<1836> 大和の花 (118) カラスビシャク (烏柄杓) サトイモ科 ハンゲ属
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全国的に見られる畑地の雑草として知られる多年草で、北海道から九州に分布し、朝鮮半島、中国に見られる有史前帰化植物と考えられている。葉は1、2個が根生し、楕円形の小葉3個からなる。花期は5月から8月ごろで、花茎は葉よりも高く、30センチ前後に伸びて立ち、先端に長さ数センチの仏炎苞に包まれた肉穂花序をつける。テンナンショウ属と違い、雌雄異株ではなく、花序の上部に雄花群、下部の片側に雌花群が離生する。
仏炎苞は緑色から紫色を帯びたものまで変化が見られる。花序の付属体は長く糸状に伸び出し直立する。この仏炎苞の形を柄杓になぞらえこの名が生まれたという。ハンゲ(半夏)という別名を持つが、これは漢名による。また、ヘソクリという地方名があるが、これはカラスビシャクの塊茎がつわりに効く薬用として知られ、これを孫の子守りをしながら掘り取り小づかい稼ぎにしたことがあったからという。 写真はともにカラスビシャクの仏炎苞。 寒の雨凌ぎゐるのは心なり
<1837> 大和の花 (119) ショウブ (菖蒲) サトイモ科 ショウブ属
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全国的に分布し、ユーラシア大陸に広く見られる水辺に群生する剣状の葉が特徴の多年草で、サトイモ科の中では仏炎苞を有しないグループの代表である。花期は5月から7月ごろで、葉に紛れて長さが5センチばかりの花序を立て、花序の基部には苞が見られるが、花序を包まず、葉のように長く伸びる。また、花序にはテンナンショウ属の仲間のように付属体はなく、淡緑黄色の花被片6個、雄しべ6個、雌しべ1個の極めて小さな両性花をびっしりとつけ、花序の下方から順に咲いてゆく。花は露わに見えるが、まことに地味な花である。
ショウブはアヤメ(菖蒲)とかアヤメグサ(菖蒲草)と呼ばれ、『万葉集』をはじめとして古歌によく詠まれている万葉植物である。これはショウブが五月の節(旧暦の端午の節句)に邪気を払う魔除けの薬玉(くすだま)や頭髪の飾りに用いられたことによる。『枕草子』にも言うように、平安時代には貴賎を問わず、庶民の間でもヨモギとともに屋根に葺いて一家の安寧を願い、時代が下ってからは浴湯にも入れられるに至った。
ショウブは漢名の菖蒲(さうぶ)の音読によると言われるが、これはセキショウ(石菖)の誤りで、白菖が正しいという指摘がある。これはショウブとセキショウに似たところがあり、誤認されたと考えられる。また、ショウブは尚武に因み、男子の節句である5月5日(旧暦)の端午の節句に用いられるようになったと考えられている。剣に似る葉が重なるように生えるので、これを文目(あやめ)としてアヤメの名があるという。
毎年5月5日の子供の日(現在の端午の節句)に行なわれる宇陀市大宇陀の野依白山神社のおんだ祭りの御田植祭には社殿や祠の屋根にヨモギとともにショウブが置かれるが、これは古来より続く祭りの中に残っているショウブを用いる邪気払いの風習の一端と見て取れる。なお、乾燥させたショウブの根を菖蒲根(しょうぶこん)と言い、浴湯に入れて用いると、神経痛やリュウマチに効能があると言われる。 写真はショウブの花。1センチほどの花序に極小の花がびっしれと咲いている(左)と屋根にヨモギとショウブが上げられた祠の前で行なわれる野依白山神社のおんだ祭り(右)。 よきことを願ふ正月なりにけり
<1838> 大和の花 (120) セキショウ (石菖) サトイモ科 ショウブ属
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小川や溝などの水辺に群生するショウブ(菖蒲)の仲間の多年草で、ショウブに似るところがあるが、草丈はショウブよりも小さく、大きいもので50センチほど。濃緑色の葉も細く、一見してわかる。花期は3月から5月ごろで、肉穂花序はショウブよりも長く10センチ前後になる。仏炎苞はなく、苞は花序とほぼ同長か少し長い。ショウブと同じく、花序には淡緑黄色の極めて小さい花がびっしりとつき、下部から順次咲き上がる。
セキショウの名は石菖の音読による。本州、四国、九州に分布し、中国、ベトナムなどにも見られるという。子供のころ、この肉穂花序を折り取って、弓のように曲げてまぶたにつけて遊んだ覚えがあるが、この遊びが由来と思われるメッパジキという地方名もある。ほかにも、イシアヤメ、セキショウブ、カワショなど多くの別名や地方名を持つ。
なお、セキショウは観賞用に栽培され、高麗ゼキショウ、鎌倉ゼキショウなどといった園芸種も見られる。また、セキショウは薬用植物としても知られ、根茎を日干しにし、煎じて飲めば、健胃、鎮痛などに効能があると言われる。 写真は小さな花をびっしりとつけたセキショウの肉穂花序。左の写真はまだ若い花序で先端はまだ蕾の状態である。 冬は耐へ凌いでこその冬とこそ