大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年12月15日 | 植物

<3619> 奈良県のレッドデータブックの花たち(150) シモツケソウ(下野草)                   バラ科

                                 

[別名] クサシモツケ(草下野)

[学名] Filipendula multijuga var. multijuga

[奈良県のカテゴリー]  絶滅寸前種(旧絶滅危惧種)

[特徴] 日当たりのよい山岳高所、冷温帯域の岩場や礫地に生える多年草で、草丈は20~100センチになる。葉は奇数羽状複葉で、互生する。長い柄を有する頂小葉は普通5裂するので掌状葉に見える。小葉の裂片は先が鋭く尖り、縁には不揃いの鋸歯が見られる。茎の下部には根生葉がある。

 花期は6~8月で、茎頂に散房花序を出し、紅色から淡紅色、稀に白色の小さい花を密につける。花弁は3~5個、多数の雄しべが花弁より長く、基部と葯の部分が濃紅色のため、花弁が白くても、全体的には淡紅色に見えるところがある。

[分布] 日本の固有種。本州の関東地方以西、四国、九州。

[県内分布] 五條市、川上村、天川村、上北山村、十津川村の山岳高所。

[記事] シモツケソウ(下野草)の名は、花が落葉低木のシモツケ(下野)によく似ることによるもので、クサシモツケ(草下野)とも呼ばれる。奈良県のレッドデータブック2016改訂版は「本県では大峰山脈、大台ケ原の山岳地帯のみに分布していたが、シカによる食害を受け極端に少なくなった。防鹿柵の外では、生育が確認できた場合でも小個体がほとんどで、開花・結実する個体はきわめて稀となっている」として絶滅危惧種から最悪レベルの絶滅寸前種に変更した。

 写真は崩れやすい岩崖地に群落を見せるシモツケソウの花群(左・シカの食害にも安心なところの感)と花序のアップ(右)。

           安心は幸せの基なれば

           安心を好まないものはない

 

 

 

 

 


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2021年03月05日 | 植物

<3338> 奈良県のレッドデータブックの花たち (29)  ウチョウラン (羽蝶蘭)                  ラン科

                                        

[別名] イワラン、アリマラン (兵庫県有馬に自生するため)。

[学名] Ponerorchis graminifolia

[奈良県のカテゴリー]  絶滅寸前種  (環境省::絶滅危惧Ⅱ類・旧絶滅危惧種

[特徴] 山地や渓谷の崖地や岩場に生えるランの仲間の多年草で、球形の根塊を有し、茎は斜めに立ち上がることが多く、草丈は10~20センチ。葉は長さが10センチほどの広線形で、2~3個が茎の片側につく。花期は6~8月で、茎の上部に紅紫色の花を葉と同じ向きにつける。花の色は白色や青味の勝ったものなどが変化が見られる。花は直径1センチ前後、唇弁がほかの弁より大きく、3深裂し、濃い紋様が入る。また、花には1.5センチほどの長い距がある。

[分布] 本州の関東地方以西、四国、九州。国外では朝鮮半島。

[県内分布] 川上村、天川村、上北山村、下北山村。

[記事] 一時期、観賞ブームが起き、見つけ次第掘り取られ、全国的に激減した。今では人目に届かないところでわずかばかり生育している状態で、奈良県では絶滅寸前種に指定されている。全国的にも減少が著しく、環境省も注視している。写真は天川村(なお、写真の花は自生にしては花つきがよ過ぎる感がるので、補植された植栽起源のものかも知れないが、はっきりしない)。

   山野を歩いて

   草木の花に出会う

   そして その花を愛で

   その花に思いを寄せる

   この一時の楽しさ

   ことに見知らぬ花に

   出会うと 心が騒ぐ

   なぜか 不思議だ


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2020年03月11日 | 植物

<2982>  大和の花 (1011) ショカッサイ (諸葛菜)            アブラナ科 ダイコン属

             

 中国原産の1年草で、30センチから80センチほどになる。葉は根生葉と茎葉からなり、下部の葉は羽状に深裂し、頂裂片が大きく、上部の葉は茎を抱く。花期は3月から5月ごろで、茎頂に淡青紫色から紅紫色の直径2、3センチの4弁花を総状につける。

 ショカッサイ(諸葛菜)の名は中国の三国時代の丞相諸葛孔明に因むと言われる。シキンソウ(紫金草)、ハナダイコン(花大根)、オオアラセイトウ、ムラサキハナナなどの別名でも知られ、早くは江戸時代に渡来し、昭和時代初期に再び持ち込まれ、植えられていたものが逸出して野生化し、各地に広まったという。また、戦後、中国からの引揚者が種子を持ち帰ったという話も聞く。

 写真は一面に咲くショカッサイとショカッサイの花(左・中・いずれも春日大社萬葉植物園)。花をつけた野生のショカッサイ(右・奈良市北椿尾)。

    夢中 よし

    集中 よし

    一途 よし

    しかしながら

    酔い痴れては いけない

    溺れては いけない

    己を見失っては いけない


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2020年03月09日 | 植物

<2980>  大和の花 (1010) ツルニチニチソウ (蔓日日草)    キョウチクトウ科 ツルニチニチソウ属

        

 ヨーロッパ原産の常緑つる性の多年草で、観賞やカバープラント(下草)として植えられることが多く、南北アメリカやオーストラリアなどに広く帰化し、近年、日本にも導入され、昨今では逸出して野生化しているのが道端などで見られるようになった。大和(奈良県)でもそこここで群落をつくっているのに出会う。

 茎が横に這ったり、斜面から垂れたりして、節から根を出して広がり、長さが2メートルほどになる。葉は長さが数センチの卵形で、先がやや尖り、縁に鋸歯はなく、質は濃緑色の革質で、光沢がある。葉柄は短く、対生する。花期は4月から6月ごろで、葉の腋に直径4センチほどの5深裂した淡青紫色の花をつける。 写真は群生して花を咲かせるツルニチニチソウと花のアップ。

        天道さんの 移り気の 

    昨日の雨に   今日の晴

        ぼくらは  そんな 移り気の

    天道さんに  付き合って

    暮らしているよ  日々重ね

   


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2020年03月01日 | 植物

<2972>  大和の花 (1007) シュンラン (春蘭)                                        ラン科 シュンラン属

                                  

 比較的乾燥した二次林などの林床に生える常緑多年草で、地生ランとして知られる。長さが20センチから35センチほどになる線形の葉を叢生し、先が垂れ気味になる。花期は3月から4月ごろで、根元から太い花茎を立て、高さが10センチから25センチほどになり、茎頂に普通1花をつける。

   花はラン科の特徴で、左右相称。3個の萼片と3個の花弁からなり、萼片の長さは3.5センチほど、黄緑色を帯び、小鳥が羽を広げたような姿に開く。花弁は萼片より小さく、萼片の内側にあり、2個の側弁は萼片と同色であるが、下側の唇弁は白地に濃赤紫色の斑点があり、よく目につく。この斑点を黒子と見てホクロ(黒子)、そばかすと見てジジババ(爺婆)の異名がある。私が子供のころ郷里の備前ではジジババと呼んでいた。なお、シュンラン(春蘭)の名は春に咲くランの意である。

   北海道、本州、四国、九州(屋久島まで)に分布し、国外では中国に見られるという。観賞に適し、愛好者が多く、野生のものは見つかり次第持ち去られ、大和(奈良県)では里山で普通に見られていたが、激減し、今やレッドデータブックの絶滅危惧種にあげられるほど少なくなっているという。また、シカによる食害も報告されている。  写真は里山の落葉樹林の林床に株を張り、花を開き始めたシュンラン(左)、開いた花(中)、仲よく並んで咲く花(右)。奈良市郊外の山中ほか。  小さきは小さきなりに花はこべ

2973>  大和の花 (1008) シラン (紫蘭)                                              ラン科 シラン属

                

 日当たりのよい湿り気のある斜面や崖地に生える多年草で、地中に扁球形の白い偽球茎が横に数珠つなぎに並び、花茎を地上に伸ばして高さ30センチから70センチほどになる。単子葉の葉は披針形で長く、茎の下部に3個から5個、基部が鞘になって互生する。花期は4月から5月ごろで、花茎の先に紅紫色の花を数個つける。ときに白い花も見られる。

 本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、中国と台湾に見られるという。園芸種が広く行き渡り、珍しくないが、自生は少なく、大和(奈良県)では十津川村や下北山村などの南部から中部にかけて見られるが、減少傾向にあり、レッドリストの希少種にあげられている。全国的にも自生のものが少なく、環境省も準絶滅危惧に指定している。

 シラン(紫蘭)の名は紫色の花を咲かせるランの意によるもので、普通一般には観賞用として見えるが、「君知るや薬草園に紫蘭あり」(高浜虚子)と詠まれているように、地中の偽球茎を日干しにして煎じ、胃痛などの薬用としての実績も見られる。 写真は左から日当たりのよい湿った斜面の草地で花を咲かせる紫蘭、紅紫色の花に白い花も混生して見られる自生地、花群のアップ(いずれも十津川村)。 古都の奈良お水取りより春が来る

<2974>  大和の花 (1009) エビネ (海老根)                                      ラン科 エビネ属

                                             

 山野の落葉樹林下などに生える多年草で、地中に球形の偽球茎を連ね、この根茎がエビに似るのでこの名があると言われる。葉は長さが20センチ前後の長楕円形で、縦にひだが入り、暗緑色である。花期は4月から5月ごろで、高さが30センチから50センチの花茎を立て、上部に多数の花が総状につく。

   花はラン科特有の萼片3個と花弁3個で、横向きに開く。萼片と側花弁は紫褐色で、普通唇弁が紅色を帯びた白色をしているが、花の色には変化が多い。花が黄色一色のものはキエビネ(黄海老根)と呼ばれる別種で、四国、九州に分布する。エビネは北海道(南西部)、本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島、中国の一部にも見られる。

 エビネは地生ランの一つで、室町時代のころから花の観賞がなされ、江戸時代にはブームになってかなりの品種が生まれた。また、昭和40年代から50年代にかけ再びブームになり、この時代に自生のものが乱獲され、めっきり数を減らし、今では環境省のレッドリストに準絶滅危惧としてあげられ、大和(奈良県)でも減少が著しく、絶滅危惧種として見える。 写真は花を咲かせるエビネ(左)と花序のアップ(右)。ともに五條市大塔町。 古民家の座敷華やぐ雛祭り