大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年04月30日 | 植物

<2313> 大和の花 (497) カキドオシ (垣通)                                シソ科 カキドオシ属 

          

 草地や道端などに生えるつる性の多年草で、高さは5センチから25センチほどになる。茎は細く4角形で、はじめ直立し、花の後、倒れて地上を這い、垣根を通り抜けるほど広がり、群生することからこの名が生まれたという。葉は腎円形で粗い鋸歯があり、柄を有して対生する。茎や葉には祖毛が生え、芳香がある。

 花期は4月から5月ごろで、葉腋に長さが1.5センチから2.5センチの唇形花を1個から3個つける。花冠は淡紫色で、下唇が3裂し、側裂片は小さく、中央の裂片は大きく、前に突き出し、濃紫色の斑紋と白い毛を有する。雄しべは4個。

 北半球に広く分布し、日本では全国各地に見え、大和(奈良県)でも普通に見られる。なお、若葉は食用にされ、あくを除いて和え物や浸し物にする。漢方では連銭草(れんせんそう)の生薬名で知られ、全草を煎じて結石や胆石などの病に用いる。また、民間薬としても小児の疳の虫に用いられ、カントリソウ(疳取草)、カンキリグサ(疳切草)の名があり、糖尿病にも効くという。 写真はカキドオシ 。  一斉に咲く花春とはなりにけり

<2314> 大和の花 (498) キランソウ (金瘡小草)                                  シソ科 キランソウ属

           

 山野の道端や丘陵地の草地などに見られる多年草で、全体に縮れ毛が多く、シソ科の草花では珍しく丸い茎が四方に広がり、地面に貼りつくように生える。根生葉は数個がロゼット状につき、長さが4センチから6センチの倒披針形で、縁には粗い鋸歯が見られる。

 花期は3月から5月ごろで、葉腋に長さが1センチから2センチの濃紫色の唇形花を数個つける。花冠は上唇が極めて小さく、下唇は3裂し、中央の裂片は突き出して、更に2浅裂する。本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。大和(奈良県)では普通に見られ、山野を歩くと出会える。

 キランソウの名の由来は不明で、金瘡小草は漢名。ジゴクノカマノフタ(地獄の釜の蓋)の異名を持つが、これは地に貼りついて生える姿による。なお、漢方では筋骨草(きんこつそう)の生薬名で呼ばれ、解熱、去痰、咳止めに、また、生の茎や葉の汁は虫刺されの毒消しとして知られる。写真はキランソウ。   人生はイコール努力それぞれに課せられている課題があって

<2315> 大和の花 (499) セイヨウジュウニヒトエ (西洋十二単)      シソ科 キランソウ属

             

 ヨーロッパ原産の多年草で、江戸時代末に観賞用として渡来した帰化植物であるが、近年(1970年代)になって植えられたものが逸出しているのが見られ、今では各地で野生化したものが多くなっている。所謂、外来種である。

 地上を這う茎があり、開花時期になると、茎は長く伸び出し、その茎の節から根を下ろし、新しい個体を生んで群生し、個体ごとに4角形の花茎を1本直立させ、高さが10センチから30センチほどになる。葉(苞葉)は長さが1センチほどの楕円形で、先は丸く、縁に鋸歯があり、対生する。

 花期は4月から7月ごろで、葉腋に長さが1センチほどの唇形花をつけ、花は3個から10個が円錐状につく。花冠は濃青紫色が普通であるが、白いものまで変化が見られる。この花が日本特産のジュウニヒトエ(十二一重)に似て、ヨーロッパ原産であるためこの名がついた。十二一重は昔の女官の衣装で、花が幾重にも重なって見えることによる。なお、常緑であるが、秋から春にかけては、全体に紫色を帯びる。 写真はセイヨウジュウニヒトエ。大和(奈良県)でもときおり野生化してる。 何はあれ そらみつ大和 五月来ぬ

 <2316> 大和の花 (500) ツクバキンモンソウ (筑波金紋草)                         シソ科 キランソウ属

             

 山地の道端などに生える日本海側を主な分布域にするニシキゴロモ(錦衣)の変種とされる多年草で、本州の太平洋側と四国に分布する日本固有の植物として知られる。1本の茎が直立し、高さが5センチから15センチほどになる。葉は長さが5センチ前後の卵形で、粗い鈍鋸歯と葉脈が紫色の特徴があり、2、3対が対生し、地に貼りついているように見えることが多い。

 花期は4月から5月ごろで、葉腋に長さが1センチほどの白色の勝った淡紫色の唇形花を数個つける。花冠の上唇がニシキゴロモでは長さが3ミリほどになるのに対し、本種では1ミリほどと極めて短い。ツクバキンモンソウ(筑波金紋草)の名は、ニシキゴロモの別名キンモンソウ(金紋草)と茨城県の筑波山(887メートル)で最初に見つかったことによるという。大和(奈良県)では全域的に見られるが、個体数が少なく、レッドリストの希少種にあげられている。  写真はツクバキンモンソウ。金剛山の郵便道で撮影した右端の写真は葉に紫色の条が見られない珍しいタイプと見た。  課題なき人生などはあり得ない生そのものが課題であれば

<2317> 大和の花 (501) オウギカズラ (扇葛)                                          シソ科 キランソウ属 

                   

  山地や谷筋の木陰に生える多年草で、草丈は10センチから20センチほどになり、花後、茎の基部から走出枝を伸ばして広がる。葉は長さが2センチから5センチの5角状心形で、縁には欠刻状の鈍鋸歯が見られ、長い葉柄を有して対生する。

  花期は4月から5月ごろで、茎上部の葉腋に筒部の長さが2センチ超の唇形花をつける。花冠は淡青紫色から白色に近いものまで、個体や生える場所により濃淡の違いが見られ、下唇に濃紫色の条が入る。上唇は2浅裂して小さく、下唇は3裂して大きく、中央裂片は更に細かく裂ける。

  本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本固有の植物で、大和(奈良県)では南部の紀伊山地で見られるが、個体数が少なく、減少傾向にあるとして、レッドリストの希少種に名を連ねている。なお、写真の個体は大阪奈良府県境の金剛山カトラタニの府県境付近で出会ったもので、厳密には大和の花ではないと思われるが、山塊一帯の認識によりここに扱った。 写真はオウギカズラ。

   友達は出来しか新入生 五月

 

<2318> 大和の花 (502) ラショウモンカズラ (羅生門葛)            シソ科 ラショウモンカズラ属

       

  山地のやや明るい林内や林縁乃至は谷筋などに生える多年草で、花茎が直立し、高さが15センチから30センチほどになる。花後、茎の基部から走出枝を伸ばして広がり、群落をつくる。葉は長さが2センチから5センチの三角状心形で、縁には粗い鈍鋸歯があり、2センチほどの葉柄を有して対生する。

  花期は4月から5月ごろで、花茎上部の葉(苞葉)腋に長さが4、5センチの紫色から青紫色の唇形花を普通2、3個ずつ幾つか上下に連ねて咲かせる。花冠は上唇が小さく2裂し、下唇は3裂して中央の大きい裂片が下側に反り返り、更に浅裂する。反り返った部分は白地で濃紫色の斑紋があり、先には白い長毛が見られる。この花の特徴によりラショウモンカズラ(羅生門葛)の名はあるという。

  羅生門は京都の外郭の西南に設けられた門で、平安時代の中ごろ、この門の楼上に鬼神と恐れられていた盗賊が住みつき、この盗賊を源頼光の臣渡辺綱が毛深い片腕を斬り落として退治した。毛の目立つ青紫色の花をこの斬り落とされた片腕に見立てたという。カズラ(葛)については、走出枝をいうものであろう。

  本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。大和(奈良県)では自生地が少なく、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はラショウモンカズラ。登山道の脇でときおり見かける。

   野の花に接し由来を閲すれば日本の歩みに通ずるもあり

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年04月29日 | 写詩・写歌・写俳

<2312> 余聞、余話 「初夏の瀞峡」

 ゴールデンウイークは好天に恵まれスタート。大和地方はまさに初夏の感。紀伊山地に出かけ県境まで足を伸ばした。紀伊山地は新緑の真っただ中、気温上昇とともに水の恋しくなる季節の到来である。その新緑と水を求めてにぎわっているのが奈良県の南端、三重県と和歌山県の県境に位置する深い藍色の水の流れと断崖絶壁を誇る吉野熊野国立公園の景勝地、北山川の瀞八丁(瀞峡)である。

                  

 エンジン音を響かせ絶壁の間を縫って走る白いジェット船が周囲の景観に映え、緩やかな流れに乗って赤や黄色のカラフルなカヌーを操って楽しむ人たちが印象的だった。私はというと、野生の花を求めて撮影にやって来たのであるが、シイやカシ類の群落がちょうど花盛りで、極相林のこれらの花期に出会うことが出来た。

                               

 写真上段は深い峡谷を行くカヌーとカヌーで遊ぶ人たち(左)と峡谷を縫って走る遊覧ジェット船。下段はシイやカシ類の花で被われた山腹(十津川村神下)。 カラフルなカヌー水面に瀞の夏


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2018年04月28日 | 写詩・写歌・写俳

<2311> 余聞、余話  「キジ」

        炯炯と皇帝の眼光耀かせ花の舞台(うてな)に現はれし雉

 繁殖の時期を迎えた野鳥には活発な動きが見られ、オスの囀る声もその一つで、そこここで頻繁に聞かれる。灌木の高枝に止まって囀るのはホオジロ。竹薮からはウグイスの声。レンゲソウが一面に咲き広がる田の中からはときおりキジの鳴き声が上がる。首だけが花の隙間からちらちら動いているのが目に留まる。よく見ていないと見失う速さで移動している。そして、いつの間にか方角違いに現われて、大きく羽ばたき声を上げる。縄張りを守り、メスへのアピールをしているのに違いない。その声は一定の間隔を置いて聞かれ、結構遠くにまで聞こえる。

            

 日本のキジは大陸に生息するコウライキジの亜種とされる日本固有の鳥で、記紀や『万葉集』などの古文献にも登場を見る昔から馴染みのある鳥である。桃太郎の家来になって鬼退治をする昔話は誰もが知るところ。戦後、他の鳥たちを退けて国鳥に選ばれ、今に至っている。

  里の近辺に多く、その点、よく見かけるので親しみがある。体長はオスで八十センチ、メスで六十センチほど。尾羽が長く、オスとメスの違いがはっきりし、メスよりもオスの方が艶やかで、美しく、顔の赤い肉種と目の周りの金色の虹彩が印象的で、その風貌には「皇帝」の言葉がぴったり来る屹然として貴品に満ちたところがうかがえる。

 この間、以上のような印象のキジのオスに出会い、その印象によって歌を詠むに至った。 写真は一面にレンゲの花が咲く田んぼに現われたキジのオス。羽ばたきながら鳴いて草叢に姿を消した (広陵町の馬見丘陵公園近くの田んぼ)。

    流れゆく時を共有するものが風景にゐる雉もその一

    夢は語るものにはあらず内に秘めゆくべくあるをそらみつ大和

    楽園を統ぶるがごとく現はれし雉の風貌皇帝の燦

    皇帝の尊厳をもて現はれし雉の立ち居を彩る紫雲英(げんげ)

    系譜あり継ぎ来て今にある我ら雉にも言へる我らに等し


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2018年04月24日 | 植物

<2307> 大和の花 (493) ヒメオドリコソウ (姫踊子草)                           シソ科 オドリコソウ属

       

 ヨーロッパ原産の越年草で、明治時代の中ごろ渡来した帰化植物の外来種である。最初、東京で発見され、今では全国的に広まり、各地で普通に見られるようになった。茎は下部で分枝し、4稜があって、高さは大きいもので30センチほどになる。葉は対生し、長さが2センチ前後の卵円形で、鋸歯があり、網目状の脈が目立つ。上部の葉は密につき、赤紫色を帯びる。

 花期は3月から5月ごろで、上部の葉腋に長さが1センチほどの筒部が長い淡紅色の唇形花をつける。日当たりのよい草地などに生え、群生することが多く、花どきにはよく目につく。 写真は草地に群生して花を咲かせるヒメオドリコソウ(左)、セイヨウタンポポと混生して花を咲かせるヒメオドリコソウの群落(中)と花をつけた上部のアップ(右・4稜の茎がうかがえる)。

   野を広く占拠してゐる外来種日本の未来を示唆するごとく

 

<2308> 大和の花 (494) ホトケノザ (仏座)                                   シソ科 オドリコソウ属

                                     

 日当たりのよい道端や草地などに生える越年草で、休耕地などにも生え出して群生することが多く、よく見られる。茎は基部で分枝し、高さは10センチから30センチほどになる。上部の葉は長さが1センチから2センチの扇状円形または半円形で、縁には鈍鋸歯があり、網目状の脈が目立ち、茎を抱くように対生する。

  花期は3月から6月ごろで、上部の葉腋に長さが2センチほどの紅紫色の唇形花を密につける。オオイヌノフグリやタネツケバナなどとともに春一番に咲き出すので、よく目につく。茎を抱く葉を台座、筒部の長い花を仏さまに見立ててこの名がある。別名のサンガイグサ(三階草)も花による名であろう。なお、花を開くことなく結実する閉鎖花も見られる。

  北半球の温帯に広く自生し、日本では本州、四国、九州、沖縄に分布、大和(奈良県)でも普通に見られる。ところで、春の七草にあげられているホトケノザはキク科のコオニタビラコのことで、花は黄色。こちらのシソ科のホトケノザは食用にするという話は聞かない。 写真はホトケノザ。群生する花(左)と花のアップ(右)。   何処にも仏ゐませり仏座

<2309> 大和の花 (495) ヤマジオウ (山地黄)                                       シソ科 オドリコソウ属

                    

 山地の半日陰になる木陰に生える多年草で、地下茎を長く伸ばして繁殖する。地上茎は高さが5センチから10センチで、下向きに白い毛が生え、毛深い。葉は長さが2センチから7センチの倒卵形で、縁に粗い鋸歯があり、表面にしわがあるのが特徴で、2、3対が輪生状に茎の上部につき、地面に貼りついているように見える。

  花期は8月ごろで、茎頂の葉腋に淡紅色で白い縁取りのある濃淡に変化が見られる唇形花を1個から数個つける。花冠は長さが2センチ弱で、上唇は直立、下唇は3裂し、全体的に毛が多い。葉が薬用植物のジオウ(地黄)に似ることによりこの名があるという。

  本州の神奈川県以西の太平洋側と四国、九州に分布する日本の固有種で、その分布域から蘇速紀要素植物と考えられている。大和(奈良県)では紀伊山地の登山道でときおり出会う。写真はヤマジオウ(天川村)。 何処まで桜前線向かひしか大和は概ね葉桜のとき

<2310> 大和の花 (496) マネキグサ (招草)                                            シソ科 オドリコソウ属

                                                    

 山地谷筋の林下や林縁、岩場に生えるオドリコソウの仲間の多年草で、高さは40センチから70センチほど。葉は長さが3センチから8センチの卵円形もしくは長卵形で、縁には鈍鋸歯があり、表面には少ししわが見られ、長い柄を有し、対生する。

  花期は9月ごろで、上部の葉腋に長さ2センチほどの暗紅紫色の唇形花をつける。花冠は上唇が直立、下唇は3裂する。この花が手招きをしているようだとしてこの名がつけられた。キセワタ(着綿)に似るのでヤマキセワタ(山着綿)の別名でも呼ばれる。

  マネキグサもヤマジオウと同じく、日本の固有種で、本州の関東地方西部以西、四国、九州に分布、大和(奈良県)では紀伊山地の深い渓筋などで見かけるが、ヤマジオウより生育場所が限定的で、個体数も少なく、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はマネキグサ(上北山村の渓谷)。   新緑に包まれ大和奈良盆地


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年04月23日 | 写詩・写歌・写俳

<2306> 余聞、余話 「薫風とコイノボリの季節」

         鯉のぼり泳ぐ彼方に生駒山

       

 新緑に薫風の季節はコイノボリの季節でもある。奈良県平群町の竜田川の川岸にはコイノボリのコイたちが薫風を受けて勢いよく泳いでいる。国道一六八号の道の駅「くまがし」のすぐ南のところ。約三百メートルの間、西側右岸に五十数尾が竹竿に上げられ、南方から見ると、一群になって青む生駒山に向かって泳いでいるように見える。

 地元の自治体や自治会、企業など十九団体によって構成されるボランティア組織「竜田川まほろば遊歩道」推進の会(城内敏之代表)によって揚げられ、町興しの一環として今春登場したもの。町の住民に呼びかけ、町内の家に眠っていたコイノボリ八十尾ほどの提供を受け、その中の五十数尾を上げた。残りについては今後のために保管しているという。コイノボリは五月中旬まで予定され、二十九日(日)に行なわれる「へぐり時代祭り」は例年にない盛り上がりが期待されている。  鯉のぼり意志あるごとく泳ぎけり