大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年01月31日 | 写詩・写歌・写俳

3304>  余聞 余話 「久しぶりのルリビタキのオス」

     何があれ時は移ろふ春は来る寒さの中に日脚の温み

 一月はいぬるというが、早いもので今日は三十一日。立春がすぐそこ。新型コロナウイルスの猛威は止まず、右往左往しているが、時はそんな人間さまの騒動などに関わりなく過ぎ行き、日差しは寒さの中の草木に暖かな声援を送っている具合に見える。

                       

   日曜日の今日は上天気となり、人出も多かった馬見丘陵公園で、ヒタキの仲間がそこここで見られた。中でも何年かぶりかに出会ったルリビタキのオスには感動。オスは頭部から尾羽まで羽の部分が瑠璃色で、この名がある。また、腹部の側面はオレンジ色で、艶やかに見える。近くにはニシオジロビタキの姿もあった。それにジョウビタキのメスも。

 ニシオジロビタキは少し小さく、ルリビタキのメスに似るが、腹部の側面が黄色を帯びず、白いので見分けられる。なお、ニシオジロビタキは嘴がオジロビタキのように全体的に黒くない。また、ジョウビタキのメスは羽の部分に白い斑紋があるのが特徴で、これによって識別出来る。今日は園内の倉塚古墳周辺で見られた。 写真はルリビタキのオス(左)、ニシオジロビタキ(中)、ジョウビタキのメス(右)。いずれも三十一日撮影。


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2021年01月30日 | 植物

<3303> 奈良県のレッドデータブックの花たち(12) イチリンソウ(一輪草)            キンポウゲ科

                      

[別名]  イチゲソウ(一花草)、ウラベニイチゲ(裏紅一花)

[学名]  Anemone nikoensis

[奈良県のカテゴリー]   希少種

[特徴] 山足や林縁の少し湿った半日陰になるような傾斜地に生える多年草で、根茎によって広がり群落をつくることが多い。草丈は20センチ前後。根茎の先に根生の葉がつく。茎葉は長い柄を有し、2回3出複葉で、小葉は更に羽状に裂け、3個が輪生する。花期は4~5月で、花茎の先に1輪の花をつけるのでこの名がある。花には花弁がなく、内側が白く、外側が紅紫色を帯びる萼片5~6個が花弁状に開く。

[分布] 日本の固有種。本州、四国、九州。

[県内分布] 北は桜井市、南は天川村。西は御所市、東は曽爾村。この一帯に分布するが、自生地の荒廃により減少している。

[記事] イチリンソウの仲間には、花が普通2個つくニリンソウ(二輪草)と3個つくサンリンソウ(三輪草)があり、大和地方にはイチリンソウとニリンソウが見られるが、ニリンソウの方が多く、山野で普通に見られる。学名の「Anemone nikoensis」は栃木県の日光で最初に発見されたアネモネの意による。

   花は単に咲いているんじゃあない

   晴れやかな目標をもって咲いている


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2021年01月29日 | 植物

<3302> 奈良県のレッドデータブックの花たち (11)  イチヤクソウ (一薬草)       ツツジ科

                                           

[別名] キッコウソウ、ベッコウソウ

[学名] Pyrola japonica

[奈良県のカテゴリー]    希少種

[特徴] 暖帯から冷温帯域の半日陰になるような場所に生える常緑多年草で、葉が根元に集まりつく。葉は長さが3~6センチの広楕円形で、先は尖らず、縁には細かい鋸歯が見られる。葉脈が目立ち、葉の姿からキッコウソウ、ベッコウソウの名もある。花期は6~7月。花茎は淡緑色で、多いもので10個ほどの白い花をつける。花は有柄で、下向きに開く。花冠は直径1.3センチほどで、5裂する。雄しべは10個、雌しべは1個で、雌しべは花冠より外に長く伸び出す。

[分布] 北海道、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島、中国東北部。

[県内分布] 自生地は全県的で、山足から標高1300メートルほどのところまで見られるが、限定的で、個体数も少ない。

[記事] 全草を薬草とし、漢方では乾燥したものを鹿蹄草(ろくていそう)と称し、煎じて脚気、利尿に、生葉の汁は切り傷に用いる。イチヤクソウ(一薬草)は薬草の中で一番という意によってつけられた名であるという。 写真はイチヤクソウ(ともに平群町の生駒山系)。

    期待に沿うそのものに

      誉れの名

    その名は誇り高く

    永久に語り継がれる

    たとえば

          一薬草の一薬の誉れ

 


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2021年01月28日 | 植物

<3301> 奈良県のレッドデータブックの花たち (10)   イチイ  (一位)                     イチイ科

                                     

[別名] オンコ、アララギ、シャクノキ。

[学名] Taxus cuspidata

[奈良県のカテゴリー]  絶滅寸前種

[特徴] 寒冷地や亜高山帯を適地とする常緑高木の針葉樹で、高さは20メートルになる。樹皮は赤褐色で、縦に薄く剥がれる。葉は長さ2センチほどの線形で、普通螺旋状について互生するが、側枝ではやや2列に並び、羽状になる。葉の先は尖るが、触れても痛くない。雌雄異株(稀に雌雄同株)で、花期は3~5月。葉腋に花をつける。雄花は淡黄色で、雄しべが球状に集まる。雌花は淡緑色で、数対の鱗片に被われる。種子は直径が5ミリほどの卵球形で、肥大した杯状になった仮種皮に包まれる。仮種皮は種子が熟すころ鮮やかな赤色になり、よく目につく。 写真は雄花(左・大台ヶ原の個体)と赤く熟した実(右・金剛山の個体)。

[分布] 北海道、本州、四国、九州。国外ではアジア東北部。

[県内分布] 大峰山脈や大台ケ原の高所。

[記事] 飛騨の位山(くらいやま)に産するこの木から官僚が用いる笏(しゃく)を作ったので朝廷から一位(いちい)の名を賜ったという説がある。赤い実が鮮やかで美しいので植栽される。材は緻密で堅く、彫刻や建築に用いられる。飛騨地方のイチイの一刀彫は有名。なお、奈良県では大峰山脈と大台ケ原の高所に分布が限られると報告されている。写真の金剛山の個体は自然林で見かけたものであるが、植栽起源と思われる。

   花の過程があり

         実の成果がある

         それは見慣れた  

   常の光景として


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2021年01月27日 | 写詩・写歌・写俳

<3300>  余聞 余話  「イカル」

       来るものも去り行くものも拒まざる一樹あるなり冬の空なか

 この間、馬見丘陵公園のコナラの高枝にとまっているイカルを撮った。一羽だけだったが、2年ぶりの出会いである。透き通るような声で、イカルだと察しがつき、鳴き声のする方に目をやると、すっかり葉を落としたコナラのてっぺん近くの枝に姿が見えた。400ミリ望遠レンズを向け焦点を合わせると、太く大きい黄色の嘴が確認出来た。イカルに違いないと思い、数回シャッターを切った後、飛び立った。

 イカル(鵤、斑鳩)はアトリ科に属する全長23センチほど、ムクドリの大きさで、体は灰色、頭部、風切羽、尾羽が光沢のある黒色に近い濃い紺色。黄色の太い嘴が特徴で、一見してイカルとわかる。おもに木の実を回したり、転がしたりして食べるので、マメマワシ、マメコロガシ、マメワリなどの異名でも知られる。

                           

   ことにムクノキやエノキの実が好物で、エノキの実がよくつく年には姿を見せる。万葉集の巻十六(3872)に見える「吾が門の榎の実もり喫む百千鳥千鳥は来れど君ぞ来まさぬ」(詠人未詳)の千鳥は色んな鳥の意であるが、この中にイカルの姿もあったと想像される。

 鳴き声がイカルコキーと聞こえるのでイカルの名があると言われ、月日星(ゲッピセイ)と聞こえるとも捉えられ、月日星からサンコウチョウ(三光鳥)の名も見える。鵤は角のような嘴を持つ鳥の意。法隆寺のある斑鳩の地名はイカルに因むとして、斑鳩町ではイカルを町の鳥に指定している。

 イカルはロシア東部から沿海州方面と日本に生息し、日本では北海道、本州、四国、九州の山地で繁殖するが、北日本に分布するものは冬季に本州以南の暖地に移動する。繁殖期が夏なので、俳句ではイカルを夏の季語にしているが、大和地方の里では秋から春にかけてよく見かけるので、季題の夏はピンと来ない感がある。

 なお、イカルは大切にしたい奈良県の野生動植物(奈良県版レッドデータブック2016年改訂版)に郷土種で記載されている。記事によると県の全域に生息するが、減少傾向にあるようで、要因には開発工事などによる生息環境の悪化があげられている。大切にしたい鳥の一つではある。 写真はコナラの高枝にとまるイカル(左・今月20日、馬見丘陵公園)と珍しく地面に降りて落ちた実を啄むイカル(右・2019年4月5日、同公園)。