<219> 新薬師寺のおたいまつ
火祭りや 薬師の四月 八日かな
四月八日は新薬師寺の修二会の「おたいまつ」であった。お水取りで有名な東大寺二月堂や花会式で知られる薬師寺の修二会と同じ悔過の法要で、 二月堂が十四日間、薬師寺が七日間行なわれるのに対し、 この新薬師寺はお釈迦さんの生誕の日に当たる八日の一日をもって行われる法会である。
この日は本尊の薬師如来に、昼夜二回の行法が修せられ、夜には僧の足許を照らす道明かりの大松明十一本が焚かれて行くので、籠松明が用いられる二月堂の修二会と同様、ここの修二会も「おたいまつ」と称せられている。
新薬師寺は天平十九年(七四八年)に光明皇后が聖武天皇の眼病平癒を祈願して建立が始められたというお寺で、 小さいながらも東大寺別院の格式を有し、別格本山と呼ばれている。本尊の薬師仏と薬師仏を取り巻く十二神将の薬師十三仏は国宝に指定され有名で、 奈良を訪れる人々を魅了しているお寺の一つである。例えば、大和をこよなく愛した書家で歌人の会津八一は次のように詠んでいる。
たびびとにひらくみだうのしとみより迷企羅がたちにあさひさしたり
「迷企羅(めきら)」は十二神将の迷企羅大将のことで、 十二支の酉の神として西の方角に睨みを利かし、仏敵から薬師如来を守っている。塑像であるこの十二神将が開かれた蔀(しとみ)から射し込む朝日に暖められている光景である。まずは、こういう具合で、 新薬師寺は瀟洒なお寺の感じがある。
この修二会「おたいまつ」は奈良の火祭りの一つで、 いつもは静かな境内がこの日はにぎわう。 殊に夜に行なわれる大松明の運行は炎で炙られるほどの近さで見られ、迫力がある。 「おたいまつ」が始まる午後七時ごろになると、境内はほぼ満員になる。今年は日曜日と好天が重なって、より人出が多かったようである。 写真は新薬師寺の「おたいまつ」。