大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年04月30日 | 植物

<1949> 大和の花 (205) スズシロソウ (蘿蔔草)                         アブラナ科 ヤマハタザオ属

                        

 山地の谷沿いや山足などに生える多年草で、本州の近畿地方以西と九州に分布し、国外では中国東部に見られるという。大和(奈良県)では吉野川沿いや金剛葛城山系の山裾などでよく見かける。草丈が25センチほどになり、へら形で切れ込みのある根生葉に、さじ形から卵形の茎葉を有し、茎葉には粗い鋸歯が見られ、全体に柔軟な感じを受ける。

 花期は4月から6月ごろで、茎頂に総状花序を出し、小さな白色の4弁花を開く。角果は線形で3センチほどになる。蘿蔔(すずしろ)は漢名によるダイコンの古名で、花がダイコンの花に似るのでこの名がある。花後に走出枝を伸ばして広がり、群生することが多い。 写真はスズシロソウ。花の一つ一つが命の燃えである。   か弱きも強きもともにある命 生きるといふは意味多きこと

<1950> 大和の花 (206) カワチスズシロソウ (河内蘿蔔草)                アブラナ科 ヤマハタザオ属

                    

 スズシロソウ(蘿蔔草)の変種で知られる多年草で、金剛葛城山地に特産することから、その名にカワチ(河内)が冠せられた日本の固有変種。草丈は25センチほどになり、花も白色4弁花でスズシロソウに似るが、花後に走出枝を出さないので、盛んに走出枝を伸ばすスズシロソウとこの点が異なる。

 1995年に発表された新変種で、話題になったが、「渓流沿いの斜面下部に生育していることが多いと考えられ、河川改修、砂防工事、道路改修及び登山道の整備が生育地及び個体の減少の影響要因にあげられる」という報告があり、環境省のレッドリストに絶滅危惧Ⅱ類として加えられ、奈良県側にも稀産するため、大和(奈良県)でも絶滅危惧種にあげられている。

 写真はカワチスズシロソウ。走出枝の形跡が見られず、ヘラ形で切れ込みのある根生葉が目につく。崩れやすい崖や崩れ落ちて堆積した土に生育し、その姿は群生するというより1株1株花を咲かせている印象がある。 花の籠思へば春の奈良盆地

<1951> 大和の花 (207) タネツケバナ (種漬花)                            アブラナ科 タネツケバナ属

                 

  水辺や湿地、水田などに生える2年草で、まだ寒さの残る早春のころ、いち早く花を見せはじめ、最初のうちは遠慮がちにちらほら咲いているが、春もたけなわのころになると旺盛になり、休耕田などでは一面被い尽すほどになる。で、稲の種もみを水に漬けて苗代の準備をするころ花の盛りを迎えるのでこの名があるとされ、稲作の「作物暦だったのではないか」とも言われる。

  草丈は25センチほどになり、茎は下部からよく分枝し、奇数羽状に裂ける葉をつける。円形から長楕円形の小葉が10数個つくが、頂小葉が一番大きい。花期は3月から7月ごろで、直径3、4ミリの白色4弁花を総状につける。群生して一斉に花が咲くと雪を被ったように見えるときもある。日本全土に分布し、国外では朝鮮半島をはじめ、中国からアジア一帯、北米や欧州にも及ぶ。

 ナズナ(ペンペングサ)に似る田の雑草の1つであるが、乾燥した全草を煎じて服用すれば、利尿、整腸に効能があるとされ、民間薬として用いられて来た。 写真はタネツケバナ。   来る時と去り行く時の接点にありて移ろふ生の身のほど

<1952> 大和の花 (208) オオバタネツケバナ (大葉種付花)                   アブラナ科 タネツケバナ属

                    

 日当たりのよいところを好む2年草のタネツケバナと同属であるが、本種は山地の谷川沿いの少し湿った半日陰のようなところに生える多年草で、高さが40センチほどになり、毛の生える茎も奇数羽状の葉もタネツケバナより大きく、殊に頂小葉が大きい違いが見られ、この名がある。伊予の松山市が特産のテイレギはオオバタネツケバナを食用に改良したものである。

 花期は3月から6月ごろで、総状花序に白色の4弁花を咲かせる。同じような場所に白い花をつけるセリ科のセントウソウ(仙洞草)やオミナエシ科のツルカノコソウ(蔓鹿の子草)が見られるが、葉や花の形状によって判別出来る。なお、オオバタネツケバナはワサビ(山葵)と同じく、全草に辛みがあり、山菜として知られ、薬草としても全草を日干しにし、煎じて服用すれば、利尿、整腸に効能があると言われる。 写真はオオバタネツケバナ。 一推しの花は何処か五月晴れ

<1953> 大和の花 (209) ヒロハコンロンソウ (広葉崑崙草)                       アブラナ科 タネツケバナ属

                                       

  山地の渓流や滝の傍、あるいは溝などの水湿地に生える越年草で、草丈は60センチほどになる。茎は無毛で稜があり、葉は奇数羽状複葉で、卵状楕円形の小葉が5個から7個つく。花期は5月から6月ごろで、茎の先端部の総状花序に白い4弁花を咲かせる。ハンカチの花の別名で知られる花弁様の萼片が純白のコンロンカ(崑崙花)と同じくこの白い花に中国の雪を頂く崑崙山に因んでこの名がつけられたと一説にある。

  ヒロハコンロンソウはコンロンソウとよく似ているが、長い葉柄の基部が耳状に張り出し茎を抱くようにつく特徴がある。コンロンソウは全国的に分布するのに対し、ヒロハコンロンソウは本州の中部地方以北とされている日本の固有種であるが、大和(奈良県)には葉柄が茎を抱くヒロハコンロンソウが稀産し、自生地、個体数とも限られて少なく、レッドリストに絶滅危惧種としてあげられている。 写真は白い花が印象的なヒロハコンロンソウ(左)と茎を抱く葉柄(右)。  五月とは平和憲法高々と   

<1954> 大和の花 (210) マルバコンロンソウ (丸葉崑崙草)                   アブラナ科 タネツケバナ属

                                    

  コンロンソウ(崑崙草)の仲間で、コンロンソウに比べ小葉が丸いのでこの名がある。山野の林内などあまり日の当たらないような湿り気のあるところに生える越年草で、草丈は20センチほど。全体に白毛があり、地を這うように茎を伸ばし、長い柄のある奇数羽状複葉を互生する。前述したように小葉は円心形で、ほかの仲間より丸い特徴がある。

  花期は4月から6月。茎頂部に総状花序を出し、白色4弁花を数個開く。実は長角果。本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)にも自生するが、私は奈良市の春日山でしか見ていない。 写真はマルバコンロンソウ。オオバタネツケバナとの違いは、小葉に丸みがあり、頂小葉と側小葉の大きさにオオバタネツケバナほど差異がないこと。 健やかなことは何より子供の日

<1955> 大和の花 (211) ワサビ (山葵)                                               アブラナ科 ワサビ属

                           

 清流が見られる山地や山間地の渓谷などに生え、太くなる根茎を香辛料にすることで知られる日本原産の多年草で、和食には欠かせないものとして今も大いに用いられ、植栽による生産も盛んに行なわれている。産地としては静岡県や長野県が有名であるが、大和(奈良県)でも紀伊山地の山懐に当たる野迫川村などで栽培されている。

 沢山葵とか水山葵と呼ばれる自生種は北海道から本州、四国、九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)では吉野地方の一帯に多く自生しているが、シカの食害などで減少していると見られ、レッドリストの希少種にあげられている。なお、上北山村にはワサビダニという深い渓谷がある。私はまだ入っていないが、ワサビが多く自生していたのだろうと想像される。

 草丈は40センチほど、長い柄を有する根生葉は直径10センチ前後の円心形で、波状の鋸歯を有し、表面に光沢が見られる。花期は3月から5月ごろで、茎頂部の総状花序に長さ6ミリほどの倒卵形の花弁4個の白い花を咲かせる。雄しべは6個で、葯は黄色。実は長角果。

 ワサビの名はワサとビの合体によるとされ、ワサは早春に花を咲かせる早生(わせ)の転訛であり、ビはひりひりと辛いヒビナのビという説などがある。また、山葵はワサビの葉がアオイ(葵)の葉に似るからと言われる。なお、香辛料のほか、食用には茎、葉を漬けものや浸しものなどにする。一方、薬用にもされ、根茎を摩り下ろしたものをリュウマチや神経痛の患部に当てると効能があると言われる。

 このように利用価値が高く、古くからよく知られていたようで、平安時代前期に出された『延喜式』には若狭、丹後、但馬、因幡、飛騨の諸国から宮廷に献納されたことが記録され、当時の『本草和名』や『倭名類聚鉦』には和佐比として登場を見る。学名はWasabia jyaponica。 写真は花を咲かせる自生種(五條市西吉野町)。右端は水が滴る岩間のもの(天川村)。

  清らかに水滴れる新緑下岩間の山葵も濡れて新し

 

<1956> 大和の花 (212) ユリワサビ (百合山葵)                               アブラナ科 ワサビ属

                                        

  山地の湿り気のある渓谷沿いなどの礫地に生えるワサビの仲間の多年草で、根茎がユリ根に似るのでこの名がある。茎は地を這い、斜上して高さが25センチ前後になる。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は長い柄を有し、卵円形または腎円形で、直径5センチほどになる。茎葉は小さく互生する。

  花期はワサビと同様、3月から5月ごろで、茎頂の総状花序に小さな白色の4弁花を開く。実は長角果で長さが1.5センチほど。日本の固有種で、本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)では山地の渓谷や川沿いで小形の個体をよく見かける。ほかの草木が生えないような礫地の環境下に生えるので、小さいながらも目につくところがあり、シカの食害により減少しているとされ、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はユリワサビ。   夏は来ぬ妻の素足のかはいらし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年04月29日 | 写詩・写歌・写俳

<1948> 余聞・余話 「 芭蕉の句作についての考察 ~聴覚による句に寄せて~ 」

        対象に近づき触れて芭蕉の句 すなはちそこに旅人芭蕉

      古池や蛙飛び込む水の音

   閑かさや岩にしみ入る蝉の声

   秋深き隣は何をする人ぞ

 これらの句は松尾芭蕉が耳を傾け聴覚をして詠んだ人口に膾炙している名高い句である。「古池や」の句は『蛙合』(仙化編)に見える蕉風前期、「閑かさや」の句は『奥の細道』の立石寺での作で、蕉風中期、「秋深き」の句は『笈日記』に見える最晩年の蕉風後期の句である。もちろんのこと、この三句のみではない。芭蕉が聴覚をして詠んだよく知られる句はほかにも見え、生涯の全句の中に散りばめられ、芭蕉の作句の特質をよく表していることが指摘出来る。

 個々の句における鑑賞については既に多くなされているので、ここでは鑑賞を主眼とするのではなく、芭蕉の聴覚によって作られた句から考えられる作句全般の傾向や特質を考察してみたいと思う。まずは『奥の細道』の中に見てみよう。

   行く春や鳥啼き魚の目は泪       鳥の囀る声はけなげに季節を告げる。

   野を横に馬牽きむけよほとゝぎす  ほとゝぎすは鋭い鳴き声の夏に渡り来る鳥である。

   風流の初めやおくの田植うた    田植えの風景に遭遇したその情景を田植え唄で伝えている。

   蚤虱馬の尿する枕もと       馬の小便は凄まじかろう。音と臭いと熱気とが句にほとばしる。

   這ひ出よかひやが下のひきの声   「かひやが下」は蚕室の床の下。「ひき」はヒキガエルで、ここでは鳴き声の存在。

   閑かさや岩にしみ入る蝉の声    この声の主はハルゼミの類であろう。「岩にしみ入る」は芭蕉の心にしみ入るに等しい。

   荒海や佐渡によこたふ天河      「荒海」からは荒れる波の音。「天河」の静寂との対比。これに芭蕉の孤心が添う。

   塚も動け我が泣く声は秋の風     秋の風の音に自分の内なる声が意識され、同和している句と知れる。

   むざんやな甲の下のきりぎりす    きりぎりす(コオロギ)は「かひやが下のひき」と同様、鳴く声によって知覚された。

 以上のごとく十句に及ぶが、旅の初めから聴覚による句は散りばめられ、ほとんどがよく知られる名句ばかりであるのがわかる。ほかにも聴覚による句は見える。『野ざらし紀行』や『笈の小文』の中のよく知られる句で言えば、次のような句があげられる。

   海くれて鴨の声ほのかに白し     白いのは暮れた海より聞こえ来る鴨の声。これは芭蕉の対象に近接して得た産物である。

   水取や氷の僧の沓の音        水と火による修二会の行法を練行僧の沓の音で表現した近接、肉薄するまさに聴覚の句。

   ほろほろと山吹ちるか瀧の音     ごうごうたる滝(激湍)の音に対し、静かにひとひらひとひら散りゆく山吹の花の眺め。

   ちゝはゝのしきりにこひし雉の声   ケーンケーンと鳴く切ないまでの雉の声。心は父母への思い出に向かったのである。

 ほかにも聴覚をして生み出された名高い句がある。私が魅せられた人口に膾炙している句で言えば、次の二句をあげられる。

   花に雲鐘は上野か浅草か        やはりこの句にも視覚に聴覚の感覚をして一句を作り上げているのがわかる。

   芭蕉野分して盥に雨を聞く夜かな    芭蕉庵にはバショウが植えられていた。「盥」は雨漏り受け。粗末な庵の佇まいである。

 以上のごとく聴覚により生まれたこれらの句は芭蕉の生涯にわたる句の中に散りばめられている。聴覚はイコール音に関わることであり、音は目で捉える視覚の色や形に加え、対象の内実を知る上に重要な働きを有する。その働きによって句の表現に深みが生じることになる。この聴覚によって句を成すという特徴は芭蕉の句作における対象への向かい方によるものであり、句作の要諦を物語るもので、芭蕉の句一句一句の作法に通じるものと考えられる。これを逆に言えば、素材へ近接、肉薄する環境において作句がなされて来たという芭蕉の作句方法に通じるわけで、芭蕉が生涯を行脚の旅に費やし、旅を友として、句の成果を得て来たことに大いに関係していると言える。

                                       

 つまり、芭蕉が各地の名所や旧跡を訪ねる行脚の旅を生涯続け、その旅先で亡くなったことにもこの聴覚による句の数々は通じている。よく芭蕉は絵描きでもあった同時代の俳人与謝蕪村と対比され、同じ五月雨によって増水した川を詠んだ句などが比べられたりするが、芭蕉の「五月雨をあつめて早し最上川」に対し、蕪村の「五月雨や大河を前に家二軒」は素材対象への向かい方が異なるわけで、二人の立ち位置がよくわかる例としてあげられる。

 芭蕉には旅の途にあって川の増水に直面し、その状況に接し肉薄して五月雨の句を得ている。これに対し、絵をよくした蕪村には川より離れたところから絵を描くような視覚、つまり、絵画的手法によって句を成しているのがわかる。芭蕉の句からは荒まじい濁流の音までが聞こえて来るところがある。これは「荒海や」の句と同じで、聴覚の句に加えてもよかったかと言えるところがある。

 果たして、聴覚というのは視覚に比べ、句作の対象により近接して発揮され、芭蕉のように旅によって句作の対象に触れて句を作る立ち位置においては聴覚による句というのは、旅の折々、必然的に生まれて来るということになる。逆に言えば、対象に近づき、肉薄して句を作る手法ゆえに聴覚による句は自ずと生まれ来ることになる。これに加え、芭蕉には名所、旧跡に興味を抱く歴史への関心と造詣が深く、歴史的知識を基にした肉薄する感覚によって句を成す姿がうかがえ、「むざんやな」の句のように聴覚による句が生まれたということが出来る。

 つまり、これら聴覚をして成し得た芭蕉の名高い句の数々は、単なる偶然によって生まれたものではなく、旅に重きを置いた芭蕉の俳句に対する日ごろの向き合い方に負うところが大きく、言わば、芭蕉の聴覚による声や音に関わる句の大半は対象への近接、或いは肉薄的産物であり、旅を友として生涯を送った自ずからなる必然のものと言ってよいように考えられる。 写真はイメージで、増水した川で、右往左往するカルガモたち。   外に出よ五月のときを得んために

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年04月24日 | 植物

<1943> 大和の花 (200) ハタザオ (旗竿)                            アブラナ科 ヤマハタザオ属

                       

 今回からはアブラナ科の花を採り上げてみたいと思う。まずはハタザオ(旗竿)と名のつくものたちから。ハタザオは海岸の砂地や山野の草地に生える2年草で、北海道、本州、四国、九州とほぼ全国的に分布し、朝鮮半島、中国、西南アジア、北アフリカ、ヨーロッパ、北アメリカなどに広く見られるという。茎はほとんど分枝することなく直立し、その先端部に総状花序を出して次々に花を咲かせ、実をつけて伸びあがり、大きいものでは高さが1メートル以上に及ぶものもある。

 葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉はへら形、茎葉は楕円形乃至披針形で、基部は茎を抱き、上部の葉ほど小さい。花期は4月から6月ごろで、黄色を帯びた白色の小さな4弁花を開く。実は線形の長角果で5センチ前後になり、茎に密着するようにつく。草丈の全体の印象によりこの名がある。 写真はハタザオ(金剛山の水越峠付近)。   旗竿に旗の花咲く五月かな

<1944> 大和の花 (201) ヤマハタザオ (山旗竿)                            アブラナ科 ヤマハタザオ属

                                                    

  ハタザオ(旗竿)に似て、茎はほとんど分枝せず、直立して高さ80センチ前後になる。冬も枯れることのないロゼット状の根生葉によって越冬する越年草で、丘陵や高原、山地の草地や林縁に生え、北海道から本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国、ロシア、ヨーロッパ、北アメリカに見られるという。大和(奈良県)では曽爾高原でよく見かける。

  ハタザオと同じく、茎葉には柄がなく、葉身の基部が茎を抱く。花期は5月から7月ごろで、茎頂に総状花序を出し、ミリ単位の小さな白い4弁花を咲かせる。実は長角果で、茎に沿って直立する。角果に種子が2列するハタザオに対し、ヤマハタザオは1列になる違いがある。 写真はヤマハタザオ(曽爾高原の周遊道の傍)。 ああ日本みんなのうへに春が来る諍ひなどに巻き込まれるな

<1945> 大和の花(202) ハクサンハタザオ (白山旗竿)               アブラナ科 ヤマハタザオ属

           

  ツルタガラシ(蔓田辛し)の別名もある北海道の西南部から九州の宮崎県まで分布し、国外では朝鮮半島に見られる多年草で、垂直分布でも山間地から山岳の高所まで広範囲に自生する。大和(奈良県)では野迫川村、五條市西吉野町、曽爾村の山間地等の山足や道端から標高1800メートル以上に及ぶ大峰山脈の尾根上まで点在するが、大和(奈良県)での自生地は限定的で、個体数も少なく、レッドリストの希少種にあげられている。別名ツルタガラシ。

  日当たりのよい草地や砂礫地に生え、茎は株状に立ち、草丈は30センチほどになる。茎は軟弱で、花の終わるころには倒れ伏し、節の部分から新芽を出して広がり、ときに群生することもある。葉は根生葉と茎葉が見られ、根生葉は短い柄があって羽状に裂け、頭頂の葉が大きい。茎葉は細く、羽状に中裂するものや鋸歯の見えるものがある。他種と異なり、葉は茎を抱かない。

  花期は4月から6月ごろで、茎頂部の総状花序に柄を有する白い4弁花を咲かせる。花弁は長さが数ミリの倒卵形でかわいらしい。実は線形の長角果である。 写真はハクサンハタザオ。左から西吉野町、野迫川村、弥山で見かけたものと花のアップ。雄しべは6個。

  日本は 四季の国 四季にともない 色とりどりの 花が咲く 概して 春は黄色 夏は白色 秋は青紫色 冬は紅色 これは 私の印象 とにかく 千差万別 色とりどりの 花が咲く はたして これは 如何なるわけによるものか 思えば 日本は 四季の国 四季にともない 色とりどりの 花が咲く

 

<1946> 大和の花 (203) フジハタザオ (富士旗竿)                   アブラナ科 ヤマハタザオ属

               

  富士山に多く見られるのでこの名があるヤマハタザオの仲間の多年草で、深山の岩場や砂礫地に生える。茎は株状にかたまって立ち、草丈は大きいもので30センチほどになる。根生葉は広倒披針形で、茎葉は長楕円形となり、矢じり形の基部が茎を抱く。花期は7月から8月ごろとされ、茎頂部に総状花序を出して直径2センチ弱の白色4弁花を開く。

  写真は5月末に大台ヶ原の標高約1450メートル付近で撮影したもので、フジハタザオに言われる花期より1ヶ月ほど早く、フジハタザオの変種とされるシコクハタザオ(四国旗竿)に同定する向きもうかがえるが、両者はよく似ているので判別が難しく、正確なところはわからない。両者一体と見れば、本州の関東地方南部以西、四国、九州に分布し、韓国の済州島にも見られるという。

  2016年改定版の奈良県のレッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』はシコクハタザオイコールフジハタザオとして、自生地も個体数も少なく、シカの食害が甚大として希少種にあげている。 ここではフジハタザオとしてとりあげた。  写真はフジハタザオ。  花満ちて春たけなはとなりにけり

<1947> 大和の花 (204) キバナハタザオ (黄花旗竿)         アブラナ科 キバナハタザオ属

       

  キバナハタザオ(黄花旗竿)は大峯奥駈道が通る大峰山脈の尾根上の一角、天川村の標高約1400メートルの日当たりのよい石灰岩地に稀産する多年草で、黄色の花を咲かせるのでこの名がある。最初に出会ったときはセイヨウカラシナ(西洋芥子菜)かと思い、こんなところにまで広がって来ているのかと思いながらカメラに収めた。

  後日、確認のため図鑑を見ていたらキバナハタザオが目に入り、セイヨウカラシナは誤認で、これだという気がして調べ直してみた。結果、本州の中部地方と九州の対馬、それに朝鮮半島、中国に分布するとわかった。大和(奈良県)では大峰山脈のこの一箇所のみに自生し、個体数が極めて厳しい状態に置かれ、絶滅寸前種にあげられているとわかった。絶滅危機の要因にはシカの食害、周囲の草木による圧迫、人の持ち去りなどが考えられ、もっとも心配されるシカの食害を防ぐためシカ避けの防護ネットが張りめぐらされ、その中において保護されている。

  高さは大きい個体で子供の背丈ほどになり、茎は直立気味に立ち、わずかに分枝も見られる。葉はごく短い柄があり、葉身は披針形で、茎を抱かず、波状の鋸歯が見られる。花期は6月から7月ごろで、茎頂や枝の先端部に総状花序を出し、長さが1.5センチほどの黄色い4弁花を咲かせる。実は長角果で15センチほどと長い特徴が見られる。 写真は草地から抜きん出て黄色い花を見せるキバナハタザオ(左)、花のアップ(中)、長角果(右)。 時を得て咲き出す花は命なりいづこの小さきわづかな花も

 

 

 

 

 

 


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2017年04月23日 | 写詩・写歌・写俳

<1942> 余聞・余話 「山歩きに思う」

        人生がいろはにほへとの旅ならば浅き夢みじ辺りのこの身

 山歩きをしていると、自分と同じように山を歩いている人に出会う。出会うと、ときに歩いている誰もが目的をもって歩いているということに思いがいったりする。ゆっくり時間をかけて歩く私には駈け上がるように追い越して、あっという間に姿を消してしまう人に出会うこともある。そういうときは、あのような歩きは出来ないと思いながらその後ろ姿を見送るのであるが、そんなときはふと如何に速く登るかということに挑戦しているのかも知れないと思ったりもする。挑戦はイコール目的を果すということでもあるから、本人には意味のある納得の歩きということになる。

 そこで、主に草木の花の撮影が目的で山野に出かける自分に転じて山歩きを考えるのであるが、敢えて重い機材を背負って山歩きをすることに、これも挑戦の何ものでもないということが思われて来る。機材の重量に耐えて歩くことはよりよい花の写真を撮ることに通じる。つまり、山歩きをする実践者の自分には自分なりの思い入れがそこにはあるわけで、この過程があって一つ一つの写真も出来上がる。言わば、このことは私の挑戦であり、常々頭の隅に置いて来たことではある。こうした私の花を目的にした山歩きは二十年以上になるが、この経験からして言えば、山歩きというのは人それぞれで、人生にも通じるところがある。

                          

 山に出かけなければ、山の花には出会えないとは常々思っていることであるが、これは山歩きの精進なくして山の花を撮影することは出来ないという目的に対する自分自身への励ましの言いであり、この花へのあこがれ、つまり、こだわりを言うにほかならず、このこだわりにより山歩きは続けられて来た感がある。無理はいけないけれども、精進は何ものにも代えがたい道筋のものであると思える。という次第で、私の山歩きは今に至っているということが出来る。

 これになお山歩きを続けて来られた理由についてつけ加えるとすれば、平成二十年(二〇〇八年)に心筋梗塞の発作に襲われ、心臓血管のバイパス手術を受けたことがあげられる。結果、その後のリハビリと体調管理に山歩きが有効であるということに気づいたことが大きかった。もちろん、術後一年ほどは恐怖心が伴い、やっていけるかどうか自信が持てずにいたが、花の魅力と主治医の助言と家族の理解によってマイペースで歩けば大丈夫という気分になって歩きが続けられて来られた次第である。

  不思議に術後は歩きの身が軽く、よく歩けた。血管の通りがよくなったからだと内心思っているが、速く歩くという気持に負荷をかける無理な歩きをすることには今も恐怖心があって、それだけは出来ず、マイペースでゆっくり歩くことを心がけている。このゆっくりとした歩きが草木の花を求める目的に合致していることも山歩きが続けられている理由の一つになっている。

  ところで、その山歩きで、最近、体力の衰えか、以前のように十分な機材を持ち歩くことに無理を感じるようになった。そこで、まず一番に手放すことになったのが三脚で、最近はほとんど三脚を持ち歩かなくなった。フィルムレスのデジタルカメラになって感度を自在に変えられることにもよるが、最近はほとんど手持ち撮影で済ませている。しかし、三脚のあるなしの差は小さくなく、写真の出来上がりに響くということも生じて来るといった具合になっている。この点、満足出来ないが、無理をせず山歩きをするには何かを切り捨てなくてはならないということで、最近はなるべく荷物を少なくして山に出かけるようにしている次第である。

  年齢が進めば、三脚のみならず、機材の荷物はもっと減さなくてはならないようになるだろうが、山に出かけなければ、山の花には出会えないから、最低限、山歩きだけは続けられるようにしたいというのが昨今の心境ではある。 左の写真は山歩きで見かけた新緑の雑木林。この写真からは野鳥の囀りが私には聞こえて来る。右の写真は山歩きで見かけたツツジの花。コバノミツバツツジと思われる。     踏みしめる一歩一歩の歩の先に果して花のまたなる世界


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2017年04月19日 | 植物

<1938> 大和の花 (196) ミョウジンスミレ (明神菫)                              スミレ科 スミレ属

            

 スミレ(Viola mandshurica)の変異したものと考えられている地上茎を有しないスミレで、葉も花もスミレにそっくりであるが、花弁の基部に白い部分がなく、模様が入らないうえ濃紫色の花弁よりもその基部の部分がより濃く、花の奥が見え難い特徴がある。何故このような彩の花が生まれたのか。

  箱根の明神ヶ岳(1169メートル)で最初に見つかったことによりこの名があるが、日本全土に分布し、国外では朝鮮半島、中国、ロシアにも見られるという。大和(奈良県)でもときおり見られ、若草山や曽爾高原の草原で3度ほど出会った。みな単独の株で、突然変異のようにも感じられる個体ばかりだった。 写真は花弁の基部に模様がなく、その部分がより濃いミョウジンスミレ。 さくら散る花の定めを纏ひつつ

<1939> 大和の花 (197) ハグロスミレ (葉黒菫)                                   スミレ科 スミレ属

            

  谷筋の落葉樹や照葉樹下の日陰になった空中湿度の高い湿ったところに生える地上茎を有しないスミレとして知られるヒカゲスミレ(日陰菫)の一種で、またの名をタカオスミレ(高尾菫)という。葉が濃紫褐色であることからこの名がつけられ、八王子市の高尾山(599メートル)で最初に見つかったのでタカオスミレの名がある。

  ヒカゲスミレは北海道、本州、四国、九州のほぼ全国的に分布し、国外でも朝鮮半島から中国にかけて分布しているスミレで、南北に細長い日本列島では中部地方以北に多く見られ、西日本では点在する程度と言われる。大和(奈良県)においては非常に珍しく、私は長卵形で先の尖った両面が濃紫褐色の特徴を有するハグロスミレを奈良市の春日山(283メートル)でしか見ていない。

  草丈は10センチ前後、葉は前述した通りである。花期は4月から5月ごろで、白い花を咲かせる。唇弁には紅紫色のすじ模様が入り、側弁の基部には毛を有し、葉や花柄にも毛が密に生える。レッドリストにあげられていないのが不思議なほど希少で、大和(奈良県)では危ういスミレに見える。写真はヒカゲスミレの一種のハグロスミレ。  春は蝶の一山の夢花とあり

<1940> 大和の花 (198) ウスアカネスミレ (薄茜菫)                                      スミレ科 スミレ属

                             

  写真のスミレは曽爾高原の末黒の草地で偶然出会ったものである。私の認識にないスミレだったのでカメラを向け、とりあえず写真に収めた。ひと株だけの孤独な姿だったので写真は1枚だけである。ほのかに紅色を帯びる白地の花は全体に紅紫色のすじ模様が入る明るい印象で、末黒を背景に浮き立って見えた。図鑑と照らし合わせてみた結果、ウスアカネスミレ(薄茜菫)と同定出来た。

  草丈は10センチほど。地上茎を有しないスミレで、葉は卵形に近く、基部は心形で、先端は鈍く尖る。撮影は4月中旬で、ほのかに紅色を帯びる白地の花から、最初はアリアケスミレ(有明菫)、ゲンジスミレ(源氏菫)、ナガハシスミレ(長嘴菫)が候補に上って来た。

  更に、5花弁が不揃いであること、細長い距を有し、側弁の基部に白い毛が密に生え、花柄などにも毛があることなどを条件に加え判断に当たった。結果、距が太く短いアリアケスミレは該当せず、5弁のそれぞれの花弁の大きさがほぼ等しいゲンジスミレも側弁の基部に毛を有しないナガハシスミレも写真の花には当たらないということになった。

  結局、消去法によった結果、前述の3候補はみな写真の花にはあらず、アカネスミレの条件を満たしているということで、遠回りしたが、アカネスミレの花の色違いということで落ちついた。これはまさに変異の多いスミレ科スミレ属の一端を示すもので、とりあげた。北海道、本州、四国、九州(屋久島まで)に分布、国外での分布は不明。絶滅危惧種。 写真はウスアカネスミレ。  元気よし渓間の鴬ほーほけきょ

<1941> 大和の花 (199) アメリカスミレサイシン (アメリカ菫細辛)     スミレ科 スミレ属

                                            

  私がこれまでに出会った野生化した外来のスミレ2品に触れてスミレ類の紹介を終わりたいと思う。1つはビオラ・ソロリア・プリケアナ(Viola sororia Priceana)、いま1つはビオラ・ソロリア・フレックルス(Viola sororiaFreckles で、ともに北米原産の帰化植物である。

  プリケアナもフレックルスも多年草で、明治時代以降に観賞用の園芸品として渡来した。ビオラ(Viola)はスミレの属名で、ソロリア(sororia)は小種名であり、プリケアナ(Priceana)とフレックルス(Freckles)は品種名である。ビオラ ソロリアの和名はアメリカスミレサイシン(アメリカ菫細辛)で、ソロリアは根茎が太く大きいからか、塊を意味する。

  プリケアナは草丈が25センチほどになり、葉は心形で、濃緑色。花期は4月から5月ころで、花は直径3センチから5センチほど、白地に青紫色のすじ模様が入る。明日香村の甘樫の丘の遊歩道脇で見かけたもので、植えられたものかどうかは不明である。一方、フレックルスは草丈が15センチほど。葉は心形で、濃緑色。花期は4月から5月ごろで、白地に青紫色の斑点がある花を咲かせる。この斑点をフレックルス、つまり、そばかすに見立てたことによりこの名がある。この花は生駒市高山町の道端で出会った。こちらは逸出したものと思われる。 写真はプリケアナ(左)とフレックルス(右)。  すみれ咲く絵本童話の一頁