大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年02月28日 | 植物

<3332> 奈良県のレッドデータブックの花たち (26)  イワツクバネウツギ (岩衝羽根空木)    スイカズラ科

                    

[学名] Zabelia integrifolia

[奈良県のカテゴリー]  絶滅寸前種、注目種 (環境省:絶滅危惧Ⅱ類・旧絶滅危惧種)

[特徴] 石灰岩地や蛇紋岩地を適地として生える落葉低木で、よく枝を分け、高さ2メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、縦に6本の溝が出来る。若い枝は緑色から赤紫色で、溝はない。葉は長さが3~7センチの倒卵形から卵形で、先は尖り、基部はくさび形。全縁で、短い柄を有し、対生して合着する。花期は5~7月で、新枝の先の葉腋に数ミリの柄を有する淡紅色を帯びた細い漏斗形の花を普通2個つける。花は筒部が1~1.5センチで、先が4裂して開く。雄しべ4、雌しべ1。萼は4裂、萼裂片は倒披針形で、花が散った後も痩果の先に残って4枚羽根のプロペラ状になる。 写真は花期のイワツクバネウツギ。

[分布] 日本の固有種(襲速紀要素系植物)で、本州の関東地方以西、四国、九州に点々と隔離し自生している。

[県内分布] 川上村のみ。川上村は鍾乳洞などある石灰岩地で知られる。

[記事] 自生地も個体数も極めて少なく、生育場所が岩場など脆弱性をともなうところがあり、なかなか出会えず、何回も通い、崖地の上に見出した。ちょうど花が咲いていたので確認出来た。奈良県のレッドデータブック2016改訂版は「関東以西の石灰岩地・蛇紋岩地に隔離分布するので、注目種にも指定した」としている。  写真は川上村での撮影。

   花は合体の成果を目指す

   実は合体の証として生る

 


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2021年02月27日 | 創作

<3331>  作歌ノート   曲折の道程  (三)

               観音の千手思へば至り得ぬ喜怒哀楽の我が歌群の穂

 千手観音。詳しくは千手千眼観世音菩薩。最も有名なのは鑑真和上で知られる奈良市西の京の唐招提寺の尊像。高さ五・四メートルの真数千手の木心乾漆のみごとな立像である。天平時代(八世紀)の造とされ、ギリシャ神殿を思わせるエンタシス様の「まろきはしら」で知られる金堂に本尊の盧遮那仏坐像や薬師如来立像とともに安置され、千手観音の中では、我が国で最大最古、国宝である。

 由来はさておき、千手観音は千の掌一つ一つに眼を持ち、眼は観察し、手は働きとなって、人々の悩みや苦しみを見届け救うという。千とは広大無辺の意で、どんな悩みや苦しみや不安を持って困っていても、この千の眼が見極め、千の手が対処して救済してくれるという。

                               

 私たち衆生には多種多様の底知れない欲望があり、欲望には解決出来ない悩みや苦しみや不安といったものがつき纏う。ゆえに欲望の数だけ、悩みや苦しみや不安があって、その悩みも苦しみも不安も、多種多様で、中には底の知れないものもある。そこで、観音の千の眼と千の手が働き救ってくれる。まことにありがたい仏さまなのである。

    おほてらのまろきはしらのつきかげをつちにふみつつものをこそおもへ                                       会津八一

 大和をこよなく愛した書家であり歌人である会津八一。この歌は、「唐招提寺にて」の詞書をもって『南京新唱』に見える歌で、中秋の観月会のころ訪れて詠んだものであろう。エンタシス様の「まろきはしら」とあるから場所は金堂に相違ない。前述したように、この金堂には本尊の盧遮那仏坐像を中心に向かって右に薬師如来立像、左に千手観音立像などが安置されている。歌が訴える「ものをこそおもへ」が心に響く。

 八一の歌に触れ、観音の真数千手を思うに、煩悩の器から生まれる私の喜怒哀楽の歌など、多少読むものに共感を呼ぶとしても、何ほどのものでもなく、言葉のかけらを組み合わせて構築した心の哀れを連ねた片々に過ぎず、まこと至り得ない仕儀と言えるだろう。 写真は中秋の名月の日に催された観月讃仏会の唐招提寺金堂(灯火の明かりに浮かびあがる向かって左から千手観音、盧舎那仏、薬師如来)。

 


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2021年02月26日 | 創作

<3330>  作歌ノート   曲折の道程 (二)

      銀皿にサーモン炎ゆる秋の夜幸福論に檸檬垂らさむ

 雨が続くと晴れ間を乞い、晴天が続くと一雨欲しいと願う。そして、その気持ち(欲求)が叶うかどうかということ。幸福論なんか案外このあたりにヒントがありそうな気がする。人と人との関係で言えば、愛憎というようなものがある。これなんかも親しさや近さに関係するところ。心に触れて来る度合いによる。つまり、心に触れて来る状態がいかにあるかということ。我慢とか妥協とか、そういうのもここに付随する。このことは様相に違いはあっても、古今東西そんなに変わりのあるものではなかろう。

                                   

 加えるに、人の心は複雑で、幸せに見えるものが不幸せで、不幸せに見えるものが案外幸せであったりする。幸福論をいうとき、その一瞬を見るべきか、一生を通じて考えるべきか、また、死に関わるときの心持ちとか、色々と語られるであろう。

   しかし、人の一生などは棺桶に収まるまでわからないから死ぬときの心一つで、いまは過程に過ぎず、以後については一切わからないのだから幸福論に結論など決して出せるものではないということになる。そして、それは、つまり人生における序論のごときものといわざるを得ないことになる。

   こう考えると、人生論や幸福論は時の勢いに任せて居丈高に語るようなことは慎まなくてはならないことになる。で、いつもあるべきは、自分の晩節を思うことであり、幸福論などには檸檬を垂らすほどの思いを持って、日一日その足るべき思い(心)に沿って慎ましく励むほかないということになる。 写真はイメージで、青空(白いすじは日に輝く蜘蛛の糸)。

  また一日過ぎゆきにけりむらぎもの心における香こそ愛しめ                一日(ひとひ)

  一日過ぎまた一日なるところにてありける思ひ日々にあるなり

  今といふ時の先端開きつつ分かちつつあり思ひを重ね

  喜怒のこと哀楽のこと自らの心における一日なること

  天に聞け地にあるもののその一人淋しきときは淋しさにあり

  幸福論未だ序論とこそ言はめワイングラスの輝きなども

  幸福論斯くあるなれど青空の青に溺れてゐる蝶一つ

  角砂糖くづれ融けゆく時の間の至福琥珀界のひととき

  汀より幸福論が立ち上がる光をもって嘉すべくあれ

  この世とは神の広庭慎ましくあらねばならぬ幸せ人も

  不束に生き来しことの確かさをもって加ふる齢なる今

  天と地の間に籠る人の声たとへば聞こゆ幸福論など

  生きざまにおいて語らるそれやその人生論かく幸福論また

  漲るをよしとはなせる生にして旅人時空の今を旅せる

  日を追へるノートに見ゆるたとふれば幸福論に齢の岸辺

  人生は幸福論にありながら齢を重ねゆく旅ならむ


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2021年02月25日 | 植物

<3329>「大和の花」 追記 (1147)  シラヒゲソウ (白鬚草)      ニシキギ科 ウメバチソウ属

                                              

 山地の湿地に生えるウメバチソウの仲間の多年草で、草丈は15センチから30センチほど。葉はウメバチソウと同じく根生葉と茎葉からなり、根生葉は長い柄を有し、心形の葉をつける。花茎につく茎葉は円形に近く、茎を抱く。

   花期は7~9月ごろで、花茎の先に直径2センチほどの白色5弁の1花を上向きに開く。花弁は縁が糸状に細かく裂け、これによってシラヒゲソウ(白鬚草)の名がある。雄しべは5個。花粉を出さない仮雄しべも5個。花の中央に雌しべの花柱が1個つく。

 本州、四国、九州に分布し、国外では中国、インドに見られるという。自生地、個体数とも少なく、全国的に絶滅が危惧されている。大和(奈良県)では大峰山脈の1ヵ所でしか知られておらず、レッドリストの絶滅寸前種にあげられている。 写真は小雨の中、滴る水に濡れた崖地で花を咲かせるシラヒゲソウ(左)と花がないときの根生葉(右)。 

   切迫の白鬚草に花が咲く花は希望にほかならぬなり


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2021年02月24日 | 植物

<3328> 「大和の花」 追記 (1146)  ウメバチソウ (梅鉢草)          ニシキギ科 ウメバチソウ属

                       

 山野の日当たりのよい湿気のあるところに生える多年草で、花茎の高さは10センチから40センチほどになる。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は長い柄を有する広卵形で数個束生し、茎葉は無柄で茎を抱く。

 花期は8月から10月ごろで、花茎の先に白い1花が上向きに開く。花は直径2センチから2.5センチほどで、卵形の花弁が5個。この花が梅鉢紋に似るのでこの名がある。別名バイカソウ(梅花草)。雄しべは5個、仮雄しべも5個。花粉を出さない仮雄しべは先が10数個糸状に裂け、先に小さな球状の腺体がつく。雌しべの柱頭は4裂する.

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、ロシアに見られるという。大和(奈良県)では宇陀地方で多く見られるが、近年、減少傾向にあり、レッドデータブックには希少種にあげられている。 写真は霜が降りた湿地に群生して花を咲かせるウメバチソウ(左)と花のアップ(中・右)。  みな上を向いて梅鉢草の花