大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年07月14日 | 写詩・写歌・写俳

<3829> 余聞 余話 「 事 件 」

          事件には昔も今も加害者に被害者加へ傍観者あり

 以前、「事件にはいつも加害者被害者に加ふるところ傍観者あり」という歌を詠んだ。このほど奈良市において、安倍晋三元首相が参院選の応援演説中に四十一歳の男に襲われ、狙撃されて亡くなるという事件が起きて、大騒動になり、なお、尾を引いている。この事件が起きたとき、何故か、この歌を思い出し、冒頭の歌に及んだ。

 こういう人間が絡む事件には必ず加害者がいて、その相対の被害者がいる。そして、加えるところ傍観者なるものがいる。事件におけるこの関係性、或いはこの図式は、昔に変わらず今も同じである。そう思えると同時に傍観者はネット社会の出現によって様変わりした。そうとも受け取れるところが見て取れる。

                             

 警察の警備の手薄、配置ミスなどもネット社会の傍観者たる当時の聴衆の各方面からの目撃記録が有無を言わさず、警察もその点を認めざるを得なかった。加えて、容疑者の動機が宗教団体への恨みで、安倍元首相に向かったことも明らかになっている。

 これほど明快な事件はないが、その明快な事件の奥に潜む闇の深さは闇のままである。これからはその闇を解かねばならないのであろう。司法当局にしてもマスメディアにしてもそこのところの闇の解明がなされなければ、この単純とも思える事件の解決にはならず、社会の将来に尾を引くことになる。

 とにかく、事件には如何なる形にせよ、そこには人が関わり、大小多少はあっても加害者と被害者が存在し、事件を取り巻く傍観者が存在するということで、安倍元首相の惨劇が思われることである。 写真は安倍元首相が撃たれ騒然となった奈良市の現場(テレビの映像による)。


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2022年07月10日 | 写詩・写歌・写俳

<3825> 余聞 余話 「炎天下」

     炎天下何処へ行くのかオートバイ時の先端の風を切りつつ

 安倍晋三元首相が襲われ凶弾に倒れた。一報を聞いたのはラジオの速報を聞いた妻からのまた聞きであった。二、三日前から夏風邪に襲われ、咳、熱、痰に痛みを加え、苦しめられていたときで、朝から食欲のないそんな日だった。犯人に襲われ、胸から血を出しているという。それも目と鼻の先の奈良市で参院選の応援演説時のことだという。

 犯人は如何なる経歴、素性の持主か。安倍元首相は心肺停止の状態で、橿原市の病院にドクターヘリで運ばれ、治療を受けているという。心肺停止は極めて深刻な命にかかわる状況で、結局、蘇生に及べず、亡くなった。凶暴な犯罪は表向きわからない日常の闇に潜んでいるということなのだろう。犯人は元海上自衛隊員で、四十一歳の男だという。

                                           

 警察の取り調べでは、母親が関わって酷い目に遭った宗教団体に安倍元首相が関わっているという思い込みが動機にあったようで、政治的思想性や政局絡みではないという。犯人には一つの事実を突きつけられ、それへの思い込みが始まり、その思い込みが募りに募り、思いは果てしなく深刻度を増し、妄想の域から妄想の実行、即ち、凶行にまで及んだということなのだろう。

 凶弾に倒れた安倍元首相はもちろんであるが、悲劇的結末を自らが演出し、演技して見せた現場に居合わせた多くの人々をも巻き込んだということになるのだろう。

  何ごとも起きるは自他に関はらず時の鋩上の一時

 それにしても、自他に関わらず、よしにつけ悪しきにつけ、何ごとも、時の先端の今において起きる。という点で今回の安倍元首相の事件もその点が思われるところである。そういう意味において私たちは今という時を大切にし、生きて行かなくてはならないことになる。で、太宰治の言葉を思い出した。「日常坐臥は十分、聡明に用心深く為すべきである」という言葉。人生の実質は日常坐臥の積み重ねによる。 写真はカット(イメージ)。炎天下、オートバイは時の先端を走っている。何処に向かうのか。気をつけてとは思ったことではあった。


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2022年07月04日 | 写詩・写歌・写俳

<3819> 余聞 余話「炎天の日々」

    旺盛も辟易も見え炎天下ともに弱れるこの身に障る

 以前、「旺盛も辟易も見え炎天下」という句を詠んだ。暑い日が続いたことによる身の弱りがあったことによる。旺盛も辟易も弱る身にはこたえるものである。梅雨明け以来猛暑の日が続き、ところによっては40℃越えも見られ、大和地方でも暑さが続き、この句を思い出すことになった。

             

 この間、久しぶりに馬見丘陵公園に出かけて、木陰を辿って5000歩ほど歩いたのであったが、その炎天下で、野鳥の中にもこの旺盛と辟易の光景が見られた。旺盛な方は池の上空を飛び回り、ときに水面を掠めて、それを何回も繰り返していた。ツバメより大きく、コアジサシより小さい、今まで見たことのない鳥で、五、六羽が勢いよく飛んでいた。多分、水面を掠めるのは水を飲んでいるのだろう。そう推察した。

 これに対し、辟易側の野鳥も目撃した。ツグミ大であるが、夏痩せしたようにスリムで、こちらも今まで出会ったことがない鳥で、めったにお目にかかれない旅鳥であろう。葉を繁らせたケヤキの枝に止まって暑さに耐えている感。鳴き声もなく、嘴を大きく開いたままでいた。

 とにかく炎天が続くと、なお、旺盛に勢いづくものと、その暑さに辟易して、動きが鈍くなったり、萎れてしまったりするものとが同時に見られるということがある。そして、弱り行く身にはともに障って来るのである。 写真は木陰の枝で暑さを凌ぎ、辟易の態の野鳥(左)と水面近くを旺盛に飛び回る野鳥(右)


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2022年06月30日 | 写詩・写歌・写俳

<3815> 余聞 余話 「ひび割れた大地」

      潤ひをなくせし大地ひび割るる人の世界にトレースすれば

 ネット社会の出現によってグローバル化が一段と進み、いろんな意見や考え方が四方八方、世界中から発せられ、聞かれるようになり、また、私を含む誰もが自由に自分の意志(意見)を発せられる世の中になって、一層多様性を認め合うことができ、世界はそのネット社会の潮流に従ってバラエティ―に富んだ明るい関係性における夢想に値する開かれた状況というものが期待された。

   こうしたネットによるコミュニケーションの理想的な様相は、ネットの構築がなされるにおいてその力学が働き、基本的には概ね世界の良好な関係性に与している状況にあると見なせる。だが、ネット社会はまだ経験の浅いところがあって、不備も大いに見られ、ネットを悪用する向きも現われ、その情報の操作によって、或るは仲間意識を推し進める動きに繋がったりして、多様性とは逆の利己的な負の働きに繋がっているところも悲しいかな見られる。

                                       

   このところ分断という言葉をよく耳にするが、この分断も、自由平等の多様性においては負の側面であろう。ネット社会のネットの影響が大きく働いているように思われる。分断は政治が絡んで起きることが多く、主張の相違、心情の衝突によるところ。アメリカにおけるネット好みのトランプ政権下で表面化した分断の様相は深刻さを露呈し、話題になり、バイデン政権になってからもその様相は尾を引いている。これは自由平等な民主主義国家におけるネット社会の一つの現象に違いないが、これはネット社会における経験の浅さが起因していることだと理解してよいのだろう。

   アメリカに端を発しているこのネット社会の分断現象はアメリカに止まらず、伝染するがごとく世界の分断、分裂に影響を及ぼしている感が見て取れる。ロシアのウクライナに対する侵略戦争は論外であるが、このロシアの軍事侵攻以来の世界情勢を概観しても国家間の分断はより鮮明になりつつある。この分断は戦後世界の東西冷戦期に似る感があるが、時代の相違は明らかで、そこにはネットの情報の影響力が大きく関係していると思える。

   時代はこうした経験を経て、人間を成熟させて行くのであろうが、今は経験の浅い過渡期というところ。そのように理解してよいように思われる。それにしても、分断などというのは世の中にあまり格差がなく、平均的に潤っていれば起きることはない。それは、大地が水分を失って干乾び、荒んで来ると、ひび割れ、酷くなると、深い亀裂を生じるのと同じで、人の世界でも言えることではなかろうか。

   ロシアはウクライナがロシアに振り向いてくれないということで、逆恨みのごとくウクライナに襲いかかった。この理不尽を思うに、ロシアはウクライナを振り向かせるほど立派な優れた国であるかということがまずは問われる。あるとするならば、軍事侵攻という力づくの悲惨な状況を生み出すような展開に及ばなくてもウクライナを納得させ、自然に寄らしむることができるはずである。

   思うに、分断や分裂などというのは、その関係性の素地において潤いのある中では起きようがない。そこのところが理解されなければ、ウクライナにおけるロシアの軍事侵攻の問題は、どちらが勝っても負けても解決しない。勝ち負けは戦火の話で、分断の構図は変わらず残り、くすぶり続け、真の平和は得られない。分断の解決にはひび割れた大地に必要な水のように人々の心情の内側に湧いて来る潤いの何かがなくてはならない。その何かを見出すことが肝心である。それは、例えば、互いを思いやる共生の精神を発揮することであろう。そんな感を抱かせる猛暑の中のひび割れた大地ではある。 写真は潤いを失い、ひび割れ、亀裂した大地。

 


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2022年06月29日 | 写詩・写歌・写俳

<3814> 余聞 余話「六月の梅雨明け」

    六月の梅雨明け異常なる早さ梅雨前線北海道へ

 二十七日の九州南部、関東甲信、東海地方に続き、二十八日、九州北部、中国、四国、近畿、北陸地方の梅雨明けが発表された。残るは東北地方だけ。近畿地方では入梅が今月十四日だったので、梅雨は過去最短の十四日間ということで、異常に短い年になった。近畿地方では梅雨開け前後から晴天の日が続き、連日の猛暑。「熱中症にご注意」の呼びかけがなさされている。奈良盆地の大和平野は今日二十九日も朝から照りつける空模様。

                       

 反面、この異常気象によって北上した梅雨前線が梅雨のない北海道にかかり、東北以北で大雨を降らせているようである。これはやはり地球温暖化の現れと思える。暑くなると電気の使用量が増え、供給が需要に追いつかず停電が懸念される。ということで、頻りに喧伝されるようになった。この電力逼迫もさることながら、梅雨の期間が短いということは、雨量が少ないということで、全国軒並み平年より降水量が少なくなっているという。この水不足も悩ましいところ。いまのところ水田のイネはすくすく育っているが。

   そして、高齢者には暑さが長いという予想がなされている今年の夏は要注意。既に熱中症の犠牲になった話は連日伝えられている。心して過ごす必要がある。 写真は雲の蓋が取れ、炎天が続く奈良盆地の大和平野。