大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年06月17日 | 植物

<3439> 奈良県のレッドデータブックの花たち(65)  カタクリ(片栗)                              ユリ科

          

[別名] カタカゴ(古名・堅香子)

[学名] Erythronium japonicum

[奈良県のカテゴリー]  絶滅危惧種

[特徴] どちらかと言えば寒冷地型の多年草で、落葉樹林内に生える。鱗茎を有する球根植物で、長さが数センチの鱗茎を有し、鱗茎は毎年更新され、新鱗茎が旧鱗茎の下につくので、実生から7、8年後に花を咲かせる開花株は鱗茎が地中深くになる特徴がある。柄のある葉は6~12センチの長楕円形で、先が尖り、鋸歯はなく、花がつかない未成長の株では1個、成長した開花株では普通2個つく。葉は表裏とも淡緑色で、やや厚みがあり軟らかい。開花株では暗紫色の模様が見られる。

 花期は3~5月で、開花時にはまだ落葉樹の木々に葉が繁っていないので、自生地には暖かな陽光が届き、カタクリにはこの春の短い間に地上活動を行い、花を咲かせ、実をつける。この特徴をしてスプリング・エフェメラル(春の妖精)と名づけられ、春季植物の代表植物にあげられている。

   高さが20~30センチの花茎を伸ばし、その先に1花をつける。花は下向きに開き、披針形の花被片6個は淡紅紫色で、長さが4~5センチ。基部の近くにW字形の斑紋があり、晴天下では花被片が反り返る。花には葯が濃紫色の雄しべが6個と柱頭が3裂する雌しべ1個が花被片より外に突き出て下垂し、受粉に備える。典型的な虫媒花で、花にはギフチョウ(絶滅危惧種)やクマバチ、マルハナバチなどが訪れる。なお、カタクリ(片栗)の名はカタコユリの略。カタコは傾いた籠状の花をいうと一説にある。

[分布] 北海道、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島、千島、サハリン、沿海州など。

[県内分布] 御所市の葛城山と金剛山の標高800~1000メートル付近)。最近保護活動で個体数が増えている感があるが、自生地が限られ、絶滅が懸念されている。

[記事] カタクリ(片栗)の鱗茎は良質のデンプンを含み、古来より片栗粉として知られるが、現在はジャガイモやサツマイモが代用されている。鱗茎は薬用としても知られ、擦り傷や湿疹にこのデンプンを振りかけ、下痢や腹痛などには服用する。 なお、古名のカタカゴ(堅香子)で『万葉集』の1首に見える、所謂、万葉植物である。この1首は大伴家持が越の国(富山県)の国司の任にあったときの歌で、「もののふの八十をとめらが汲み乱(まが)ふ寺井の上の堅香子の花」(巻十九・4143)とある。雪深い北国に春の到来を告げて咲くスプリング・エフェメラルのカタクリの花と乙女たちの賑わいを合わせた明るい歌で、名歌の誉れ高く、人口に膾炙している。 写真は落葉樹林の林床で花を咲かせるカタクリの群落(左)、咲き揃う花(中)、反り返った花被片の花(右)。

   現在というのは

         過去と未来の接点

   留まることを

   まこと知らない

   旅の途上の

   須臾の眺めである

   風景をともなう