<2185> 大和の花 (400) ソヨゴ モチノキ科 モチノキ属
モチノキ科モチノキ属には常緑性のモチノキ亜属と落葉性のウメモドキ亜属に大きく分けられる。また、モチノキ亜属では本年枝の葉腋に花がつくグループと前年枝の葉腋に花がつくグループに分けられる。まずは、モチノキ亜属の前者に当たるソヨゴから見てみたいと思う。
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山地の林内や林縁に生える常緑低木または小高木で、高さは大きいもので7、8メートルになる。樹皮は灰褐色で皮目が多く、なめらか。新しい本年枝は淡緑色。葉は長さが4センチから8センチの卵状楕円形で、先は尖り、基部は円形。縁は鋸歯がなく、波打つ。両面とも無毛で、2センチ弱の葉柄を有し、互生する。ソヨゴの名は、戦ぐ意によるもので、質の堅い葉が風に揺れて音をたてることに由来するという。
花期は6月から7月ごろ。雌雄異株で、本年枝(新枝)の葉腋から長い柄を出し、雄株では散形状に3個から8個の花がつき、雌株では普通1個の花がつく。花は雌雄とも白色の4弁花で、ときに5弁の花も見られる。雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化している。花どきは雄花がにぎやかであるが、花が直径数ミリと小さいので目立たない。
果期は10月から12月ごろで、直径8ミリほどの球形の核果が赤く熟し、長さ3センチから4センチの柄の先にぶら下がるようにつくのでよく目につく。本州(新潟県・茨城県以西)と四国、九州に分布し、国外では中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では全域に分布し、個体数も極めて多く、矢田丘陵の丘の道を歩くとよく出会う。なお、近縁種に本州(山梨県以西)と四国に分布する樹皮が黒っぽいクロソヨゴがある。
材は白く、緻密なため、算盤玉、櫛などの小物から箱根細工、ギターの細工物、床柱などに用いられる。また、粘液を含む樹皮からは鳥黐、タンニンを含む葉からは褐色染料、地方によっては薪炭材、枝葉は榊(さかき)の代用にされ、庭木としても植えられ、利用価値のある木として知られる。 写真はソヨゴ。左から雄株の雄花、雌株の雌花、赤く熟した実のアップ(いずれも矢田丘陵)。 冬雲は走る 相輪は天を指す
<2186> 大和の花 (401) ナナミノキ (七実の木) モチノキ科 モチノキ属
山地の林内に生える高さが10メートルほどになる常緑高木で、幹は直径30センチほど。樹皮は灰褐色で、本年枝は灰緑色。葉は長さが5センチから10センチの長楕円形で、先はやや尾状に尖り、基部はややくさび形。縁には鈍い鋸歯が見られ、薄い革質の両面は無毛。葉柄は1センチから1.5センチで、互生する。
花期は6月ごろ。雌雄異株で、雌雄とも本年枝の葉腋に散形花序を出し、淡紫色の花をつける。花は直径数ミリで花弁は4個、または5個。雄花も雌花もほぼ同じ大きさであるが、雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化している。花数は雄花の方が多く、にぎやかに見える。核果の実は直径6ミリほどの球形で、秋に赤熟する。赤熟した実は野鳥の好物で、ツグミやヒヨドリなどが群がる。
ナナミノキの名については、語源不明であるが、美しい実に基づく名として「名の実」が転じたと一説にはある。また、ナナメノキ(滑木)の別名でも呼ばれている。モチノキ(黐の木)と同様、樹皮から鳥黐を採り、庭木や公園樹としても植えられる。漢方では種子や樹皮を強壮薬に用いる。
本州の静岡県以西、四国、九州に分布し、中国でも見られるという。大和(奈良県)では北、中部に分布が集中している。 写真はナナミノキ。左から雄花、雌花、赤熟の実。実を啄むツグミ。県立馬見丘陵公園で。自生か植栽起源か定かでない。 冬芽立つ昨日冬至の日なりけり
<2187> 大和の花 (402) クロガネモチ (黒鉄黐) モチノキ科 モチノキ属
山地の照葉樹林内に生える常緑高木であるが、庭木としてよく植えられるので、自生か、植栽起源かわかり難い個体が身近には多い。高さは普通10メートルほどであるが、20メートルに及ぶものもあるという。樹皮は灰白色で皮目が見られる。本年枝は無毛で、紫色を帯びる。葉は長さが6センチから10センチの楕円形で、縁に鋸歯はなく、両面とも無毛。葉柄は1センチから2センチで、新枝と同じく紫色を帯び、互生する。
花期は6月ごろで、雌雄異株。雌雄とも本年枝の葉腋に散形花序を出し、白色乃至は淡紫色の花を2個から7個つける。花弁、萼片、雄しべは4個から6個。雌しべの柱頭は1個。花弁は長さが2ミリほどの楕円形で、極めて小さい。雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化している。実は核果で、直径6ミリほどの球形となり、初冬のころ赤熟する。
本州の福島県以西、四国、九州、琉球に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾、ベトナムに見られるという。クロガネモチの名は樹皮から鳥黐が採れ、本年枝や葉柄を黒鉄色と見たことによるという。庭木に多く、材は櫛や印鑑に用いられる。 写真はクロガネモチ。左から雌花、雌花のアップ、赤熟した実。撮影は馬見丘陵公園内の自然林内。庭園木から逸出したものかも知れない。 寒いねと言はれし朝の寒さかな
<2188> 大和の花 (403) イヌツゲ (犬黄楊) モチノキ科 モチノキ属
日当たりのよい山地の林内、林縁、岩場などに生える常緑低木で、高さは1メートルから6メートルほどになり、枝がよく繁る。樹皮は灰黒色で、皮目が目立つ。本年枝は緑色で、稜がある。葉は長さ1センチから3センチほどの楕円形もしくは長楕円形で、先はあまり尖らず、縁には浅い鋸歯があり、葉裏に腺点が見られる。葉柄はごく短く、互生する。
花期は6月から7月ごろで、雌雄異株。本年枝の葉腋に淡黄白色から淡緑白色の小さな花をつける。雌雄とも花弁、萼片、雄しべとも4個であるが、雄株では散形花序に2個から6個の雌しべの退化した花をつけ、雌株では雄しべが退化し、半球形で緑色の子房と4裂する柱頭が見られる花を1個ずずつつける。つまり、雌雄で花の量が違い、花どきの雄株はにぎやかに見える。
本州、四国、九州、朝鮮半島南部に分布し、大和(奈良県)では標高差に関わらず全域で見られ、山歩きでよく見かける。イヌツゲの名はツゲ科のツゲ(黄楊・ホンツゲ)に似るが、材が役に立たない意により、イヌ(犬)が冠せられたという。ツゲは葉が対生し、花が雌雄同株で、雌雄とも花弁がないので、この点を見れば判別出来る。ツゲとして庭木や生け垣にされているものはほとんどがイヌツゲである。なお、イヌツゲからも鳥黐が採れる。 写真は左からイヌツゲの雄花群、雄花と雌花のアップ(生駒越えの鳴川峠付近)。 ぼくらにもそれとなくあるクリスマス
<2189> 大和の花 (404) タラヨウ (多羅葉) モチノキ科 モチノキ属
このページでは、これまでモチノキ科モチノキ属の常緑性のモチノキ亜属について、本年枝に花のつくものを見て来たが、ここからは前年枝に花がつくグループのタラヨウ(多羅葉)とモチノキ(黐木)を見てみたいと思う。まずは、タラヨウから。
タラヨウは山地に生える常緑高木で、高さは普通10メートルほど、稀に20メートルに及ぶものもあるという。樹皮は灰褐色で滑らかで、本年枝は太く、緑色をし、稜がある。葉は長さが10センチから17センチの長楕円形で、先は短く尖る。縁には鋭い鋸歯があり、質は革質。表面は光沢のある濃緑色で、裏面は黄緑色。両面とも無毛である。
この葉を傷つけるとその部分が黒く変色する特徴があるが、これは葉に含まれる酸化酵素の働きによるもので、タラヨウ(多羅葉)の名はこの特徴に由来する。葉の裏に文字を刻みしばらくすると、文字の部分が黒く変色してはっきり浮き立つ。インドに産するヤシ科のバイタラジュ(貝多羅樹)の葉に経文を書いた故事に基づき、字が書ける本種をタラジュ(多羅樹)と呼び、これが変化してタラヨウ(多羅葉)に至ったという。短い柄をともない互生する。
花期は5月から6月ごろで、雌雄異株の花は前年枝の葉腋に短枝とともに黄緑色の小さな花を多数つける。雌雄とも花はミリ単位で、花弁、萼片、雄しべは普通4個、雌しべは1個。雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化している。実は球形の核果で、直径8ミリほど。10月から11月ごろ赤熟する。
本州の東海地方以西、四国、九州に分布し、中国にも見られる暖地性の樹木で、大和(奈良県)では社寺の境内地に見られるものが多く、未だ自生の個体には出会っておらず、実のついた雌株にも出会っていない。なお、葉は乾燥して健康茶に用い、樹皮からは鳥黐を採る。 写真は前年枝の雄花群と雄花のアップ。右は裏面側から見た互生する長楕円形の葉。太陽光を受けて鮮やかに見える。(下市町の丹生川上神社下社と東大寺二月堂)。 年の瀬や幸福論の見え隠れ
<2190> 大和の花 (405) モチノキ (黐木) モチノキ科 モチノキ属
暖地の植生で、本州以南、四国、九州と朝鮮半島南部域に分布する常緑小高木、または高木で、高さは普通10メートルほどになり、10メートルを越すものもある。樹皮は灰白色で滑らか。本年枝は緑色で鈍い稜がある。葉は長さが4センチから7センチの楕円形で、先も其部も尖り、縁に鋸歯はない。葉の質は革質で、表面は普通濃緑色、裏面は淡緑色で、両面とも無毛。ごく短い葉柄を有し、互生する。
花期は4月ごろ。雌雄異株で、前年枝の葉腋に小さな黄緑色の花を多数つける。雌雄とも花弁、萼片、雄しべが4個、雌しべが1個で、雄株では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化、雄花の方が多く、にぎやかに見える。核果の実は直径8ミリほどの球形で、初冬のころ赤く熟す。
樹皮は剥いで、水に浸けて腐らせた後、臼で搗いて鳥黐にする。モチノキ属の他種でも鳥黐は採れるが、モチノキの鳥黐は本黐と呼ばれ、評価が高い。また、樹皮は煎じて服用すれば、高血圧によいとされる。材は緻密で、細工物、櫛、印鑑などに用いられる。なお、庭木としての評価もよく、大和(奈良県)では自生地が南部に片寄っているので、野生のものにはなかなか出会えないが、庭木として植えられているので珍しくはない。 写真は実をつけたモチノキ(左)と雄花(右)。 年の瀬やこの一年もそれなりに