直列線が等間隔に4本に及ぶものを十字対生という。対生葉序のほとんど全ては十字対生で、双子葉植物の特徴となっている。ツルアリドウシの場合は茎が地を這うので、葉は平面上に並ぶが着点の直列線は4本であるから十字対生である。直列線が2本の場合は希に見られ、これは2列対生といい、ヒノキバヤドリギに見られる。また、直列線の4本が等間隔でないものも見られ、この場合は複2列対生といい、コニシキソウに見られる。直列線が6本以上に及ぶものは複系2列対生といい、カヤなどに見られる。

 輪生葉序――――――――---茎の1節に複数の葉がつくつき方を輪生葉序といい、略して輪生という。言わば、2個つく場合も輪生であるが、この場合は対生というのが普通である。3個の場合は3輪生、4個の場合は4輪生、5個の場合は5輪生といった具合になり、不定数の場合は単に輪生という。輪生にもエンレイソウ(3輪生)やツクバネソウ(4輪生)のように一定しているものもあれば、ツリガネニンジン(3~5輪生)やヨツバヒヨドリ(3~4輪生)のように一定しないものもある。また、クルマユリのように1つの茎に輪生と互生の葉が見られるものもある。

 以上は茎に対する葉のつく位置関係によるものであるが、葉が茎につく姿の特殊性によって見る場合がある。ほとんどの葉は無柄、有柄の違いはあっても茎に普通につくが、植物によっては特殊なつき方を見せる。例えば、ヤマトキソウのように茎に流れてつく葉、ノゲシのように茎を抱いてつく葉、ツキヌキニンドウのように茎が葉の中央を突き抜ける形につく葉、ツユクサのように葉の基部が筒になって茎に合着し鞘状になる葉などが見られる。(図参照)

           

(4) 特殊な葉

 根生葉とロゼット葉―――――-根生葉は根出葉とも呼ばれ、あたかも地中の根から生じているような葉をいう。正確には地上茎の基部の節につく葉である。シダ植物と草本植物の被子植物に広く見られる。スミレのように根生葉だけの植物もあるが、キセルアザミのように根生葉と地上茎の上の方につく葉がともに見られるものがあり、この場合、茎につく葉は茎生葉、略して茎葉という。根生葉の中で、冬にも枯死することなく、放射状に重なり合ってつき、地表に密着して越冬する葉をロゼット葉という。タンポポがよい例で、概ね、ロゼットは夏以降に展開した葉によってつくられ、それらの葉群の下に春から夏にかけて生じ、枯れかかった古い葉が見られる(図参照)。

 低出葉と高出葉と前出葉―――植物本体の下部につくられる普通葉以外の葉を低出葉という。低出葉には芽鱗、托葉だけの葉、鞘葉鱗片葉などがある。一方、高出葉は植物本体の上部につくられる花葉以外の特殊な葉をいう。高出葉の代表的な例は、総苞片,小苞で、普通葉と異なる。また、前出葉は植物本体の第一、第二の節につくられる葉で、側芽に最初につくられる葉である。ユズの棘は前出葉の好例である。

 鱗片葉―――――――――――光合成を行なわず、普通葉より著しく小さくなった葉を鱗片葉という。ただし、鱗片葉が芽を被う場合は芽鱗、花芽を腋に持つ場合は苞(苞葉)、花を構成する場合は花葉、裸子植物の雌の球花や球果をつくる場合は果鱗という。

(5) 束生と叢生

 植物本体の先端にあって、極めて節間の短縮した複数の節に葉が互いに近接して束になってつく場合を束生という。束生する葉の全体は葉束と呼ぶ。単子葉植物に見られる根生葉は普通束生である。このような状況が花茎や根茎に見られる場合にも束生という言い方をする。これに対し、地上茎の下部あるいは地下茎の側芽から新しい茎を生じ、互いに接し、株立ちになる場合を叢生という。ススキが好例。 写真は上段左から互生葉のヤマグワ、4列互生葉のコクサギ、対生葉のサワオトギリ、輪生葉のクルマバソウ。下段は単子葉植物で、葉が鞘状になるススキの群生風景とロゼット葉のショウジョウバカマ。