大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年12月29日 | 植物

<2192> 大和の花 (406) ウメモドキ (梅擬)                                       モチノキ科 ウメモドキ属

 

               

 山野の湿地や堀端、または湿った落葉広葉樹林内に生える落葉低木で、高さは2メートルから3メートルになる。樹皮は灰褐色で、枝は暗褐色。葉は長さが3センチから8センチの楕円形乃至は卵状長楕円形で、先は尖る。また、縁には細かな鋸歯があり、表面には短毛が散生する。その葉は1センチ弱の葉柄を有し、互生する。ウメモドキ(梅擬)の名は葉の形がウメの葉に似るからという。

 花期は6月ごろで、本年枝の葉腋に軸の短い花序を出し、ミリ単位の小さな花を咲かせる。雌雄異株で、雌雄とも花弁、萼片、雄しべは4、5個で、雌しべは1個。花弁は淡紫色。雄花序では雌しべが退化した花を5個から多いもので20個ほどつける。これに対し、雌花序では雄しべが退化した花を2個から4個つける。雌花は淡緑色で球形の子房が目につくので雄花と区別はつく。核果の実は直径5ミリほどの球形で、9月から10月ごろ赤く熟す。赤い実の枝は風情があり花材とされ、盆栽にもされる。また、実は野鳥の好物で、庭木にもされる。

 本州、四国、九州に分布し、湿地周辺では赤い実をつける秋になるとその存在を顕現する。大和(奈良県)では山間の池辺や湿地でよく見かける。 写真はウメモドキ。左から雌花をつけた本年枝、葉の間に赤い実をつけた9月の姿、落葉して赤い実だけになった11月の姿、赤い実のアップ(いずれも奈良市の郊外)。   実は命その象徴として見ゆる赤きもあれば紫もあり

<2193> 大和の花 (407) フウリンウメモドキ (風鈴梅擬)                    モチノキ科 ウメモドキ属

             

 山地の明るい林内や林縁に生える落葉低木で、高さは2メートルから5メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、大きい皮目がまばらにある。葉は長さが3センチから8センチの卵状長楕円形で、先は尾状に尖る。縁には浅い鋸歯が見られ、1センチ弱の短い葉柄を有し、互生する。

 雌雄異株で、花期は6月から7月ごろ。本年枝の主に葉腋から長さ3センチ前後の柄を伸ばし、白い小さな花をつける。雄花は2個から5個ずつつき、雌花は普通1個、稀に2、3個つく。雌雄とも花は直径数ミリの5弁花で、葉の上に乗っかるように咲くものが多い。これは花粉媒介の虫たちに花をわかりやすくしているのではないかと思われる。実は球形の核果で、秋になると赤熟し、ウメモドキの実に似るが、本種は柄にぶら下がり風に揺れるのでこの名がある。

 本州、四国、九州に分布する日本の固有植物として知られ、大和(奈良県)では、東南部の標高1000メートル以上の山岳に点在し、大台ヶ原山では遊歩道で見かける。 写真はフウリンウメモドキ。左2枚は雄花。右は実(いずれも大台ヶ原山)。                     北は雪大和は晴れて風強し

<2194> 大和の花 (408) タマミズキ (玉水木)                              モチノキ科 ウメモドキ属

                    

 山地の林内に生える落葉高木で、高さは15メートルほどになる。樹皮は灰褐色で皮目が目立つ。葉は長さが7センチから13センチほどの卵状長楕円形で、先は尖り、基部は円形。縁には波状の細かな鋸歯が見られる。質は洋紙質で、両面とも無毛。形状はサクラ類に似る。柄は長さが1.5センチから2センチほどで、紅色を帯び、互生する。

 雌雄異株で、花期は6月ごろ。本年枝の葉腋から長さ2センチほどの複散形花序を出し、緑白色の小さな花を多数つける。雌雄とも花は直径2、3ミリ程度で、花弁、萼片、雄しべは5個から8個で、雌しべは1個。雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化している。

  核果の実は直径3ミリほどの球形で、多くが固まってつき、秋から冬にかけて赤熟する。果期には葉を落とした枝木いっぱいに赤い実が見られ、よく目につく。この実が美しく、全体がミズキ(水木)に似るのでこの名があるという。

  本州の静岡県または福井県以西、四国、九州に分布し、国外では中国南部、台湾に見られるという。大和(奈良県)では、北部から南部まで点在して見られる。 写真はタマミズキ。果期の姿と実と葉のついた枝(五條市等)。  ゆく年は室に籠れるこの身にも


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2017年12月28日 | 写詩・写歌・写俳

<2191> 余聞、余話 「 2017年を振り返って思う 」

         警鐘は聴く者の中(うち)に及び鳴る激しく鳴れど静かに鳴れど

  今年も残すところわずかである。一年はあっという間だったが、今年も何やかやと話題にこと欠かない年だった。世相を表す今年の漢字には「北」が選ばれ、ミサイルやら核やら不安を煽る北朝鮮の問題がセンセイショナルに取り上げられ、それに耳目を奪われた感があった。それに、最近は大相撲のモンゴル人力士による暴行事件が話題を浚っているが、あまり話題にされない問題も看過出来ないものがあり考えさせられるという具合である。その一つに企業の不正が目についたことである。リニア新幹線の建設工事に絡むゼネコン大手の談合疑惑については検察の捜査が進行中で、年を跨ぐようであるが、製品検査のデータ誤魔化しなどの不正が次々に発覚し、それも名だたる大手企業ばかりというのが印象的で、考えさせられるところとなった。この項では、この問題に絞って考察してみたいと思う。

 この問題はこの時代に生き、この時代を担って来た私たち日本人の実質というものが問われる事態に陥っていることを象徴していると言ってよかろう。言わば、戦後の歩みの中で生じて来た事態だと言える。これは戦後教育の負の現われと見て、以前触れたことがあったが、資本主義と自由主義の融合においては競争の原理が働き、競争に勝利したものが有利を保ち得る世界が展開される。競争に勝つには、過激な言い方になるが、競争相手を倒すか蹴落とさなくてはならない。そういうのが資本主義と自由主義の負の側面にはある。最近発覚している企業による製品検査データ誤魔化しの不正はここに基づいているのではないかと考えられる。

  戦後の日本は民主主義とともにこの資本主義と自由主義の採り入れによって豊かさと利便、所謂、国の発展を成し遂げて来た。言葉を変えて言えば、これによる経済成長を国の最優先課題にして走り続けて来た。そして、今もその方針に変わるところはなく、グローバル化の進む中において現在の状況に至っている。つまり、資本主義と自由主義は競争主義であると言ってよく、常に競争相手と対峙し、その競争に与し、またはその状況に曝され、競争に勝つことを評価基準にして日々の営みをしているところがある。この傾向のもっとも顕著な現象としてあるのが、例えば、学生に課せられた受験の様相と言ってよかろう。受験というシステムは競争原理の導入にほかならず、競争相手を蹴落とし、或いは蹴落とされることによって成り立っているということが出来る。

                                 

  つまり、受験というのは競争主義の一つの例であって、資本主義と自由主義が内包する競争主義に等しく、ほかでもあらゆる面に競争の図式が見られるわけで、それが正常に働けば、社会に活力を生むが、そこには社会の進展を阻むリスクに繋がることも考えられるということになる。ここには勝つ者がいれば、負ける者が必ず生まれ、敗者は概ね惨めを強いられることになる。そして、そこには格差が生じ、その格差が全体的に納得されればよいが、それがなかなか難しいのが私たち人間の社会というもので、それは現実の社会を見渡してみればよくわかる。

  この勝ち負けの現象というのは、個々人のみでなく、個々人の集まりからなる集団や組織においても同じことが言え、企業(会社)組織でも言えることである。企業は競争に勝ち抜くために努力し、或いは優秀な人材の採用や育生に努めるわけであるが、その競争が最近ではグローバル化による世界が対象に及び、その競争はいよいよ熾烈を極めるところに来て、企業には人材もさることながら資金面でも対抗せざるを得ない状況に置かれ、その競争に打ち勝つためには手段を選ばず不正にも及ぶということになるというのが今年の企業による不正発覚の多さに繋がっていると考えられる。。

  不正が発覚してその事情説明に当たる企業(会社)のトップが記者会見に当たり頭を下げる光景を、今年はどれほど見て来たろうか。しかし、直接関係のない一般人の私たちには、情けない光景に見えるものながら、同じような競争に煽られている現代社会にどっぷり浸かって日々の暮らしに明け暮れている現代人においてはそれほど深刻には受け止めないところがあるのだろう。誤魔化しによる不正行為はよくないと思いつつも、またかというくらいに見過ごし、容易く考えたりする。しかし、この問題は日本にとって深刻なものであると私などには思える。

  この企業による不正の多さを考えるに、次のようなことも言えるように思われる。少子高齢化による人材の失われてゆく先ゆきと、AI(人工知能)やIT(情報技術)などの進展にともなう世界の転変する状況の中で、人材開発の空洞化によって生じる日本の埋没、これが懸念されるところで、次々に発覚する企業の誤魔化しによる不正の実態といみじくもこの間起きた新幹線の台車の亀裂における対処の拙さを思うとき、これは誰もがまだ知覚に及んでいない日本の人事における危うさの現われと言ってもよいように思われ、懸念が募るわけである。

  これは教育をも含め、金儲けが出来ればそれで万般よしとする、経済成長オンリーのものの考え方に対し、仕事の使命を優先させるような精神論にまで立ち返って考えなくてはならないことを内包し、これらの問題の顕現は日本の将来に警鐘を鳴らしていると考えられる次第である。この問題については少し立ち止まって考える必要があると思われるが、現状に汲汲としてそれが出来ず、未来が見据えられないのが、今の日本の状況ではないかという気がする。

 不安が的中しなければよいのであるが、とにかく、こうした人間性の劣化による危うさの現代は精神の状況から考え直さなければならないところに差しかかっていると言ってよいように思われる。警鐘は聞く耳を持たない者には響かない。これでは覚束ないのであるが、果して日本にはどのような未来が展開してゆくのだろうか。 写真はイメージで、剪定された梅の木。繁殖して伸び放題になった枝を放置して置くと良好な果樹にはならない。それは人間社会の或いは会社組織なんかでも言えることである。


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2017年12月22日 | 植物

<2185> 大和の花 (400) ソヨゴ                                            モチノキ科 モチノキ属

                    

 モチノキ科モチノキ属には常緑性のモチノキ亜属と落葉性のウメモドキ亜属に大きく分けられる。また、モチノキ亜属では本年枝の葉腋に花がつくグループと前年枝の葉腋に花がつくグループに分けられる。まずは、モチノキ亜属の前者に当たるソヨゴから見てみたいと思う。

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 山地の林内や林縁に生える常緑低木または小高木で、高さは大きいもので7、8メートルになる。樹皮は灰褐色で皮目が多く、なめらか。新しい本年枝は淡緑色。葉は長さが4センチから8センチの卵状楕円形で、先は尖り、基部は円形。縁は鋸歯がなく、波打つ。両面とも無毛で、2センチ弱の葉柄を有し、互生する。ソヨゴの名は、戦ぐ意によるもので、質の堅い葉が風に揺れて音をたてることに由来するという。

 花期は6月から7月ごろ。雌雄異株で、本年枝(新枝)の葉腋から長い柄を出し、雄株では散形状に3個から8個の花がつき、雌株では普通1個の花がつく。花は雌雄とも白色の4弁花で、ときに5弁の花も見られる。雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化している。花どきは雄花がにぎやかであるが、花が直径数ミリと小さいので目立たない。

 果期は10月から12月ごろで、直径8ミリほどの球形の核果が赤く熟し、長さ3センチから4センチの柄の先にぶら下がるようにつくのでよく目につく。本州(新潟県・茨城県以西)と四国、九州に分布し、国外では中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では全域に分布し、個体数も極めて多く、矢田丘陵の丘の道を歩くとよく出会う。なお、近縁種に本州(山梨県以西)と四国に分布する樹皮が黒っぽいクロソヨゴがある。

 材は白く、緻密なため、算盤玉、櫛などの小物から箱根細工、ギターの細工物、床柱などに用いられる。また、粘液を含む樹皮からは鳥黐、タンニンを含む葉からは褐色染料、地方によっては薪炭材、枝葉は榊(さかき)の代用にされ、庭木としても植えられ、利用価値のある木として知られる。 写真はソヨゴ。左から雄株の雄花、雌株の雌花、赤く熟した実のアップ(いずれも矢田丘陵)。        冬雲は走る 相輪は天を指す

<2186> 大和の花 (401) ナナミノキ (七実の木)                                      モチノキ科 モチノキ属

               

 山地の林内に生える高さが10メートルほどになる常緑高木で、幹は直径30センチほど。樹皮は灰褐色で、本年枝は灰緑色。葉は長さが5センチから10センチの長楕円形で、先はやや尾状に尖り、基部はややくさび形。縁には鈍い鋸歯が見られ、薄い革質の両面は無毛。葉柄は1センチから1.5センチで、互生する。

 花期は6月ごろ。雌雄異株で、雌雄とも本年枝の葉腋に散形花序を出し、淡紫色の花をつける。花は直径数ミリで花弁は4個、または5個。雄花も雌花もほぼ同じ大きさであるが、雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化している。花数は雄花の方が多く、にぎやかに見える。核果の実は直径6ミリほどの球形で、秋に赤熟する。赤熟した実は野鳥の好物で、ツグミやヒヨドリなどが群がる。

ナナミノキの名については、語源不明であるが、美しい実に基づく名として「名の実」が転じたと一説にはある。また、ナナメノキ(滑木)の別名でも呼ばれている。モチノキ(黐の木)と同様、樹皮から鳥黐を採り、庭木や公園樹としても植えられる。漢方では種子や樹皮を強壮薬に用いる。

本州の静岡県以西、四国、九州に分布し、中国でも見られるという。大和(奈良県)では北、中部に分布が集中している。 写真はナナミノキ。左から雄花、雌花、赤熟の実。実を啄むツグミ。県立馬見丘陵公園で。自生か植栽起源か定かでない。                         冬芽立つ昨日冬至の日なりけり

<2187> 大和の花 (402) クロガネモチ (黒鉄黐)                                モチノキ科 モチノキ属 

             

 山地の照葉樹林内に生える常緑高木であるが、庭木としてよく植えられるので、自生か、植栽起源かわかり難い個体が身近には多い。高さは普通10メートルほどであるが、20メートルに及ぶものもあるという。樹皮は灰白色で皮目が見られる。本年枝は無毛で、紫色を帯びる。葉は長さが6センチから10センチの楕円形で、縁に鋸歯はなく、両面とも無毛。葉柄は1センチから2センチで、新枝と同じく紫色を帯び、互生する。

 花期は6月ごろで、雌雄異株。雌雄とも本年枝の葉腋に散形花序を出し、白色乃至は淡紫色の花を2個から7個つける。花弁、萼片、雄しべは4個から6個。雌しべの柱頭は1個。花弁は長さが2ミリほどの楕円形で、極めて小さい。雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化している。実は核果で、直径6ミリほどの球形となり、初冬のころ赤熟する。

 本州の福島県以西、四国、九州、琉球に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾、ベトナムに見られるという。クロガネモチの名は樹皮から鳥黐が採れ、本年枝や葉柄を黒鉄色と見たことによるという。庭木に多く、材は櫛や印鑑に用いられる。 写真はクロガネモチ。左から雌花、雌花のアップ、赤熟した実。撮影は馬見丘陵公園内の自然林内。庭園木から逸出したものかも知れない。                 寒いねと言はれし朝の寒さかな

<2188> 大和の花 (403) イヌツゲ (犬黄楊)                                     モチノキ科 モチノキ属

                   

 日当たりのよい山地の林内、林縁、岩場などに生える常緑低木で、高さは1メートルから6メートルほどになり、枝がよく繁る。樹皮は灰黒色で、皮目が目立つ。本年枝は緑色で、稜がある。葉は長さ1センチから3センチほどの楕円形もしくは長楕円形で、先はあまり尖らず、縁には浅い鋸歯があり、葉裏に腺点が見られる。葉柄はごく短く、互生する。

 花期は6月から7月ごろで、雌雄異株。本年枝の葉腋に淡黄白色から淡緑白色の小さな花をつける。雌雄とも花弁、萼片、雄しべとも4個であるが、雄株では散形花序に2個から6個の雌しべの退化した花をつけ、雌株では雄しべが退化し、半球形で緑色の子房と4裂する柱頭が見られる花を1個ずずつつける。つまり、雌雄で花の量が違い、花どきの雄株はにぎやかに見える。

 本州、四国、九州、朝鮮半島南部に分布し、大和(奈良県)では標高差に関わらず全域で見られ、山歩きでよく見かける。イヌツゲの名はツゲ科のツゲ(黄楊・ホンツゲ)に似るが、材が役に立たない意により、イヌ(犬)が冠せられたという。ツゲは葉が対生し、花が雌雄同株で、雌雄とも花弁がないので、この点を見れば判別出来る。ツゲとして庭木や生け垣にされているものはほとんどがイヌツゲである。なお、イヌツゲからも鳥黐が採れる。 写真は左からイヌツゲの雄花群、雄花と雌花のアップ(生駒越えの鳴川峠付近)。   ぼくらにもそれとなくあるクリスマス

<2189> 大和の花 (404) タラヨウ (多羅葉)                                   モチノキ科 モチノキ属

                

 このページでは、これまでモチノキ科モチノキ属の常緑性のモチノキ亜属について、本年枝に花のつくものを見て来たが、ここからは前年枝に花がつくグループのタラヨウ(多羅葉)とモチノキ(黐木)を見てみたいと思う。まずは、タラヨウから。

 タラヨウは山地に生える常緑高木で、高さは普通10メートルほど、稀に20メートルに及ぶものもあるという。樹皮は灰褐色で滑らかで、本年枝は太く、緑色をし、稜がある。葉は長さが10センチから17センチの長楕円形で、先は短く尖る。縁には鋭い鋸歯があり、質は革質。表面は光沢のある濃緑色で、裏面は黄緑色。両面とも無毛である。

この葉を傷つけるとその部分が黒く変色する特徴があるが、これは葉に含まれる酸化酵素の働きによるもので、タラヨウ(多羅葉)の名はこの特徴に由来する。葉の裏に文字を刻みしばらくすると、文字の部分が黒く変色してはっきり浮き立つ。インドに産するヤシ科のバイタラジュ(貝多羅樹)の葉に経文を書いた故事に基づき、字が書ける本種をタラジュ(多羅樹)と呼び、これが変化してタラヨウ(多羅葉)に至ったという。短い柄をともない互生する。

花期は5月から6月ごろで、雌雄異株の花は前年枝の葉腋に短枝とともに黄緑色の小さな花を多数つける。雌雄とも花はミリ単位で、花弁、萼片、雄しべは普通4個、雌しべは1個。雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化している。実は球形の核果で、直径8ミリほど。10月から11月ごろ赤熟する。

  本州の東海地方以西、四国、九州に分布し、中国にも見られる暖地性の樹木で、大和(奈良県)では社寺の境内地に見られるものが多く、未だ自生の個体には出会っておらず、実のついた雌株にも出会っていない。なお、葉は乾燥して健康茶に用い、樹皮からは鳥黐を採る。 写真は前年枝の雄花群と雄花のアップ。右は裏面側から見た互生する長楕円形の葉。太陽光を受けて鮮やかに見える。(下市町の丹生川上神社下社と東大寺二月堂)。   年の瀬や幸福論の見え隠れ

<2190> 大和の花 (405) モチノキ (黐木)                                    モチノキ科 モチノキ属

                      

 暖地の植生で、本州以南、四国、九州と朝鮮半島南部域に分布する常緑小高木、または高木で、高さは普通10メートルほどになり、10メートルを越すものもある。樹皮は灰白色で滑らか。本年枝は緑色で鈍い稜がある。葉は長さが4センチから7センチの楕円形で、先も其部も尖り、縁に鋸歯はない。葉の質は革質で、表面は普通濃緑色、裏面は淡緑色で、両面とも無毛。ごく短い葉柄を有し、互生する。

 花期は4月ごろ。雌雄異株で、前年枝の葉腋に小さな黄緑色の花を多数つける。雌雄とも花弁、萼片、雄しべが4個、雌しべが1個で、雄株では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化、雄花の方が多く、にぎやかに見える。核果の実は直径8ミリほどの球形で、初冬のころ赤く熟す。

 樹皮は剥いで、水に浸けて腐らせた後、臼で搗いて鳥黐にする。モチノキ属の他種でも鳥黐は採れるが、モチノキの鳥黐は本黐と呼ばれ、評価が高い。また、樹皮は煎じて服用すれば、高血圧によいとされる。材は緻密で、細工物、櫛、印鑑などに用いられる。なお、庭木としての評価もよく、大和(奈良県)では自生地が南部に片寄っているので、野生のものにはなかなか出会えないが、庭木として植えられているので珍しくはない。 写真は実をつけたモチノキ(左)と雄花(右)。    年の瀬やこの一年もそれなりに

 

 


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2017年12月21日 | 写詩・写歌・写俳

<2184> 余聞、余話 「落葉の一景」

        惜別の情のごとくに木の影が散り敷く落葉に纏ひてゐたり

                           

 行くものと見送るもの。それはともに思いを抱く身。春の息吹を青春と呼び、そこには瑞々しい若葉の、つまり、新緑の時があった。芽吹きとともに花も咲いた。その花は早くに散って、結実へ向かい、移ろうときの中に夢を膨らませて来た。若葉の新緑は夏に向かって勢いを増し、そして、万緑のときを迎え、夏の日差しの下で成熟した働きをその姿に漲らせ、平和と豊かさの象徴のごとく旺盛にあった。

 秋が深まるころ、有終の美を競うごとく、みなみごとな彩を見せ、それはまさに日の光を得て、個々の美しい存在を一体にして周囲に誇り、見る目の心を魅了した。そして、移ろうときはなお進み、落葉のときを迎えた。落葉は落葉の来歴を一片一片、一片ごとに秘めながら、土に還るべく散り敷き今にある。冬の日差しはこの散り敷く一片一片の落葉それぞれを等しく暖めている。葉を落とした小楢は裸木となり、裸木の影が惜別の情をもってあるごとく、その散り敷く落葉に纏って見える。 写真は散り敷く落葉と小楢の影。


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2017年12月16日 | 植物

<2179> 大和の花 (395) ニワトコ (接骨木)                                    スイカズラ科 ニワトコ属

          

 山野の林縁に生える落葉低木乃至小高木で、高さは6メートルほどになる。下部からよく分枝し、枝が放物線を描くように伸びる特徴がある。幹は灰黒色で、ひび割れる。枝は灰褐色で、質の軟らかな髄があり、成長が速い。若い枝は緑色を帯び、葉は長さが8センチから30センチの奇数羽状複葉で、対生する。小葉は長さが3センチから10センチの長楕円形で、先は鋭く尖り、基部は円形からくさび形。縁には細かな鋸歯がある。

 花期は3月から5月ごろで、早春のころ他に比していち早く芽吹き、葉とともに花を見せる。新しい枝の葉腋から円錐花序を出し、直径数ミリの小花を多数つける。小花は黄白色で、ときに淡紫色を帯び、花冠は5深裂して反り返る。雄しべは5個で、雌しべは1個。柱頭は暗赤色で3裂する。核果の実は長さ数ミリの卵球形で、6月から7月ごろ赤熟する。本州、四国、九州(奄美大島まで)に分布し、国外では朝鮮半島南部と中国に見られるという。大和(奈良県)では全域に見られる。北海道にはエゾニワトコ、西欧にはセイヨウニワトコが分布する。

 なお、漢名は接骨木(せっこつぼく)で、夏に採取した枝や葉を陰干しにし、これを煎じて服用すれば、解熱、利尿などに効能があるとされ、粉末を練って打ち身や打撲の患部に貼るとよいとも言われる。また、薬湯料としてニワトコ風呂に入るとリュウマチや神経痛によいとされる。

 古くはミヤツコギ(造木)と呼ばれ、平安時代後期の歌人源俊頼の『散木奇歌集』には「春たてば芽ぐむ垣根のみやつこ木我こそ先に思ひそめしか」という垣根のニワトコを詠んだ歌が見える。このミヤツコギは二ワツコギの転で、二ワツギコツ(庭接骨)、即ち接骨木に等しいということになる。

  これより以前、『万葉集』では巻2(90番)の衣通王の歌「君がゆきけ長くなりぬ山たづの迎えを行かむ待つには待たじ」に見えるヤマタヅ(山たづ)について、歌の添え書きに「ここに山たづと云は今の造木(みやつこぎ)なり」とあることからニワトコはヤマタヅとも呼ばれ、万葉植物であることがわかる。なお、ヤマタヅのニワトコは枝や葉が相対しているので、「山たづの」は「迎へ」の枕詞として用いられたと考えられている。因みに歌の意は「君の旅は日数が長くなった。迎えに行こう。じっと待ってなどいられない」となる。

  また、ニワトコについては、垣根に利用されたように、昔から庭で常に見られる木としあったことが想像される。所謂、庭常(にわとこ)。赤く熟した実は見栄えがし、鳥が好んで食べるため、ニワトコの庭には鳥がよく来ることから庭鳥籠、または、ニワトコの枝を鳥籠の止まり木にしたことによるとする説もある。

  とにかく、花は地味な木であるが、鮮やかな赤い実が印象的で、昔からよく知られていたことが文献上でもわかる。 写真は左から枝に連なる花々、葉と花のアップ、赤い鮮やかな実をつけた枝木。   生きるとはそれそのことよそれぞれに分限ありて使命を担ふ

<2180> 大和の花 (396) スイカズラ (吸葛・忍冬)                           スイカズラ科 スイカズラ属

                              

 日当たりのよい山野の林縁や道端などに生える常緑つる性の木本植物で、よく分枝して他物に絡んで繁茂する。葉は長さが3センチから7センチほどの卵形乃至は長楕円形で、先は鈍く尖り、基部は切形もしくは広いくさび形になる。縁には鋸歯がない。葉の裏面と長さが1センチ弱の短い葉柄には毛が密生し、対生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝の葉腋に甘い芳香のある花を2個ずつつける。花冠は細長い筒形で、先が5裂し、裂片の4個は上向きに反り、1個は下向きに反る。雄しべは5個、雌しべ1個で、ともに花冠より突き出る。花冠は白色か淡紅色を帯びるかで、時が経過するにつれて黄色に変色する。花の香りは昼より夜に増すが、これは夜行性の虫へのアピールではないかと言われる。液果の実は直径数ミリの球形で、2個ずつつき、秋から冬にかけて黒く熟す。

 北海道の南端から本州、四国、九州、琉球に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では全域で普通に見られる。スイカズラの名は花に蜜があり、甘くて吸うことによる。別名のニンドウは漢名の忍冬によるもので、冬も一部の葉が枯れず、耐え忍ぶ姿に見えることによるという。また、キンギンカ(金銀花)の名もあるが、これは花の色が白色から黄色に変化し、両色の花が同時に見られることによる。

 なお、スイカズラは薬用としても知られ、花の生薬名は金銀花で、花を煎じ、関節痛や風邪などの解熱に服用する。一方、茎や葉の生薬名は忍冬で、これも煎じて腫れものや腰痛などに服用する。忍冬茶や忍冬酒も作られ、飲めば利尿によいという。また、スイカズラの文様は忍冬紋、あるいは忍冬唐草紋として古来より用いられ、仏教に関わりが深く、仏具の飾り金具や寺院の軒平瓦などに見られ、法隆寺の玉虫厨子のそれはよく知られる。  写真はスイカズラ。   世相とふ言葉の師走十二月

<2181> 大和の花 (397) ウグイスカグラ (鴬神楽)                           スイカズラ科 スイカズラ属

                                     

 山野の日当たりのよい林内や林縁に生える落葉低木で、細い枝を広げ、高さは大きいもので3メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、古木になると縦に剥がれる。葉は長さが5センチ前後の広楕円形または倒卵形で、両面とも無毛。有毛のものはヤマウグイスカグラ(山鴬神楽)と言われるが、中間型もあって区別は難しいとされる。ここではウグイスカグラとして見た。

 花期は4月から5月ごろで、枝先の葉腋から長さが1センチから2センチの細い花柄を出し、淡紅色から紅色に近い花を1個から2個つける。花冠は2センチほどの漏斗状で、先が5裂して斜開するものから平開するものまで下向きに咲く。実は液果で、長さが1.5センチほどの楕円形で、6月ごろ赤く熟す。

 北海道の南部から本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では南部よりも中部から北部に多く、花と実がかわいらしいので、庭木にもされる。ウグイスカグラ(鴬神楽)の名はウグイスの鳴く時期に花が咲くからとの説があるが、枝が細く、ウグイスが来て枝を渡る度に花が揺れ、これを神楽の舞う姿に見立てたのではないかということも言える。ウグイスノキ(鴬の木)の別名もある。 写真はウグイスカグラの花 (金剛山ほか)。   獺祭の室に冬陽の暖かさ

<2182> 大和の花 (398) ウスバヒョウタンボク (薄葉瓢箪木)         スイカズラ科 スイカズラ属

                               

  暖温帯域の山地林内に生える落葉低木で、よく枝を分け、高さは2メートルほどになる。古い木になると樹皮が縦に剥がれる特徴がある。葉は長さが4センチから10センチほどの長楕円状披針形で、先は長く尖り、基部は広いくさび形になる。縁には鋸歯がなく、薄い膜質で、裏面は淡緑色。短い柄を持ち、対生する。

 花期は4月から5月ごろで、枝先の葉腋に短い花柄を出し、黄白色の筒状の花を2個ずつつける。花冠は長さが1センチほどで、先が上下に分れ、上片は浅く4裂し、雄しべ5個と雌しべ1個は花冠の外に伸び出す。同属のオニヒョウタンボク(鬼瓢箪木)に似るが、オニヒョウタンボクには毛が多い。実は球形の液果で、2個が合着し、ヒョウタン形になるのでこの名がある。熟すと赤くなり、食べられそうに見えるが、有毒で、ヨメゴロシの異名を持つほどである。

 本州の近畿地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、希少な植物として見られ、環境省の絶滅危惧Ⅱ類、近畿地方の準絶滅危惧種で、大和(奈良県)では個体数がわずかしか確認されておらず、絶滅寸前種にあげられている。 写真はウスバヒョウタンボクの花(金剛山のカトラ谷、標高990メートル付近)。 冬の山陽の差す辺り恋しかり 

<2183> 大和の花 (399) キンキヒョウタンボク (近畿瓢箪木)      スイカズラ科 スイカズラ属

                                                    

  山地の明るい林内に生える落葉低木で、高さは2メートルから5メートルほどになる。本州の東北地方南部から近畿地方に分布するチチブヒョウタンボク(秩父瓢箪木)の変種で、よく似るが、チチブヒョウタンボクより葉が狭い特徴があり、本州の近畿地方以西と四国の東北部に限定して見られる日本の固有植物として知られ、環境省の絶滅危惧ⅠB類、近畿地方の準絶滅危惧種として見え。大和(奈良県)では極めて珍しく、金剛山の個体しか確認されておらず、レッドリストの絶滅寸前種にあげられている。

  樹皮は灰褐色。葉は長楕円状披針形で先は尖る。花期は4月から5月ごろで、新枝の葉腋に長い花柄を有する淡黄白色の花を普通2個ずつつける。花冠は長さ1.5センチから2センチで、先が5裂する。液果の実は2個が合着し、ヒョウタン形になり、長い柄にぶら下がるのが印象的である。実は6月から7月ごろ光沢のある鮮やかな赤色に熟す。 写真は赤い実をつけたキンキヒョウタンボクと実のアップ(ともに金剛山紅葉谷の標高900メートル付近)。花の写真は撮り得ていない。 山野よし冬の平群をブラタモリ