大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年10月09日 | 植物

<2471> 大和の花 (628) イヌトウバナ (犬塔花)                                          シソ科 トウバナ属

                           

 山地の少し湿気のある林内や道端に生える多年草で、茎の下部は地を這い、斜上乃至直立して、高さ20センチから50センチほどになる。茎は方形で、下向きの軟毛が密生する。葉は長さが2センチから3センチの卵形または狭卵形で、先はあまり尖らず、基部はくさび形または広いくさび形。縁には粗い鋸歯が見られ、両面にまばらな毛があり、短い柄を有し、対生する。

 花期は8月から10月ごろで、茎頂に花序軸を伸ばし、花を何段か輪生状につける。この花のつき方によってトウバナ(塔花)の名がある。その名にイヌ(犬)が冠せられているのは本物でない意による。花は花冠の長さが6、7ミリの唇形花で、白色をベースに淡紅色を帯びる。萼は筒状2唇形で、長さ数ミリ。開出する長い軟毛が生える。北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では済州島に見られるという。 写真はイヌトウバナ(金剛山)。    人生は神と出会ひの旅ならむ齢(よはひ)このごろ斯くは思はる

<2472> 大和の花 (629) ヤマトウバナ (山塔花)                                     シソ科 トウバナ属

                                                    

 山地の木陰などに生える多年草で、登山道でよく見かける足元の花で、地味ながら親しみがある。草丈は30センチから70センチほど。葉は長さが2センチから5センチの卵形乃至は長卵形で、先はやや尖り、縁には粗い鋸歯が見られ、短い柄を有して対生する。

 花期は6月から7月ごろで、茎頂にまとまってつく花序に長さ1センチ弱の白い花冠の唇形花をつける。上唇は2浅裂し下唇は3裂する。萼は長さが5、6ミリで、脈上に短毛が生え、萼歯の内側にも毛がある。本州の中部地方以西、四国、九州に分布し、国外では朝鮮と中国に見られるという。大和(奈良県)でもよく見かける。 写真はヤマトウバナ(大峯奥駈道)。

   常識がぼくの個性に限りなく纏ひ日常坐臥の顳顬(こめかみ)

<2473> 大和の花 (630) クルマバナ (車花)                                         シソ科 トウバナ属

                                                       

 山地や高原の草地に生える多年草で、方形の茎はまばらな毛を有し、直立して分枝し、高さが20センチから80センチほどになる。葉は長さが2センチから4センチの卵形または長卵形で、先は鈍く尖り、基部は円形に近く、縁には鋸歯が見られ、短い柄を有して互生する。

 花期は8月から9月ごろで、茎や枝の上部葉腋数段に淡紅色の唇形花を輪生状につけ、これが車輪を思わせるところからこの名が生まれたという。花冠は長さが8ミリから1センチほどの2唇形で、上唇は小さく、下唇は大きく、3裂する。萼は紅紫色を帯び、毛が生える。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国北部、沿海州などに見られるという。大和(奈良県)では全域的に見られる。トウバナ属の中では艶やかな花を咲かせるが、実用は聞かない。 写真はクルマバナ(平群町ほか)。

 塔の空高き彼方にあこがれて懐旧の種子播きし青春

<2474> 大和の花 (631) キツネノマゴ (狐の孫)       キツネノマゴ科  キツネノマゴ属

             

 畦道などで普通に見られる1年草で、茎には下向きの短い毛が生え、高さは10センチから40センチほどになる。葉は長さが2センチから5センチの卵形で、両面に毛が生え、先がやや尖り、短い柄を有して対生する。

花期は8月から10月ごろで、茎頂や枝先に穂状の花序を出し、淡紅紫色の唇形花を密につけ、順次開花する。上唇は小さく、2裂し、下唇は大きく、反って3裂する。萼は5深裂し、萼片や苞葉の縁には白毛がある。雄しべは2個、葯は2室で、上下につき、下の葯の方が大きく、基部に突起状の距がある。実は蒴果。

 本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、インドシナ、マレーシア、インドなどに広く見られるという。大和(奈良県)では道端や草地で見られる雑草であるが、爵床(しゃくじょう)の漢名で知られる薬用植物で、全草を日干しにしたものを煎じて解熱、咳止め、喉の痛み止めなどに用いる。また、全草を薬湯にして腰痛に用いると言われる。   思ふ身の人生思ふ夜長かな

 

 

 

 


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2016年02月24日 | 植物

<1517> 庭 の 雑 草

         雑草を 抜きつつ庭に 跼る 二律背反 考へながら

 春めいて草木が芽を出し勢いづいて来ると、庭の雑草も生え出して来ていつの間にか地面に青味を添えて来るのが見られる。どういう具合になっているのか、雑草というのは取っても 取ってもその後から次々に生え出して来る。で、春先の庭では一つの諦観、否、覚悟が求められることになる。それはこの時期、花々もさることながら雑草との戦いが幕を開けるからである。

 春先の雑草は根を深くまで張らず、取りやすいところがある。この取りやすい間にと思い、範囲を決めて庭の一角に跼り雑草に向かったのであった。地に貼り着くように生え出しているのはカタバミだろう。ほかにもホトケノザやハハコグサ、カラスノエンドウなど。庭を芝生にしていたころの名残りに違いない。シバなども見える。まだ、双葉の雑草もあり、茎と葉だけではどんな草か確認出来ないものも見られる。土の硬いところでは、抜き取るというよりも削り取るようにした。そうした方がはかどるから。

 「雑草も山野のにぎわい」とは、私が常々思っている見解であるが、庭に侵入する雑草にも当てはめて言えるかどうか。これを質せば、すべてとは行かないという答えに至る。だが、雑草は綺麗さっぱりことごとく取り除かなくては済まないかと言えば、そうは言えず、昨年咲いた花から生まれて散り落ちた種子が勝手に生え出しているノースボールやムスカリなどは、花の観賞がしたく、適宜残すようにしている。所謂、選別で、選別は宜しくないと言えるが、庭の管理をする上にはほかに方法がない。選別は少々気の引けるところであるが、これは世の常のことで、生においては至るところ見られる仕儀であれば致し方ないと自分を納得させる次第である。

                  

 つまり、私の思い入れがそこには加わるわけで、言うならば、個人の家の庭というのはその家の住人の嗜好、或いは思想が現われるものと知れる。私はつい最近までほとんど庭に立たず、庭を仕切るのは専ら妻で、庭のほとんどすべては妻の差配、イニシアチブによって来たところがある。

 殊に花壇では妻の意向が反映されているので、私の出番は土や肥料など重いものを運ぶときに手伝うくらいである。言わば、我が家の庭の表情は妻の嗜好、或いは思想の現れであるというのがほぼ正しいと言える。最近よく話題に上る断捨離ではないが、不要なものを始末すると言い出した妻から「書棚の本を何とかして」と詰め寄られているのであるが、これに対し、私は「庭の隅に放置している植木鉢こそ処分したらどうか」と抵抗し、今、まさに綱引きの均衡状況にある。

 それにしても、春先の雑草というのは、夏の旺盛なのに比べると可愛いものである。しかし、芽と同じく、カレル・チャペックが『園芸家12カ月』で言っているように、「生まれたものの弱々しさと、生きようとする意志の不敵なひらめき」が見られ、抜きにかかる私の指に、その弱々しさをもって抵抗するがごとくに感じられるところがある。

 こうして、一応予定して取りかかった庭の一角の雑草取りは二時間ほどで済ませたのであるが、雑草はポリバケツ一杯ほどになった(写真左)。なお、雑草とは、私たちにとって用なしの草ということで、ノースボールやムスカリは花を愛でる園芸植物であるが、花壇やポットから逸出しているものに関しては雑草扱いにしてもよいのではないか。という次第で、庭のそこここに見られるものについては雑草と見た。抜かず残したノースボールは日当たりのよいところでは成長が著しく、白い花を咲かせ始めているのが見られる(写真右)。

 

 


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2015年12月12日 | 植物

<1445> 寒牡丹と冬牡丹

         寒牡丹 冬牡丹には あらぬとぞ

 牡丹(ボタン科ボタン属の落葉低木)は一般に四月中ごろから五月中ごろ、即ち、晩春から初夏のころに豪華な花を咲かせるが、冬に花を見せるものもある。寒牡丹とか冬牡丹と呼ばれる花で、十一月の末ごろから咲き始め、十二月の今ごろからが見ごろになる。俳句では、牡丹は初夏の季語であり、寒牡丹と冬牡丹は冬の季語で、寒と冬は区別なく用いられているが、園芸的には異なるもので、区別されると言われる。

 では、どのように違うのであろうかということになるが、端的に言えば、種を異にし、その花の咲かせ方に違いがあるという。寒牡丹の方は、牡丹の変種で、初夏と冬に開花する二季咲きの性質を有し、冬の開花に主眼を置いて、調節したものであるという。まず、初夏に咲く花芽を摘み取り、八月ごろ、葉の一部を整理して十月ごろに蕾を持たせるようにし、冬に向けて開花させるというものである。

                                                              

 これに対し、冬牡丹の方は、普通のボタンに温度調節を施して、牡丹に季節感覚をずらさせるやり方で冬に花を咲かせるように持って行くもので、一種の室咲きの手法による花である。言わば、冬牡丹の場合は人工の温度管理によって咲かせたものを冬の庭に移植する方法によるもので、鉢植えにしておいて鉢ごと花壇に埋め込むやり方を取ったりするという。

 このため、寒牡丹も冬牡丹も同じような稲藁で作った霜避けの中で花を咲かせるが、寒牡丹の方は自然の状態、即ち、牡丹は落葉低木であるので、ほとんど葉のないか、葉の未熟なものしかついていない枝に花をつける特徴が見られる。これに対し、冬牡丹の方は人の手によって温度調節をした中で育てるので、葉も成長することになり、花だけでなく、青々とした葉も見られるのが特徴としてあり、この点で見わけが出来る。

 葉のないのと、葉があるのとでは、その風情に違いが見られるのは当然で、牡丹が落葉低木で、冬には葉を落としてしまうことをして言えば、寒牡丹の方が自然により近いやり方であるということが出来る。大和では冬に牡丹の花が見られるところは幾つかあるが、この変種の寒牡丹は当麻町の石光寺が有名である。 写真は葉のほとんどないのが特徴の寒牡丹(左)と葉が繁る冬牡丹(右)。

 


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2014年09月25日 | 植物

<1117> シオガマギク (塩竃菊)

       それぞれに みなそれぞれに 秋の花

 ゴマノハグサ科シオガマギク属の草花にシオガマギク(塩竃菊)がある。半寄生の多年草で、全国的に分布し、高原の草原などに生える。大和では草丈の低いコシオガマとともに見られるが、両者とも自生地が少なく、減少傾向にあり、二〇〇八年版の奈良県のレッドデータブックのリストには絶滅危惧種の植物にあげられている。

 シオガマギクは高さが大きいもので六十センチほどになり、ほとんど枝を分けず直立するが、風などの条件によっては草原に倒れ伏すこともある。花期は八、九月ごろで、長さが二センチほどの花を茎の上部に横向きにつける。花は紅紫色で、よく目につくところがある。このほど奥宇陀の曽爾高原で見かけたが、中に白い花も見られた。白い花は珍しいと思われるが、突然変異なのだろうか。

  なお、シオガマギクのシオガマは、昔塩を作るのに用いられた塩竃のことで、浜辺に作られ、美しい光景だったようで、この塩竃の「浜で美しい」というのと、シオガマギクの花だけでなく「葉まで美しい」という言葉との綾から生まれた名だと言われる。

                     

 また、山野に野生の花を求めて歩いていると、ときに、図鑑でも見られないような奇妙な花に出会うことがあって、思案させられることがある。このシオガマギクに出会った日もそのような花に巡り会った。葉に黒点様のものが見られるので、オトギリソウの花後の姿かも知れないとも思われるが、葉腋に出ているのが花冠のようで、疑問が深まる。果たしてこれは花なのかどうか。

 こういう具合で、花を求めて山野に出かける身には、結構考えさせられるところがある。図鑑はよく出来ていて大概のものは判明可能だが、ときにこういう疑問符を解消出来ない花にも出会う。写真は左からシオガマギクの花、シオガマギクの白花種、草花かどうか定かでない植物(いずれも曽爾高原の草原で)。

 

 


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2014年09月19日 | 植物

<1111> 萩の花に寄せて

          万葉の花にしてある萩の花 有心想語に咲き満ち零る

 万葉人が一番関心を寄せて詠んだ花が萩の花であることは周知の通りである。四千五百余首を収載している『万葉集』に萩を詠んだ歌は百四十二首で、登場する植物の中では一番多く、中でも秋萩の花に関心が持たれ、これに関わって詠まれているのが目につく。巻十の詠人未詳の2110番の歌に「人皆は萩を秋と云ふよし吾は尾花が末を秋とは言はむ」と萩と薄を詠んだ一首が見られるが、この歌が示すように、当時の人々は秋を代表する花として萩の花をあげていたことがわかる。

                        

 ところで、『万葉集』に登場を見る萩は山萩であると言われ、日本各地の山野に普通に見られる萩で、高さは大きいもので二メートルほどになる落葉低木である。葉は卵形または広卵形で、先がまるいのが特徴。初秋のころ紅紫色の蝶形花を咲かせる。近年、公園やお寺の庭などに植えられている萩は枝の垂れる姿が印象的な宮城野萩の園芸種で、素朴な山萩とは趣を異にし、花数が多く優美に見える。

 昨日、大和郡山市の県立大和民俗公園に出かけたら、この宮城野萩が今を盛りに咲き誇り、白い品種の花も見られた。萩の花と言えば、蝶や蜂の類がよくやって来るが、昨日は珍しく小鳥が群がっていたので写真に撮った。スズメ大で、腹の毛が白く、背から長い尾にかけては黒く、短い嘴も黒い鳥だった。図鑑等で調べてみると、ユーラシア大陸の温帯に生息し、日本でも九州以北に見られるスズメ目エナガ科エナガ属の留鳥、もしくは漂鳥として知られるエナガとわかった。

 数羽がやって来てしなやかな花枝につかまって頻りに花に嘴を持って行く姿が見られた。樹液を好んで吸ふというので、はっきりと確認は出来なかったが、鵯のように花びらを食うのではなく、花の蜜を吸っているのだと思われた。 写真は左が花盛りの宮城野萩。右の二枚は枝にとまって萩の花に向かうエナガ(いずれも、大和郡山市の大和民俗公園で)。